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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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18 空気がピリッピリ

 お姉さまのかわいがりもそこそこに、あたしは教室に逃げ帰ってきた。

 未優の席に戻ると、瑠佳の姿はなかった。未優はひとりでスマホをポチポチしていた。あたしは未優にたずねる。


「あれ、瑠佳は?」

「なんか、スマホ持って出てった」

 

 友達の友達同士で残されて気まずいやーつ。

 それかあたしがいない間になんかあった? いや未優様の擬態は完璧だ。余計な波風を立てたりするわけないか。


「これ、あげるよ。いっぱいもらってきたから」


 あたしは腕に抱えた飲み物とお菓子を机の上に置く。チョコとかアメとかグミとか。

 これはお姉様集団にお触り料のかわりに渡された。

 未優がちら、と机の上を見て言う。


「なにそれ? 誰にもらったの?」

「やー、ちょっとお姉様がたにかわいがられちゃってね。あげるよって」

「へー。みさき人気者だねぇ」


 ちょい皮肉っぽい言い方。

 何やらお気に召さないご様子。


「やっぱりそうだよねぇ……」


 ため息交じりに言うと、未優は自分のスマホに目線を戻した。

 なにが? って思ったけど聞ける雰囲気ではない。

 さっきの未優様モードはどこへやら。まあこれがある意味平常運転ではあるのだが。 


「ほら、紅茶とかあるよ。未優飲んでいいよ」 

「いらない」

「なんで? いっつもこれ飲んでるじゃん」


 あたしはペットボトルを未優の手前に置く。

 未優は手に取るかわりに、視線だけこっちに向けてきた。

 

「誰だったの? さっきの男子」

「教室に来てた人? 昨日ちょっとあって」

「ちょっとって、なに?」


 間髪入れずにつっこまれて焦る。

 それ掘り下げられると思わなかったから。


 未優はあたしが運動部に入ったりするのには反対なのだ。無茶するし、見ててはらはらするからだという。それに関しては否定できない。

 正直に話したら、さらに険悪になること間違いなし。下着姿で泳いだなんて言ったら卒倒するかもしれない。ここはぼかす。


「向こうが思ったりよりしつこいっていうか、強引でさ」

「あんなのいつもはもっと軽くあしらうでしょ?」

「だって未優はかわいい子がいいんでしょ? 女の子っぽくしたんじゃん」

「そこは別にいいよ」


 注文が細かい。

 野郎には今まで通り接しろと? それだとなんか情緒不安定な人みたくない?

 にしても口調がとげとげしい。ここは一回甘いものを食べさせて落ち着かせよう。


「ほら、チョコレート食べなよ、ね?」

「いらない」

「なんで~……あたしもこんなに食べないし」

「戻ってきたらあの子にあげれば? 瑠佳ちゃんに」


 瑠佳ちゃん、と変に強調して言う。

 なるほどなるほど? これはやはり、そういうことか。

 

 あれあれ? もしかしてみゆたん、嫉妬してるのかにゃ~~?

 とここでおどけてからかう線もあったが、なんかそういう雰囲気ではない。

 

 空気がピリッピリだ。限界まで膨らんだ風船が宙に浮いているようだ。

 ふざけたらマジで洒落にならない状況になりそうだったので、ひとまず黙る。


「あ、みさきーん! ねえ、どうだったどうだった!?」


 しかしそんな空気すら読まない読めない女が、横から身を乗り出してきた。莉音は机の上のお菓子に目を留める。


「なにこれ? お菓子いっぱい。飲み物も」

「飲んでいいよ。食べていいよ」

「いいの? やったー」


 莉音は嬉々としてお菓子を口に運び始めた。

 続けてぐびぐびと飲み物を流し込むと、

 

「で、どうだった?」

「ど、どうだったってなにが?」

「高木先輩と吉岡先輩」


 教室まで来ていた二人のことを言っているようだ。

  

「え、なに? 莉音知り合いだったの?」

「べつに知り合いってわけじゃないけど……ふたりともすごいモテるらしいよ。人気なんだって」

 

 そのわりにずいぶんヘイトを買ってるみたいだったけど。

 けどまあ、いくらか経験と実績がないとあんな言動はできないか。

 

 みちゆく廊下でも女子の視線を感じた。

 ちらちらじろじろと。こっそり彼らを慕うヤンデレ女子とかに恨みを買ったりしなければいいけど。


「わざわざ教室まで来て声かけられるなんて、みさきんなにやったの?」

「いや、べつにそんなたいしたことは……」

「まあみさきんだったら見た目だけで釣れるかぁ」

「釣れるっていうな」

「それでこそ我が相棒にふさわしい」


 莉音はスマホを取り出して構えると、あたしに向けてくる。

 

「はいこっち見て~。笑って~」

「やめろやめろ、お前それ撮ってるだろ」

「いいじゃ~ん」


 莉音はスマホを手にぐるぐるとあたしの周りを回りだした。

 あたしは手を伸ばしてスマホを取り上げようとする。莉音が手をのけてくる。さらに追う。またカンフーバトルが始まる。

 わちゃわちゃしていると、その背後で未優が席をたった。


「未優? どこ行くの?」

「トイレ」

「あっ、じゃあ、あらひも……」


 あたしも、と言いかけて莉音にほっぺを引っ張られた。指をわしづかみにしてひっぺがす。

 そのうちに未優はふいっと身を翻して、教室を出ていってしまった。背中が「俺の後ろに立つな」と言っている気がした。追えない。

 

「やっぱりまだケンカしてない?」


 莉音がぼそっと言う。

 断じてケンカとかいう話ではないのだが、人に言われるとちょっとぎくっとする。

 

「いまの、お前のせいもあるぞ」

「なんで? はよう仲直りせい」

「さっき人がケンカしてるの面白いとか言ってなかった?」

「もうそういう感じじゃない。みゆみゆ怖い」


 サイコパスすら萎縮させてしまうみゆみゆの無言の圧。

 とはいっても、あたしはいつも通りにしているだけだ。むしろ未優の言う通りにかわいい女の子とやらを演じてすらいる。


 昨日いろいろ無茶した件が尾を引いている感はあるけど、もとをたどれば未優が急に「彼氏できた」とかって変な嘘をついたのが悪い。

 あれがなければ瑠佳とも仲良くなってなかっただろうし、先輩方にこうやって目をつけられることもなかっただろうし。


「自業自得なんだよね、そもそもがね」

「いいからはやく謝っちゃいなよ」

「いやいやあたしを悪人にするのやめてもらっていいですか」


 今日の未優の態度は少し目に余るものがある。

 ここであたしが必要以上にへりくだってヘコヘコするのはなんか違うだろう。 

 

 あのひねくれわがまま女は、あたしの好意をいいことに人を自分の思い通りにしようとしてるみたいだけど⋯⋯やはり本来好き同士なら、対等であるべきだ。

 

 そこんとこ少しばかり、教育が必要だ。

 ここはあえて、一度突き放してみるのもありかもしれない。


「わかるかな莉音ちゃん。物事には山と谷があってね、それを乗り越えることで人は成長するんだよ」

「そんな意味わかんないこと言ってないでさ、さっさと仲直りのチューしちゃいなよ」


 簡単に言ってくれるが、そもそもそれができたら苦労しない。

 さっき読んでた少女漫画のキスシーンですら「はぅっ⋯⋯」となってたぐらいだ。

 まずい、想像しただけで手汗出てきた。


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