ニセモノ聖女
リタに髪をきれいにしてもらった。あたしは髪の手入れなんて興味ないんだが、リタは美容に力を入れているらしくあたしも巻き添えになった。小さい櫛で髪をとかされて小さいハサミで髪を整えられてしまった。ついでに破れた羽も整えてくれている。
回復してないので飛ぶことはできないが見栄えは断然良くなった。
鏡を見ると前髪がぱっつんでびっくりした。これだとぜんぜん怖くないッ!
「かわいいですわ♩さすがお姫様です」
「かっこいいほうがいいんだけどな」
命の恩人だし家にも泊めてもらってるから逆らえない。城に戻ってからもとの髪型に戻そう。
下着にされて肌に化粧水をぬられる。
「わたくしはテレビに映ることが多いんで美容に気を遣っているんです。アゲハさんもいずれ妖精王になられるんだから多くの人に見られます。美しいほうが人気が出ますよ」
「民衆の心を掌握するために美容に励んでるんだな。お布施も増えそうだ」
「いいかたが悪いですわ。美は人に感動を与えられます。わたくしは与えるということを大事にしているのです」
「あたしは勇ましくかっこいい感じで民衆の前に立ちたいんだ」
「アゲハさんはどう見てもかわいい系ですわ」
リタのスマホに着信が入る。怪獣が出現したような怖い感じのメロディだ。
「ちょっと出かけてきます。悪魔退治の依頼が入ったので」
「悪魔?あたしも連れてってくれッ!」
「えっ?でも危険ですから」
「死んでも文句は言わん。悪魔を見たいんだ」
「テレビで観ては?」
悪魔との戦いはテレビ中継があるようだ。でも、あたしは戦場の臨場感を体験したかった。妖精界の悪魔と強さを比較したい。
「頼むッ!」
「わかりました。これに入ってください」
あたしはパンカゴに乗せられる。
「人形のふりをしてくださいね。魔除けのお守りということにします」
「助かる。ありがとうリタ」
「いえいえ」
あたしとリタはリムジンで市街地まで向かった。車内で悪魔の話をする。
「魔界についてご存知ですか?」
「興味ないから知らん。人間界の下層に存在する次元の違う世界に悪魔が住んでいるんだろ?」
「人間界で生まれた悪魔がなぜ魔界にいるのか興味ありませんか?」
「ある」
「人間界はB級以上の悪魔が入って来られないように結界を張っているんです。危険度が低い悪魔は無害認定されてしまってすり抜けます。人間界で生まれたC級以下の悪魔は結界をくぐり抜けて魔界に行くのです。そこで平和に暮らしたり修行して強くなり魔王になり人間を襲うことを考えます。結界があるので悪魔召喚されなければ人間界には行けません。悪い人間がB級以上の悪魔を魔界から召喚するのです。もちろん世界を憎む人間の強い恨みでB級以上の悪魔が生まれることもあります」
「弱い悪魔がなんで魔界に行かずに人間界で暴れてるんだ?」
「エクソシストの強さを知らないんでしょう。魔界への扉は常に開いています。井戸や洞窟に境界がありそこを越えるだけです。エクソシストの強さを知れば人間界にとどまろうなどとは思わないでしょう」
現場の駅前に到着する。赤い目のコウモリたちが上空で群れをなして騒いでいる。空も曇り不吉な雰囲気だ。制服に帽子を着た青年が駆けつけてきて敬礼する。
「リタ様ッ!おはようございますッ!」
「ごきげんようカルロス。状況を教えていただけますか?」
「はいッ!10,000匹の悪魔コウモリが人間を襲っています。攻撃力は低く噛み付いて少し血を吸う程度です。エクソシストたちは聖なる拳銃で撃ち倒しています。しかし、動きが素早く、数も多いので駆除に時間がかかっています。民間人もまだ数十名ほど残っており、悪魔コウモリから身を隠しています」
「わかりました。悪魔がいるのは半径何メートルぐらいでしょう?」
「半径1キロです。通行止めにしています」
「了解です」
リタは手を合わせて歩きながら歌いはじめる。
こんな時に歌?
すると悪魔コウモリたちが小さな悲鳴をあげて消滅していく。リタは歌をやめて悪魔コウモリが暴れていると思わしき次のスポットまで歩く。
「リタ。いまのはなんだ?」
「聖歌です。半径50メートル以内の悪魔に強制的に聴かせてダメージを与えます。弱い悪魔は消滅します。強い悪魔なら体がしびれる程度でしょうけど、そのすきに剣士や武闘家が討ち倒してくれますわ」
「便利だな」
あたしは感心する。回復魔法だけでなく攻撃魔法も使えるのか。
「こう見えて聖女と呼ばれているのです」
リタはえっへんと鼻を高くする。
「あたしも天使と呼ばれていたよ」
「そうなのですか?」
「殺戮の天使とな」
「怖いふたつ名ですね」
「戦場ではあたしを一目見ただけでみんな震え上がっていた」
あたしはえっへんと鼻を高くする。みんなと言っても強敵以外だけどな。
「妖精界最強の剣士。それがあたしだ」
「剣士?でもあなたからは強い癒しの波動を感じます」
「人間からすれば妖精はみんな癒しの存在だろ」
「試しに回復魔法を使ってみては?」
「あたしに魔法は使えん。戦士タイプは魔力を身体能力強化にすべて使っているからな」
悪魔コウモリたちの姿が遠目に見える。リタに教えると聖歌を歌いはじめた。いい声だ。伸びやかで甘い。悪魔と戦う戦場なのに心が癒やされてしまう。
リタはあちこち歩き回り悪魔コウモリたちを残らず消滅させた。エクソシストの隊員たちから感謝される。商業施設でリタは悪魔コウモリに血を吸われた一般市民を治癒して回る。
全員の治療を終える。リタはみんなからお礼を言われていた。
「なぜ全体回復を使わなかった?」
「聖歌を使ったので魔力が残ってないのです」
「聖女と呼ばれている割には・・・いや、なんでもない」
「気を遣わないで結構ですよ。わたくしの魔力量は少ないのです。神代の時代、神に匹敵する魔力を持つと云われた本物の聖女とは違うのです。みんなわたくしに幻想を抱いているのです」
銃声と女性の悲鳴が聞こえる。リタは音がしたほうに駆けつけた。
階段下にエクソシストと女性と倒れている小さな子供がいる。
「どうなされました?」
「1匹残っていた悪魔コウモリが子供を襲い、子供が階段から転落したのです。悪魔コウモリはすでに駆除しました」
母親は子供の名前を泣き叫んでいる。
子供は頭から血を流していた。もしかしたら頭蓋骨を骨折しているかもな。リタは子供に手を添える。
「ヒール」
子供は回復しない。リタは苦悶の表情だ。もう魔力はからっぽだろう。それでも呪文を唱える。
「ヒール!」
奇跡が起きた。聖なる輝きが灯され子供のケガがみるみる回復していく。立ち上がった子供は歯の抜けた顔で笑う。
「お姉ちゃんありがとう」
母親からも何度もお礼を言われる。帰りの車内でリタにお礼を云われた。
「ありがとうございます。アゲハさん」
「なんのことだ?」
あたしはそっぽを向く。あたしは何もしてない。
「そうだわ!みんなにドーナツを買って帰りましょう」
リタは手を叩いた。リタの運営する教会は孤児院も経営していて子供の世話もしている。さっき助けた子供に、教会の子どもたちの姿を重ねたのかも知れない。車はドーナツ屋に向かった。




