プロローグ
いつもは車が走る音が五月蠅い野猿街道が、ふっと全部が何処かへ連れ去られたように静かになってしまった。
いつもなら大学に行っている時間だったが、なんだか行く気が起きずに家の中で不貞寝していた僕は、異様に静かな雰囲気に違和感を感じ若干建付けの悪いドアを開けて外に出た。アパートの三階から見える景色には、いつも通りの町並みが見えた。ただ、何かがおかしい。人の気配がないのだ。この時間だからいつも騒がしい下の階の住人も大学に行っている。だから静かに感じてしまうのか、はたまた一人暮らしでさみしさが見せる幻覚のような何かなのだろうか。そんなことを呑気に考えながら、僕は取り敢えず、スマホを開いて友人に電話をしてみることにした。しかし、すぐに圏外の表示になっていることに気付く。これはおかしいぞ、ということで、駅に向かって歩くことにした。
僕の最寄り駅―といってもいつもなら自転車で登校しているのでめったに使うことはない―である聖蹟桜ヶ丘駅は、家から歩いて大体15分。その間、大通りをなるべく歩いたが誰も見つけることができなかった。駅に着いても電車の音はいつまでたっても聞こえないし、駅前で今の時間帯になると結構な人数が並んでいるマクドナルドも、人っ子一人、レジにすら誰もいなかった。僕は不安になった。 もしかしたらみんな消えてしまったのではないか?オカルトチックな話が好きなわけではない僕も、異常なこの状況を目にしてしまえばそうも思う。しかし、どうも信じられない僕は、この時「都会に行けば誰かいるのではないか」なんて考えていた。