それぞれの迷い
放課後の音楽室に、Luminousの演奏が響いていた。
仁菜のギターが刻む力強いリズム、真義のベースが低音を支え、知佳のピアノが優雅に旋律を奏でる。信乃のドラムがそれらを引き締め、そして、礼奈の歌声がそのすべてを包み込むように響いていた。
だが、仁菜はずっと違和感を抱いていた。礼奈の歌声は相変わらず綺麗だったが、どこか気持ちが乗っていないように感じる。歌詞に込められた感情が薄れている気がした。
練習を終えた後、礼奈はいつも通り「お疲れ」と軽く手を振り、先に帰っていった。
「礼奈、なんか変じゃない?」
仁菜がぽつりと呟くと、真義が軽く肩をすくめた。
「まあ、なんとなくはね。でも、礼奈ってもともとそこまでバンドに熱心なわけじゃないし。」
「……でも、最初に誘ったのは私だし、無理させてるのかな。」
「それは礼奈にしか分からないんじゃない?」
真義の言葉に、仁菜は答えられなかった。
知佳が楽譜を片付けながら小さくため息をついた。
「…私も、最初は無理矢理バンドに引きずり込まれたって思ってたけど。」
「知佳?」
「でも、やっていくうちに、少しずつだけど…楽しくなってきた。礼奈もそうなるんじゃないかなって思うけど…どうだろ。」
知佳はまだバンド活動に本気で向き合っているわけではない。それでも、彼女の中には確かに何かが芽生え始めているのを、仁菜は感じていた。
「そう…だといいな。」
仁菜は少しだけ、ほっとしたように微笑んだ。
そのとき、信乃がスティックを回しながらぼそりと呟いた。
「礼奈って、なんか悩みでもあるんじゃね?」
全員が信乃を見つめた。
「…なんでそう思うの?」
「いや、別に。なんとなく。」
信乃はそれ以上は語らなかったが、その直感は間違っていない気がした。
仁菜の心に、礼奈への不安がさらに大きく膨らんでいく。
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次回、8話「すれ違う気持ち」
礼奈の本当の気持ちは? 仁菜の迷いはさらに深まる。
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