不安の波
次の練習の日、バンドメンバーが集まる前に、仁菜は少し早く到着していた。ギターを手に取ると、指先が軽やかに弦を滑らせ、音を奏で始める。その音色に、少しだけ心を落ち着けることができた。
「お、早いね。」
突然、聞き覚えのある声がして、仁菜は顔を上げた。振り返ると、礼奈が笑顔で立っていた。
「礼奈、早かったね!」
仁菜は明るく声をかけると、礼奈は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「いや、少し考え事してたからさ。」
礼奈はどこか遠くを見つめるように言った。仁菜はその言葉に少し驚き、礼奈の顔をじっと見つめた。
「考え事?」
「うん…なんか、バンドのこととか。」
礼奈は曖昧に言って、少し肩を落とした。
仁菜はその言葉に胸がざわつくのを感じた。礼奈が何を考えているのか、分からない。ただ、少し不安そうな表情が気になった。
「練習、頑張ろうね!みんなと一緒にやると楽しいし。」
仁菜は無理に明るく言った。礼奈は小さく頷き、ギターの音に合わせて軽く歌い出す。
その後、他のメンバーが次々と集まり、練習が始まった。真義がベースを弾きながら、リズムを取り、知佳はピアノの前に座り、静かに鍵盤に手を置いた。信乃はドラムを叩きながら、みんなの音に耳を傾ける。
「今日はどうだろう?」
仁菜が声をかけると、真義が答える。
「うん、リズムはいい感じ。少し音を合わせれば、もっとスムーズにいくよ。」
真義は自信を持って言った。その言葉に、仁菜は安心してギターを弾き始める。
「そうだね!じゃあ、ちょっとテンポを上げてみようか。」
仁菜は積極的に言って、リズムに合わせて演奏を続けた。
しかし、練習が進むにつれて、仁菜はだんだん不安を感じるようになった。礼奈の歌声が、どこか安定しないように感じたからだ。最初は気のせいだと思ったが、どうしても気になってしまう。
「礼奈、少しだけリズムに合わせて歌ってみようか?」
仁菜は軽く声をかけるが、礼奈は少し戸惑った様子を見せる。
「うん、分かったけど、うまくできるかな…?」
礼奈は不安そうに言うと、もう一度歌い始めた。
その声は確かに美しいが、リズムがまだうまく取れていないようだ。仁菜は少し焦りを感じた。
「大丈夫だよ、礼奈!もっとリラックスして!」
仁菜は声をかけてみたが、礼奈は何かを隠しているように見えた。
練習が終わり、みんなで少し休憩を取る時間になった。仁菜は礼奈が自分を避けているような気がして、胸が苦しくなる。
「礼奈、さっきの練習…うまくいった?」
仁菜は礼奈に声をかけるが、礼奈は少し驚いたように顔を上げた。
「え?うん…ちょっと焦ってしまったけど、気にしないで。」
礼奈は明るく言おうとしたが、仁菜はその表情がどこか不安そうだと感じた。
「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと疲れてたのかも。」
礼奈は笑顔を作って答えたが、その目はどこか虚ろだった。
仁菜はその答えに胸が締め付けられる思いがした。しかし、何も言うことができなかった。
その後、みんなでカフェに行くことにした。バンドメンバーの皆は和気あいあいと話していたが、仁菜はずっと礼奈の様子が気になっていた。
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その日の帰り道、仁菜はふと立ち止まり、空を見上げた。夕焼けが空を染め、心地よい風が吹いていた。
「どうして礼奈があんなに不安そうにしてるんだろう…」
仁菜は心の中でつぶやいた。その答えはまだ見つからないが、何かが心に引っかかっていた。
その時、信乃が静かに声をかけてきた。
「お前、礼奈のこと気にしてるみたいだな。」
仁菜は驚いて振り返ったが、信乃はいつも通り無表情だった。
「う、うん…なんか、最近少し変なんだ。」
仁菜は答えると、信乃は少し黙った後、言った。
「まあ、気になるなら直接聞いてみたらどうだ?」
「うーん、でも…」
「悩んでる暇があったら、動け。」
信乃は冷静に言うと、そのまま歩き出した。
仁菜はその言葉に少し驚き、そして心の中で何かが動き出すのを感じた。自分の気持ちをもっと大切にし、行動しなければならないと思った。
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次回に続く。
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