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こちらは新汐野駅落とし物窓口です  作者: とおエイ


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3/10

拾得物報告書 第33号 封筒

 その日、お忘れ物取扱窓口に、分厚い封筒がひとつ置かれた。

 届けたのは、スーツ姿の会社員風の男性だった。

「ホームのベンチの下に落ちてたんですけど……」

 黄土色の無地の事務用封筒。マチ付きで、上からガムテープが封筒の胴をぐるりと一周していた。角に黒ずみがあり、手触りはざらついていた。


 受け取りながら何気なく持ち上げると、隅々までみっちりと固い。

 板のようだが、中が詰まっていて、空気の抜けないような硬さがある。

「なんでしょうね、これ?」

「書類じゃなさそうですね。お金だったりして」

「まさかぁ」

 と笑い合ったその瞬間、カウンターの端から封筒がすべり落ちた。


 鈍い音とともに、封筒の底が裂けた。

 厚手の紙が耐えきれずに割け、ばらばらの一万円札がこぼれ出た。

 思わず息をのんだ。


 上司を呼び、すぐに確認。

 破れた封筒の中身を、二人で慎重に数えた。

 一万円札が二百二十六枚。端が少し折れたものが数枚混じっている。

 枚数と金額を拾得報告書に記入し、再び封筒へ戻した。

 破れた口はガムテープで補修のうえ「新汐野駅拾得物係」の封印シールを貼り、署名と日付を記入する。

 警察への報告用に付箋を貼った――落下時封筒破損、内容物確認後再封入、録画記録アリ。


 その日のうちに警察官が到着し、封筒と防犯カメラ映像を確認後、受領票に署名して持ち帰った。

 それで終わる――はずだった。


 ――二日後の午後。

 改札窓口に若い男性が立っていた。

「これ、落ちてました」

 差し出されたのは、黄土色の封筒。

 左上の黒ずみ、下辺の裂け跡、補修のガムテープ――見覚えがありすぎた。

 さらに「新汐野駅拾得物係」の封印シール。

 日付も、署名も、俺の字だった。


 上司が低い声で言った。

「とりあえず警察に連絡だ」


 俺は拾得物係に電話を入れた。

「先日、現金拾得でお引き渡しした封筒と同じものと思われる拾得物が、また届けられました。

 封がしてあり、中身は確認していませんが、封印シールの日付と署名が一致しています」


 受話器の向こうで、担当者が少し間を置いて答える。

「……確認しますね。日付は?」

「六月十二日。拾得者名は俺の署名になってます」

「なるほど。少々お待ちください」

 紙をめくる音がした。


「ええ、その封筒なら、落とし主が来て返還済みになっています」

「返還済み、ですか」

「はい。免許証で本人確認済みです。間違いないはずです」

「……どんな方でした?」

「申し訳ありません、守秘義務がありますのでそこはちょっと……」


 俺は受話器を握りしめた。

 封筒は『返還済み』。

 落とし主の手に戻ったはず。

 それなのに、今、目の前にある。


 一週間後、また別の人が封筒を届けてきた。

 今度は主婦らしい女性が、「東口階段の踊り場に落ちてました」と差し出した。

 封の上には、あのシール。六月十二日。俺の署名。

 上司は黙って俺を見た。

 俺は何も言わず、警察へ電話をした。

「同じと思われる拾得物がまた届けられました」

 回収に来たなじみの警官に聞くと、二回目の封筒も落とし主が回収済みだという。

 「……一応、上に報告しておきますね」

 「そうしてもらえると助かります」


 1カ月後、同一路線の高月台駅に勤める同期の山口から電話があった。

「『新汐野駅拾得物係』のシールが貼られた封筒が届いたんだが、何か知ってるか?」

 俺は詳細を聞き、しばらく黙ったあとで答えた。

「警察に連絡してくれ。新汐野担当の人に繋げばわかるから」

 山口は何か察したようで、「……そうか。情報感謝する」とだけ言って電話を切った。

 その後の話は、聞いていない。


 そのうち、誰かがまた拾ってくるだろう。

 同じように、何も知らない顔で。

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