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元婚約者に一ミリも好かれてなかったので婚約者代行されました

作者: すじお
掲載日:2026/03/03

 ——あれは、婚約と呼ぶにはあまりにも空虚な三年間でした。


 私は公爵令嬢、セレフィーナ・アルヴェイン。

 十七の春、名門侯爵家の嫡男との婚約が整えられました。家同士の結びつきは盤石、持参金も莫大。誰もが羨む縁談——のはずでした。


 けれど。




 私は、彼に一ミリも好かれていなかったのです。




 最初に違和感を覚えたのは、婚約披露のお茶会でした。


 現れたのは、背の高い金髪の青年。整った顔立ちに柔らかな微笑み。令嬢たちはうっとりとため息を漏らしました。


 けれど。


「……どなたでしたかしら」


 そう、私は彼の顔を知りませんでした。


 私の婚約者であるはずのアラン様は、黒髪に鋭い灰色の瞳を持つ方。目の前の金髪の青年はまるで別人。


 それでも青年は私の手を取り、完璧な所作でエスコートします。


「本日は体調が優れず、代理として参りました」


 後から聞けば、彼は“婚約者代行”。

 どうやらアラン様は、私の隣に立つのが嫌で、金を払って替え玉を立てていたのです。


 しかもそれは一度きりではありませんでした。


 次の舞踏会では銀髪の麗人。

 次の晩餐会では褐色肌の精悍な騎士風の青年。

 その次は、眼鏡をかけた知的な貴公子。


 毎回違うイケメン。


 毎回、初対面。


 けれど共通しているのは——誰一人として、私を見ていないということ。


 彼らは完璧に「役目」をこなすだけ。

 微笑みも、会話も、手を取る温度も、すべてが仕事。


 私は、ただの契約の一部でした。




 けれど奇妙なことに、肝心な場面では代行は来ません。


 王城の夜会。


 国内の貴族が勢揃いする大規模な舞踏会。

 さすがに替え玉では通らないのでしょう。


 私は——一人で立たされました。


 壁際で、扇を握りしめたまま。


「ご婚約者様は?」

「お忙しいのでしょうか?」


 善意を装った好奇の視線が、刺さる。


 その夜、私は初めて理解しました。


 彼は、私を婚約者として扱う気がないのだと。



 三年間。


 誕生日も、季節の贈り物も、記念日も。


 花一輪すらありませんでした。


 代行たちは薔薇を差し出しましたが、あれは“演出用”。

 持ち帰ればすぐに回収されます。


 残ったのは空の花瓶だけ。


 婚約指輪はあります。

 ですがそれも、家同士の取り決めによる形式的なもの。


 そこに感情は、欠片もありませんでした。



 転機は三年目の冬。


 父が支払った莫大な結納金——

 それが正式に侯爵家へ渡る日。


 その直後でした。


 アラン様は、あっさりとこう告げたのです。


「君より、妹君の方が家に相応しいと判断した」


 ……は?


 妹のリリアーナは、可憐で愛想が良く、誰からも好かれる性格。

 確かに、私は愛嬌のない令嬢です。


 けれど。


 結納金が移動した“後”に、鞍替え?


 私はようやく悟りました。


 この三年間、私は——


 婚約者ではなく、

 ただの“金づる”だったのだと。




 不思議と、涙は出ませんでした。


 だって私は、最初から一ミリも好かれていなかったのです。

こんなに滑稽なことはないでしょう。



 思い返せば、毎回違う代行が来るたびに思っていました。


(いっそこの中の誰かが本物ならよかったのに)


 けれど、彼らは皆プロ。

 感情など持ち込まない。


 そして本物は、最初から最後まで私の隣に立つことすら拒んだ。



 ——三年の婚約期間。


 贈り物は一つもなく、

 夜会では一人で立ち、

 結納金は妹に持たれ、

 婚約者は代行に丸投げ。


 それが私の、華やかで空虚な三年間。


 けれど。


 今になって思うのです。


 あれほど徹底的に「好かれていない」と分かる経験は、むしろ清々しい。


 だって次は、

 ——本当に隣に立ってくれる人を選べるのだから。


(そして願わくば、代行ではなく誠実な人を。)



 まだ始まってもいない日々でございます。


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― 新着の感想 ―
う~ん流石に格上の家相手に許されることじゃないし妹さんの意思も無視する侯爵家のボンボンは制裁されるべきですね-主人公さんいい人過ぎるよ…呆れが通り越して虚無ってるだけかもだけど…続編があれば幸せになっ…
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