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第8話 サボり魔と不毛な集合体_3

 「えー、もうそんな時期?」 

 私は首を傾げつつ、プリントに羅列する文化祭の担当者一覧から自分の名前を探しだす。

 “展示物点検係(各クラス1名):加藤”。

 「何これ。何をする人?」

 「展示物を点検する人」食事が終わり手を合わせた唯が、調子よく答える。「詳しくは知らなーい。得体の知れない係だから、最後まで残ってた」

 「展示物が盗まれないように、眺めとくんじゃね? 一日中立ちっぱなしで」

 緩く巻いたチョコレート色の髪をかき上げながら、綾乃が足を組みかえて笑う。短いスカートから、日焼けした健康的な太ももが晒される。

 「勘弁してよ」

 「”残り物には福がある”、っていうじゃない」百合谷が苦し紛れの御託を並べつつ、ぎこちない笑みを浮かべる。「みんなが思っているよりも、充実した時間を送れる可能性も十分にあるわ」

 「”先んずれば人を制す”、とも言うけどね」唯が他人事だと割り切って、ケタケタと笑う。「実際の社会ではね、いいものが最初に取られちゃう可能性の方が高いと思うな。だからみんな祈るような気持ちで、”残り物には福がある”って口々に言うんだよ。現実は残酷だなあ」

 「まあ、出たとこ勝負だよ。何事も結果がすべて。頑張れよ」綾乃はスマホに目を落としたままに、私にエールを送る。

 私は今日何度めかのため息をつき、何度めかの髪をほどく動作を行った。真っ赤のシュシュで、カールする髪を再度きつく結ぶ。

 欠席者に拒否権がないのをいいことに、不明瞭で面倒な係を押し付けられてしまった。けれど反論するには、明瞭に分が悪い。だって係決めをしたその日、私はオペラ座の怪人を観劇するために学校をサボった。そしてそれは、窮屈なこの教室に押し込められたクラスのみんなが知っていること。高校三年間、私は演劇鑑賞、つまりは自分の楽しさだけを追求して、それを隠す努力もしなかった。

 長所だと思っていた悠々自適な自分本位さに、私はそろそろ首を絞められつつある。

 「係活動の初顔合わせは再来週よ。加藤ならきっと出来ると思う。応援しているわ」

 美人で姿勢のいい百合谷が、柔らかいな声音でそう告げる。

 名簿に目を落として微笑む百合谷は、生徒会の役員として文化祭を運営する。チョコレート菓子を食べ進める綾乃と手鏡で前髪を直し始めた唯は、稼働時間が短く楽そうな係を、一緒にちゃっかり選んでいる。

 「サボるなって、いつも言ってるだろ。罰が当たったんだよ」綾乃が高らかに笑う。

 今度現代文を解くコツを聞かれても、綾乃には絶対に教えてあげない。

友人たちとのちょっとしたいざこざも、全部引っくるめて在りし青春。

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