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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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24.アンコントロール。

 上座に当たる位置の一人掛けソファに、不遜な態度で座すセレスティーナ嬢。その小さな身体からは、少女というより女王様の風格を漂わせている。


 本来なら、ぶすっとした顔がその身体の上にあるはずだが……急な身体変化に、表情作成が間に合わなかった。動揺のあまり、口角はひくりと引き攣れている。

 そんな口の隙間から、私の間抜けな声が漏れ出た。


「あ〜〜、え、えっと……」


 まずいわ。首から上と下とがまるで合っていない、チグハグだ。表情も言動も、なるべく身体に寄せていかないと怪しまれてしまう。


 涙腺は彼女にコントロールされたが、頭の先から首まで一応まだ(ライザ)の支配領域らしく、表情筋と声帯はかろうじて動かせている。だが……このままだと、きっとあと少しで、声を出すことは叶わなくなるだろう。異物である私の魂が、この身体から急速に排除されていっているのを感じる。


 一人の身体に二人分の魂。それだけでも異常事態なのに、支配領域が別々とは、なんて(いびつ)な……異国の芸事に『二人羽織(ににんばおり)』なるものがあると、昔、本で読んだことがあるけど、あれはきっとこんな感じね。


 この身体の中で、セレスティーナ嬢と意識の共有は出来ないものかしら? 直接は話せてないけれど、呼びかければ相手に届くみたいだし……もしかしたら、彼女からの声がそのうち私にも聞こえてくるの?



 頭の中でぐるぐると思考を巡らせ、渋い顔をしていると、突如ターニャが声を上げた。


「大変! お嬢様の不機嫌MAXモードだわ! あぁ、もう! 坊ちゃまが調子に乗って抱っこしたりなんかするからーーっ‼︎」

「ゔっ‼︎」


 ………………


 あぁ……以前にもあるんだな、このポージング。無言の圧力。ヴォレーク様ご自身が、何が悪かったかちゃんと気付かないと、絶対に許してもらえないやつ……グラシース侯爵家の日常茶飯事か?


 セレスティーナ嬢はもしかして……私の為に怒ってくれているのだろうか? もしそうなら、その気持ちだけで……私は嬉しい。


 近いうちに、彼とは婚約解消になるだろうけれど、貴女とは改めて顔を合わせ、きちんとご挨拶がしたいわ。


 それにしても……ヴォレーク様って、もしかして……溺愛する妹ちゃんからの叱咤を喜ぶ……いわゆる被虐嗜好(ひぎゃくしこう)をお持ちなのかしら? またしても、知らなかった一面が……。



 そんなことを考えていると、突然、身体が焦ったように動き出す。きちんとソファに座り直したと思ったら、フルフルと手を左右に振っている……んん? 何かしら?


 すると今度は、指先が太ももに字を書き始めた。えっと……『ご・か・い・で・す』……誤解です? ……あら? それは、さっきの嗜好の話のこと?



「お嬢様? 大丈夫ですか⁇」

「えっ⁉︎ だ、大丈夫よ!」


 セレスティーナ嬢の奇行を見て、ターニャが心配そうに声を掛けてきたので、慌てて言葉を返す。


「セレスティーナ様、珍しいですね。いつもならすぐに、兄上のお膝から飛び降りるのに……」

「タ、ターニャの話に驚いて、すっかり忘れてたのよ! あ! そうそう、先程の話に戻りましょう! そうしましょう!」


 ザックスが何かを察してくれたのか、彼の言葉に乗りつつ話題を強引に転換すると、ヴォレーク様もそれに続く。


「そうだな。ザックスが来たから……紹介しようか。この男はアグウィ。弱みを握られ、セレナを連れ去るよう、何者かに命令された探索者だ。屋敷に侵入……」

「何?」


 ヴォレーク様の説明途中で、ギロッと、射抜くような視線をザックスがアグウィに向ける。


「まぁまぁ。セレナ自身が許してるから、大目に見てやってくれ。でなかったら、とっくに俺が氷漬けにしてるよ」


 今……さらっと物騒なことを爽やかな顔で言ったわね、ヴォレーク様。アグウィがまた涙目よ。


「で……お前が潜ったのは……ロッテン伯爵家が所有していた『廻風(かいふう)迷宮』で、間違いないか?」

「は、はいっ! そうです!」


 アグウィの返事で、ターニャがぎゅっと目を瞑る。感情を奥へと抑え込もうとしているようで、それがなんだか痛々しく見えた。


「そうか……だが、おかしいな。迷宮を管轄する貴族と言ったが……ロッテン伯爵家は既に取り潰しとなったはず……それに、封じた迷宮内でアグウィが捕らわれたとするなら、その時、既に何者かが中へと潜っていたわけだが……」

「その迷宮は今、どこが管理しているんだ?」


 ザックスがヴォレーク様に尋ねる。二人のやり取りは、なんだか自然ね。ザックスが養子とはいえ、従兄弟同士だからか……でも、ヴォレーク様は彼が『誰か』を知っているのだろうか?



「閉鎖以降は、国の管轄下に置かれているはずだが……」

「あ、あの……数名に取り囲まれた時、ちらりと……一人の男が、紋章入りの剣を持っているのが見えまして……ちゃんと照会すれば、どこの貴族家か分かるかも……」

「何⁉︎ でかしたぞ、アグウィ!」

「痛たたたっ!」


 褒めるターニャが、アグウィの頭を雑にグリグリと撫で回した。


「どんな紋章だった?」

「俺、捕まってたから調べようがなくって……」


 そう言うと、記憶を思い出すようにアグウィが指を動かし、空中にさっとそれを描く。動きの最後は、なにやら特徴ある流線型でくるりと締めた。

 それを見て、ヴォレーク様とザックスの声が重なる。


「「なっ……」」


 二人とも……何か、心当たりでもあるのか⁉︎


「その貴族が……レジェ達の死の真相を知っているということか?」


 ターニャが拳を握り締めながら、低く唸る。だが、その言葉を打ち消すように、ヴォレーク様が苦々しく告げた。


「残念だが……国中を探しても、その紋章を継ぐ貴族は……いない」

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