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アンチノイズ ―それでも音は僕らをつなぐ―  作者: 夢見る冒険者


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12/13

第12話 どうやら同じクラスに、メンバーがいたようです

そんな彼女の身バレ事件から早くも1月以上が経過し、いよいよ高校の入学式を迎えた。自分でも分かるくらい、緊張していた。だって、中高一貫だよ、絶対に人間関係出来上がってるじゃん。何で選んだんだろマジで。内心でぼやきながら、軽く息を吐く。

 

もちろん、友人に背中を押されたのもあるが、意外と有名な作曲家がこの学校の出身だったりするからこの学校を選んだというのもある。


——何かあるのかもしれない。そんな単純な興味も、確かにあった。……いや、直樹にうまく仕向けられた気もするけど。そう思うと、ふっと笑いが漏れて、少しだけ肩の力が抜けた。


クラスはもう確定してるんだ、さっさと行くか。えーっと、1-Aね。自分のクラスを再度確認し、、教室の扉を開ける。案の定というべきだろう。既にいくつかのグループがあって楽し気に会話をしている。少し場違い感を感じながら、俺は座席表が張ってある黒板に向かって歩く。


さて、俺の席は……そう全体に目を通して視線が一点に固定される。


『篠原 乃々華』


その名前が、目に入る。……いやぁ~、神様に愛されてるなー、マジで。そう黄昏るしかなかった。夕暮れ時じゃないけど……。にしてもまさか隣だとはな……。声にならないまま、天井でも仰ぎたくなる気分だった。


白瀬だから苗字順になってると被る可能性が高いわけだ。白瀬と篠原。同じ“し”だし。分かってはいるけど、よりによって、そこ引くか普通。軽く頭を振って、意識を切り替える。


とりあえず、左隣に話しかけたらアウトだな。右隣にしよう。右隣は——柊、律花。苗字……ひいらぎだよな。名前は……りっか、りつか、のりか??は流石にないか。


……まあいいか。とりあえず声を掛けてみよう。今は一人でいるようだし。にしても、同級生と、こうやって同じ空間にいるの、いつぶりだ。


結局中学は卒業式だけ参加したので、まともに話していない。というか、みんなどう対応すればいいのか、戸惑っていて申し訳なかったな。両親の笑顔が見れたのでいいんだけど。


そんなことを考えながら、俺は席へと移動する。座る前から、じわじわと緊張が増していくのが分かった。椅子に手をかけて、腰を下ろそうとしたその瞬間。


ふと、視界の端に光が入る。右隣。彼女が机に入れている端末。その画面に映っている映像に、見覚えがあった。


——いや、見覚えなんてレベルじゃない。


『心音レゾナンス』


俺たちが作った曲のMVだった。一瞬、時間が止まるような感覚と、先程まで感じていた緊張がほぐれるのを感じる。……マジか!同級生で聞いてくれている人がいるのかよ!!


嬉し過ぎる。じわじわと高揚感が込み上げてくる。そのままの勢いで、俺は彼女に声をかけてしまう。


「おはよう、柊さん」


声をかけると、彼女は一瞬だけこちらを見た。けれどすぐに、何事もなかったかのように視線を前へ戻す。


……まぁまぁ、落ち着けここで踏み込めないと、俺は三年間ぼっち生活を送る可能性がかなり高い。さすがにそれは避けたい。


ふと周りを見ると、案の定というべきか。ちらちらとこちらに向けられる視線がある。完全に浮いてるな、俺。そんな事を感じつつ、自分を落ち着かせるために軽く息を吸って吐く。


「その曲、『心音レゾナンス』だよね。すごくいいよね」


すると彼女は、わずかに眉を寄せた。


「分かったように言わないで。話を合わせるために聞いてきたんでしょ?」


ぴしゃり、と切り捨てるような声に一瞬、思考が止まる。にわかが語るな、とでも言いたげな態度に、胸の奥に、小さな引っかかりが生まれる。


苛立ちとも戸惑いとも少し違う。言い返そうとして、ふと、手が止まった。——今の言い方。どこかで、聞いたことがある。ごく最近。声の抑揚、言葉の切り方、ほんの僅かな息の混じり方。記憶の奥に、ひっかかる、その人物の名を俺は零していた。


「凜?」


そう呟いた瞬間。彼女が勢いよくこちらを振り返る。


「……その名前どうして?」


低く押さえた声。けれどその瞬間、初めて目線が俺にあった。その目に射抜かれて、思わず息が詰まる。疑いだったものが、形を持って迫ってくる。————まずい。反射的にそう思い、俺は何でもないふりをして、視線を外す。


そのまま、俺は何ともないようにスッと自分の席に座ろうとするが、今度は彼女の方が俺をじーっと鋭く見つめる。逃がさないと言わんばかりに、彼女がこちらを見つめている。


背中にじわりと汗が滲むのがわかった。——やっぱり、バレてるか?そう考えた次の瞬間、何かを確信したように目を細めた彼女がスッと椅子を引いた。


「ちょっと、いいかしら」


短く告げると同時に、手首を掴まれる。


「え——」


言葉を返す間もなく、そのまま引かれる。有無を言わせない力で、教室の外へと連れ出された。




***




廊下に出た瞬間、多くの生徒から注目の視線を感じる。学校開始早々、女生徒に手を引かれ注目を集める俺。なんて不運なんでしょうか……。内心で乾いた笑いが漏れる。


そのまま引かれるままに進み、人通りの少ない階段の踊り場へ。誰の気配を感じない中、さっきまでのざわめきが嘘みたいに静まり返る。


その状況に対して俺は、既に俺は逃げ出したくなっていた。今すぐ教室に戻って、誤解を解きたい。何も悪いことはしてないよってどうしようもなく伝えたい。そんな情けない思考を巡らせていると、


「……あなた、もしかしてm1nase?」


低く、断定に近い声音。 はい、開始早々身バレしました。というか、凜って22歳だったよね。高校生ってどういう事?留年した?少し戸惑いつつ俺はごまかす。


「……違うよ」

「違うわけないでしょ、あからさまに目が泳いでるじゃない」


その言葉に、慌てて視線を逸らし、窓の外へ逃がす。ガラスに映る自分の顔は、思っていた以上に分かりやすかった。それでも、格好悪くても俺はあがく。


「いやいや、m1nase?って人じゃないよ。俺は白瀬」

「へぇ~そこで名前を寄せているって事か。和歌で使われる水無瀬ってところから取ったと思ったら、自分の名前にも似てるからなんだね」


もう完全に俺がm1naseの体で話が進んじゃってるよ。凄い確信を持っているよ、凜が。しかも妙に解像度が高いし……。


「m1naseって前提で話してるけど、証拠とか……何か確信あるの?」


最後の悪あがき。すると彼女は、ほんの一瞬だけ間を置いてから、あっさりと言った。


「私が男性で"凜"って呼ぶことを許してるのは、m1naseだけ。——以上、証明終わり」


証明されちゃったよ。一瞬にして、逃げ道が塞がれました。逆に俺が何度も逃げようとしたからだろう。彼女の視線が、すっと鋭さを帯びた。


何かやましい事でも隠しているの?と言いたげなものへと変わる。……これは、下手に誤魔化す方がまずい。下手に誤解されて彼女がメンバーから抜ける方がまずいと考え、素直になることにした。


「そうだよ、m1naseだよ」

「初めから、そう言いなさいよ」


落ち込む様に俺は項垂れて地面にしゃがむ。そのまま顔を上げると、彼女と視線が合った。呆れたような彼女と目が合う。俺は、観念しつつ立ち上がる。そして、少しだけ身を乗り出すようにして言った。


「……お願いがあるんだけど」


その瞬間。彼女はわずかに目を細め、警戒するように一歩後ろへ下がる。


「……なに?」


探るような視線に言葉が詰まりかける。それでも、腹を括って口を開いた。


「どうか、正体をばらすのだけは勘弁して頂けないでしょうか?」


気づけば、言葉遣いがやけに丁寧になっている。小さく頭を下げたまま、返事を待つ。


「別にバラさないわよ。こっちもバレたら面倒だし」


気怠げで、けれどどこか力の抜けた声音が返ってくる。


「そっか、よかった~」


ほっと息が漏れる。張り詰めていたものが一気にほどけて、肩から力が抜けた。無意識に握りしめていた手を、ゆっくりと解く。その様子に凜がじっとこちらを見ていた。


「その様子だと何か隠しているでしょ?」

「それはプライベートというか……」

「教えなさい」


短く、強い言葉。その気迫にたじろいだ、その時。


——キンコンカンコン。


無機質なチャイムの音が、空気を断ち切るように響いた。


「ほら、予鈴。入学式に遅れるから、ね」


半ば強引に話を切り上げる。すると彼女は、ほんのわずかに目を細めて告げる。


「後で絶対に聞くから」


逃がさない、とでも言いたげに告げた。


「あ~、うん。そうね」


曖昧に返しながら、俺は視線を逸らす。そのまま、少し駆け足で俺達は教室へと戻る。廊下に出た瞬間、またしても向けられる周囲の視線に、ほんと勘弁してくれと思う。


入学式早々、とんでもなく厄介なことに巻き込まれた気がする。それにこれ逃げられないよね、なんて思いながら入学式に出席するのだった。


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