拾得物報告書 第25号 通信端末
人口五十万人を超える波座市の中心駅、新汐野。
一日の利用者数は二十万を超え、忘れ物の数も桁違いだ。
改札脇の落とし物取扱所では、毎日数十件の届け出を処理している。
私はその担当のひとりで、今月から早番のシフトを任されている。
その日の朝も、棚の奥に並ぶ拾得物を確認していた。
財布、傘、スマートフォン、古いガラケー。
現代では欠かせないスマートフォンも、電源が切れていれば持ち主を特定できない。
そんな端末が、今日も保管期間が過ぎるのを静かに待っている。
その男性が最初に来たのは、六月のある朝だった。
彼は古びたガラケーを差し出し、丁寧に言った。
「ホームのベンチの下に落ちてたんです。電源は入らないみたいで」
型は十年以上前のものだが、傷もなく妙にきれいだった。
いつも通り拾得票を書き、受付台帳に記録する。
その日はそれで終わった。
翌日、同じ男性がまた現れた。
「今日も落ちてたんです」
差し出されたのは、今度はスマートフォンが二台。
前日と同じように、バッテリーは完全に切れていた。
三日目。
また同じ時間帯に、同じ男性が窓口に現れた。
「……また、見つけちゃいまして」
手の中には三台目の端末。
どうやら落ちている位置も少しずつ変わっているらしい。
さすがに奇妙に思えて、私は声をかけた。
「毎日よく拾われますね」
「ええ、ふと気づくと落ちてるんですよ。探してる人いないかと見回すと、また見えるんです。曲がり角の角とかに」
男性は少し照れくさそうに笑った。
「今日は普段なら通らない場所まで行っちゃうところでしたよ」
――その翌朝、早番の私は、構内で彼を見つけた。
改札階の奥、通路の角で、彼はしゃがみ込んで何かを拾い上げていた。
「お客さま……あら」
声をかけると、男性は振り返って微笑んだ。
「ああ、駅員さん。今日もなんですよ、ほら――あそこにも」
指さす先、構内奥の通路の角にもう一台。
私が拾い上げて立ち上がる。
その拍子に視線が通路の奥へ流れ、進行方向の角のあたりに、また黒い影が見えた。
近づいて拾う。
私が拾った二台、男性が最初に拾った一台。
どれも型も色もばらばらで、共通点らしいものは見当たらなかったが、
三台とも操作しても電源が入らない点だけが一致していた。
気づけば、構内の奥へと進んでいた。
三台目を拾ったとき、さらにその先――
普段は人通りのない連絡通路の向こう側に、もう一台が見えた。
黄色いテープが張られ、「関係者以外立入禁止」と書かれている。
照明の届かない奥で、黒いスマホの背面だけが、淡く光を返していた。
私と男性は顔を見合わせた。
「どうしましょう、これ……」
「……報告は私がしておきます。今後は落ちていても、拾わないほうがいいかと思いますよ」
「……そうします」
その瞬間、私の手の中の二台が、同時に短く震えたような気がした。
「……何かありましたか?」
男性が不思議そうに首を傾げる。
「いえ、何でもありません」
その後、あのスマホたちは保管期間が切れ、本社の保管庫へ移送された。
どこに行ったのかは、もう誰も知らない。
それ以来、複数のスマホやガラケーを同じ人が拾ってくると、
私は少しだけ警戒するようになってしまった。




