月に叢雲 花に風
わたしはハチの国の王女ハッチ。東軍の総大将であり15才になる天才美少女槍使いだ。
父と兄はチョウの国の王一文字によって殺された。兄は父の仇を討って一文字と相討ちになって死んだ。一文字の1人娘がアゲハ王女であり、あいつは戦場で虫を殺しに殺した。
舞を踊るように剣を振るいモブ兵たちを切り刻んだ。アゲハ無双だ。
当然、みんなに恨まれている。
ハチの一族の仇であるチョウの一族の王族を生かしておくわけにはいかない。わたしは味方と作戦を練ってアゲハ王女を死の瀬戸際まで追い詰めた。
羽をもがれ地上に落ちてからカマキリ族、バッタ族、カブトムシ族の王女たちを相手どり鬼気迫る戦いぶりを見せていたがついに精魂尽き果てた様子だ。生への執念がすさまじかったけど、ついに年貢の納め時を迎えた。
プライドの高いあいつのことだから、最後まで戦って死ぬか自害を選ぶでしょう。
戦場に咲いた花が美しく散るのを高みの見物していたら、トラブル発生ッ!
あいつ、首を渡さないために下界にダイブしやがったわッ!
カトリが声をかけてくる。
「ハッチ、おったほうが良くない?」
「もう遅いわ。下に大きな雲がきていた。運がいい女ね」
わたしは眉をしかめる。妖精界の下は人間界だ。正直、行きたくない。捜索部隊を出しても嫌がるだろう。地上は環境破壊を繰り返し公害で大気汚染されている。妖精にとっては毒を吸いに行くようなものだ。
中世ごろまでは妖精もひんぱんに人間界に行き来していたけど、自然破壊や大気汚染で地球の環境が悪くなってからは渡航者がいなくなった。服飾デザイナーのカイコの妖精がファッションを真似るためにたまに降りているとは聞く。妖精は服にはうるさい奴が多いからね。王族は特に。
注文に応えるためにがんばってくれているのだ。
カイコは悪い人間に捕まらないように人形のふりをしているらしい。妖精の瓶詰めにされたら洒落にならない。妖精界は公害を恐れて科学を取り入れなかった。
ファッションいがいは中世で止まってると思ってもらってけっこうよ。
「致命傷でゴザル。どうせたすからぬ」
「助かれば奇跡だよ」
ヨルとカメコの言葉にうなずく。
「奇跡なんてそう簡単に起きないわ」
ミンミンは腕組みして首を傾げた。
「良いことは邪魔が入りやすく、思うようにはいかないもんだな」
「月に叢雲 花に風ね」
あと一歩のところで首が取れなかったのは残念だけどアゲハ王女は死んでるに決まってる。西軍の総大将が消えればあとは有象無象だ。たやすくけちらせる。勝ったも同然ね。
夕立ちは止んで空が晴れる。まるでわたしたちの勝利を祝福するように虹がかかる。わたしは太陽のような笑みを浮かべて見せた。
「みんなで一杯やりましょう」
「さんせ〜い♩」
「やったでゴザル」
「わ〜い♩」
わたしはハチ軍の兵糧から全軍にハチミツを配りアゲハの死を祝って乾杯した。




