1.私の心は浮かれモード。
不定期更新かもしれませんが、完結保証。
どうぞよろしくお願いします。
バサッ……バサッ……バサッ……
鏡の前で一度自分の身に添え当て、不合格になったドレス達がベッドの上を占領していく。
「あぁ! どれがいいかしら? うふふふっ……」
クローゼットを開け放ち、コルセット装着済みな下着姿で今日の一着を選びながら……私は一人、浮かれていた。
だって……これから、私の婚約者ヴォレーク・グラシース次期侯爵様とお会いするのだもの、平常心でなんていられない!
私達の婚姻は三ヶ月前に突如決まった、王命による政略結婚。最初、己の耳を疑った。なぜ、社交界でまるで目立たぬ我が伯爵家が選ばれたのか……不思議で不思議で仕方がなかったが、お父様曰く『魔力の相性が良かったから』……だそうだ。
ただ、家に書状が届いた日、そんなお父様の言葉を掻き消すくらい、私の脳内では幸福の鐘が大音量で鳴り響いた。
だって……だって……あのヴォレーク様よ?
国内の令嬢達、皆の憧れ! 美しい銀髪にアクアマリンの瞳、すらりと高い背に長い手足、彫刻のように滑らかな肌、少し低めの声……頭脳明晰な上、武術も魔術も最高レベル……あぁ、素晴らしい所ばかりで、挙げたらキリがない!
ヴォレーク様が貴族学院に通われていた頃、学院内で彼の名を知らぬ者は誰一人いなかった。当時、中等部だった私は、自分より四つ年上の彼を見たくて、高等部の敷地に友人と度々忍び込んでは遠くから拝んだものだ。
しかも現在は、22歳という若さで王宮内の重要な役職に就いていらっしゃる、そんな高嶺の花な彼が……まさか、まさか、まさか、この私の婚約者だなんて……いまだに夢でも見ているかのようだ。
だけど、婚約者となってまだ日が浅く、しかも、共有した時間はとても少ない。というか、ほとんどない。きちんと面会できたのは、たった一度だけ。
ヴォレーク様は多忙な方だ。二人きりでお会いする時間なんてなかなか取れず、約束をしていても直前で予定がキャンセルになることも珍しくはなかった。
だがそんなこと、私にとって何の問題でもない。夫婦となってから、これから先の人生、同じ時間を過ごしていく内にヴォレーク様との仲を育んでいけばいいだけのこと。
それに、交流はちゃんとしている。定期的に彼から手紙が届き、それに私がお応えして、お礼が返ってきて……もう幾度、やり取りを重ねただろうか……いつも短めな文面ではあるが、その中に彼の人柄が見えた気がした。
バサッ……
「でも、婚約中にヴォレーク様とデート……してみたかったな……」
また一枚、ドレスを放り投げながら、私は溜息を吐き出した。
実はこの婚約は世間的には公表されていない、超極秘婚約。だが、それも仕方ない。だって彼が、どこぞの馬の骨とも分からぬ平凡令嬢と婚約しただなんて知られたら、国中の令嬢達が悲嘆に暮れ、活気がなくなり、国内経済が回らなくなる……もしくは、この婚約を破談にしようと私の暗殺計画が次々と持ち上がる……かも? それはどちらも困る。
私の学院卒業まであと半年。その後すぐに、結婚式を挙げる予定ではあるが……それまで、なんとしても私達二人の関係は隠し通さなければ!
「半年後には、夫婦……きゃっ!」
自分で言った言葉を噛み締めて、ポッと顔が熱くなる……って、いかんいかん。急がなきゃ!
「やっぱり、このドレスかな? 私が持っているモノの中で、一番セクシーなのは……あぁ、時間が!」
顔を上げると、ぱっと大時計の文字盤が目に入った。そのまま視線を下げ、テーブル上の手紙を見遣る。
ヴォレーク様からの手紙が早朝、部屋に飛んできたのだ。
◇◇◇◇
それは今朝、白い鳩の姿でバルコニーに現れ、ガラス窓を嘴で三回ノックした。
私が窓を開けると、ふっくらした鳩は慣れたように室内へするりと侵入し、テーブルの上でふわりとその身体を手紙へと変えた。……初めて見た時は驚いたっけなぁ。
私は喜んで手紙に飛びつき、封を開けて、紙面にばっと目を走らせる。
「え? あ、あら?」
それは、いつもの手紙と大分、様相が異なっていた。
『ライザ嬢
至急、会いたい。
同封の魔法陣を使い、我が屋敷へ来てくれ。
その際、以下のことを厳守。
・胸元が開けた服装(金属・鉱石類の装飾不可)
・化粧、整髪料、香水は禁止
・宝飾品は禁止
・他言無用
ヴォレーク・グラシース』
彼の手紙は簡潔だ。そこも素敵! でも、いつもの手紙は『至急、魔石に魔力を込めて、同封の魔法陣で送り返してくれ』って、ほぼ毎回同じ文章なのに……今日は色々と注文が書いてある。
し、しかも……『会いたい』だなんて……。
私は思わず、眉を顰めた。
「え? こ、これって……つまり……私のナチュラルでセクシーな姿を見たい……ってことよね? そうよね? やだぁぁぁぁぁぁん! ヴォレーク様ったらぁぁぁぁぁぁっ!」
手紙を握り締めたまま、身体をクネクネと捩らせ、寝巻き姿で歓喜の小躍り!
「はっ! いけない! すぐに準備を!」
ガシッ! チリリリリーーン!
私は急いでベッドサイドのベルをひっ掴み、高速で鳴らして、侍女のユノを部屋に呼びつけたのだった。
恋は盲目……搾取されていますね。




