拾得物報告書 第65号 鍵
その日の夕方、忘れ物窓口に来訪者があった。
「トイレの棚にあるんですけど……ちょっと触るの嫌で。連絡だけでもいいですか?」
「少々お待ちを、現地まで案内してもらってもいいですか?」
嫌そうな顔で一応了承してもらったことに礼を言って場所を確認し、女子トイレだったので女性の同僚を呼んだ。
「悪い、ちょっと見てきてもらっていい?」
「了解です……変なのじゃなきゃいいけど」
数分後、一人で戻ってきた同僚は、言葉よりも先に《変なものを見た》という顔をしていた。
「……はい。これ。」
そう言って、机の上にじゃらりと置かれたのは――
細いチェーンに通された、無数の鍵だった。
チェーンの長さは一メートル半ほど。
そこに、漫画の洋館に出てきそうな大きく古びた鍵、用途の分からない細長い鍵、ほとんど新品の小さな鍵まで、大小も年代もまったくバラバラな鍵が、ぎっしりと繋げられている。
「拾得者の連絡先は?」
「……聞いたけど、『関わりたくないので』って帰っちゃった」
まあ、物がこれじゃ仕方ないか。
窓口へ持ち帰り、机に広げる。
「正直、気持ち悪い。仕事じゃなきゃ私も触りたくない。」
同僚が心底嫌そうな声を上げた。
そこには同意するが誰かがこれから取得票作らなきゃいけない。
「やる?」と聞いたら激しく首を振られた。
仕方なく俺は受付票を書きながら、鍵束の端を軽く持ち上げる。
「……数、数えなきゃダメかなあ」
ざっと数えていく。
錆びているものもあれば、やけにきれいな鍵もある。
そんな中で――ひとつだけ視界に引っかかった。
――これ、なんか気になるな?
取り上げて確かめる。
刻印。溝の形。触った感触。
よく知ってる気がする。
俺はキーボックスから「保管室」の鍵を取り出し、横に並べてみた。
番号も形も、完全に一致していた。
同僚も目を丸くする。
「スペアとかじゃないよね?」
駅のキーボックスを確認する。
正規のスペアキーは、いつも通りそこにあった。
つまり、これは《第三の鍵》ということになる。
「……試してみよう。減るもんじゃないし」
拾得物だから本来なら試すべきではない。
だが、万一これで開いたら大問題だ。
保管庫の鍵穴にそっと差し込む。
抵抗はない。深さもぴたりと一致する。
軽く回す。
――カチリ。
思わず息をのんだ。
扉は、何の抵抗もなく開いた。
急いで閉め、鍵を抜く。
「私、駅長呼んできます」
同僚が駆けていき、すぐに駅長がやってきた。
俺は経緯を説明し、鍵束と本物の鍵を並べて見せた。
駅長はしばらく無言で二本を見比べ、ため息をついた。
「……複製依頼の記録は無い。紛失報告も無い。スペアも揃っている。
なのに、同じ鍵がもう一本あるわけか」
駅長の声は低かった。
「とにかく保管室の鍵は今日中に交換する。
この鍵束は拾得物として通常どおり記録して保管しておいてくれ」
「……はい」
俺はそっと鍵束をまとめ、拾得物袋に入れて棚へ戻した。
気になる拾得物だが、今日はこれだけってわけではない。
いつも通りほかにもたくさんの拾得物が届いている。
書類を整理しながらふと考える。
ほかの鍵もどこの鍵だったんだろうか。
「あの中にウチの鍵とかあったらやだなあ」
同僚よ、嫌なこと言わないでくれ。
もし、全部がどこかの本物だったとしたら……
あの鍵束を落とした誰かは今、困っていないんだろうか。
――どこかの鍵が開かなくて、
取りに来られない……なんてことは――
ないだろうな?




