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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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「じゃあ、ハグして? 仲直りのハグ」


 わたしはみさきに向かってゆっくり両腕を広げた。

 不敵な笑みを浮かべて。余裕たっぷりの目で。


 でも内心ドキドキだった。

 別にわたしだって、慣れてるわけじゃない。誰かと抱き合ったことなんてないし、恋愛的な経験値で言ったらみさきと変わらない。

 

 みさきは一歩前に出ると、おずおずと腕を伸ばしてきた。

 わたしの腕の下に手を差し込んで、一度固まる。目で「いいの?」と聞いてくる。あえてなにも答えないでいると、みさきはゆっくり手をすべりこませてきた。


 背中にみさきの腕が届く。

 距離が縮まって、彼女の赤らんだ顔が目と鼻の先にくる。


 鼻の位置がわたしより少しだけ高い。鼻そのものが高い。

 そのくせ小鼻は小さい。鼻ごとわたしと取り替えてほしい。


 わたしは両腕をだらんと下ろした。

 みさきに主導権を与えた……とかではなく、ただの意地悪。

 ノーリアクション女に対して、みさきがどうするのか。試す。


 みさきは案の定困った顔をした。

 形だけは抱きしめる格好になったけど、腰が引けてる。これであってるの? これからどうしたらいいの? っていう焦りが伝わってくる。


 耐えきれずに頬が緩んでしまった。

 普通に笑っちゃった。みさきの困ってる顔を見て喜んでる。

 だって面白いんだもん。かわいい。

 

 なにか勘違いしたのか、みさきもふっと頬を緩めた。

 わたしが笑ったから、安心したのかもしれない。急にみさきの腕に力が込められて、体が密着する。

  

 ……え?

 なにこれ、すごい。

 胸の奥がきゅうってする。なんだかまるで、心臓ごと抱きしめられてるみたい。


 柔らかい。あったかい。いいにおい。

 お互いの胸同士が圧迫されて、潰れる感触がする。


 これ、やばい。ちょんってキスされるより、はるかに危険。

 体の芯から幸せが押し寄せてくる。頭がふわふわになっていく。後のこととか先のこととか、どうだってよくなってくる。

 服越しなのにこれって、もし裸で抱き合ったらどうなっちゃうんだろう。

  

「未優?」


 名前を呼ばれて、はっと我に返った。

 わたしいま、飛びかけてた? もしかして変な顔してた?

 慌てて強気な顔を作って、効いてないアピールをする。


「なに?」

「ど、どうかな? 仲直りいける?」

「うん、全然ダメ」


 全然ダメになる。わたしが。


「だ、だめ?」

「ダメダメのダメ」

 

 ハグはほんとに危ない。やめよう。

 そっぽを向いて突き放すと、みさきの腕の力が緩んだ。わたしはだらんと下げていた手を上げて、みさきの肩を押しかえした。


「じゃ、帰りま~す」


 おどけた口調で言って、身を翻す。

 正直どうしようか迷ってた。心臓のドキドキが収まらない。

 今日はもう、出直したほうがいいかなって。


「だめ! 帰さない!」


 叫びとともに体が背中にぶつかってきた。

 ぎくっと驚いて身がすくむ。背後から両腕ごと体に縛るように、乱暴に抱きしめられる。

 

「ち、ちょっとっ……!」


 慌てて身をよじる。

 けれど、ちょっとやそっとで離れそうにない。さっきより全然力が強い。

 

 胸がたわむほどに押さえつけられる。背中にもみさきの胸が当たってる。

 体がぎゅうっと締め上げられる。心臓がきゅうっと締め付けられる。


 かあっと顔が赤くなるのを感じる。きっと耳も首も赤くなってる。

 頭が一気に真っ白になっていく。その頭に近い位置でみさきの声が響く。


「だからごめんって謝ってるじゃん! 怒らないでよぉ!」

「わ、わかったから! 一回、離れて!」

「やだ! 許すって言うまで離れない!」

「ゆ、許すから! もう怒ってないから!」

「ほんと? 怒ってない?」

「逆にこれ以上やったら怒るよ!」


 そこまで言うと、やっとのことで体を開放された。

 いまのは本気で焦った。呼吸が荒ぶってる。


 当のみさきは「あはは⋯⋯」みたいな感じで恥ずかしそうに頭をかいている。

 いやあははじゃなくて。殺す気か。わたしの心臓がおかしな鼓動になってるのだが寿命縮んだのでは?


「一回ちょっと、座ろう? 座って落ち着こう?」


 わたしはみさきにソファに座るよう促す。

 とりあえず落ち着け。落ち着かせないと。わたしとしたことが取り乱した。


 けどなんか今のわたしが折れて、負けた感じ。

 みさきにこのわたしが負ける? いやいやご冗談を。後ろから不意打ちしてくるのは反則だから。


 どのみちこのままじゃ帰れない。

 やられた分はやり返すって、当たり前だよね?


 みさきはわたしの言う通りにソファに腰掛けた。ここは素直だ。

 わたしはその正面に立って言う。


「じゃあ、ちゃんと仲直りしようか?」


 みさきはうんうん、と大きく頷く。

 わたしはその顔に笑いかけて、片膝をソファに乗せた。足を開いて、もう片方の膝をついて、腰を下ろす。 

 

「ち、ちょっ、み、未優っ……?」


 わたしはみさきの膝の上にまたがっていた。

 とっさに立ち上がろうとしたみさきの肩を押して、前に体重をかける。太ももを太ももで挟んで動けなくする。

 驚いたみさきは、ぽかんと口をあけてわたしを見上げる。間抜けづら。


「あの……未優さん? どこに座ってるんです?」

「んふっ」

「いや、『んふっ』じゃなくて……」

 

 笑みが漏れてしまう。もう怒りなんてどこかにいっていた。

 それどころか、なんだろう。

 たのしい。うれしい。たのしい。

 体の血が騒ぐのを感じた。  


「お、重いよ未優……」

「誰が重いって? 口ごたえしない」

 

 わたしはみさきのほっぺをつまんで引っ張った。

 わりと強めに。手をのけたら怒られると思ったのか、みさきはぎゅっと目を閉じて耐える。


 それにしても、我ながらすごい体勢だ。

 みさきに足を開くな、なんて言っておいて、今のわたしははしたなく足を開いて、みさきの上にまたがっている。


「ん~痛い~?」

「いたぃぃ~……」


 みさきが涙目になりながら、わたしを見上げてくる。たまらなくかわいい。わたしは一度ほっぺたから手を離してやる。

 

「やっぱりまだ怒ってるじゃんみゆぅ……」

「ごめんごめん。でも昨日から変だったよね、わたしたち。おいで、ちゃんと仲直りしよ?」


 わたしはみさきの顔の前で手を広げてみせる。

 泣き出しそうだったみさきの顔に、喜びの色が浮かぶ。


 みさきは声もなくわたしの腰に手を回して、胸元に飛びついてきた。わたしは彼女の頭を受け止めて、ぎゅうっと抱えた。


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― 新着の感想 ―
仲直り可愛過ぎるううう!!
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