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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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17/25

17.誘拐犯。

 アグウィと呼ばれた男は、着ていたメイド服をバサッと脱ぐと、それをターニャに投げつけた。その服が彼女の視界を一瞬、遮る。


「‼︎」


 その隙に、本来の姿へと戻った細身の青年は、木の上へ軽々と飛び上がった。勿論(もちろん)、私は小脇に抱えられたまま。

 そして彼は、木の幹に添えた手にグッと力を込め、一瞬にして枝木を成長させ……私達の姿をすっぽりと覆い隠してしまった。


 バキバキバキバキッ!


 頭上からは、太い枝の折れる音が鳴る。勢いのあるこの樹木の力でも、天井を突き破ることはできなかったようだ。


 スッ……


 すると彼が、降り注ぐ枝の破片から庇うように、そっと腕を私の頭上に(かざ)した。


「ごめんな……」

「‼︎」


 葉擦(はず)れの音で掻き消えてしまいそうなか細い声で謝罪を口にする。想像していたよりも、ずっと幼い素顔の青年。

 私は……やっぱり、彼が悪人だとは思えない。 


「アグウィーー‼︎」


 木の下からは、ターニャの怒声が響いてきた。枝葉の隙間から僅かに見える彼女……雑に返却された仕事着を握り締め、忌々しげにこちらを睨み上げている。


「はっ! A級探索者が誘拐犯とは……アグウィ! お前も随分と落ちぶれたものねっ‼︎」

「……」


 迷宮(ダンジョン)がありふれたこの迷宮国家ネルトワーグでは、国が最深部までを一通り調査してから一般公開となる。その為、迷宮へ潜る職業人は『探索者』と呼ばれる。

 もしもこの国で『冒険者』と呼べる者がいるとするなら、それは迷宮刑の受刑者達のことかもしれないが……それは、最上級の嫌味だ。

 

 それにしても彼、A級だなんて……S級に次ぐ、高位ランカーよ? そんな実力者が、少女を(さら)おうとするなんて……。

 そういえば、話の感じからして、ターニャって一体、何級かしら?


「おや? いつも一緒だった相棒は? ははっ、ついに見捨てられたか」

「そ、それは……」


 ターニャの挑発で、彼があからさまに狼狽(うろた)え、口籠(くちごも)る。相棒?


 バタバタバタバタバタバタバタッ!


 今度は幾人もの足音が聞こえてきた。どうやら他の使用人達もこの木の下に続々と到着したようだ。


「侵入者め! 許さーーん!」

「風で()ぎ倒すか!」

「おい、止めろ! お嬢様があの中にいる!」

「何っ⁉︎」


 彼等が口々に声を上げる。


 それが私の耳に聞こえているのだから、隣の彼にも当然届いているはず。ちらりと見上げると……気の毒なほどに真っ青な顔だ。

 (うつろ)な目、潤いを失ったそのカサカサな唇を震わし、アグウィが声を振り絞る。


「ひ、人質がいるぞ。こ、この子の命が惜しければ、は、離れろ!」


 懇願するようにも聞こえる、上擦(うわず)った声。私の目から見ても、ここから逃げられる可能性は限りなくゼロに等しい。


 だが、セレスティーナ嬢を何よりも大切にしている使用人達にとって、彼の言葉は十分な牽制となったようだ。皆、動きを止めている。


 膠着(こうちゃく)状態は体感、数分……実際は恐らく十数秒。


 ………………



 ヒュゥッ!


 それは刹那(せつな)……冷たい風が、枝葉の間を吹き抜けた……と、思った瞬間!


 ピキピキピキピキピキピキッ! パリーーンッ!


「「なっ⁉︎」」


 一瞬にして周囲の葉が凍りつき、それらが極小サイズへと砕け散る。キラキラと太陽光を反射させながら、空気中を舞う光景……こんな状況なのに……ただ、綺麗だと思った。


 結晶サイズの微細な氷粒なら、セレスティーナ嬢が怪我しないだろうと判断したのね。しかも木だけを狙って……コントロールが流石です! ……って、喜ぶな、バカ。


 開けた視界から眼下を見遣ると、魔法杖を構えた美しい彼がそこにいた。


「セレナーー‼︎」

「ふふーーふふふーー!」


 ヴォレーク様により、伸びた枝木は丸裸にされ、私とアグウィの二人が大木の上で露わになった。

 私の無事を目視で確認して、使用人達が歓声を上げる!


「お嬢様ーーーーっ‼︎」

「良かった〜〜!」

「流石は坊ちゃまだーー!」


 するとヴォレーク様は、視線を私達から離すことなく、使用人達に声を掛ける。


「客人はソファで眠らせている。昨日、一睡もしていなかったようだ。すまないが、対応を頼む」

「「「はっ!」」」


 彼の指示に従い、数名がこの場を離れる。


 テレーズお兄様……眠っているのね。良かった。心配かけてごめんなさい。私、てっきり嫌われていると思っていたのに……あの厳しさは、お兄様なりの愛情の裏返しだったのかしら?


 ………………


 兄との思い出がぶわっと頭を()ぎったが……無骨な彼の言葉・表情・態度から、私への慈愛は全くといっていいほど読み取れなかった。皆無!

 いやいやいやいや、片鱗も見えないわよ⁉︎ 想像するなんて無理でしょーー⁉︎


 私がぐるぐるとそんなことを考えていると、こちらの怒り心頭なお兄様が声を荒げる!


「その抱えた手を離して貰おうかーー‼︎」

「ひっ‼︎」


 アグウィが泣きそうな顔で小さく悲鳴を上げる。私ですら、驚きでビクッと身体を揺すった。


 ヴォレーク様が本気で怒っているの……初めて見たわ。魔力オーラの感じ取れない私でも、彼の後ろに(おびただ)しい数の氷の棘が突き出ているような幻が視えるわ。

 こんな()き出しの感情を直接ぶつけられたら、たまったもんじゃないわね。だんだん、この誘拐犯が可哀想になってきた。


「お、俺ですら、最近のセレナは抱っこさせてくれないのにーー!」

「えっ⁉︎」

「……」


 ヴォレーク様。この状況において、その発言は……緊張感がガクッと欠けてしまいますよ?

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