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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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なにに起こされるでもなく、わたしの目は覚めた。

 カーテンから漏れた光が天井の影に差し込んでいる。吸い込んだ空気からは、少し甘いシャンプーの香りがする。


 いつもは寝付きが悪くて、寝覚めもよくないのに。

 今日はぐっすりだった。目覚めも自然だった。幸せな気分だった。


「おはよ」


 天使が上からわたしを見つめていた。

 どうりで変だと思った。

 わたしは起きたんじゃなくて、天国にやってきたんだ。

 なんだ、わたしは死んだのか。ついに。とうとう。


「未優? どしたの、ぼーっとして」

 

 天使に頭を撫でられた。

 心地いい。気持ちいい。もっとしてほしい。

  

 その感触で、急に思い出した。寝ぼけていた頭が冴えてきた。

 そうだ、昨日はみさきの家に泊まったんだった。

 一緒のベッドで。体をくっつけて。

 

 夢みたいだったけど、夢じゃない。たぶん。

 もし夢だとしたら、また眠れば続きを見られるかもしれない。わたしは目を閉じた。

 

「はいすぐ二度寝しない」


 おでこをつつかれて、わたしは目を開けた。

 ちょっとだけ唇をとがらせてみる。


「はいふてくされない」


 ちがう。

 キスしてアピールだったんだけど通じてない。空気読めてないみさきに逆戻りしてる。まるで魔法が解けたみたいに。

 どうやらもう完全に夢から覚めてしまったらしい。現実は無情なり。


「ほらいい子だから起きましょうね~」


 ほっぺたを指でぺたぺたしてくる。

 朝弱いくせに。いつもは自分が寝坊するくせに。生意気な。


 指に噛みつこうとすると、さっと手を引っ込められた。

 みさきは「きゃあ食われる逃げろ~」とかいって寝室から出ていった。


 二度寝する気分にもなれず、わたしはのそのそとベッドから這い出る。最低でも、あと三十分ぐらいはふたりでぬくぬくしてたかったのに。


 頭なでなでもすぐ終わり。寝起きイチャイチャもなし。それどころかいきなりおふざけモード。

 もう、なんもわかってないんだから。




 

 リビングへ行ってテーブルにつくと、みさきがトーストと目玉焼きを乗せたプレートを持ってきた。ウインナーも乗ってる。


「さあ、たーんとおあがり」

 

 みさきが得意げな顔で飲み物をグラスに注ぐ。

 わたしが寝てるうちに起きて、用意してたみたいだ。


 でもわたしは朝からそんなに食べない。ほとんどトーストだけかじって終わり。

 みさきはお皿に残ったものをぺろりと平らげると、手で伸びをしながら立ち上がった。窓から外をのぞきながら言う。


「今日は天気もいいし、外で体動かしたいなぁ」


 こっちは外で運動なんて気分じゃない。せっかく休みで、二人きりなのに。

 みさきはわたしを振り返るなり、朗らかな笑顔を向けてきた。


「未優、公園でキャッチボールしようぜ!」


 野球やろうぜみたいなノリで言うのやめてほしい。

 キャッチボールなんて数えるほどしかやったことないし、好きでもなんでもない。


「やだ。家でゴロゴロしたい」

「ごろごろ~? 太るよ?」


 べつに太ってるわけじゃない。標準。それも胸のせいでかさ増しされてるだけ。

 わたしはべつの提案をする。


「じゃあうちで映画見ようよ。前にみさきが超怖いって言ってたやつ」

「やだやだやだキャッチボールぅ~~」


 地団駄をふんでごねはじめた。子供か。


「誰かいないかな~。あ、それこそ瑠佳とか呼んじゃう? 電話してみよっかな」

「もう、わかったから! 電話しなくていいよ」

「え? いいの?」


 べつにいいけどさ。昨日の夜は優しくしてくれたから、たまには。

 けど休日の朝からキャッチボールするJKとか、どうなのって。

  

 



 やたらごきげんなみさきと一緒に近くの公園まで出てきた。

 ベンチと砂場と、すべり台つきの変なアスレチックがあるだけの公園。


 近所のおじいちゃんがベンチに座っているぐらいで、閑散としてる。

 奥の芝生広場は文字通り芝生だけでなんにもない。誰もいなかった。

 

「じゃあこれ、はい」

  

 みさきがボールを手渡してきた。一丁前にグローブまである。

 こっちのほうが取りやすいよって言うけどくちゃい。はめたくない。


「さあ、どんとこい!」

 

 距離を取ったみさきが手を上げる。

 わたしはグローブを地面に放ると、ボールを振りかぶって、投げた。 

 球はみさきまで届かずに芝の上に落ちた。斜め前にゴロゴロ転がっていく。


「はいショートゴロ!」


 みさきが何事か叫びながら身をかがめ、ボールをすくう。

 くるっと身を翻しながら、球を投げ返してきた。わたしは飛んできたボールをよけた。


「ちょっとぉ! なんでよけんの!」


 みさきがわめきながら走ってボールを追った。

 拾った球をグローブの中で転がしながら戻ってくる。

 

「キャッチボールの意味わかる? お互いボール投げて、取るの」

「わかってるよ」

「わかっててそれ~? どういうこと?」


 わたしにボールを押し付けたみさきは、また距離を取った。 


「ここだよここ! ここ!」


 自分のグローブをパンパン叩く。

 なんかバカにされてるみたいだ。わたしはみさきの顔にぶつける勢いでボールを投げる。

 

 球はふわっと放物線を描いた。

 わたしが頭で描いた絵とは違って、ゆるーく飛ぶ。


 みさきは落下地点の下で軽く前かがみになった。ボールはみさきが背中の上に構えたグローブの中に落ちた。わたしは小さく拍手をする。


「え、すごーい」

「すごいっしょ?」

「つぎは目つぶってやって」

「うん、それは無理だね」


 どうせわたしが取れないと思ったのか、みさきはボールをわたしの足元に転がるように投げてきた。ボールはわたしのスニーカーの先でちょうど止まった。


「ナイスアプローチ!」


 親指を立ててなんか言ってる。ゴルフ? かわかんないけどたぶんそういうノリ。

 わたしはボールを拾うと、ななめ奥の草むらに向かって投げた。


「ちょおー! どこ投げてんのー!」


 みさきは大きな声を上げながらボールを追いかけていく。ぶつくさ言いながらも、律儀にボールを手に戻ってきた。

   

「なんかみさき、犬みたいだね」

「なんだと」

「ちゃんとご主人様のところに持ってきてえらい」


 頭をなでてやると、みさきはうれしそうに目を細めた。

 わたしは手のひらを上向けて差し出す。


「はい、お手」

「わん」

「おすわり」

「わんわん」


 みさきはわたしの手を握って、その場にしゃがんだ。

 キラキラした目で上目遣いをする。かわいい。

 本当に犬の頭を撫でるみたいに、頭をわしゃわしゃしてやる。


「おーよしよし、ちゃんと命令聞けていい子だねぇ」

「くぅんくぅん~……って誰がペット犬じゃ!」


 みさきはわたしの手を振り払って立ち上がった。

 従順な犬顔を不敵な笑みに変えてくる。

 

「ふっ、せいぜい飼い犬に手を噛まれないように気をつけなよ」

「噛みたいなら噛んでいいよ」


 わたしはためらいなくみさきの前に手を差し出す。

 どんなふうにするのか、どんな顔でするのか見てみたい。


 みさきはわたしの手を見て、目を見て、くっ……みたいな顔で後ずさる。逃げるようにしてキャッチボールの距離に戻った。

 やらないらしい。口だけすぎる。 



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