悪夢の戦場
あたしは夢を見ていた。また戦場の夢だ。親父から夢の中でも剣を振れッ!と言われて育ったせいか戦場の夢を毎晩見るようになった。まるで呪いだ。夢の中ではなぜか味方が襲ってくる。
戦場では裏切りが日常茶飯事、味方の武芸にも対応できる心構えをせよ!これも親父に言われた。
戦場の夢も味方が襲ってくるのもぜんぶ親父のせいだッ!
「アゲハ様っ!お覚悟をッ!
上空から金髪をなびかせてキチョウが現れた。剣を振り下ろしてくる。あたしはひらりとかわして反撃に転じる。キチョウと剣撃の打ち合いになる。立ち位置をくるくる変えながらどんどん上昇する。100回ほど撃ち合ってようやくキチョウの剣を折った。あたしのほうがまだ剣の扱いが上手い。
長く伸びた金髪ごとキチョウの首を切り落とす。
「お見事です。アゲハ様」
あたしは微笑むキチョウの首を捨て置き、次の敵に向かう。次に出現したのはカナブン族の王女カナブーだ。はちまきをしてハッピをきてゲタをはいている。
コイツは本当に裏切りやがった。許さんッ!
「てやんでぃ!」
鎖つきのトゲトゲのついた鉄球飛んできた。あたしはかわしてカナブーに斬りかかる。後ろから鉄球が戻ってくるのに気づいて攻撃を中断して後方に宙返りした。重いはずのモーニングスターをブンブン振り回して攻撃圏内に入らせない。あたしはぐるぐるとカナブーのまわりを回った。速度をどんどん上げていく。
「ううっ、あへ〜っ」
カナブーは目を回してヘロヘロになる。動きを止めたところを袈裟斬りにして仕留めた。
チョウ族は教養として踊りを幼少の頃から習うので三半規管が発達している。
カナブン族は味方のチョウ族と戦うことを想定していないからチョウ族の戦いかたを知らない。夢とはいえ裏切り者を成敗できて気持ちがスッキリした。
「弱い虫いじめはぜったいに許さないんだからねッ!」
次の敵が出てくる。テントウムシ族の王女テンコだ。赤色で黒玉模様の小さくて丸い羽をつけている。武器は両手に持つチャクラムだ。輪っかの形をした武器で接近戦では握って使う。
投擲された2つのチャクラムが飛来してくるのでかわす。
ブーメランのように戻ってくるのでこれもかわす。テンコは戻ってきたチャクラムをキャッチして斬りかかってきた。剣とチャクラムの撃ち合いになる。10回ほど撃ち合ったところであたしの剣にヒビが入る。
さっきキチョウと打ち合ったからだ。
撃ち合いを止めることはできない。すぐに剣は真ん中で折れて切先は落下する。
テンコは笑みをこぼした。勝利を確信した時こそ一瞬のすきが生まれる。あたしはテンコの首をつかみのけぞらせて胸を折れた剣で刺した。剣がなければ片手で絞め殺せるぐらい握力を鍛えている。
テンコは首を鍛えるべきだったな。細すぎる。あたしは絶命したテンコを投げ捨てて地上に向かった。
枯れた大地だが花は岩影に花が咲いている。咲いている花をちぎって剣に変えた。
「貴女と戦える日が来るなんて最高だわッ!」
紫のヨロイにランスを手にした少女が現れる。サソリ族の王女サリーだ。硬いし強いし爪に毒を持っている強敵だ。あたしの中で敵に回したくない一族ナンバーワンだ。味方だとホントに心強い。
空軍は陸軍と戦う必要はないけど、夢の中だから戦う。
「胸の大きな風穴を空けてあげる♩」
大砲のような突きを繰り出してくる。あたしはギリギリでかわして胸元を突き返した。カウンターだ。ヨロイは貫いたが貫通できない。サリーは胸筋であたしの剣を止めていた。硬いッ!
サリーは爪であたしの顔を引っかこうとする。かすっただけでも死ぬ。あたしは避けて大きく空に逃げた。どうする?戦場で迷いは禁物だ。鉄壁の防御を打ち砕く戦法を考える。
けんめいに勝ち筋を探る。閃いたあたしは高く急上昇した。
「あら?逃げるつもり?腰抜けね」
サリーは構えを解いて豆粒になったあたしを見上げる。あたしはかなりの高度で立ち止まり、一気に急加速した。超高速の突きで脳天から貫いてやる。スピードイコールパワーだッ!
「そう来なくっちゃ♩」
サリーは迎え撃つ構えだ。あたしは隕石になったつもりで直下した。楽しげな笑みを浮かべているサリーの脳天に剣を突き刺す。剣はサリーの繰り出したランスと衝突した。ランスは衝撃に耐えられず砕け散りあたしの剣はサリーの脳天を貫通した。
「やるじゃない♩」
サリーはどさりと倒れる。ランスと剣が衝突した場合、先端同士ではなく剣を少し斜めから衝突させるとランスは砕け散る。いろんな武器を衝突させて実験させた経験が生きた。
正面衝突ならランスに軍配が上がっただろう。
岩影からすぐに次の敵が出現する。
「痛くしないからだいじょうぶだよ?」
頭にギザギザした2本のツノを生やした少女がノコギリを手にして現れる。クワガタ族のクワコだ。
おどおどしているが、かなりの手だれだ。だまされてはいけない。
連戦でつかれている。陸軍はタフなのが多いから体力に劣る空軍は速攻で勝負を決めるのが最適な手段だ。あたしは臆せずクワコに斬りかかった。
「あわわ〜」
クワコはあたふたしているがしっかりあたしの剣撃を防ぐ。立派な凶器であるツノを突き出してくるのでノコギリだけじゃなくてそっちにも注意がいる。
「もう嫌っ!」
あたしの剣に押されたクワコは戦闘を放棄してしゃがみ込んだ。ガンッとツノに剣が当たる。
「ッ!?」
恐ろしく頑丈なツノだ。手が痺れる。
「えーいッ!」
クワコは闘牛のように突進してくる。避けきれず、ギザギザのツノのせんたんに腕が刻まれた。スパッとした切り口じゃないから傷口が痛い。
「あれ?なんかチャンス?」
立ち上がったクワコはノコギリを握りしめて襲いかかってくる。
「ごめんねッ!苦しまずにあの世に送ってあげるッ!」
泣きながらノコギリを振り回してくるので攻撃が読めず受けに回るしかない。痛みを長引かせるような武器を手にしながら苦しませないとは矛盾しすぎだ。あたしは剣を逆手に持ち替えた。
動きを止めたあたしにクワコはノコギリを振り下ろす。
「サクッとね!」
クワコに残像を斬らせて背後に回り込みツノに向かって剣を全力で振る。
カキンッ!とクワコの左のツノが折れて地面に落下した。
「ひええっ!?」
クワコは折れたツノを触って動揺する。あたしはツノを拾って差し出すふりをしてギザギザの部分でクワコのノドをかっ切った。血がドバーと吹き出してクワコは首をおさえながら倒れる。
ノコギリをブンブン振り回す子供じみた攻撃をかわす時にわざとスピードを抑えていた。背後に回り込む時に本気の超スピードを出したからクワコはついてこれない。戦いは緩急が大事だ。
左腕から血が止まらない。ノコギリで斬られると痛いし血が止まりにくい。こいつも味方で良かった。
「おらよッ!」
「!?」
巨大な岩石が降ってくる。一個だけじゃなくていくつも。あたしは飛んでくる岩石を飛んで避け回る。10個ぐらい避けると攻撃が止んだ。
「やっぱチョウはすばしっこいなぁ」
鼻をかいているのはフィンガーグローブをつけたスポーツウェアの少女だ。アリの王女アリンコだ。
「ケンカしよーぜッ!」
アリンコはファイテングポーズをとる。あたしは剣を構えた。剣のほうが有利だけど、アリは怪力で投げも得意で締め技も得意だ。捕まったら終わりの最恐の鬼ごっこ。あたしはごくりと息を呑む。
「幻の左ッ!」
アリンコは突っ込んできて左ストレートを繰り出す。あたしはかわして反撃する。アリンコは剣の腹を手刀で叩いて軌道を変える。この子、あたしの剣が見えてる?
アリンコの繰り出すアッパーをかわして後退する。距離を取りたいあたしに対してアリンコは距離を潰してくる。左ジャブに右フック、左ボディに右ストレート、左ジャブはフェイントで右のスマッシュだ。あたしはまばたきをあきらめて拳打をかわし続けた。
「ヒューさすがだね。いい剣士は目がいい」
アリンコは笑いながら拳打を繰り出し続ける。スタミナ切れがない?陸軍は体力お化けだ。一呼吸もつけない状態はあたしから集中力を奪う。アリンコはあたしの左肩をつかんだ。
「つかまえた」
アリンコは微笑むとあたしの左肩を握力に任せて砕いた。激痛が走る。アリンコの右腕を斬り落とすために下から振りあげた剣はかわされた。ようやく距離が取れる。
「悲鳴ひとつあげないとは大したもんだ」
アリンコは殴るより捕まえる戦法にシフトしたのか腰を低く落とし前方に両手を突き出し閉じたり開いたりして見せる。これで左腕が使えなくなった。あたしはひとつ深呼吸してからアリンコに斬りかかる。
「玉砕かいッ!?」
アリンコはタックルで迎え撃ってくる。あたしはタックルを飛んでかわして上空ですばやい動きを披露する。残像を作るためだ。
「無駄な動きだねッ!」
アリンコはあたしの残像3体から本物のあたしを探す。しかし、それは不可能だ。
「あれれ?視界がぼやけちまう」
まばたきを繰り返すアリンコの首をあたしはすれ違いざま切り落とした。アリンコは土にかえる。
さっきのアリンコの右腕は斬り落とせなかったけど、触覚は切り落とせた。
アリはあまり目がよくない代わりに触覚から得られるにおいや振動で周りを把握している。触覚を斬られるとあたしの動きが把握できない。味方の弱点ぐらい把握している。
首筋がひりつく。あたしは振り返りざま剣を振るう。飛来して来た矢を斬った。矢は心臓めがけて飛んできていた。姿は見えないがホタル族の王女ヒカリが来てる。
弓使いも狙撃手と同じで早めに仕留めねばならない。あたしは矢の飛んできた方向に飛んで向かう。
ヒカリを見つけた。ヒカリに斬りかかると上空から巨大な木のハンマーが降ってくる。
白い手袋をした水色のパーカー少女がヒカルの前に立ちはだかる。ハエ族の王女ベルゼだ。
「ヒカリはオイラが守るよ」
「ありがとう。ベルゼ」
ブンブンうっとおしいハエがきた。
「わたしも戦うあるね」
チャイナ服の少女が現れる。スズムシ族の王女スズだ。トンファーの使い手である。
左腕が使えない上に歴戦の猛者を3匹も相手にしないといけないのか。いい修行だ。
「ハンデだ。まとめてかかって来な」
あたしは血に飢えたオオカミの笑みで挑発する。
ベルゼとズズが挑発に乗って飛びかかってくる。あたしはよけに徹した。ハンマーもトンファーも受ければ剣が折れそうだからかわすしかない。
「威勢がいいのは口だけあるかッ!?」
「うろちょろして叩きにくいんだよ。じっとしててくんないッ!?」
2匹がうるさいのであたしは避けるのをやめてトンファーの一撃を受ける。
「ぐッ!?」
片手持ちだからはじかれる。すきだらけの胴体にもう片方のトンファーが迫り来る。あたしはブリッジでかわした。体はミミズ並みにやわらかいほうだ。ヒカリの矢がスズの心臓を貫く。
これが狙いだった。背中を向けて立ち止まればヒカリは矢を射るはずだ。援護射撃のつもりだったヒカリは顔面蒼白だろう。
「なんてことするんだよッ!」
ベルゼは怒りに任せてハンマーをぶん回して来る。小さな体でそんなにハンマーを振り回すと体がハンマーに引っ張られて泳いでしまう。冷静な時は一回振るごとに態勢を立て直してから次の攻撃を繰り出していたが今は完全に冷静さを失っている。あたしはバランスを崩したベルゼの羽を斬った。羽を完全に失った状態でこの高さから落下したら助からない。悲鳴をあげて落ちていくベルゼを助けるためにヒカリが動く。ヒカリが武器を花に戻しベルゼを地上に激突する寸前でキャッチしたところを背中から刺殺した。ヒカリの手から落ちたベルゼも心臓に剣を突き刺す。
ヒカリは優しい子だ。味方を見捨てたりしない。
「いっしょに泳ごう」
振り向くと広い川が出現していた。夢だからなんでもありだ。川面に立った水着姿の少女がこちらを見つめている。手にはモリを持っていた。アメンボ族の王女アメだ。アメンボ族は水面に立てる特殊な妖精だ。あたしは喜んで誘いに乗る。川の中央まで行くとアメは水中に潜って身を潜めた。
真下からモリを突き出してくる。あたしはかわす。アメはまた水面に潜る。この繰り返しではらちがあかない。あたしは息を大きく吸い込み川に潜った。深いところにアメは潜んでいて、あたしの姿を見て驚く。水がきれいなので目を開けるのも問題ない。
モリの動きも水中ではにぶい。あたしは楽勝でモリをかわす。けれど、アメのほうが長く潜水していられる。早く決着をつけないといけない。
アメはあたしに息継ぎをさせないために上方に陣取った。息が限界で登ってくるところを仕留めようという腹だろう。そうはさせるもんか。あたしは羽を力強く羽ばたかせた。すごい勢いで羽ばたかせると水に勢いがついてアメに向かって衝撃波をぶつけた。アメは勢いよく水面に押し出されて噴水に乗せられたように空に放り出される。
空中では何もできまい。あたしは水に濡れて重い羽を羽ばたかせて飛ぶとアメの首を串刺しにした。
見たかッ!空軍でも水中で戦えるぞッ!背筋を鍛えまくってるんだッ!
空気が美味しい。あたしはヒィヒィ言いながら川べりからはい上がる。花畑が広がっている。
「女王様とお呼びッ!」
ムカデ族の王女トビデだ。丈の短いデニムパンツに袖なしの豹柄シャツを着ている。靴はハイヒールでムチを手にしている。ムチはしなり花を散らしていく。ムチを振り回してどんどん近づいてくる。パチン!パチン!という乾いた音が耳をつんざく。
あたしは足元の花を大量にもぎ取り手にした花をすべて剣に変えた。大量の剣は地面に刺さる。
「花は大切に」
剣を抜いて投げつける。あたしは訓練場で投擲の練習もしていた。コントロールはいい。
たくさん投げたうちの2本がトビデの頭と胸を貫通する。ムカデ族は生命力が強いからこのぐらいしないと死なない。武器の宝庫である花畑で襲ってきたのが間違いだ。
地の利を活かす。これが戦場だ。
両手を広げて花畑に倒れ込む。ムチ使いと正面から戦って勝てるわけがない。蛇のようにムチが襲ってくるのに無傷で切り抜けるなんてムリゲーだ。
カブトムシやサソリの一族なら硬いうろこがあるから正面切って戦えるだろうけどチョウは防御力がない。遠距離攻撃がムカデの攻略法だ。左手が使えなくなっても勝利をあきらめず戦い抜いて死闘を制した。味方の王女たちの屍が大地と川に転がってると考えると気分が悪い。呼吸を整えていると意識が途切れる。
戦場の夢から覚めると人間の少女があたしを見つめていた。
「妖精さん。気がつかれました?」
「きみはだれ?ここは?」
「わたくしはリタと申します。悪魔と戦うエクソシストであり僧侶です。ここは教会です」
リタは天使のようにニッコリ微笑んだ。




