被告、王子は「ほんの出来心で彼女を悪役令嬢と呼んだだけなんだ・・・」などと申しており
作者は「ほんの出来心で書いたんです・・・」などと供述しております。
()内はタダノ王子の心の声になります。
成人を迎えていない令息令嬢だけでなく、当主達や教会関係者達も参加している大規模な夕食会。
王宮の大広間で行われているこの会では、今一人の少年が少女に向かって指をさしていた。
指をさしているのはこの国の第一王子タダノ・ブランケン。
見目麗しく何でもそつなくこなすけれども、時々ポンコツになることで有名だった。
指をさされているのはその婚約者でシイノ公爵家令嬢オトナ・シイノ。
見た目も性格もおとなしく清楚なことで有名だった。
いつも王子を立てて傍に居る婚約者に対して指さしとか、こいつ一体何考えているの?
周囲の反応はそんな風にしらけていた。
「オトナよ! 君にふさわしい称号を思いついたのだ。ありがたく受け取るが良い」
(ふふふ、オトナめ、いきなりのことでびっくりしてもう可愛いなぁ)
そう、この王子、オトナのことが大好きで大好きで仕方が無かったのだ。
思春期の少年にありがちな、好きな女の子に構って貰うためにいたずらをする。
そんなことをすれば大抵嫌われるし、そもそも思春期はとうに過ぎているはずなのだが、今の王子はポンコツモードなので気づくことも無かった。
(ああ、オトナ・・・首を少し傾けて、可愛い・・・)
ポンコツモードではなく、もはや手遅れなのかもしれなかった。
「あの、タダノ殿下? それはどのようなものでしょうか?」
「良く聞いてくれた。それはな、『悪役令嬢』だ! ふだん「異議あり!!!」」
普段すました顔をしているのに行動するときは大胆・・・と王子が惚気を続ける前に、それを遮る大声が上がった。
時と場合によらなくとも王子の発言を部外者が遮るとか処分ものなのだが、処分を下す側の王子が発言を遮られたショックで固まっていたため、衛兵達も動くことが出来なかった。
「彼女にそのような称号は似合わない! 彼女にふさわしい称号は『聖女』だ!」
そういって周囲の人混みから出てきたのは、法衣を着た男だった。
彼はガルフ伯爵当主にして教会では司教位を冠していた。
「皆の者、聞いてくだされ! 彼女の聖女としてふさわしい活躍を!」
自分の言葉でテンションが上がったガルフ伯爵は両手を大きく掲げて話し始めた。
「半年前まで、この王都近くに呪われた神殿があったことはご存じであろう。半年前に我が教会の主力でもって浄化に成功したのだが、その時の立役者こそシイノ令嬢なのだ! しかし、彼女の意向から今まで隠していたのだが、名誉ある称号を決めるというのであれば、我々教会としてはそのことを公開しなければならないと判断しました」
「なんと!」「まぁ・・・」といった声が会場中から響き渡る。
半年前、確かに教会が浄化に成功したとの声明を出していた。
しかし、その中にシイノ令嬢の名前は無かった。
いやそもそも、どうして成人前の令嬢が? という疑問を持つ者も多い中、一人違うことを考えていた。
そう、今まで放置されていた王子である。
(え? 半年前というと、私が原因不明の呪いで苦しんでいたときでは・・・。確か教会が宣言を出す少し前に呪いが解けた・・・。あの時看病してくれていたオトナの姿、可愛かったなぁ・・・)
この王子、半年と少し前からしばらくの間、呪われていたのだった。それを理由に、あろうことか婚約者に付き添いの看病をさせていたのだった!
「彼女は教会の象徴でもある聖杖を手に、神殿の奥へと道を切り開いてくださったのです・・・」
「ちょっとまった!? 聖杖って、あの聖杖・・・?」
聞き捨てならない単語を聞いた王子は妄想から現実に戻り、思わず突っ込んでしまった。
そんな王子の突っ込みにガルフ伯爵は真剣な目でうなずき、
「ええ、あの聖杖です」
と肯定を返した。
教会には2つの象徴的な武器がある。そのうちの1つが聖杖。基本は普通の“?”字型の杖だが、その素材は鉄より堅く重たい黒魔鉄で出来ている上、穴部分に△状の大きな塊がねじこまれているため、控えめに言っても攻城槌にしか見えなかった。
使用できればとんでもない威力を出す上に聖気を纏っているため、教会としては無碍には出来ない。しかし見た目が余りにもあんまりなので、その事実を知っているのは極々一部のみとし、殆どの人は外向け用のレプリカとして飾られている普通の“?”型杖を本物だと思っている。
それを使った?
「彼女のおかげで我々は犠牲少なく奥へ進むことが出来ました。聖気を纏った聖杖の一振りで、スケルトンの群れは粉みじんとなり、グールの群れは浄化されて逝きました」
会場中の皆が、聖なる力を引き出して華麗に細い杖を振るシイノ令嬢の姿を思い浮かべてうっとりとる中、やはりこの王子は突っ込みを入れていた。
(それって、聖気関係なく物理的に粉みじんにしたのでは・・・?)
「しかし最奥まであと少し、というところで急に開けた場所が増え、そこには宙を舞うレイスの群れがいたのでした。聖属性の攻撃魔法も使えないことは無い、しかし数が多すぎてとても・・・、というところで再びシイノ令嬢が道を切り開いてくださったのです! 彼女の提案で我々は一旦教会へと戻り、教会に捧げられているもう一つの象徴、聖なるはたき棒を使用する決意をされたのです!」
会場中のどよめきが強くなる。「あの、汚れ無き心の持ち主しか触れないという・・・」みたいな声がちらほら上がる中、やはり聞き逃せない単語を聞いたこの男は突っ込みを挙げた。
「まて、ガルフ伯爵、聖なるはたき棒とはあれの事か・・・?」
「そうです、タダノ殿下。あの聖なるはたき棒でございます」
教会にある、もう一つの象徴。それが聖なるはたき棒。教会に飾られているのは、一部地域の『ミコ』という職業が持つ棒に白い紙を折った物が取り付けられている物だが、これも外向け用のレプリカ。実態は持ち手2m鎖4m球径50cmトゲ付き、というどう見ても言い訳できない極悪なモーニングスターだ。
これも黒魔鉄製のため非常に重たく、しかも聖杖以上に使い道が無いけれども強い聖気を纏っているため無碍にも出来ず、文字通りお蔵入りになっていた武器だ。
それを持ち出した、とガルフ伯爵は答えたのだった。
「シイノ令嬢は右手に聖杖、左手に聖なるはたき棒を持たれ、空飛ぶレイス達には聖なるはたき棒から繰り出される聖弾を、地を行くモノには聖杖から繰り出される聖撃を使い分けられ、こうして我々は多大なる犠牲を払うこと無く呪われた神殿を浄化することに成功したのです。故に我々教会としては、彼女への称号は『聖女』以外あり得ないと言わせて頂きます!」
教会武器の実態を知らない会場中の皆は感動の声を上げ、王子含む極々一部の人達は「いやそれ聖女というよりバーサー・・・ごほん、聖騎士とか戦乙女の方がまだ近いのでは・・・?」とか考えていた。
当のオトナは照れからか手を頬に添え、顔を赤らめていた。
しかし、この様な状況は直ぐに破られた。
「異議あり!!!」
先ほど聞いたフレーズを挙げて人混みから出てきたのは、逞しい肉体を持つ大柄の男、フルウ辺境伯だった。
「黙って聞いていれば『悪役令嬢』だの『聖女』だのと。シイノ令嬢に最もふさわしい称号は『戦乙女』だ!」
と叫ぶフルウ辺境伯。震える彼の筋肉。多くの人がどよめく中、先ほどの極々一部の人達は「そうそう」と突っ込みを入れようとして気づいた。いやあいつ、確か教会武器の実態知らされていないはずでは・・・? と。
混乱渦巻く会場の中、フルウ辺境伯の演説は続いた。
「つい三ヶ月前まで、我々は隣国と国境付近で激しい闘いをしていたのは皆ご存じだろう。互いに多くの者が負傷し、亡くなった・・・。その戦闘も、三ヶ月前に終わった。この段になってはもはや秘密のままにはしておけない。そう、その立役者こそそこにおられるシイノ令嬢なのだ!!!」
会場中のどよめきは一層強くなり、「まぁ!」とか「そんな!?」とかという声がちらほら挙がる中、やはりこの男は違うことを考えていた。
(三ヶ月前というと・・・私がオトナに「戦争って早く終わらないかな・・・」って呟いたときじゃないか・・・? あの時の心配そうな顔、可愛かったなぁ・・・)
この男、既に手遅れである。
「我々は最初、彼女の正気を疑った。多くの者も同じ状況なら疑うと思う。何故なら彼女は最前線に慰安のため向かいたい、と言ってきたのだ。我々は断固として反対し、話し合いの結果、妥協案として最前線近くの司令部で迎えることとなった。
しかし、約束の日時になっても彼女も馬車も何も見えない。いくら待っても現れない。これは臆病風にふかれたな? と我々が思い始めたときだった。・・・交戦中の戦場から、次々と悲鳴が上がり始めたのだった。我々が現場に着いたときには、殆どが終わっていた。そこに居るのは殺意に塗れ、恐怖に駆られ、血にまみれ、負傷を携える、そんな兵士しかいないはずだったのに、私たちが着いたときには穏やかな顔で、負傷の無い体で、彼女に傅く兵士達の姿だった。敵も味方も皆、彼女に傅いていた。
直ぐに事情を聞いた所、何と彼女は迷子になって戦場に来てしまい、戦っている兵士達を片っ端から小突いては「大人にもなって何を喧嘩しているのですか!」と叱り、小突いては叱り、最後には片っ端から負傷を治していかれた、とのことだった。そんな彼女の姿に心打たれた両国の兵士は武器を捨て、彼女に傅いていた、ということだった。彼女のたっての願いで、両国の兵士とも今回のことに彼女が関わっていたことを秘密にすることにしていたのだ・・・」
この時点で会場中の皆、静まりかえってフルウ辺境伯の演説に聴き入っていた。
突っ込み役の王子でさえ、妄想しながら静かに聞いていたのだった。
(そうそう、オトナって迷子になると直ぐに気配を消してしまうんだよな、恥ずかしい姿を見せたくないって言って・・・。あとから恥じらいながら話すオトナ、可愛いんだよなぁ)
「怒りと憎しみと恐怖に囚われた心を叱り飛ばして正気にし、悪意を打ち払い、傷を癒やして人々を導く・・・、まさに彼女こそ神話に描かれている『戦乙女』そのものだと、我々軍人は思っている。故に、彼女の称号を決めるというのであれば、『戦乙女』を譲ることは出来ない!!!」
会場中で割れんばかりの拍手が起きる。「戦乙女!」「シイノ令嬢!」という声が上がる中、オトナ嬢は真っ赤な顔を両手で覆い隠していた。
そして王子は突っ込みを諦めて考えていた。(こっちの話の方が聖女だろ! ・・・ドレス姿で顔を隠すオトナも良いが、法衣を纏った聖女なオトナも、いいなぁ)と。
会場の皆に片手をあげて挨拶を行うフルウ辺境伯。シイノ令嬢の称号は『戦乙女』で決まりか!? と皆が思い始めたその瞬間、
「異議あり!!!」
三度目が起きた。
二度あることは三度あるのであった。
「彼女にふさわしい称号は『聖女』でも『戦乙女』でもなく、『豊穣の女神』である!」
そう言いながら出てきたのは、なんとこの国筆頭貴族のマビク公爵であった。
会場中の注目が集まる中、マビク公爵はふさふさに蓄えた髭をいじりながら話し始めた。
「このまま黙っていたのでは、我々のシイノ令嬢に対する恩義が揺らいでしまう! 私の領地には広大な不毛の土地があることは皆ご存じであろう。つい最近、その不毛の地で作物作りに成功したのだ。彼女に頼まれて今まで黙っていたが、それもこれもシイノ令嬢のおかげである!!!」
マビク公爵はそう言いながら髭をいじっていた手を握りしめ、目を大きく見開き天に向かって拳を突き上げた。
そのせいでふさふさに整っていた髭はボサボサになってしまった。
「皆の者、昨年の大規模スタンピードは記憶に新しいであろう。その予兆を得た我々は急ピッチで対策を行っていた。その時に彼女が我々の元へとやってきたのだ」
スタンピード。複数種類膨大な数の魔物達が移動を行う災害。それも大規模となれば、下手をすると国が滅んでもおかしくない。会場中、昨年のスタンピード速報を聞いたときの事を思い出し、恐怖を思い出していた。
「当時、我々の予測では我が領地は壊滅、王都にも甚大な被害が避けられないとの事だった。しかし彼女の提案でそれらは回避されることとなった。我が領地にある不毛の地、そこに魔物をおびき寄せる餌をまき、バクヤクなる物で一網打尽にしてはどうか、と」
「バクヤク?」「おびき寄せるとか危険では!?」という困惑が会場中に広がった。
そしてもちろん、この王子は違うことを考えていた。
(昨年・・・、そうだ、スタンピード速報を聞いて、発生したら怖いなぁとかオトナと話していたなぁ。驚いたときのあの顔、・・・良かったなぁ)
彼はどうしようもなかった。突っ込み役すら放棄して、悦に入っていたのだった。
「彼女は我々にバクヤクなるモノの作り方を享受くださり、我々はそれを大量生産し、不毛の地へと埋めた。そして魔物の好物として一部に知られていた動物や草を、その地の中心部へと設置した。あとは騎兵が各地でスタンピードの誘導に成功し、不毛の地の直前で離脱、スタンピードはそのまま中心部へと向かっていった。大部分が不毛の地へと入ったことを確認してバクヤクを起動させた瞬間、大地が震えて爆発し、魔物達が飛び散り、殆どの魔物が息絶えた。我々は残党を討伐するだけで、大規模スタンピードを収束させることが出来たのだ。
そしてその後、彼女はバクヤクでメチャクチャになった不毛の地を指さして、こう教えてくださったのだ。「バクヤクで土地は耕され、魔物の血肉で栄養は与えられました。これにもう少し手を加えれば、きっと豊かな畑ができあがることでしょう」と。そして我々は彼女の言うとおりに実行した結果、今年その地では大豊作となった。故に、我が公爵家を始めとする派閥は『豊穣の女神』の称号を押すのである!!!」
「「「わああああ!!!!」」」
会場中から歓喜の声が上がる。この国ではよく食糧危機が起きており、そのたびに餓死者が大量に出ないよう外国から食料を高い値段で買い付けていた。それが解消されるとなれば、『豊穣の女神』こそふさわしいのでは!? という声が上がり始めた。オトナ嬢は羞恥に耐えきれず、顔を両手で覆い隠したまま座り込んでいた。
そしてこの王子は冷静に突っ込んでいた。(それってむしろ大将軍や大軍師の方が正しいのでは・・・? あ、座ってぷるぷる震えるオトナ可愛い・・・、でも豊穣の女神の衣装を着たオトナも・・・、色気がヤバいなぁ)
そうして、どうしようもない王子を置いて盛り上がる会場の中から、またあの声が上がったのだった。
「異議あり!!!」
四度目である。
もうお腹いっぱいである。
「シイノ令嬢にふさわしいのは『聖女』でも『戦女神』でも『豊穣の女神』でも無く、『軍神』こそがふさわしいと我が輩は主張する!」
我が輩キャラを名乗りながら出てきたのは、ロンブン侯爵であった。
彼は宰相補佐を行いながら内政、特に治水に関しては他の追随を許さないほど優秀な男である。
寡黙で淡々と業務をこなす男、それが皆の知っているロンブン侯爵の姿故に、ここまで大声を上げる姿など誰も見たことが無かった。それ故、何故・・・? という沈黙が会場を支配することとなった。
静かになった会場に満足したのか、ロンブン侯爵は話を続けだした。
「我が輩が、特に治水に力を入れていることは皆も知ってのことだろう。我が国の河川は度々氾濫し、そのたびに多くの作物だけで無く、多くの命まで奪ってきた。我々も対策を取ってきたが、今ひとつ大きな成果にはつながっていなかった。そんな中、ほんの一月前に完成した湖システムが河川の氾濫を大幅に抑えるという大きな成果を挙げたのだ」
静かな会場中から「まさか・・・」という声が上がり出す。
それに気をよくしたロンブン侯爵さらに語り出した。
「彼女に頼まれて今の今まで黙っていたが、彼女の名誉に関わるとなれば話さずにはおられない! シイノ令嬢は1年ほど前に我が輩達の元へと訪ねてきたのだ。所々に水を溜める深い湖を作り、河の水量が少ないときはそこから水を流し、多いときはそこへ流れ込むようにするのはどうか、という提案と共に」
静かに聞き入る会場中の人達。そして王子は考える。
(1年前というと、そうだロンブン侯爵領の特産品が水害で壊滅して、大好きなメロンが食べられないなぁってオトナと一緒に悲しんでいたなぁ。好物がしばらく食べられないと知ってしょんぼりした彼女の顔・・・良かったなぁ)
早く埋めてしまった方がオトナ嬢の為かもしれない。
そんな会場中の人達+1を無視して、ロンブン侯爵は語り続ける。
「初めて彼女の案を聞いたとき、我が輩達の意見は一つだった。そんなこと、無謀極まりない、と。水の流れを少し変えるだけでも河の位置や水量、季節の変化を計算しなければいけない。その上、河の水量に応じて湖の水を出し入れするともなれば、大規模な工事と工夫が必要となってくるのでその立案や計算もしなければならない。
しかし彼女は陣頭に立って指揮を執り、地政学者達と共に膨大な資料を読み解いて湖の位置を決め、数学者達と共に湖の水の出し入れ方法を編み出し、兵站部だけで無く警備軍まで動員して雨季までに完成する事が出来た。文武双方を率いて我々を導いてくださり、そして河川の氾濫を抑えるという神のごとき成果をたたき出した。そんな彼女こそ『軍神』と呼ぶにふさわしい。我が輩達はそう考えているのである」
会場中は静まりかえっていた。
多くの貴族が、平民が、それこそ数え切れない昔から河川の氾濫に悩まされてきた。
多くの命が土砂と共に埋もれ、そこで生まれた怨嗟が呪われた神殿などを作り出してしまう。
多くの土地が土砂で流されるからこそ、食糧危機が起きてしまう。
そして食糧危機が頻繁に起きるからこそ、豊かな他の土地を求めて戦を起こす。
まさに彼女は、この国が抱えていた大きな大きな問題を解決していたのであった。
会場中の皆が心打たれ、感動している中、オトナの羞恥心は限界を超えてしまい、座って顔を手で覆い隠したまま蹲っていた。
そしてこの王子だけは変わらず平常運転であった。
(こっちの方が豊穣の女神らしい話なんだけど・・・、戦装束を纏い、照れながら皆を率いるオトナ・・・最高すぎる! 蹲ってぷるぷる震えるオトナと甲乙付けがたいな!)
この段に来て、会場中は静かなざわめきが絶えず起きるようになっていた。
「神から指名される『聖女』や神に仕える『戦乙女』より、神自身である『豊穣の女神』や『軍神』の方が良いのでは?」
「いや、彼女の見た目や性格から考えれば、『戦乙女』や『軍神』より『聖女』や『豊穣の女神』がふさわしい」
「『戦乙女』や『豊穣の女神』や『軍神』よりも、身近なところで活躍されている『聖女』の方が皆に受け入れられやすいのでは?」
などなど。皆が皆、小声で話し合っていた。誰も『悪役令嬢』という単語を口にしない辺り、出オチの不利が現れていた。
そんな中、またもやあの声が上がったのであった。
「異議あり!!!」
これで五度目。いい加減にして欲しい。
そうして現れたのは、まさかの国王夫妻であった。
思わぬ人物の思わぬ発言により、会場中は静まりかえっていた。
そんな中を歩き進めた国王夫妻は蹲るシイノ令嬢の傍まで近づくと、国王陛下は周囲を見渡し、王妃陛下はシイノ令嬢の肩に手を添えて立ち上がらせた。そして王子は嫉妬した。(オトナは俺の婚約者だ! 母上とは言え気軽に触れるのは・・・照れてるオトナの可愛さに免じて許してやろう!)こんな時でもどうしようも無い王子であった。
そして国王陛下が語り出した。
「皆の者、今この功績高きシイノ令嬢の称号について、様々な意見が出された。だが、考えてみて欲しい。『聖女』も『戦乙女』も『豊穣の女神』も『軍神』も、彼女の側面の一つしか無いのだ。彼女に称号を与えるとすれば、それら全てを含めた物こそ、私はふさわしいと思う」
そう言いながら優しくシイノ令嬢の方を見る国王陛下。それに嫉妬する王子。
国王と目が合ってしまい恥ずかしそうに俯くオトナ嬢と、それを見て妄想を膨らませる王子。
誰か早く王子を追放した方が良い。
「そこで、だ。皆、最初にタダノが何と言ったか覚えているか・・・?」
その言葉に、会場中で首をかしげる物が続出した。そう、最初の最初に王子が言ったことなど、その後の話が印象的すぎて皆忘れてしまったのだ。演説した公爵達も、途中からすっかり忘れている有様だった。
困惑の広がる会場を見て満足した国王陛下は、言葉を続けていった。
「そう、彼女のことを全ての災禍に対する『悪役令嬢』と言ったのだ」
その瞬間、会場中に居た誰もが雷を打たれたような衝撃を受けて固まった。オトナも同じように衝撃を受けて固まっていた。
悪役とは主役や主人公達に相対する者のこと。そしてこの世界では神が主役である。そんな神が与えた試練に対して皆を率いて相対するその姿は、まさに『悪役』であった。
「皆、理解できたようだな。タダノは確かに時折ポンコツになるが、普段は優秀な男だ。そして、そんな男が様々な功績を纏めて言ったのが、『悪役令嬢』という称号だったのだ」
会場中の誰もが、国王陛下の言葉に深く聞き入っていた。否、一人だけ違っていた。
(ごめん、父上。何も考えずに言いました・・・。照れながら悪役っぽく振る舞うオトナも新鮮な感じでいいなぁ、と思っただけなんだ・・・)
そんな王子に気づくこと無く、国王は威厳たっぷりの声で続けて言った。
「『悪役令嬢』こそ彼女の側面を余すこと無く表現した称号、私はそう思うが皆はいかがかな?」
と締めた国王陛下に対して、会場中から割れんばかりの拍手や歓声が沸き上がった。
「「「国王陛下万歳!」」」「「「シイノ公爵令嬢万歳!」」」「「「悪役令嬢万歳!」」」
大歓声の中心で威風堂々と対応する国王夫妻。
その傍で顔を真っ赤にし、涙目で震えているオトナ嬢。
そんなオトナを見て悦に入っていた王子は、ふと我に返ってしまった。
(いつもお淑やかにしているオトナに、意味の分からない言葉を投げかけてちょっと困らせてもじもじした姿を堪能し、その後は「実は冗談でした! てへっ!」って言ってプンスカ怒るオトナを堪能するだけのはずだったのに、どうしてこうなった・・・)
今更、出来心でちょっとふざけただけ、とはとても言えない。
このことは墓場まで持って行こう、遠い目でそう決意したタダノ王子であった。
お読み頂きありがとうございます。
△ 王子は時々ポンコツ(世間の評価)
○ 王子はオトナ嬢が関わるといつもポンコツ(真相)
オトナ活動日記
一年前~十月前:治水対策の研究に没頭
十月前~八月前:スタンピード対策陣頭指揮
八月前~半年前:治水対策の実証実験指揮
半年前の一週間:呪いの神殿攻略
半年前~三月前:治水対策の工事陣頭指揮
三月前の一週間:最前線に慰安旅行
三月前~一月前:治水対策の仕上げ陣頭指揮
毎週1回:王子とお茶会
書き表すととんでもないスケジュールだった件。
ちなみにこの間、王子は「最近のオトナ、良く図書館に籠もったり外に出かけたりしているなぁ。・・・そうか! きっと私のためにより美しくなろうと頑張っているんだな!? 知識を身につけて美容を磨き、運動することでスタイルを良くする、さすがはオトナだ・・・。よし、私も負けないように自分を磨きつつ公務を頑張るぞ!!!」と絶賛勘違い中。
この勘違いにより、王宮内で溜まっていた膨大な事務は凄い勢いで無くなっていったとのことである。