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美少女にTSしてはや数年。高嶺の花だった幼馴染が脈ありらしいので落としにいったら逆に言いなりになってました。  作者: 荒三水


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12/40

12 チョロすぎ

「……みさき、おとなしく俺の女になれよ」


 ささやき声が耳を撫でる。

 ぞわりと、毛が逆立つような感覚がした。

 

 壁際に立たされたあたしの顔に影が落ちた。

 どこか遠くを見るような目をしていた瑠佳は、とつぜん頬を緩ませると、ぱっと両手を上げた。

 

「なーんつって! 見た見た!? 今の壁ドン! やるでしょ? ビビった?」  


 間抜けな顔をしていたであろうあたしは、ワンテンポ遅れて我に返った。慌てて笑顔を作る。

 

「な、なんだよビックリした~。なにしてくれてんのいきなり!」

「あはは、ごめんごめん」


 瑠佳は笑いながら両手を合わせた。元の明るいノリだ。

 けどほんとビビった。なんかいきなりスイッチ入ったみたくなったから。

 昨日の今日で、どこかの誰かさんの仲間かと思って焦った。

 

「マジじゃなくてマヂでビビったよ。急になにかと思ったよも~」

「んふふ、でも今いい顔したね? なになに? どうされると思った?」

「はいはいうるさいうるさい」


 迫ってくる顔を手で押しのける。

 急に恥ずかしくなってきた。焦って変な顔してたかもしれない。

 

「でもさー、さっきのみさきの顔、こっちがドキドキしたよ。もう本気で襲っちゃおうかなって」

「やーめーろっての」


 瑠佳が冗談っぽく笑う。 

 あたしはこれ以上はとりあわず、洗面台に向かう。瑠佳も隣で水を流し始めた。

 てか、ふざけるのは手洗ってからにしてくれないかね。

 

「みさきって、やっぱなんかいいよねー。それだけかわいいのに、ぜんぜん鼻にかけないっていうか。自然体っていうか」

 

 スーパー美少女のはずが、実はこれで普段あまり褒められることはない。

 それ以上にマイナス行動が目立つからか。外面はともかく内面を褒められるは本当に少ない。


 けどまあ、褒められるのは悪くない気分だ。

 てか中身褒められるのめっちゃうれP。もっと褒めて褒めて。


「かわいいし面白いし楽しいし優しいし~……」


 もう褒めまくりじゃないですかやだ~。

 内心浮かれて小躍りしそうになっていると、ふとあることが頭をよぎった。

 

 ――女の子は褒められるのが好き!

 

 はっ、この女、もしかして恋愛テクを駆使して……?

 これあたし騙されてんのか? チョロすぎか? 小手先の技術でいい気になってる?

 

 いやでも、瑠佳があたしにそんな恋愛テクなんて使ったとこでなんもないだろう。

 べつにイケメンを落としにかかってるとかそういうわけでもないし。


 手を洗ったあと水滴をぴっぴと払っていると、(ママンに見つかるとぶたれる未優に見られると呆れられる)瑠佳がハンカチを差し出してきた。


「ハンカチ持ってないの? 貸したげるよ」


 別に借りてまで拭かなくてもいいかなと思ったけど断るとそれはそれで変に思われる。

 受け取って手を拭いていると、瑠佳が手元をじっと見つめてきた。

 

「指きれいだね? ちょっと見せて見せて」


 顔を近づけてきて、あたしの指を品定めしている。

 未優にも似たようなことされたことある。なんか、女の人って指というか手フェチ? 多いらしいけど。


「うわ、手すべすべ~」


 見るだけかと思いきやべたべた触られる。

 指を口に入れられそうな距離で品定めされた。なんか気まずい。




 トイレからの帰り道もおしゃべりは止まらない。

 未優とだとお互い無言になることがよくあるんだけど、瑠佳とはならない。


 沈黙になりかけると、瑠佳は話し出す。

 沈黙が嫌なのかな? とかそんなことを考えていると、前からこちらに向かってくる男子生徒が目に入った。

 

 何事かふざけながら、一人を追いかけてもう一人が走ってくる。

 瑠佳はあたしの顔を見ながら、隣で夢中になってしゃべりながら歩いている。


 男子が近づいているのに気づいていない。下手するとぶつかるかも。

 あたしは瑠佳の腕を取って、自分の側に引き寄せた。


「危ないよ」

「へっ……?」


 いきなり腕を取られて驚いたのか、瑠佳は足をもつれさせてバランスを崩した。

 前のめりになった瑠佳の体を、あたしは支えるように抱きかかえる。


「っと」 


 あ、おっぱいやわらか。いい匂い。

 瑠佳は慌てて上体を起こして、顔を上げた。


「ご、ごめんっ……」

「気をつけなよ瑠佳」

「あ、ありがと……」


 おっぱいやわらけーなんて考えていたことはおくびにもださず、あたしはイケメンスマイルを向ける。

 瑠佳は顔を赤くしてあたしを見つめかえすと、目をそらしてうつむいた。


 はいいのだけど、なぜかがっつり手を握られている。

 たぶんさっきの拍子に……なんだろうけど、一向に離してもらえる気配がない。


「あの、手……」

「えっ、あ! ご、ごめんっ」


 瑠佳が焦りながら手を離す。

 なんかこの子、思ったよりドジっ子?


 それきり瑠佳が黙って、はじめて沈黙になった。

 未優とだとそうでもないんだけど、たしかにちょっと気まずい。


「どしたの急に黙っちゃって。もしかしてあたしに惚れたか瑠佳~?」

 

 あたしはわざとおどけてみせる。

 はっと顔を上げた瑠佳は、あたしを見てはにかんだ。

 

「えへへ、惚れたかもー」

「惚れたんかい。チョロすぎか」

「だってみさきってちょーかわいいのにさ。なんか男の子っぽい感じがあっていいよね。ギャップっていうか」


 男の子っぽい感じがあっていい……? 

 録音して未優に聞かせてあげたいんだが?

 

「よくぞ見抜いた。ここだけの話、あたしって実はもと男なんだよね」

「なにそれ、ウケる。じゃあさ、付き合ってって言ったら、彼氏になってくれるの?」


 期待を込めた眼差し。

 軽く笑って流されると思ってたけど、まさかそんな返しをされるとは。


「えいっ」


 不意打ちに固まっていると、瑠佳がいきなりあたしの二の腕に腕を絡めてきた。

 体から体温が伝わってくる。腕に柔らかい感触が当たる。


「え、えっ? ちょっ……」

「うふ、色仕掛け。なんちゃって~~」


 これ同性だからいいものの、もしあたしが男だったら以下略。

 しかし女子に免疫のない女子というのもどうなんだ。


「あれあれ? みさきクン顔赤くなってな~い?」


 瑠佳はけらけらと笑いながらあたしの肩をぺしぺし叩いた。

 つい調子に乗って余計なことを言った。元男だなんだって、そういう発言はもはやからかわれるだけのネタにしかならない。




 

 教室に戻って瑠佳と別れた。

 自分の席についてスマホで漫画の続きを読もうとすると、メッセージが届いていることに気づく。

 相手は未優だった。


『仲良さそうだね? 新しくお友達できたのかな??』


 どうやら瑠佳と教室を出ていくところと戻ってくるところ、見られていたらしい。

 未優以外の誰かと二人で行動するのはあたしにしては珍しいことだ。けど入学してこのかた、未優ぐらいしかまともに友達がいないというのもちょっと問題だろう。


『そうそう瑠佳っていうのかわいいよね』

『へえ~~』 

『あとで未優にも紹介するよ』


 返信なし。なぜか既読スルーされた。

 えっと、未優さん? 何かお気に召さない感じです?

 

 

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