聖なる歌姫
巨大なクモの大軍に向かいながら、リタの歌っていた聖歌を口ずさむ。
クモたちの動きが鈍る。さすがに消滅させるとことはできないがしびれさせることはできるようだ。あたしの魔力量なら半径50キロが範囲内だから戦場全体をカバーできる。動きを鈍らせたクモならいくら巨大でも全軍が協力すれば殲滅できるはずだ。
自分の中にこれほどの魔力が眠っていたのには驚いた。子供の頃に封印して以来、ほぼ使ってなかったから魔力量が爆発的に伸びていることにまったく気がつかなかった。
リタが聖歌を歌って飛び跳ねるウサギの悪魔たちを退治しているシーンをテレビで見ている時に思った。リタが歌いレッカがウサギの悪魔を斬っていたけど、あたしなら歌でしびれさせて自分で斬る。
リタは機動力がないから無理だが、あたしなら可能だ。歌いながら飛び回って舞を踊るように斬る。
ベッドの上でつまようじを振り回しながら歌い踊る。聖歌と剣舞の組み合わせ。名付けて・・・
「・・・聖歌の舞ッ!」
あたしはしびれて動けない巨大なクモたちを斬り裂いた。歌いながら踊るように舞い巨大グモの大軍に突っ込む。相手が無抵抗なんだから殲滅は余裕だ。あたしがスパスパと大根を包丁で斬るように巨大グモを撫で斬りにする姿を見た妖精たちは怯えるのをやめて一緒に巨大グモに立ち向かってくれた。あっという間に戦場から巨大グモの大軍は消滅する。地上の陸軍に避難を呼びかけて空軍のみんなで空に張られた蜘蛛の糸も斬って落とす。魔法部隊が糸を焼いている。これで一丁上がりだ。
一仕事終えたあたしは戦場に多くの負傷者がいるのを発見した。一時休戦がやめば撤退戦がはじまる。負傷者は増すばかりだろう。あたしは剣を花に戻して髪に刺した。手を組んで足を交差させて祈りのポーズを取る。
リタにすすめられてから毎晩、リタと同じことを祈っていた。純粋な想いこそが僧侶の回復魔法の威力を最大限発揮させてくれる鍵だ。
「エリアヒールッ!」
戦場全体にキラキラの雨が降る。気のせいかあたしのまわりを花びらが舞った。花びらはすぐに消え失せる。なんだったんだろう?気を取り直し地上を見渡すと負傷者たちが回復していく様子がわかる。死んだ妖精は生き返らせないけど、瀕死の妖精は助けることができた。ついでに枯れた大地が花畑になっている。これで食料問題が解決するといい。さすがに魔力を使いすぎて空っぽだ。魔力不足は貧血に近い症状になる。疲労と立ちくらみがした。飛んでるから飛びくらみか。
「アゲハ王女ッ!」
振り返るとハッチがいた。まずい。いま向かって来られたら勝てない。言葉で戦いを回避できればいいが・・・
「今日はこのぐらいにしといてあげる。また戦場で会いましょう」
ハッチは飛び去っていく。同時に法螺貝の音が鳴り響き両軍が撤退した。良かった。これで撤退戦も回避された。今度はキチョウが飛んでくる。
「アゲハ様ッ!それがしは奇跡をこの目で見ましたッ!あなたは女神様ですッ!」
あたしは苦笑する。
「ただの妖精だよ。さあ、帰ろう。私たちの国へ」
「はいっ!」
あたしとキチョウはチョウの国へ帰還した。純白の羽を持つモンシロ女王にすべての経緯を説明すると母はあたしに女王の座を譲ってくれた。
「妖精界最強の剣士を暗殺しようと考えるものはいないでしょう。僧侶の力があれば負傷しても自分で治癒できるから安心だわ。あなたのやりたいようにこの国を導きなさい」
「ありがとうございます」
あたしはひざまずき王冠を譲られた。さて、ハートフル教の教えを国民に布教しなければならない。あたしはリタの愛弟子だからリタを完コピできる。あっという間にチョウの国は愛の国となった。




