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アンチノイズ ―それでも音は僕らをつなぐ―  作者: 夢見る冒険者


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第2話 夢中になり過ぎたが故の代償

現実世界に戻った俺は、早速作曲ソフトを触ってみることにした。ブラウザを立ち上げて、必要なソフトと使い方をAIに教えてもらう。


「へぇ~、DTMを使って音楽を作曲するのか。おすすめのソフトは……これか」


画面に並ぶソフト名を見ながら、俺は小さく唸る。


「えっと、有料との違いは……」


レビュー記事を読み比べながら、しばらく悩む。結局、まずは無料のソフトで試してみることにした。ダウンロードを終え、ソフトを起動する。


その瞬間————


「……おぉ」


思わず声が漏れた。画面いっぱいに、いくつものウィンドウが並んでいる。なんか映画とかで見たことある画面!!そう興奮してしまう。自分でも見知ったBPMやファイルという文字列。音量が調節できるスライダーなども備わっており、まるでDJになった気分になる。


何となく、今すぐ音楽を奏でられそうな気がしてくる。思わず体を揺らしながら、頭の中でリズムを刻んでしまう。……が、すぐに行き詰った。


「ソングエディター……エフェクトミキサー……コントローラーロック……」


名前だけ見ても、何をすればいいのかさっぱりわからない。一瞬、画面を眺めたまま固まる。まぁ、取りあえずエディターの画面に表示されていた再生ボタン押せば何とかなるでしょ。そう思ってクリックするのだが————


時間だけが静かに進んでいく。音は鳴らない。画面の端に表示された数値だけが、淡々と加算されていくだけだった。


「……どういうこと?」


思わず眉をひそめる。そんなことあるか?疑問に思いながら、今度は適当に画面をいじってみる。画面をタップしエディターを上へスクロールしようとした、次の瞬間だった。


「あれ? 画面が、止まった」


上に動かしたはずのエディターが、途中で背景の画面に潜り込んだような状態になり、それ以上まったく動かなくなる。


「……待って、これ」


もう一度クリックしてみる。だが、やはり動かない。俺はしばらく画面を見つめたあと、試しに別の部分をいじってみる。


「あー……なるほど」


エフェクトミキサーと書かれた画面を操作して、ようやく分かった。どうやら動くのは上の部分だけらしい。だから、動かなかったのか。


そう納得し、俺は一度アプリを閉じることにした。画面が消え、もう一度起動する。すると————さっきまで触っていた画面が、何事もなかったかのように初期状態で表示された。


「……あっぶねー」


思わず小さく息を吐く。というか、


「再生ボタン押しても意味ないのか」


じゃあ、編集するのはこの辺か? 今度は画面の左側に並んでいるメニューへ目を向ける。


インストゥルメント。

プラグイン。

マイプロジェクト。


「あ、これとかじゃね?」


そう思ってクリックしてみるが……


「……いや、すんげえ分かんねえ」


タブを一つ開いただけなのに、中から十数個の項目が一気に表示される。


マイサンプル。

プリセット。

ライブラリ。


何が何だか分からず、しばらく画面を見つめたあと、俺は視線を天井に向ける。そして、深く頷いた。……うん。一回、調べようか。そう思い直し、俺は引き続き検索をし始めるのだった。


検索していくうちに、少しずつだがソフトの使い方が分かり始めてきた。


「なるほど……ソングエディターに音を追加していくのか!!」


検索して見つけた解説動画を再生しながら、俺はその通りに音を配置していく。


「へ~……こういうふうにやるんだな」


俺は感心しながら動画通りに、小さなブロックを並べていく。そして再生ボタンを押すと————、トゥルントゥントゥントゥン、と短い音が鳴った。さっきまで無音だった画面から、簡単なフレーズが流れ始める。


「……おぉ」


思わず両手でガッツポーズをして、何度も上下に振って喜ぶ。


「マジかすっげーー」


画面を見つめ再度再生ボタンを押し、音が流れる事を確認する。これ俺がやったんだよ。俺が!!思わずにやけてしまう。その勢いのまま、別の音を入れたらどうなるのだろうか。


そう考えた瞬間、試したくなって。別の音も追加してみるのだが、それが間違いだった。


「あれ?」


動画と同じように、別の音も4小節で設定している。見た目もほとんど同じだ。なのに音が鳴らない。正確には、最初の1小節だけ鳴って、その先が続かない。


「ん~~~」


俺は眉をひそめ、画面をじっと見つめるが特に変わっている部分はない。もう一度再生するが、やっぱり音が鳴るのは最初の1小節だけだった。


「……なんでだ?」


しばらく画面を見つめて考える。動画を巻き戻して確認する。自分の画面と見比べる。同じように並べているはずなのに、どこかが違う。


「あっ」


そして気付く。どうやら同じループにも種類があって、1小節だけを繰り返すものもあれば、4小節繰り返すものもあるらしい。というか、よく見れば小節数が分かるように名付けされてた。


「……普通に書いてあるじゃん」


思わず苦笑する。つい感覚で触ってしまう。その癖が、今回は完全に裏目に出ていたらしい。


「まぁ、いいや」


まずは動画通りにやってみよう。そう決めて、俺はもう一度操作を続けた。音を置く。再生する。少し変えてみる。————けれど、思ったような音にならない。


今度は別の音を追加して、もう一度再生する。そうして、理想の音を鳴らせるように、何度も試行錯誤を繰り返す。自分でも難しい顔をしているのが分かる。でもそれ以上に楽しくて仕方がなかった。


ほんの少し音程を変えるだけで、曲の印象ががらりと変わる。同じ並びの音なのに、少しずらすだけでまったく別の雰囲気になる。それがたまらなく面白くて、気づけば俺は、動画をいくつも見ながら真似して、ちょっとしたメロディーを作っていた。


数秒だけの、短いフレーズ。それでも————


自分の手で音を奏でられたことが、どうしようもなく嬉しかった。


「よっし!」


思わず拳を握り、小さくガッツポーズを取る。胸の奥がじんわり熱い。次はどうしようか……そう作業に取り掛かろうとした時だった。


「まさか、あなた……寝てないの!?」


突然、女性の驚いた声が耳に飛び込んでくる。顔を上げると、そこには巡回に来た看護師さんが立っていた。寝てない?その言葉に首を傾げながら窓へ視線を向けた瞬間、思わず目を見開いた。


「……えっ?」


カーテンの隙間からは、やけに眩しい光が差し込んでおり、すっかり朝になっている。ギギギという音が自分から聞こえそうなほど、ぎこちない動きで看護師さんに視線を戻す。その先には、目を見開いたまま、じっとこちらを見ている彼女の姿があった。


その問い詰めるような視線に、若干……いや、かなりの恐怖を感じながら、俺は観念して口を開いた。


「すみません。徹夜してました……」


看護師さんは、はぁ……と深く息を吐く。それから改めて、真剣な表情で俺を見つめた。


「いい? 今のあなたは免疫力がものすごく下がっている状態なの。無茶をすれば、最悪……お薬も打てないくらい、身体が弱ってしまうのよ」


その言葉も胸に来るが、それ以上に彼女の目線に動揺する。叱っているというより、どこか悲しそうで。今にも泣き出してしまいそうな表情にとても申し訳なくなる。


彼女が俺を見つめる視線はどこか悲しそうで、泣き出しそうだった。それが申し訳なくて俺も素直に反省する。


「すみません」


その様子を見て、看護師さんも俺が本当に反省していると分かったのだろう。ふっと息を吐き、肩の力を少し抜いた。


それでもすぐに表情を引き締め、真剣な声で言う。


「すぐ検査もあるから、それまでは安静にしておくこと。いい?」

「はい」


俺は小さく頷いた。さっきまでの高揚感が嘘みたいに、胸の奥には反省だけが残っている。


俺は自分のしでかしたことを反省しながら頷く。その後、看護師さんは手慣れた様子でバイタルサインを確認し始めた。体温、脈拍、血圧。指先にはパルスオキシメーターがつけられ、酸素飽和度も測定される。


体力の消耗や呼吸の状態を、一つ一つ丁寧に確かめられ、すべての確認が終わると、水を渡された。それをゆっくりと飲み干し、少し息をつく。


「それじゃあ、ちゃんと休みなさい」


看護師さんは少し安心したように俺を見つめ、病室を出て行った。それを確認し、俺もベッドに体重を預ける。


さっきまで張り詰めていた意識が一気に緩み、反省と疲れが混ざったまま、俺は深い眠りへと落ちていった。

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