表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/40

2 NTRの気配

 あたしと未優は一緒にマンションを出て、路地を歩いた。

 あたしと未優は同級生で、同じ学校で、同じクラスだ。

 あたしと未優は同じぐらいの背丈で、体重で、おっぱいだ。


 あたしと未優はおっぱいだという意味ではない。同じぐらいの胸囲だ、と言いたかった。そして若干盛ったかもしれない。あたしのを。

 さらにほんとはあたしのほうがちょっと身長が高い。おそろにしたくて逆サバ読んだ。


 未優はあたしの家のマンションを出てからこのかた無言だった。

 一緒に登校はするけど、足並みをそろえる気はない。早足ですいすい先にいってしまう。


 けどこれが通常運転だ。 

 あたしは隣に追いついて声を掛ける。


「どうしたの未優そんな急いで。学校は逃げないよ」

「みさきのせいで遅れる。遅刻すると黒井がうるさい」


 黒井とは担任の中年男性教師だ。未優は黒井が苦手らしい。


「だいじょうぶだよ、『先生今日もイケオジですね☆』ってやれば」


 多少遅刻しようとも軽くいなせる。

 この人生舐めてるメスガキが。なんて言ってこない。

 ていうかそんな媚を売らなくても、べつに怒られはしない。

 

「そういうの、嫌い」


 未優はちら、と一瞬あたしを睨むようにしていった。おお怖い。

 未優はかわいいのに女の武器を使おうとしない。ブラウスのボタンを一番上まできちっと止める。スカートも長い。防御力高い。


「未優、なんか怒ってる?」

「怒ってないけど」

 

 と言いつつ不機嫌そう。

 この女、クール系⋯⋯いやダウナー系とでもいうのか、基本的に口数が少ない。表情の変化も少ない。


 そのため思考がいまいち読めないのだ。

 長いこと連れそっているにも関わらず。


 だからさっきのベッドでの行為が同一人物によって行われたものといわれても、どうもしっくりこない。

 未優が普段から「みさきたん超かわいい~~。もう超ちゅきちゅきいっぱいキスしちゃうぞっ」みたいなノリだったらまだわかるんだけど。

  

 ちなみに寝込みを襲われるのは、あたしが認識しているだけで二回目である。

 前回あたしは寝ぼけていた。あれは夢か何かだったのかと、確信がもてなかった。


 しかし今回は夢ではなかった。

 ただとっさに目を閉じてしまい、決定的瞬間を捉えたわけではない。


 唇の感触に近いもの……こんにゃくとかをほっぺたに押し当てられただけの可能性もある。未優はこんにゃく押し当て教の信者かもしれないし。


 あたしは歩きながら、こっそり未優の横顔を盗み見る。

 ややうつむきがちなおすまし顔。

 黒髪ふんわりショートボブが今日も似合ってる。


「なに……?」


 気づかれた。不審そうな目があたしを見る。

 しかしここで、「おめぇあたしが寝てる間にブチュってしたろ!」とは言いにくい。

 

 未優とはふだん恋愛トークというか、下ネタというか。

 いや下ネタではないけども、そういう性的な話はほとんどしない。

 

 だからキス、とかそういう単語を口にするのも憚れるっていうか……とにかくそういう感じじゃない。

 仮に聞いたとして、「したけど? それがどうかした?」って真顔で返されたらどうするって話。

 あたしはとっさに笑顔を作って返した。

  

「未優、今日もかわいいね」

「なにそれ、嫌味?」

「いやなんで?」


 このようにひねくれている。

 今日は何やらご機嫌斜めらしい。

  

「すきあり!」


 空気を和ませようと、あたしは未優の脇腹を指先で突いた。

 未優は無言であたしの手を払うと、さらに早足になった。ぷんぷん、と擬音が聞こえてきそうだ。


 今日は輪をかけて機嫌がよろしくないようだ。

 あたしはにこにこぷんで後を追った。


 


 ちょろっと電車に乗って、学校までは歩きだ。

 目的地が近づくにつれ、歩道に人の数が増えてくる。同じ制服の生徒たちでいっぱいになる。


 その中に紛れながら、あたしは未優のことを考えていた。

 未優は寝ているあたしによからぬことをしていること、あたしが気づいてないと思っている。

  

 まあその、寝てる間になんかされるのがどうしようもなく嫌でしょうがないとか、全然そういうわけじゃない。

 ただこのまま放っておくと、だんだんエスカレートしちゃうのかなとか。どうなっちゃうんだろうドキドキ。みたいな。

 

 ……いやいや待て待て。

 襲われるのが嫌じゃないとかドキドキとか、もうスーパー美少女じゃなくてスーパー変態女じゃん。


 そういうのはダメですよって、毅然とした態度を取らないと。

 にしても未優のやつ、いったいどういうつもりで……。ただのいたずらみたいなノリなのかね。

 

 それか、もしかしてあたしのこと……。

 いやいや、ないからね。普段そんな素振り全然。

 

 気づいたらあたしは学校のすぐ前の通りを一人で歩いていた。

 周りは知らない生徒ばかり。


 焦って未優の姿を探すと、あたしのずいぶん先を知らない女子と一緒に歩いていた。

 未優が他の子と話しているのを見ると、どうもそわそわする。男子に限らず女子でもだ。


 彼女は同じ制服の中にいても目を引く美少女であるからして、四方八方からスナイパーに狙われている。

 まだズギューンされてないのが不思議なくらいだ。

 

 未優はさんざん別の女とイチャコラ(あたしにはそう見える)したあと、校門を過ぎた脇で足を止めた。あたしを待って、声をかけてきた。

 

「みさき?」

「あんだよ」

「なんでいきなり不機嫌? これ」


 紙切れを渡された。なんかよくわかんないIDっぽいの書いてある。

 

「なにこれ」

「みさきに渡してって。よければメッセとかちょうだいだって」

「は? さっき話してた女?」

「ちがう、べつの男子。昨日渡されたの、忘れてた」


 かーっ。

 あたしは思わず天を仰ぐ。

 ああ、情けない。近ごろの男子というのは、直接本人に連絡先を渡すこともできないなんて。 


「言ってやって。そういうの自分で渡しなってね」

「みさき、話しかけづらいからね」

「あたしが? なんで?」

「男子は気が引けるんじゃない。みさきかわいいから」


 そうは言うけどあたしは未優ほどツンケンしていない。基本的には来るもの拒まずだ。

 一方で未優は話しかけるなオーラがすごいから、一緒にいるとあんまり話しかけられない。


「モテるよねみさき」

「まあ、スーパー美少女ですから?」

「すごーい」


 すごーい棒読み。つっこんでもらえないとあたしが滑ったみたくなる。

 そんなことないよ、とか言うと嫌味ですかと逆に悪く取られるので、あえて振り切っているのだ。スーパー美少女はそういう細かい思慮の上生み出した呼称である。


「みさきって、彼氏作ったりしないの」

「いやいや、ないない。あたしは男だったって言ってるでしょ」


 またなんか言ってるよこいつみたいな顔された。

 もはや呆れを通り越して憐れみにも近い。

 

 未優にはかつてあたしが男だったことを話したことがある。何回も。

 例によってまったくこれっぽっちも微塵たりとも信じてくれてないけど。


「ふぅん。じゃあ⋯⋯女の子が好きってこと?」

「ウッ、ウーン⋯⋯」

 

 それ、とても困る質問です。

 まあとりあえず現段階では、だ。

 男とどうこう、ってのは考えられない。


 しかしこれ系の話を未優から振ってくるなんて、珍しいこともあるもんだ。だからめちゃめちゃ答えにくい。


「ま、まあ俺はほら、ちょっとややこしいからおいといてさ。未優のほうこそ、どうなの。彼氏とか⋯⋯」

「⋯⋯はぁ」


 これみよがしにクソでかため息を吐かれた。

 あたしいまそんな呆れられるような発言した?


 質問を質問で返すなってことかもだけど、実際未優がそこんとこどうなのかっていうのは気になる。非常に。

 未優はあたしの顔を見ずに言った。


「あのね、わたし、彼氏できたから」

「⋯⋯ほ?」


 ボケたおじいちゃんみたいなリアクションになってしまった。

   

「⋯⋯今、なんておっしゃいま?」

「彼氏、できたの。だから、みさきといる時間が減る⋯⋯かも」

    

 未優は顔を上げることなく、うつむきながらいった。


 あれ、なんだろう。

 なんか急にNTRっていう文字が頭に浮かんできた。

 

 TSからのNTR。合体してNTRTS。

 わぁ、最新グラフィックボードみたい。かっちょいい。


「そ、そうなんだぁ。ははは知らなかったなぁ~……おめでとう~」


 いやもちろん未優と付き合ってたわけでも、告白して断られたわけでもないんだけど。

 もしかして未優ってあたしのこと⋯⋯とか、おかしな妄想をしていた数分前の自分を殴りたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ