夜の祈り
人間界に来て2週間が経過した。筋トレが毎日の日課だ。体を鍛えておかないと戦線に復帰した時に困る。スプーンやフォークやマグカップを利用して体を鍛えている。
剣の稽古もしている。素振りと剣舞だけだが動きが鈍らないようにベッドの上を走り回っている。
剣はつまようじを代用していた。あたしが破れたドレスのポケットに入れていた花はリタが本に挟み押し花にしてくれていたおかげでまだ使える。しかし、花の剣を使えばあやまって家具を傷つけてはいけないので切れないつまようじを使っている。筋トレと剣の稽古が終わればリタとずっと話をしていた。
リタがいない時はリタのオススメのアイドルのダンス動画や絵本や漫画や本を読んで過ごす。
おやつのホットケーキを食べているとリタから問われる。
「花を剣に変えられるのはどうしてなんですか?」
「クモから花を守る契約を花の精霊と交わしているから、花を剣に変えられるんだ」
「人間界の花でもできますか?」
花瓶に飾られた赤い花を差し出されたので剣に変われと祈る。ポンっと赤い剣に変わった。
「できたな」
人間界の花なので巨大な剣に変わる。重いと思ったのか慌ててリタが柄を持ってくれた。
「すごく軽いですわッ!」
「花だからな。でも花の精霊の魔力が通ってるからそれなりに強度はある」
「これなら筋力のないわたくしでも扱えますわ。わたくしにくれませんか?愛用します」
「妖精の手から離れてしばらくしたら戻るから愛用品にするのはむりだ」
「残念です」
「リタは運動神経が悪いしドジっ子だから花のように軽い剣を持っても剣士としての活躍は望めない。僧侶が天職だ」
「うっ。はっきりおっしゃいますわね。でも、その通りですわ」
リタは刀身を見つめる。青い色をしている。柄の部分は葉っぱ色だ。
「花の色が剣の色なのでしょうか?」
「そうだ」
「わたくしならピンクのチューリップを剣にしますわ」
「あたしは基本的に斬れればなんでもいい。部下が青い花をよく用意してくれるだけだ」
「青い髪には青い剣が似合いますものね。有能な部下さんです」
「あたしはこだわってないが、髪色と合わせた花をわざわざ摘んできてくれることにはいつも感謝して礼を言っている」
「花をドレスに変えてもいいのでは?とてもおしゃれです」
「それが許されるのは妖精王だけだ。破れば公開処刑される」
「厳しいですね。最近、アイドルの動画をよく見ていますが、こういう衣装で戦場に立つ妖精さんもいるのですか?」
「戦場で可愛い服を着る妖精はいない。戦意が削がれるからな。笑われるし、目立つからすぐ斬って捨てられるだろう」
「戦意が削がれるのはいいことだと思いますけどね。かわいいは正義です」
リタは両手の拳に力を込める。本気でそう思っていそうだ。女子がかわいいもの好きなのは知っているが、かわいいで戦争が終われば世話はない。
「アゲハさん最近、目がやさしくなりましたね。ぬいぐるみを見つめている時や絵本を読んでいる時に表情も緩んでいます」
「いかんな。気が緩んでる。戦線に復帰した時のために気持ちを引き締めねばならんのに」
「いまのアゲハさんのほうがわたくしは好きです」
この日もリタと夜遅くまで話した。リタはあたしのことが好きすぎて仕事をセーブしているらしい。
「そろそろ寝ましょう。美容のためにもいっぱい寝たほうが良いのです」
「いつも何を祈っているんだ?」
「人々の心から憎しみが消え去り悪魔がいなくなりますように。戦争がなくなりますように。貧困がなくなりますように。あとは事件や事故で亡くなられたかたへのご冥福や太陽や動物さんへの感謝などです。アゲハさんも祈ると良いですよ。姿勢も時間も関係ありません。手も合わせる必要はありません。祈りは自由です」
「気が向いたらな」
あたしはやる気のない返事をする。リタはちょっとしたことにも感謝するのですごい。歩けることや手があることにも感謝している。こういう人間が聖女と呼ばれるのだろう。人気があるはずだ。
ベッドが広いのでリタとは同じベッドで寝ている。電気が消された。リタとおやすみのあいさつをかわす。あたしは布団に潜り込みリタへの感謝を心の中で祈り眠りについた。




