表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムシ娘  作者: こたつぬま
1/8

天下分け目

あたしの名前はアゲハ。今日で15才になるチョウの国の王女である。

チョウの国は妖精界に存在する国のひとつで他にもアリの国やハチの国など虫の数だけ国がある。妖精界は円錐えんすいを逆さにしたような形になっていて妖精界の上に神々が住む天界があり下には人間界がある。

見えない境界があってそれぞれ次元が違う場所に存在する世界だ。

天界と妖精界は人間が立ち入れないように結界を張っているが人間は結界を張っていない。妖精や天使や神の来訪を歓迎しているということだろう。

妖精界は現在、西軍と東軍にわかれて戦争している。2,000年前に小さな戦争がはじまってだんだん大きな戦争になり、いまは佳境を迎えていた。西軍の総大将はあたしである。妖精界最強の剣士と呼ばれ、いままで何万匹もの虫をほうむり去ってきた。

東軍の大将はハチの国の王女ハッチ。あたしと同じ15才で槍の天才だ。

なぜ王女ばかりで女ばかり戦うのか?というと男はみんな死んでもう女と子供しか残ってないからだ。それに虫はメスのほうが強い。いま少数のオスは城で保護されている。

妖精は花を武器に戦う。花をさまざまな武器に変えることができる。チョウはロングソード、カマキリは大鎌、アリはフィンガーレスグローブ(指が全て露出し、素手に近い感覚で着用できるグローブ)、カブトムシは戦斧せんぷ、ハエはハンマー、トンボはスナイパーライフル、テントウムシはチャクラムなど特性にあった武器に変えている。花は食料にも武器にもなるから貴重なアイテムだ。

さて、いまは戦闘の真っ最中だ。

あたしは向かってきたハチのモブ兵どもを斬り捨てる。

3匹とも瞬殺だ。ぐあぁああああ!と断末魔の悲鳴をあげて地上に落下していく。

あたしは黒いドレスで戦場に出る。返り血が目立たないようにだ。あたしは鏡をほとんど見ない。

容姿にいっさ気を遣わないタイプだ。青い羽、伸び放題の青いボサボサ髪、ダークブルーの濁った瞳、目つきは鋭く目の下にクマがある。クマは寝ても戦場の夢を見るので寝不足なだけだ。しかしおかげで剣の腕は冴え渡る。

ピトッと返り血が顔に飛んだので舌で舐めとった。

戦況は緊迫していた。味方のカナブン軍が寝返ってクワガタ軍を急襲したせいで西軍はガタガタだ。

黄色い羽をはばたかせ副隊長のキチョウが飛んでくる。手入れの行き届いたロングの金髪でエメラルドグリーンの瞳をした美少女だ。この娘は鎧を着ている。個性的な服が許されているのは隊長だけだ。どちらにもくみしないカイコが作る装備は魔力が込められているので形状によって防御力は変わらないしかなり丈夫だ。カイコは弱すぎるので中立に回るしかなかった。

針を武器にしていたが震えて戦場に立つことができなかった。

ミミズも戦場に立たず大きなスコップを持ち両軍の所有する花畑の管理を担ってる。ダンゴムシもスカラベ(フンコロガシ)も戦場に立たない。ダンゴムシは園芸用の大きな熊手を持ってる。スカラベは肥料を集めるためのバケツとヒシャクを持ってる。

妖精は糞尿を垂れ流さないというのは幻想で食べたり飲んだりするので生理現象はある。ただ花の蜜と綺麗な川の水しか飲まないので非常にクリーンな肥料だ。

服飾班と園芸班は戦闘向きの性格ではなかった。有用なので滅ばされずにすんでるが権力の座からはほど遠い。キチョウは戦況を報告してくれる。

「アゲハ様っ!味方が撤退していきます!」

「我が軍も撤退する」

「はいっ!貝役、太鼓役に合図させます!」

「あたしは残って敵軍を食い止める。やつらの狙いはあたしの首だ。あたしさえ残ればおまえたちを追わん」

「そんなっ!?ダメですッ!」

「あたしが死ぬと思うか?」

「いえ・・・アゲハ様は最強ですッ!」

「じゃあ、はやくいけ。三十六計逃げるが勝ちだ」

「ビシッ!了解ですッ!」

キチョウは敬礼して飛び去った。あっという間に姿が見えなくなる。すぐに法螺貝と太鼓の音が響き渡った。これで無事撤退できる。失った兵士が少なければ西軍は再び建て直せる。籠城戦という手も残っているし、あたしたちの戦いはまだまだこれからだ!

「あんたなら、1匹で残ると思ってたわ。うぬぼれが強いもん」

見上げるとパンクな格好をしたハッチが槍を持って立っていた。

「お命頂戴するでゴザル」

クナイを持った忍者装束のゴキブリの妖精もいる。ゴキブリの国の王女ヨルだ。

「ここであったが百年目、盲亀もうき浮木ふぼく優曇華うどんげの花、待ち得たる今日の対面。親の仇、いざ尋常に勝負、勝負ッ!」

黒いピッチフォーク(農具)のような武器を構えているのは蚊の国の王女カトリだ。黒い服に白黒ボーダー柄の長い靴下をはいている。普段は淑女だが狂戦士で血を見ると豹変する。

「今日こそ息の根を止めてやるッ!同胞の仇ッ!」

スカジャンにヘッドフォンを首にぶら下げブーメランを構えているのはセミの国の王女ミンミンだ。

「兄弟の仇は必ずとるッ!」

フードをかぶり防毒マスクをしているのはカメムシの国の王女カメコだろう。ドクロマークの描かれたガラス瓶を持っている。中身は紫色の液体で気色悪りぃ。

大将クラスが5匹もそろっている。いずれも一騎当千の強者だ。モブ兵をいくらよこしても犠牲が増えるだけだからこの布陣か。いざ尋常に!とか言いながら全然フェアな勝負じゃないな。

西軍を崩壊させてあたいを孤立無援にする罠にまんまとハマっちまった。

そんなにあたしの首が欲しいのか。嫌われたもんだ。

「親兄弟の仇っていうけど、あたしだって父親を殺されてる。同胞もたくさん殺された。おあいこだろ?」

あたしは肩をすくめる。

「あんたは殺しすぎなのよッ!」

ハッチが槍を構えて突っ込んでくる。いつもに増してはやいッ!怒りの超スピードだ。あたいは閃光のような突きの連撃をかわして反撃を繰り出す。ハッチは槍を盾にして受け止めた。

あたいは槍の柄を押し切ろうと力を込める。ハッチは両手で持った槍で剣を押し返そうとしてくる。互いに至近距離で歯を食いしばりにらみあった。火花がばちばちだ。

「すきありッ!」

背中から黒い三叉槍さんさそうが襲ってくる。カトリだ。悪魔みたいな武器を使って突き刺して弱らせ牙で血を吸い取って殺すのが蚊の常套手段だ。牙で吸った血は体内に吸収できるらしいが、吸いすぎるとお腹がぽっこりして動きが鈍くなる。欲張りだからよく吸いすぎたところを倒されてる。

あたいは押し合いをあきらめて上空に回避した。そこで待っていたのはカメコだ。ポンっとガラス瓶のフタを開けた。紫の煙が襲ってくる。こいつらは風向きまで計算してやがるからやっかいだ。

ひとすいでもしたら体がしびれて動けなくなりふたすいで気絶だ。猛烈な悪臭で体や服についた匂いはしばらく取れないらしい。お気に入りのドレスなのに最悪だ。カメコは煙に紛れてすでに逃亡してる。カメムシ軍は一撃浴びせたら離脱する急襲タイプだ。無駄に争っても仕方ない。息を止めて離れるしかない。煙から逃れると大音量の騒音とともにブーメランが飛んできた。ミンミンだ。片手で耳を塞いでブーメランを剣ではじく。はじかれたブーメランをミンミンは回収しにいく。

騒音で集中力を欠いたところをブーメランで仕留めるのがセミ軍の戦略だ。姑息な奴らだぜ。

カメムシには防毒マスク、セミには耳栓で対応するのが普通だが、荷物持ちの支援部隊まで撤退している状況ではどうにもならない。あたいは大騒音の範囲外まで飛んで逃げる。

ホッとしたのも束の間、風切り音が聞こえた。頭を傾ける。耳をかすめて花の実の銃弾が飛んでいく。狙撃だッ!銃弾の飛んできた方角を見やるとトンボの国の王女トンボがスナイパーライフルを構えてる姿が見えた。青いメガネをかけて空色のスカートと青いシャツを着ている。迷彩だ。

スナイパーは放置しておくとやっかいだ。あたしは一直線にトンボのもとに向かう。たどり着く寸前でハッチが邪魔に入る。

「斬らせないわよ」

「2人まとめて斬る」

あたしはブレーキをかけずそのままハッチに斬りかかった。ハッチは相打ち狙いで突いてくると思ったけど意外なことに防御に回った。槍の柄で受け止める。さっきと同じだがスピードが乗ってるから押し切れる。そう思って力を込めようとした瞬間、ハッチの背中から黒い影が飛び出した。

ヨルだ。ハッチの影に隠れて完全に気配を消していた。

「拙者を忘れないで欲しいでゴザル」

ヨルは両手に握ったクナイであたしの自慢の青い羽を切り裂く。

「ぐわっ!」

身をひねって回避したが羽の先端は持ってかれた。体勢を立て直そうとしたところにぷ〜んと軌道の読めない動きでカトリが襲ってきた。あたしの耳から垂れた血を見て興奮しているのか狂戦士の顔つきだ。目がいっちゃってる。

「ちょっとでいいから吸わせてッ!」

カトリの三叉槍があたしの羽をさらに破く。斬り返すとお腹を斬られたカトリはピューっと逃げていった。自分の血は一滴も失いたくないタイプか。

「まだまだッ!」

正面に陣取ったハッチが100連突きを繰り出す。手を交差して急所は守る。無防備な羽は穴だらけになった。なんとか反撃するとハッチはあっさり後退した。そこに紫色の毒ガスが風に乗って襲ってくる。しまった!風上に逃げたがひとすいしたせいで体がしびれた。続いて大騒音も襲い来る。ブーメランと銃弾と手裏剣も飛来する。まるで嵐にさらされているようだ。あたしは羽でガードした。羽はもうボロボロだ。当然、浮力を失って落下する。くそっ!

あいつら連携の練習もしていたようだ。コンビネーションがバッチリだった。

ほとんど失った羽を地面に激突寸前でなんとか羽ばたかせて落下の衝撃をやわらげた。下が花畑だったらクッションになったが残念ながら草も木もない荒地だ。戦争が忙しくて誰も整備していない無法地帯だった。

周囲には誰もいない。これなら走って逃げれる。

「いただきッ♩」

天空から声がした。見上げると大鎌を振り下ろそうとする少女の姿が見えた。あたしは転がってかわす。大鎌は大地に突き刺さった。片膝立ちで剣を構える。

「いや〜ん。はずしちゃった〜」

ゴスロリ少女は大鎌をかつぐ。カマキリの国の王女キリコだ。ここに落としたのは偶然じゃなかったのか。キリコは死神と呼ばれてる。戦場で見たものは必ず死ぬと言われているし、殺したオスが強ければ食べるといううわさだ。メスでよかった。

「野性味のある顔だね。好きなタイプだよ」

振り向くと黒光りする立派なツノが生えたボーダーレスデッキパンツの少女が大きな斧をかついでいる。ゲッ!カブトの国の王女カブミだ。アリに匹敵する怪力で一撃で城門を破壊するなど陸軍の中でも優れたパワーファイターだ。空軍であるあたしは陸軍とはめったに戦わない。苦手な相手だ。高いガケの上からピョンとジャンプする小さな影が見えた。

ズザッ!と、かっこいい着地をしてサーブルを持った少女が現れる。

「妖精界最強の剣士アゲハ王女。お手合わせ願います」

ライダースーツを着ていてジャケットに赤いスカーフを巻いている。バッタの国のバタコ王女だ。バッタの一族はフェンシングを極めているし、卓越した超越力で地獄の果てまで相手を追いかけるというウワサだ。足の筋力が発達していて羽のない状態では逃げ切れる気がしない。

いつのまにか暗雲が立ち込めていた。強い雨が降りはじめる。夕立ちだ。

3匹は目を光らせじわじわと距離を詰めてくる。あたしは覚悟を決めて立ち上がった。3匹に手招きする。

「死にたい奴からかかってこいッ!」

落雷と同時に3匹は襲いかかってきた。あたしは3匹の攻撃をさばくのが手いっぱいで反撃できない。

慣れない地上戦で化け物3匹を相手には、これが精一杯だ。どしゃぶりの雨で足元がどろどろで動きにくい。

「醜い舞ですね」

「精彩を欠いてるわ〜」

「大将首いただきッ!」

重たい斧を受けた剣がひび割れる。額がぱっくり割れてサーベルが腹を貫き大鎌が背中を斬り裂いた。

「くッ!」

ジリ貧だ。あたしは前進したいが、どんどん後退させられてしまう。ついには剣が折れる。耐久力の限界だ。あたしは予備の剣を装備するために戦闘を離脱していったん逃走した。ポケットに花を一本入れているから1秒で剣にできる。3匹は追ってこない。

「逃げてもむだだよ」

カブミの声が背中に届く。逃げるつもりはないが、確かに逃げても無駄だった。そこはガケだ。

戦闘に夢中で地形もろくに確認してなかった。

ガケっぷちに立たされたあたしは振り返る。

「剣を装備したかっただけだ」

「いいですよ。待ちましょう」

バタコはサーベルを下げた。あたしは折れた剣を投げ捨てる。しばらくしたら花に戻るが折れた剣は折れた花で復活しない。花の命を摘んでしまったことに心が痛む。ふと気づく。3匹の後ろにも大量のモブ兵士達が並んでいた。何万匹もの兵士があたしを取り囲んでいるのだ。空を見上げるとハッチたちをはじめとした空軍も空をおおいつくしている。

「みんなアゲハ王女の死に際を見たいんだってさ〜そのためにここまで追い詰めたのよ〜ん」

キリコは頬に手をそえてうっとりとした表情を浮かべている。

どんだけ恨まれているんだあたしは。まあ、殺しに殺しまくったからな。

「自害するかあたいらに斬られて死ぬかさっさと選びな」

カブミは重そうな斧を軽々とかついでめんどくさそうに言ってのける。

あたしは苦笑した。激しい戦闘でドレスはところどころ破れてあちこち露出している。あたしの足元にはおびただしい量の血が流れていた。額が裂けて、腹に穴が空き、背中の傷は背骨まで達している。アドレナリンが切れた今は苦痛で立っているのがやっとだ。血を失い雨にも濡れて寒い。あたしが死ねばチョウの国はどうなる?西軍は?妖精界はどうなる?

いや、もう考えても仕方ないことだ。

「あたしの首はおまえらにはやらん・・・」

あたしは微笑みを残して後ろに倒れ込み空に吸い込まれた。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ