25.心当たり。
「い……いない? 嘘だろ?」
自分の記憶が手掛かりになると信じていたアグウィが、ヴォレーク様の言葉を聞き、呆然となる。
「そんな……じゃあ、俺を嵌めたのは一体……」
「本当に残念だ。貴族が相手だったら簡単に対処できたものを……」
ザックスが忌々しげに、そう吐き捨てた。
「いや……元より不法侵入先での目撃証言は、証拠として採用できない。やはり、セレナから取り出す魔石で詰めるしか……」
「……ん?」
証拠? 魔石? 詰める? 一体、何の話⁇
バンッ!
「坊ちゃま達、もしや……相手方に見当がついておありですか⁉︎」
私の心の声を代弁するかのように、ターニャがテーブルに身を乗り出し、二人の顔を交互に見つめた。
すると、ヴォレーク様がザックスをちらりと見遣り、視線の先の彼が小さく頷く。それを確認してから、ゆっくりと口を開いた。
「アグウィを脅して利用したのは、貴族ではない。お前が見たのは……とある王族の紋章だ」
………………
「「「お、王族ーーっ⁉︎」」」
「幽閉されている第一王女の近衛隊士が絡んでいる、か……厄介だな」
私・ターニャ・アグウィが揃って驚きの声を上げたのとは対照的に、ザックスが冷静に呟く。腕組みをしたまま、険しい表情を浮かべているが……彼の言っていることの、意味がわからない。
「え? ゆ、幽閉? 第一王女は下賜されて、他国に嫁いだんじゃ……」
「表向きは、な」
そう言って、ヴォレーク様は深々と溜息を吐き出した。何かを言い淀むような様子……それはきっと、何よりも大切なセレスティーナ嬢の為なのだろう。
私がふっと視線を落とし、掌を見ると……指先がくいくいっと動いていた。『かかってこいや』と言わんばかりの挑発的な仕草。
貴女って……本当に肝が座った、素敵なお嬢様ね! カッコいいわ、セレスティーナちゃん!
私はしっかりと顔を上げ、ヴォレーク様を真っ直ぐに見つめ……伝える。
「お兄様、構いません。どうぞお話し下さい」
「セレナ……わかった。俺が知ること、全てを話そう」
妹の覚悟に、ヴォレーク様も誠意を持って応えてくれる。
「六年前……愚かな元第一王子がやらかしたことは、お前も知っているだろう?」
「え、ええ……子爵令嬢に唆され、婚約者を冤罪で迷宮刑送りにしたって……」
「そうだ。あの頃、その混乱の余波で国内が荒れに荒れていた。それに乗じて、悪どい貴族が色々と策謀を企てていてな……ターニャの仲間達は、恐らくその犠牲者だ」
「「なっ……」」
二人が揃って絶句する。
「元第一王子の一件により、冤罪を防ぐ為として、証拠が無い者を裁くことはできなくなった。疑わしきは罰せず……それをいいことに、尻尾を掴まれなかった貴族共がやりたい放題……」
「……」
「王家の醜聞、事態を鎮静化するには時間が掛かる。汚職に塗れた王宮官吏の手腕では尚更だ。迷宮の封鎖だって、王都の管理官が封印魔法陣を施行するが……ターニャ達の話を聞くと、実情は怪しいな」
「怪しいって?」
「調査が正当に行われたのか、魔法陣は正常に機能していたのか……どのみち再調査が必要だ」
「貴方が権力をフル活用すればいいだけの話だな」
「まぁ、徹底的にやらせてもらうさ」
ザックスの言葉を受け、当然とばかりに答えるヴォレーク様。そういえば、私は彼の王宮での役職も知らない。あぁ、こんな無知が婚約者と名乗ること自体、厚かましいわね。
「ねぇ、お兄様のお仕事って……」
「ん? なんだ、忘れたのか?」
「ヴォレーク殿は国内の迷宮管理官達のトップですよ、セレスティーナ様」
ザックスが私をフォローするように教えてくれたが……ええっ⁉︎ め、迷宮管理長官様ーーっ⁉︎
「何をそんなに驚いた顔してるんだ?」
「い、いえ……な、なんでもありませんわ。どうぞ、続けてくださいませ」
慌てて話の先を促すと、ヴォレーク様が頷く。
「そこから一年後。国内の混乱が少し落ち着いてきた頃……セレナ、お前が魔臓機能亢進症を発症した」
「えっ⁉︎」
急にアグウィが、何やらソワソワと目を泳がせる。自分が誘拐しようとした少女の事情を知り、自責の念に駆られているのかもしれない。
「以前は不治の病とされていたが、その治療法として、『魔石埋没術』なる手術様式が当時、既に確立されていた。だが、術後の経過を追っていくに従い、その手術法に……重大な欠点が見つかった」
「欠点?」
「原因を取り除いているわけじゃない、あくまで対処療法。魔石内のエネルギーが枯渇すれば、症状の抑えが効かなくなる。そして、定期交換を怠れば、結果、死に至る」
「死……」
突如、目の前に現実を突きつけられ、顔からさぁっと血の気が失せていく。
「大丈夫ですよ、セレスティーナ様。あれから時が経ち、また新しい治療法が出来た為、今回の手術が決まりました。医療は日々進歩しているのです。そして……貴女の命は我々が守りますよ」
「ザックス……」
こちらを安心させようと、彼が微笑みながらそう言ってくれた。その言葉を聞き、セレスティーナ嬢の小さな両拳がぎゅっと硬く握られる。
「あ、あのぉ……話の腰を折るようで申し訳ないのですが……お嬢様の病と王女様に、一体、何の関係があるんですか?」
「そ、それは……」
ターニャの問い掛けで、ヴォレーク様が言葉に詰まった。なんだか酷く言いにくそうな様子。
それを見かねたザックスが、話を繋ぐように説明役を代わった。
「セレスティーナ様。ヴォレーク殿はそれはそれはもうご令嬢方からおモテになるのはご存知ですよね?」
「え? えぇ、学生時代から凄かったって……」
私もヴォレーク様に憧れを抱いた者の中の一人。学生時代、遠くから彼を眺めることができた日は、合掌して拝んだものだ。尊い! ヴォレーク様しか勝たん!
「第一王女もヴォレーク殿にそれはそれは夢中になり、彼に婚約を迫ったようで……」
「えっ⁉︎」
バッと振り向き、ヴォレーク様の顔をマジマジと見つめる。そんな私の視線から避けるように彼はプイッと顔を背け、複雑な表情を浮かべていた。
「でも、セレスティーナ様を案じるヴォレーク殿は、王女からの要望を断った。『大切な存在がいるので……』と」
「えっ? でもそれ、王命では……」
「求婚はあくまで王女個人の意思。王家の考えはまた別で、グラシース侯爵家よりも他貴族との縁故を考えていたようですよ」
その時、ぽつりとヴォレーク様が呟いた。
「俺のせいだ……」
「え?」
「俺のせいでセレナが狙われたんだ。アレは……狂ってる。『大切な存在がなくなれば、断る理由もなくなる』と……」
「え……まさか……」
「五年前……第一王女が手術ミスに見せかけて、セレナの暗殺を企てたんだ」
「⁉︎」
ドクンッ!
彼の言葉を聞いた瞬間、セレスティーナ嬢の胸が大きく波打った。
長々とした全容語りも残りわずか……恋愛パートに入るのはもう少し先です。すみません。




