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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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12/25

12.再会の挨拶。

 彼の言葉の意味が分からない。


「あの……それは一体……」

()()()()()だ」

「え?」

「ザッカリー・ミュード……物心ついた頃から、ライザが舌ったらずに私を『ジャックリーしゃま』と呼んでくれるのが、あまりに可愛いくて可愛いくて……訂正せず、そのままにしたんだよ」

「えっ⁉︎ だ、だって、兄は貴方を『ジャック』って……」

「テレーズの悪ふざけだ。ライザの勘違いにあえて乗っかっていたんだよ」

「お、お兄様ったら……」


 そういえば、屋敷の者達は皆、彼のことを『ミュード伯爵令息』と呼んでいた。兄の呼び方、やり取りするお手紙には『ジャックより』と書いてあったから、まるで疑わなかった。

 じゃあ……私は今の今まで、婚約者だった彼の名前を間違えて覚えていたの⁉︎ 失礼過ぎる! やだ、恥ずかしい!


 カァッと赤くなる頬を両手で押さえた私を見て、彼がふっとはにかむ。


「知らなくても仕方がないさ。ライザが中等部に入学すれば、自然に耳に入ると思って放っておいたが……その前に私が、学院を去ることになってしまった。皆、消された伯爵家の話題なんて口に出さない。だから、私を『ジャックリー』と呼ぶのはライザだけなんだ。ふふっ、実の兄の名よりも先に私の名前を口にした……あの時のテレーズの顔、今でも覚えてるよ」

「そう……なのね……」


 私はようやく観念して、ふうっと深く溜息を吐き出した。ジャックリー……いえ、ザッカリー様に、最初の一言だけで気づかれていたなんて……私はとんだ間抜けだ。

 そういえば子供の頃から、彼は私のこと何でもお見通しだったっけ。


 ふと懐かしさが込み上げてくると同時に、別な感情も内に湧いてきた。


 突然いなくなったあの日から、ずっとずっと会いたかった……でも、それは叶わなくって……貴方を忘れるくらいの新しい恋を見つけて……浮かれて……実ったと思ったら、それが偽りのモノだった。


 それを知ってしまった今、私は……こんな惨めな私では……貴方に、合わせる顔がないのに……。


 再会の喜びよりも、己の不甲斐(ふがい)なさや後ろめたさの方が大きく、()(たま)れない私はさらに俯いてしまった。


「ライザ?」

「……何があったのか……お聞きしてもよろしいですか?」


 そう形式的な口調で問いかけると、彼が視線をふいっと窓の外へ向ける。


「五年前…… ある日、突然、家も家族も失った。父上が不祥事を起こし、捕らえられ、ミュード伯爵家がお取り潰しとなったからだ。だが、(ゆかり)ある方が拾って下さり、私はその家の養子として迎えられた。しかし、国内にいては醜聞(しゅうぶん)により、私が傷つくのではないかと案じて下さってな。隣国へ留学という形で身を隠したんだ。必死に学び、飛び級で高等部を卒業し、資格免許も取得した。そういえば、名乗るのが遅くなったな。今の私の名は……ザックス・ラグナットだ」

「ラグナット⁉︎」


 聞き覚えのある……侯爵家の名! 


「ラグナット侯爵家……私の義姉が、レイ医師(センセイ)だ。ラグナット卿と父上が元々、学生時代に同じ師の元で学んでいたそうで、幼い頃に私も面識があった。今の私があるのは侯爵家のお陰。本当に……感謝してもしきれない」

「……そうだったのですね」


 そんなことがあったなんて……でも、あのミュード伯爵が……不祥事? 

 信じられない。私の記憶の中では、おじ様は穏やかにいつも笑っていた。悪事を働くなんて、とてもじゃないが想像つかない。


 混乱する私に、今度はザックス様から尋ねてきた。


「ライザこそ、一体何があったんだ?」

「何……って……」


 ドクンッ!


 彼の言葉が引き金となり、ヴォレーク様に心臓を刺された瞬間が、私の脳内でフラッシュバックする。


「あっ……あぁ……」

「ライザ? ライザ⁉︎ ……よしよし、どうした? 落ち着いて……大丈夫だよ。ゆっくり深呼吸を……」


 口元に手を当て、カタカタと震え泣く私を宥めるように、彼が優しく背中を(さす)る。


「わ……分からないの。ヴォレーク様に呼び出され、突然……心臓を刺され……殺された……」

「殺された? そんなはずは……直前に何か説明は?」

「……」


 私は無言で首を横に振ると、目に溜まっていた涙の雫達が勢いよく空中を舞った。


「なっ…… なんでそんな、死んだなんて……誤解…… ヴォレーク殿ならライザを任せられると……身を引いた私が、馬鹿みたいではないか」

「?」


 ザックス様がなにやら小さな声でブツブツと呟くが、私の耳にはよく聞こえない。


「ザックス……先生は……何か心当たりが?」

「んんっ、ごほんっ……セレスティーナ嬢の病に関することだからな、個人情報を教えるわけにはいかない。ただ一つ言えるのは……今ここに、彼女が生きているという事実は、同時にライザの生存も保証している」

「え? わ、私……まだ、生きているの?」


 真っ直ぐに向き合い、言い切る彼の言葉で、また私の目から大粒の涙が溢れてきた。


「ううっ……ふ、不安だったのです……私が身体を奪って、セレスティーナ嬢の魂を何処かに追いやってしまったんじゃないか、とか……この先に、どうなってしまうのか、とか……私はただの生け贄だったのか、とか……」

「大丈夫だ、ライザ。必ず元に戻れるよう、私が全力を尽くす。約束する。それにしても……本当ならあと二日後だったはず……前倒しになって、調整がズレたか?」

「?」

「それよりも……」


 ザックス様が私の手を取り、そっと手の甲に口付けをした。


「なっ⁉︎」

「再会の挨拶がまだだったね、ライザ。私はいつだって、愛しい君のことを忘れた時はなかった……ライザが生まれる前から、互いに……私は君の、君は私のモノだよ」

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