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第6話 サボり魔と不毛な集合体

 午前中の授業が終わり、安っぽいチャイムがやる気なく鳴り響いた。

 昼休みになれば、弛緩した女子校の教室には品のない笑い声が響く。

 百合谷たちと4人で机をくっつけ、総菜のにおいとともに無駄話に興じること小一時間。久しぶりに食べる学食の日替わりランチは、当たりだった。甘酢のきいたチキン南蛮にフォークを入れる。

 隣に座る唯が、ケチャップまみれのオムライスを頬張る。スマホで彼氏とメッセージをやり取りしながら、彼女は屈託のない笑みを私に向ける。

 「加藤ちゃんってさ、家でたくさん勉強してるのー?」

 「そんなにはしてない」

 「ふーん」

 気の置けない友人のあどけない目元にほんの少しだけ、純真とは言い難い好奇心が滲んでいることに、気づいてしまった。面倒だから、指摘はしない。

 「それからさ、加藤ちゃん。先月の現代文のテスト、さとみちゃんのところに取りに行った?」

 海外旅行と遊園地とブランドバッグが好きなうら若い国語教師を、唯は親しい友達のように名前で呼びながら、定期テストの話題を振る。

 「まだ」チキンをほおばりながら、私は首を横に振る。

 「一番は誰だったと思う?」

 「百合谷?」

 大学進学を目指す私たちのクラスで、五教科の平均点が一番高い百合谷に視線を送る。清楚で落ち着いた美人かつ秀才の百合谷は、「私は現代文は二番だったの」と穏やかな笑みで答える。

 「一番はね、加藤ちゃんだって! すごいね! 一番!」

 学食を食べる唯がフォークを片手に、指揮者のような大きな身振りで事実を強調する。

 「たまたまだよ」私はもう一度儀式のように、大きく首を横に振る。

 「謙遜すんなよ」隣に座る綾乃が、茶髪のパーマのかかったロングヘアをかき上げ、笑顔で私の肩を小突く。

 「成績がいいのは国語だけだよ。芝居ばっかり見てるから、ほんとに国語だけ。公式や単語の暗記が必要な他の教科は全然ダメ。そういうのが得意なみんなの方が凄いと思う。心の底から羨ましいな」

 背伸びをして、鉄格子のような窓に縁どられた空に目を向ける。

 窓の向こうには、雲一つない晴れ渡った青空が広がっている。窓の内側では、クリーム色の蛍光灯が人工的に教室を照らしている。

 「『一番出席しない生徒が一番成績がいいなんて、他の先生たちに指導方法を馬鹿にされちゃう』って、さとみちゃん何度も言ってた。唯たちね、怒られちゃったんだよ」

 口を尖らせる唯の愚痴を聞きながら、教卓の近くに設置された時計に視線を送る。昼休みは、あと三十分以上も残っている。

 「えー、さとみちゃんひどいな。生徒の個人情報ばらすなんて最低。教師失格」

 私はどう穏便に次の話題に移行しようと考えつつ、なす術なく適当な相槌を打つ。

 「自分の教え方が下手だから、教え子たちの成績が下がっちゃうとか思わないのかなあ。自省しない姿勢はちょっと考えものだけど、自己保身と弁明を堂々と生徒に向かって言える姿勢は学ぶべきだね。自分は悪くないって大声で発表することは、楽しく生きていく上で絶対に大事」

 「何それ。お前の人生哲学?」舌足らずにだらだらと持論を語る唯に、綾乃を片眉を上げる。

 「うん! 唯も自己主張を頑張って、さとみちゃんみたいにハッピーになる! 綾乃も一緒にはじめる?」

 「いやだ。面倒くさい」

 唯はなおも熱弁を続け、綾乃が呆れたように鼻で笑う。百合谷は愛想よく微笑んでいる。私も適当に、同化するように相槌を打つ。

 百合谷たちにばれないように、窓の向こうの遠くの青空に視線を向ける。

世間話。

楽しいこともあるけれど、

知らず知らずに負荷もかかる。

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