表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムシ娘  作者: こたつぬま
4/8

愛の伝道師

リタはシスターのような格好をしていた。ベールの白い部分の中央にハートが描かれており、ペンダントもハートでイヤリングもハートだ。胸にはハートを抱くハトのワッペンがついている。全体的にハートが多い。

年齢は15才ぐらいか?まだ子供だ。かわいくてあどけない顔をしている。

あたしは人間用の大きなベッドに寝かされていた。体に痛みはなくケガが完全に治っている。リタの回復呪文のおかげだろう。

あたしは起き上がって正座した。三つ指をついて頭を下げる。

「あたしの名前はアゲハ。チョウの国の王女だ。今回はほんとうにありがとうリタ。きみはあたしの命の恩人だ。この恩は必ず返す。あたしの命に変えても絶対に返す」

「気にしないでください。ケガをしている人を助けるのは僧侶として当然ですから。そのために神様からこの力を授かったのです」

リタは微笑する。声がやさしい。透き通ったきれいな目をしている。温かいオーラに自然と癒やされてしまう。僧侶の見本と言った感じだ。

「体のケガは治せましたが羽は治せませんでした。力及ばず申し訳ありません」

あたしは羽を見やる。確かに破れたままだ。ふつうは回復魔法で修復される。

「これは呪い傷だ。強い憎しみを持って斬られると回復魔法でも治らず自然治癒を待つしかないんだ」

「そうなんですね。それならしばらく安静になさってください。ここは結界が張ってありますから、悪魔も入って来ないですし警備員も24時間在中しているので悪い人間も入ってこれません」

命を救われた上に安全な休養場所まで提供してもらえるなんて至れり尽くせりだ。こんな良い人間に拾ってもらえるなんて神に感謝しかない。

「ありがとう。世話になる」

あたしは再び頭を下げた。

「いえいえとんでもない。わたくしは一度でいいから妖精さんに会いたかったんです。夢が叶いました。たくさん妖精界のことを教えてください」

「もちろんいいとも。それより、この服なんだが?」

あたしは花柄のパジャマを着せられていた。胸には赤いリボンがついている。そばにうさぎのぬいぐるみも置いてあった。

「もとのドレスは破れて修復が不可能でした。おもちゃの人形の服を拝借したんです。ちょうどいいサイズでしたね♩とてもよくお似合いですわ」

「ありがとう」

あたしはぎこちなくお礼を言う。こんな可愛い服を着たのは人生で初めてだ。部下たちに見られたら威厳を失ってしまう。敵に見られたら笑われるな。

「アゲハさんは何を召し上がるんですか?」

「きれいな水と花の蜜だ」

「ちょうどよかったです♩教会の裏は花畑なんです。食料には困りませんわ」

「下界にしては空気が浄化されていると思ったら花畑が近くにあったのか。自然を大事にする人間もいるんだな」

「妖精さんが人間界に遊びに来ないのは空気が美味しくないからなんですか?」

「そうだ。中世まではよく遊びにきてた」

あたしは妖精界の事情をいろいろ説明した。気づくと1時間が経過している。その間、リタはずっと目を輝かせていた。リタがお皿に水を入れてきたくれた。高級な水らしい。あたしはネコのようにひざをついてぺろぺろ水を飲んだ。

「お口に合いますでしょうか?」

「だいじょうぶだ。いい水だな」

「よかったです。あたしは紅茶とクッキーをいただきます」

リタは小皿に移したクッキーを1枚くれた。食べてみるとおいしかった。妖精は甘党なんだ。

妖精界の話を再開する。

「可愛い妖精さんが戦争しているなんて悲しいです」

「人間だっていまだに戦争しているんだろ?戦争と音楽とファッションは人間界から持ち込まれたんだぞ」

「人間の悪いところは学ばないで欲しかったですわ」

「最初は土地の奪い合いから始まってだんだんエスカレートして大戦争になったのさ」

「早く終戦してくれることを願います」

リタは手を合わせる。

「もう佳境だよ。あたしは妖精王になって平和な世界を作るのが夢なんだ」

「妖精王とは?」

「妖精たちの王様さ。2000年前、戦争を止めようとした妖精王は暗殺されてそれ以降、空位になってる。戦国の覇者になれば妖精王を名乗れる。あたしは恐怖で妖精たちを支配して誰もケンカしない平和な世界にしたいんだ。だから一刻も早く戦線に復帰しないとならん」

拳を固めるあたしに対してリタは首をかしげてあごに人差し指をそえる。

「恐怖で民衆を支配しても真の平和は訪れないのでは?この世界に永遠は存在しません。永遠の支配なんて不可能です。アゲハさんが亡くなれば抑圧されていた悪い妖精たちが立ち上がり妖精界を再び戦乱の世にするでしょう」

お互いの価値観の違いが明白になった。リタに問う。

「だったらどうすればいい?」

「みんなの魂が成長すれば憎しみを浄化するすべが身につくので、ケンカをしなくなります。愛が1番大事だと言うことをみんなに伝えるのです」

リタは指でハートマークを作る。

「バカバカしい。言葉で解決できるなら戦争なんて今日にでも終わらせられる。そんなことはできない。やはり力で屈服させるしかないんだ。悪いことをしたら殺される!という恐怖が安寧な世を作るんだ」

「そんなことはありません。わたくしは3年前、ハートフル教という宗教団体を立ち上げて憎しみから解放される術を世界の人々に伝えて、いまや信者は1000万人を突破しました。人類の1%が悟りを開けば世界は反転すると云われています」

リタは新興宗教の教祖様だったようだ。子供なのにすごいな。命の恩人だから言い争いたくはないが、リタは戦争を知らない。恵まれた人生を歩んできて他人を憎む経験がなかったから目がキラキラで頭がお花畑なんだ。リタは純粋すぎる。

「世界が反転するとどうなる?」

「みんな良い人になり道徳的な世界になって戦争がなくなります。憎しみも消え去り、悪魔も誕生しなくなります。これが真の平和です」

「憎しみと悪魔がなぜ関係ある?」

「悪魔は人間の憎しみから生まれるのです。強い憎しみからは強い悪魔が生まれます」

「妖精界におけるクモみたいなもんだな。クモは妖精の憎しみから生まれる。強い憎しみからは強いクモが生まれる」

「なぜクモなのでしょう?人間界の悪魔はいろんな種類がいます」

「虫の妖精が1番怖いのがクモなんだ。そのせいだろう。クモは真っ黒で赤い目をしている。戦場に現れることもあってその時は一時休戦して敵味方なくクモの駆除にあたる」

「戦争がクモを呼ぶんですね。戦争をやめれば良いのに」

「理性でわかっていても本能が戦いを求めるんだよ。生あるものはみんな戦って相手を屈服させて従えるのが好きなんだ」

「わたくしはそんなことありませんけど」

「話しすぎてちょっと眠くなってきた。昼寝させてくれ」

「わかりました。わたくしも他の用事を済ませてきます。この部屋には誰も入らないように言ってあるので安心してお休みください」

「ありがとう」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ」

あたしは眠りに落ちた。この日は珍しく戦場の夢を見なかった。ぬいぐるみや絵本、アイドルのポスターというリタの乙女趣味全開の部屋の雰囲気が悪夢を遠ざけてくれたのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ