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5 ギャルとトモダチ

 未優からわたし彼氏できたから告白を受けたあと、あたしは茫然自失としていた。

 とりあえずその場は愛想笑いで流した。あくまで平静を装っておいた。


 けれど思った以上に脳にキていた。

 いつかはこんな日が来るであろうことは想定していた。しかしあまりにも急すぎる。なんかその、事前に相談とかも、なんもないのかなって。


 などと相手の男ではなく、未優に対して不信感を抱き始めるぐらいには心が乱れていた。

 あたしってNTRの才能あるかもしれん。ラレるほうね。

 

 その後、未優は露骨にあたしを避けてきた。というかあたしが避けた。

 お昼は基本あたしのほうからやつの席に行くのだけど、今日は行かなかった。

 そしたら来なかった。こっそりチラチラしてみたら他の子と食べてやがった。ちくしょう。

 

 あたしは未優以外に友達がいないわけではない。

 けどクラスにご飯を一緒に食べるような相手はいない。

 

 なんというか話しかけられれば誰とでもしゃべるし、必要とあらば自分からも話しかけるけど、それ以上にはならない。

 周りからは、ちょい距離を置かれてる感がある。

 なぜならあたしがスーパー美少女だから? かどうかはわからないけど、ちょっとした壁を感じる。


 第三者の立場で考えてみよう。

 特定の二人がいつも一緒に仲睦まじくしている。だとすると、わざわざそこに割って入ろうっていう考えにはならないのかもしれない。

 それをやるのはこのクラスでは不沈艦ノンデリオンぐらいか。


 しかし、となると。

 あたしは一人で飯を食うことになる。

 こっそり周りを見渡しても、教室で一人で食べてる女子は見当たらない。


 えっ、なにこれどうしよう。

 もしかしてあたしって、未優がいなかったらぼっちなの?


 グループをハブられた女の子は、ひとつ下のグループに入るという。

 ふとそんなことが頭をよぎった。


 気は進まないけど、ここは莉音に声をかけて……いやそれは危険だ。

 なんでー? どうしたのー? みゆみゆとなんかあったのー? とノンデリラッシュを食らうこと間違いなし。


 どうしよう。こうなったら隣の陰キャっぽい男子と仲良くなろうか。

 そのへんの女子より絶対気があいそうだし。あたしが今の姿になってなかったらと思うと、彼にはシンパシーを感じる。


 ……いや、待った。

 ていうか、そもそも俺、男だし。

 ハブとか女子グループとか、そういうの関係ねーし。


 隣の彼とか、デフォでぼっちよ? ひとりでスマホ眺めながらニタニタしててちょいキモいけど、ある意味カッケーじゃん? 我が道を行くって感じで。


 まったく、なんでメスガキどもはこうも群れたがるかね。

 あーやだやだ。もう悠々と一人で食ってやるわ。ぼっち飯上等だわ。


 あたしはアルミホイルに巻かれたおにぎりを取り出した。

 昨日余ったご飯で未優が作ってくれたやつ。

 未優……。

 

 いや違う違う。そういう方向性じゃない。

 こちとらなよっちい女の子とかじゃないわけ。

 だいたいおにぎりとか、このぐらい自分で作れるし?


 あたしは豪快にアルミを剥がすと、男らしくワイルドに噛みついた。

 がぶり。むっしゃむっしゃ。

 

 ……どうしよう。味がしない。ご飯がいつもよりぱさぱさする。

 未優と食べているときは気にならなかった周りの会話が耳に入ってくる。

 

「キャハハハ! それガチ? えっぐ!」

「そうそうそれ! ガチでそれ!」

 

 えっ、もしかしてあたし笑われてる? 

 

 あれれ? いつも相方と一緒に食べてるのにどうしたのかな? ケンカ? あっ、もしかして寝取られたのかな? NTRかな? 

 とかって?


 どんどん体が縮こまっていく。

 ダンゴムシのように小さく丸まっていると、ちょんちょん、と誰かに肩をつつかれた。


 びくっと肩が跳ねる。

 一瞬心臓が止まりそうになった。けどすぐさま浮かれた。


 みゆたんだ。きっと未優が来てくれた。

 一人でかわいそうなアテクシを見かねて。ツンデレだ。


 あたしはぱっと顔を上げて振り向く。

 まつげのパッチリした目と目があった。女子だけど未優じゃなかった。誰だ。


 彼女はあたしの勢いに驚いたのか、一瞬ぎょっとした顔をした。それから手を上げて、指をピストルの形みたいにした。

 

「う、うぃっす~」


 変なあいさつ。笑顔もなんかぎこちない。

 日にあたった髪の毛はキラキラだった。サイドテールっぽく結んでいる。

   

「あのさ、けっこう目立ってるよね」

 

 あたしのことらしい。

 そういう自分もずいぶん派手派手しい見た目だ。

 胸元は緩め。袖まくり。スカート短め。茶髪。

 あたしの基準でいうと不良だ。


 あ、ヤバい。

 これヤンキーマンガで見たことある。お前調子くれてんじゃねえぞってやつ。体育倉庫の裏とか屋上とかでシメられるやつ。


「えっと、屋上……すか?」

「今日は一人で食べてるんだ?」

「はあ」


 シメに来たわけじゃないのか。

 じゃあなんなんだ、めんどくさい。


「あの~……いっつも一緒にいる子さ。ケンカでもしたの?」

「だったらなに? 関係ないでしょ」


 図星をつかれてつい喧嘩腰になってしまった。

 でもこれケンカとかそういう程度の低いことじゃなくてNTRだから。


「……なんか用?」


 あたしは低い声できいた。

 こうなったらバイオレンス路線で行くのもありだ。

 今のあたしはヤンキーマンガの主人公ばりに尖っている。キレたナイフである。

 

「あ、えっと……」

 

 目が合うと、ギャルっぽい女子は視線を泳がせた。

 未優からもあたしには目力があると言われている。じっと見つめると相手はたいてい目をそらす。

 彼女はうつむきがちに言った。  


「あ、あのさ。メカコ、おもしろいよね……」

「それな」


 何を言い出すかと思ったら、あたしが授業中に取り上げられそうになったマンガだ。

 気分が落ちていたためあえてギャグマンガを選んだ。でもギャグは授業中に読むのはやめたほうがいいと学習した。


「アタシも、マンガ好きでさー」

  

 この女、意外に話せるらしい。

 不覚にもマンガトークで盛り上がってしまう。


「えー語れる人いてうれしー」

 

 彼女、京野瑠佳きょうのるかはクラスメイトだった。

 見た目にそぐわずマンガめっちゃ詳しい。お姉ちゃんがマンガを描いていて、自分で同人誌作ったりして、出版社に持ち込みとかもしていて、その影響なんだと。


「前から、話してみたいなって思ってたんだけど。なんか、いっつも隣で怖い顔してるじゃん? 話しかけたらまずいのかな―って」


 いつも隣で怖い顔している、というのは未優のことらしい。そうなの?

 デフォで怖い顔というか表情が読めない子ではあるけど、そんな周りに圧を発してるなんてことはないでしょう。

 

「全然そんなことないよ。あたしとか来るもの拒まずだから。もうどんどん来て」

「あ、ほんとー? 私さ、このクラスに友だちいなくてさ。お昼とか、いっつも他のクラス行ってるんだけど、毎回だと悪いかなって思ってて」

「このクラスに友達いないってことないでしょ。だってあたしたちもう、トモダチ、じゃん?」

 

 初めてしゃべってから十分ぐらいでトモダチ、って言ってくるやつどう思う?

 あたしなら、う〜ん、もうちょっと考えます。

 って感じだけど、瑠佳はぱあっと笑顔になった。


「ほんと? うれしい!」


 ぐあっ、眩しい。

(暗黒微笑)とかやって悦にいってそうな誰かさんとは人種が違う。


「アタシんちさ、マンガいっぱいあるから、よかったら今度遊びに来る?」

「うん、いくいくー」


 スーパー美少女みさきちゃんはちょろかった。お菓子あげるから遊ぼうよで変なオジサンにもついていっちゃいそうで我ながら将来が心配だ。


 その後瑠佳とご飯を食べて、なんとかぼっち飯は回避した。

 結局未優のとこにはいかなかったし、向こうからも来なかった。別に一緒に食べる約束してるわけでもないし、未優だって他の子と食べてたし⋯⋯そこはお互い様でしょ。


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