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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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「どーお? おいし?」

 

 あたしはテーブルの席につく未優に向かって、かわいらしく首をかしげた。

 どこぞのコンカフェ嬢ばりの神対応だ。制服の上にエプロンというオプション付き。

 これらはお客様もとい未優様の命令⋯⋯いやご要望である。


「うん、ちゃんと焼けてる」


 未優が食べながらうなずく。

 未優の用意したハンバーグはあたしが焼いてあげた。箸で切れるぐらいの柔らか具合に仕上がった。


 普段はめんどいから料理しないだけで、できないわけではない。

 スーパー美少女にだいたい不可能はない。がっつり未優に横で見張られてたけど。


「誰か! シェフを呼べ! お客様の中にシェフはいませんか!」

「それいろいろ混じってない?」

「ごめんねぇ、みゆちゃんはお腹へってぐぅぐぅなっちゃったんだもんねぇ」

「うるさい」


 さっと未優の頬が赤くなる。

 さっき盛大にお腹が鳴ったのが、よほど恥ずかしかったらしい。


「ねえ、一口ちょうだい?」


 あたしが言うと、未優は無言で箸を差し出してくる。


「いやいやあーんに決まってるでしょ」

「みさきはお腹いっぱいでしょ? 瑠佳ちゃんと食べてきて」


 チクリ。

 もしかしてまだ根に持ってらっしゃる?


「未優……」

「……なに?」

「嫉妬してる未優もかわいいよ」


 未優は箸を止めた。 

 じろりと睨んでくる。

 

「違うでしょ。一番かわいいのはみさきでしょ?」

「は、はい?」

「みさきは一番かわいくて、みんなの人気者なの。で、そのみさきが一番好きなのが、わたし」


 あいつに勝ったお前に勝った俺が最強みたいなそういうノリかな。

 つまり未優は最強になりたかったのか。戦闘民族だったのか。

 

「未優……おまえがナンバーワンだ」

「ふふん」


 得意げに鼻を鳴らす。

 なんかわかんないけど機嫌損ねないように上げとこ。

 

 あたしは未優が食事をするさまをじっと眺める。箸の使い方一つとっても、いちいち所作がきれいで惚れ惚れする。あたしとは大違いだ。

 

 しかしなんだ。それにしても、あれだ。

 ⋯⋯食事をしているだけでなんかエロく感じる。

 つい未優の口元に。唇に目がいって、離せなくなる。

 

「……なに?」


 気づけば警戒するような未優の目があたしを見ていた。


「さっきからジロジロ見て……」

「な、なんでもないですよ?」


 とっさにごまかす。

 さっきの続きがしたいです!

 なんて、いい出せそうな雰囲気ではない。もうそういう感じじゃない。


 それにしても。

 人をいじめるのが好きとか、ひねくれたこと言っちゃう。

 どうしてこんなふうに育ってしまったのか。

 

 未優はあんまり自分のこと、過去のことを話したがらない。あたしと知り合う以前に、もしくは見ていないところで何か人格を揺るがすような出来事があったのかもしれないが。


 未優にはきっと愛が足りない。

 未優の母様はド美人であたしにはめっちゃ優しくて、もううちのママンと代わって? ってレベルだけど、未優には厳しい。というか冷たい? そういうとこなんか未優と似てる。

 

 なのでかわりにあたしが愛を注いで、彼女を更生させる。

 もしかしてあたしがスーパー美少女になってある日突然目覚めたのも、みんなに愛を振りまくという使命を神から与えられたからかもしれないのだ。

 急に悟りを開いたあたしは、にっこり未優に笑いかけた。


「未優、愛してるよ」

「ぶふっ……!」


 未優は口に含みかけたグラスの水を吹き出した。


「……急になに?」

「愛だよ愛」


 未優はテーブルふきで水滴を拭きながら、顔を赤くする。

 はいはい照れてる照れてる。やっぱ足りてないね。愛が。

 

「またどうせ口だけでしょ」


 悲しいかな、口だけ野郎と思われている。

 あたしは立ち上がって、椅子に座る未優の背後に回り込んだ。未優の視線が首ごと回って追ってくる。


「前向いてて? 前」


 そうやって疑いの目でガン見されるとめっちゃやりにくいから。

 未優が前を向くと、あたしは後ろから未優の首元に腕を差し込んだ。優しく抱きしめる。


 バックハグってやつだ。

 よく少女漫画で見るやーつ。ていうか見たばっかのやーつ。

 

「それで?」


 未優が語尾上がり気味に言った。

 からの? を期待されてる。


 いや、別にないんですけど。思いつきの見切り発車ですから。

 困ったあたしは、とりあえず顎を未優の頭にのせてみる。


「重い」


 チョークスリーパーをかけてみる。

 

「やめて」


 おっぱいを頭にのせてみる。

 

「……なにやってるの?」 


 じゃれあいに未優が乗り気じゃないので引き下がることにした。

 

「待って。そのまま」


 未優はあたしの両手を引っ張って、自分の胸の前でぎゅっと握った。

 四つの手が一箇所に集まる構図になる。

 

 あっ……なんかエモい。

 百合百合な作品のイラストとか表紙に使えそう。


 未優さん急にどういう風の吹き回しか。

 もしやあたしのイチャつきたいアピールが時間差で通じたか。


「そうだ、明日休みだし、久しぶりにどこか出かけようか?」


 そしてまさかのデートのお誘い。

 

「いいねいいね! どこでもいいよ! どこまででも!」

「そしたら明日、そのままみさきの家にお泊りしようかな? 久しぶりに」


 ……え? 

 じゃなくてエッッッ……!


 お泊りって、満を持して改めて……ってこと?

 やだ未優ったら大胆。

 明日はかわいらしいお洋服で、さらにえっちな下着とかつけてきちゃったり。


 しかし明日か。明日とはまたこれ急な話……。

 ん? 明日?

 

「あ」

「なに?」


 ⋯⋯やばい。

 やばいじゃなくてヤヴァい。


「えっと……言ったら怒る?」

「怒る」

「じゃあ言うのやめときます」

「いいよ言ってみて、怒らないかもしれないから」


 なにそのわずかな可能性に賭けさせるやつ。

 こういうとき普通「怒らないから言って」って言うでしょ。絶対キレるやつでしょそれ。

 

 あたしはヒロインを落とすときの少女漫画イケメンのように、背後から顔を寄せて耳元でささやく。


「……あのね? あした……瑠佳と遊ぶ約束しちゃった」

 

 ヒロインはかああっと擬音付きで顔を赤らめてうつむく。

 などということはなく。


「……は?」

 

 ぐりんと顔を上げると、目玉を刺し貫いてきそうな鋭い視線を向けてきた。


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