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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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 わたしはリビングの入口正面でみさきを出迎えた。

 じゃじゃーん、でこっちから出ていこうかと思ったけど、気恥ずかしくなってできなかった。部屋の扉を開けて、みさきが入ってくるのを待っていた。


「あれ? 未優、どうしたのエプロンで……」


 扉を開けたみさきは、わたしを見て不思議そうな顔をした。

 みさきが制服エプロンかわいいって言ってたから、なんて言えずに、わたしはうつむいた。

 でもすぐに顔を上げて、笑顔を作る。


「おかえり、遅かったね?」

「うん。さっき瑠佳とマック食べてきたから……」


 みさきの言葉が、一度するりと耳を通り抜けた。

 一瞬遅れて、その意味を理解する。浮かべていた笑みが固まって、張り付いた。


 みさきが友達と外でご飯食べてくるとか、わたしの知る限りでは今までにない。だからそんなこと、想定もしなかった。


「そうなんだ」


 相槌を打つと、わたしは回れ右をした。

 エプロンを脱いで、キッチン横の壁のフックにひっかける。

 ソファに置いてあったカバンを手に取りながら言う。


「ご飯作ったんだけど、今日は食べないよね。ハンバーグ冷蔵庫に入ってるから、一回冷凍しちゃったほうがいいかも。あ、食べないなら捨てていいよ。あとお米も炊いちゃったから、それも冷凍かな」


 すれ違いざまに言い終わると、わたしはそのまま入口に向かって歩き出した。


「未優!」


 すぐそばでみさきの声がした。

 無視して歩く。

 

「待ってよ未優!」


 うしろから二の腕を掴まれた。

 立ち止まって、振り返る。


「なに?」

「そ、その……ご、ごめん……」

「なんでみさきが謝るの?」

「だって未優、ご飯作って待っててくれたんだよね?」

「気にしないで。わたしが勝手にやったことだから。ごめんね、余計なことして」


 ふたたび歩きだす。腕が突っ張った。

 みさきはわたしの手首を握ったまま離さない。

 

「帰るから。手離して?」

「や、やだよ、未優怒ったままじゃ……」

「べつに怒ってないよ」

「怒ってるじゃん」


 わたしは意外に冷静だと思っていた。

 でも怒ってる、って決めつけられて、急に怒りがこみ上げてきた。わたしはみさきを睨み返していた。


「じゃあなんで怒らせるようなことするの? そうやって他の子と仲良くしたりして」


 あーあ。こんなこと言う気なかったのに、言っちゃった。

 みさきの目が泳ぐ。わたしはそれをじっと見つめる。


「いやそれはその、誘われて、断れなくて……」

「誘われたら何でもしちゃうんだ?」

「なんでもって……ちょっと一緒に、ご飯食べただけじゃん」

「でも今までそんなこと、したことないよね?」


 みさきは目線を落とした。すねるように口をとがらせる。

 

「未優が先に、今日ご飯作るって言ってくれてたら……」

「そうだよね。頼まれてもないのにわたしが勝手に作ったのが悪いよね」

「だから違くて!」


 みさきのもう片方の手がわたしの腕を掴んだ。この両手を離さないと帰れそうにない。


「あのさ、わたしのこと好きって言ったよね? それでなんで? 言ってることとやってることが違くない?」

「それは、したくてしたわけじゃなくて。向こうから来るから……」

「本当? それだけ?」

「そ、その⋯⋯ちょっと突き放してみて、未優の気を引こうとして⋯⋯」


 あっさり吐いた。

 なんとなくそんな予感はしていた。

 カっとなりかけた頭の熱もいくらか冷めてきた。けれどそんな、思いつきでできもしないことをやろうとする神経がわからない。


「で、でも未優だって、きのう似たようなことしたじゃん! あたしに!」

「それは悪いと思ってるけど。でもわたし、誰かとイチャイチャしてた? 寄り道した? 一緒にご飯食べた?」


 みさきはまた黙った。

 なるほど、昨日のやり返しってこと?

 いくらか腑に落ちた。でもやり返してくるとは思わなかった。


 呆れたけどそれに関してはわたしも人のこと言えない。今も悪かったと思ってる。

 だから平等にチャンスをあげることにした。


「で、最後はどうするつもりだったの?」

「え、えぇっと、そ、それは⋯⋯⋯⋯な、仲直りのチュー!」


 ⋯⋯。

 頭を抱えそうになる。

 言うに事欠いて仲直りのチューって。

 

 ⋯⋯あ。

 それわたしもやってたか。

 けど仲直りのチューとか、そういうおバカっぽい響きで言われるのはなんか違う。


「じゃあ、いいよ。仲直りのチューしてみて?」


 出来次第によっては考えを改めるかもしれない。

 ていうか、するならさっさとすればいいのに。わたしみたいに出会い頭にやるぐらいじゃないと。口論になってる時点ですでに失敗だと思う。

 

 わたしはみさきの手をほどくと、カバンを床に置いて、正面からみさきに向き直った。

 腕組みをして仁王立ちする。

 

「ほら、するなら早くして?」

「み、未優の顔が怖い……」


 誰の顔が金剛力士像だよ。

 まあ、門番みたいに正面から睨まれてたらやりづらいのは当然か。

 わたしは目を閉じてやる。顎をいくらかあげてやる。


 しばらくそのまま待てども、なにも起こらない。

 時間とともにイライラが募りはじめる。

 

 ここまでお膳立てしてあげたのに尻込みするなんて。これ男だったら救いようのないヘタレかも。よかったねみさきちゃん女の子で。


 やがて唇の先に、柔らかいものが触れて、離れた。

 目を開けると、みさきの不安そうな瞳がじっとわたしを見ていた。


「ご、ごめんね未優。許してくれる?」

 

 ずいぶん時間を取るからどんなものかと思ったら。

 おっかなびっくり、口先でちょんってしただけ。

 つたない。足りない。拍子抜け。


 でも、みさきからしてくれた。

 彼女の意思で。初めて。わたしに。キスを。


 なんか急に怒りがスって抜けた。

 ニヤけそうになるのを我慢して、真顔を作って、まっすぐみさきの顔を見つめかえした。まるで捨てられそうな子犬の目をしている。

 

 なんてかわいさ。愛くるしさ。

 もう許した。よくできましたって、頭を撫でて、抱きしめてあげたい。


 ⋯⋯え、ちょっと待って。

 もしかして、わたしって、ちょろすぎ?


 これで許しちゃうって、やばくない?

 ここで甘やかしたら増長する。それは教育上よくない。


「全然だめ。なに? 今の。やる気あるの?」


 わたしの口は頭とはまったくべつのことを口走っていた。

 みさきが慌てふためく。


「ち、違う違う! い、いまのは失敗だからもう一回!」

「もう一回とかないから」

 

 もうキスはダメ。次されたら間違いなくニヤける。


「じ、じゃあ逆に、どうしたら許してくれる?」


 みさきがすがるような目をする。 

 つまり許してくれるなら何でもしますってこと? 

 ふーん、いいじゃん。それ、いいね。

 なんて考えてることはおくびにも出さず、わたしは冷たい表情で、冷たい声で言った。


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初めてのチューきたあああああ!!
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