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95話 敵のたくらみ


 帝国の軍艦と、ついに海の上で遭遇した。

 相手は1隻で、こちらは4隻――圧倒的にこちらが有利である。

 王国最高の魔導師たちによる先制攻撃が行われたが、大したダメージを与えられていない。

 私も魔法を放つも、対魔法(カウンターマジック)という魔法により無効化されてしまった。


 この魔法が使えるということは、相手にもそれなりの大魔導師がいるということになるが――。

 こちらの魔法が使えないということは、向こうも使えないのである。

 あとは、力と力のぶつかり合い。

 そうなれば、単純に戦力が多いこちらが圧倒的に優位。


 お互いに魔法を封じられた状態で、両軍の軍艦が接近する。

 王国の軍艦の3隻のうち中央の船が1番近く、正面から突撃を試みた。

 どんどん距離が縮まり、お互いに一歩も譲らないチキンレース。

 両船まさに重なる手前。


「ぶつかる!」

 衝突寸前に、敵船が右に舵を切ったらしい。

 味方の船の舳先と、敵船の左前部が衝突した。

 ここまで大きな音が聞こえてきて、そのまま2隻の船が擦れていく。

 ほぼ正面から衝突してガリガリと擦れたので、かなりスピードが落ちたはずだ。

 大きくて重い船の速度が落ちると、再び加速するのに時間がかかる。


 そこに左右から味方の船が回り込んだ。

 小回りするとスピードが落ちてしまうので、大きく孤を描いて方向転換していく。

 円を描いた航跡が大きいため、左右の船が入れ替わった。

 今度は敵船の舳先を抑えて、乗り込む作戦だろう。


「ロッホ! 我々も向かえ!」

「かしこまりました」

 こちらの速度は落ちていないので、どんどん敵船に接近していくが、こちらも方向転換しなくてはならない。

 敵船とすれ違い、舵が切られると、一糸乱れぬ船員たちの動きによって帆の方向が変えられていく。

 船が海原に大きな円を描き始めた。

 最初に衝突した味方の船は、大きく速度を落としてしまったが、体勢を立て直して小さく方向転換している。

 動きを見る限り、大きな損傷はしていないようだ――まずは一安心。

 あそこから加速して、こちらに追いつくには少々時間がかかるだろう。


 すでに僚船が敵船に並び始めていた。

 敵船は衝突によりスピードが落ちているから、鼻先を抑えられる。

 ――そう思ったのだが、並んだ3隻が側面に衝突するギリギリのところで、敵が急加速した。


「え?! 敵の速度が急に上がりませんでしたか?」

「う~む! 聖女様の言うとおりに、私にもそう見えたが……」

「なにかの魔法でしょうか?」

「いや、魔法はさっきの対魔法(カウンターマジック)で使えなくなっているはず」

「にゃー!」

 ヤミがなにかを知っているらしい。


「え?! 魔道具?」

「た、たしかに魔道具ならば、対魔法の中でも動かすことができるが……」

「彼の話では、風を起こすことができる魔道具を、帝国が研究していたというのですが」

「なぜ、そのようなことをネコが知っているのだ?!」

「……」

 ヤミは、陛下の質問にも黙っている。

 言葉が解らないわけではないだろうが。


「それよりも! 敵船の動きを止めないと!」

「にゃ」

 もし魔道具があったとしても、そんなに長い間使えるものでもないみたいだが。


「サルーラ!」

 私はエルフを捜した。


「なんだい? ノバラ」

「帝国の船を止めて! あなたの精霊とやらを使えば、止められるでしょ?」

「私はノバラを守るために、ここにいるのだが?」

「そんなことを言っている場合じゃないでしょ?!」

 彼が凄く嫌そうな顔をしている。


「残念ながら、対魔法の中では精霊の動きも制限されてしまう」

「そ、それじゃ……」

 打つ手なしかと思った瞬間、敵船の後ろの帆が突然バタバタと白い叫び声を上げた。

 大きな布が裂けてしまい、踊っているように見える。


「どうした?! なにが起きた?!」

 ロッホ様も目を凝らしている。


「見ろ!」

「「「おおっ!?」」」

 2つ目の帆も裂けたようで、バタバタと翻っている。


「見ろ! ハーピーだ!」

 兵士の指す方向を見れば、モモちゃんらしき白い翼が急降下を繰り返している。

 おそらく、彼が魔法の袋から出した岩かなにかを使って、敵船を攻撃したのかもしれない。


「まったく、王国はハーピーを毎朝拝まなくてはならぬな」

 陛下の言葉にロッホ様も同調した。


「まったくもってそのとおりでございます」

「敵船の速度が落ちたぞ! このときを逃すな!」

「「「おおお~っ!」」」

 陛下の言葉に、味方が気勢を上げた

 私の所にルナホーク様がやって来て、囁く。


「それもこれも、すべて聖女様のおかげでございましょう」

「大きな声で言わないでね?」

「心得ております」

 速度が落ちた敵船に、左右から僚船が激突した。

 両舷から鈎のついたロープが放り込まれる。

 船を固定して逃さないようにするためだ。

 続いて、凸凹がついた長大な板が渡されていく。


 帝国の船のほうが高いので坂になっているのだが、外れて落ちないように板の下に出っ張りがついているようだ。

 板についている凸凹のおかげで多少坂になっていても、はしごのように上っていける。

 板を渡したり、外したりの攻防の間も、矢や槍が飛び交う。

 バタバタと倒れる味方の所に飛んでいき、治療をしてあげたいのだが――今はそのときではない。


 次第に敵に抵抗がなくなると、味方が敵船に乗り込み始めた。

 ここから見るぶんにも、敵兵の数が少ないように見えるのだが……。


 戦闘が始まれば操船などできるはずもなく、どんどんスピードが落ちていく。

 こうなったらもう逃げられない。


 私たちが乗っている旗艦も追いつき、味方の船に横付けした。

 並びは、旗艦、味方の船、敵船という感じで3隻が横並びになっている。

 僚艦と旗艦との間にも板が渡されて騎士団の半数が味方の船に乗り込んだ。

 そのまま敵船まで踊り込んでいく。


「近衛の仕事は陛下をお守りすることなのでは?」

「はは、この兵力差なら問題ない。見ろ! 帝国軍などほとんど乗っていないではないか!」

 陛下の言う通り、剣や槍で戦っているのだが、敵船には兵士の数が少ない。

 騎士団なども乗っていないように見える。

 これじゃ、王都に乗り込んでもロクに戦えないと思うのだが……。

 この調子では、あっという間に方がついてしまいそうだ。


 私の後ろにいるヴェスタをチラ見すると、ソワソワしている。

 あの中に飛び込みたいのだろうか?

 彼の仕事は私を守ることなのは解っているはず。

 それでもなお、血が踊るのだろう。


 帝国の船は、ハーピーたちの攻撃によって慌てて出港したために、ロクな戦力を乗せることができなかったのだろうか?

 案の定、すぐに敵は沈黙した。

 船の間に渡された橋を通って、乗り込んでいた近衛が戻ってきた。

 大した怪我もしていないし、問題ないようである。

 聖女の出番もなさそうでホッとした。


「陛下、敵の将軍らしき男を捕らえました」

「よし! 敵船の捜索だ! どうやら帝国は我々の持っていないような魔道具や技術をもっているらしい。徹底的に捜せよ!」

「「「ははっ!」」」

 兵士たちが船に戻ると、他の味方たちに伝達して、敵船の捜索が開始された。

 離れているのでよく解らないが、けが人がいるようである。

 もう戦闘は終わったのだ。

 ここは聖女の出番であろうか?


「魔道具~魔道具! 楽しみだなぁ!」

 戦場の悲惨な状況にも、はしゃいでいるのは王宮魔導師のお兄さんである。

 弟のほうは真面目な顔をして橋を渡っているのだが、2人で敵船に直接乗り込むようである。


「それから――敵の将軍とやらと、将校がおれば、ここに引っ立ててくるがよい!」

「「「ははっ!」」」

 近衛騎士が敵船に戻り、帝国の偉い人を連れてくるようだ。

 どんな人が来るのだろう。

 歴戦の勇士って感じの人だろうか?


「いや待て! 私が出向こう」

「畏れ多くも陛下! それは――」

 騎士の言葉を彼が遮る。


「帝国の持つという魔道具も見てみたいではないか。ついでに説明も敵にさせてやるぞ」

 陛下が敵船に乗船するというので、私も同行する。


「にゃー」

 私も色々と興味があるし、ヤミがどんなやつが来たか見てみたいらしい。

 もしかして知り合いがいたりして?


 そんなことを考えつつ、船と船の間を渡された板の橋を歩く。

 護衛のルナホーク様、ヴェスタとアルルもついてくる。

 なにを考えているのか解らないが、エルフも一緒だ。


 複数の板をぴったりとくっつけたのだが、船が揺れているから板が暴れている。

 陛下のために命綱が張られたので、それに掴まって僚船に渡った。

 やはり怪我人が多数いるようだが……。


「陛下、勇敢に戦った彼らに、癒やしの奇跡を使うことをお許しください」

「聖女様、彼らには申し訳ないが、まだなにがあるか解らぬ。もうしばし待っていただきたい」

「……承知いたしました」

 怪我人が可哀想だが、致し方ない。

 この人数を癒やすとなると、かなり長い間昏倒することになるわけだし。

 その間に不測の事態に陥ると困るというのが、陛下のお考えだろう。


 皆で敵船に乗り込むが、こちらは坂になっているので、ちょっと大変。

 パンツを穿いてきてよかった。


「う、うわぁ……」

 敵船にジャンプして乗り込むと、あちこちに死体が転がっており、甲板が血の海になっていた。

 仲間の兵士たちのかばねもある。

 死体や血に慣れたとはいえ、やっぱり堪えてしまう。

 こんなのに慣れたくはないんだけどねぇ。


「敵の将軍とやらはどこだ!」

「あちらに!」

 騎士が指すほう、マストの根元に縛りつけられた男たちがいた。

 いや、女性も1人いるようだ。


 陛下がマストのほうに向かったのだが、突然ヤミが唸り始めた。


「ヤミ?! どうしたの?!」

 よくよく見れば、柱に縛りつけられている深緑色の軍服を着た小太りの男。

 立派なヒゲに見覚えがある。

 あの男は確か――お城の地下で、帝国との通信のときにいたはず。

 将軍と呼ばれていた男だ。


「ほう! そなたは、帝国との通信の場にいた将軍とやらだな。名前は――忘れたが、はは」

「スチルマンだ! スチルマン・フェアメーゲンである!」

「おお、そうそう、確かそんな名前だったなぁ、ははは」

 陛下は、面白そうに捕虜をからかって遊んでいる。


「フシャァ!」

 ヤミが私の肩から飛び降りた。


「え? ヤミ、どうしたの!?」

「フーッ!」

 彼の身体を触って、魔力を流し込んで欲しいらしい。

 なんだかよくわからないが、彼の言うとおりにしてみる。

 私の手から流れ出た青い光の粒が、どんどんと黒い毛皮の中に流れ込んでいく。

 これでいったいどうなるのだろう。

 魔力を流し続けているのだが、彼から止めてのサインがない。

 私が戸惑っていると、周りの人たちも異変に気がついたようだ。


「ヤミ、まだ?」

「……」

 彼からの合図がないので、魔力を流し続けると、黒い毛皮の身体に異変が起きているのにきがついた。

 ヤミの身体が徐々に大きくなっているのだ。


「ええ?!」

「聖女様、いったいなにを!?」

 ヤミの身体が大きくなっているので、周りにいる人たちも驚いている。


「せ、聖女?! お前が聖女か!?」

「それがなにか?」

 私は、ヤミの身体に魔力を流しながら、将軍とやらに答えた。


「王国のティアーズとかいう領に、芋の疫病を流したというのに――ワシの作戦を台無しにしたのは、お前か?!」

「あれは、あなたがやったの?!」

「な、なんと! ティアーズ領の芋の疫病騒ぎが、帝国の仕業とは……」

 陛下も驚いているが、私もびっくり。


「そうだ! 確実に王国の食糧事情を直撃できる作戦だったというのに! この疫病神めが!」

「聖女様になんという暴言を――こやつは剣の錆にいたしましょう」

「珍しくルナホーク様の意見に賛成です」

 ルナホーク様とヴェスタが剣を抜いて振り上げた。


「ちょっと2人とも!まだ駄目よ!」

「「はっ!」」

 聖女騎士の2人が下がった。


「それじゃ、帝国が聖女を欲しがったのは、単にそのためだけなの?」

「聖女など、国民の人気とりの道具かと思いきや、まんざらでもない力を持っているのだな――ふん!」

 将軍という男がすねたようにつぶやいた。

 冗談じゃない。

 こっちは必死に、ひーひー言いながら、疫病騒ぎをなんとかしたというのに。


「グルル……」

 ヤミの身体が大きくなり、トラぐらいの大きさになった。

 私が乗れるぐらいに大きい。

 魔法を含んだ漆黒の毛皮がキラキラ光り、ビロードのように美しい。


 大きくなったヤミが、唸りながら将軍に近づいていく。

 どうやら彼は目の前の男と知り合いらしいのだが……。

 唸る黒い四脚がやって来たので、陛下もたじろいで退いた。


「ひぃぃ! そ、そのような魔物をワシにけしかけてどうするつもりだ!」

「どうするかは、彼に聞いて」

「ガオン!」

 ヤミが吠えると、男が震え上がった。


「ひっ!」

「……サリオス・ウェル・アストラガルスという名前に聞き覚えは?」

「なぜお前ごときが、その名前を知っている?!」

「知っているのね?!」

「その名前は、かつて暗殺された帝国の皇太子の名前だが……」

 ちょっと離れた場所にいたエルフがつぶやいた。

 エルフも帝国のことを知っているんだ。


「サルーラも知っているの?」

「ああ、皇太子は片目の色が違う変わった容貌の持ち主だったらしい」

「え?!」

 私は驚いて、ヤミの目を思い出した。

 エルフの言葉を聞いて予感があったのだ。


「私もその話は聞いたが、暗殺されたのは――かなり前だと思ったが?」

 陛下も帝国の情報をゲットしていたらしい。


「そ、それがいったいなんだと言うのだ!」

「聖女様……いったい?」

 皆が私のいうことを不思議そうに聞いている。


「帝国の皇太子を暗殺したというのは、あなただというのは本当なの?」

「なに?! それはまことか?!」

「そ、それがどうした!? ワシのやることを邪魔ばかりするから、そのようなことになったのだ! 銀の匙を持って産まれてきたボンボンが、一々茶々を入れおって!」

「ガァァ!」

 ヤミの予想もしなかった言葉に私は驚いた。


「え?! 本当に?!」

「そのケダモノがなんだと言うのだ!」

 男が大口を開いて、ツバを飛ばす。


「彼は――あなたが暗殺した、皇太子の転生した姿よ」

「なんと?! そのようなことが?!」「聖女様?!」

 陛下とルナホーク様が驚く。

 黙って聞いていた他の皆も、当然驚いている。


「ははははっ! こいつは傑作だ! 由緒正しき帝国の皇太子が、畜生に生まれ変わるとは! はははっ!」

「ガァ!」

 吠えたヤミが、男に向かって突進した。


「ヤミ! 駄目よ!」

 彼の鋭い牙が、男の首の寸前で止まっている。

 黒い毛皮を持った獣が少しでも力を入れれば、帝国の将軍とかいう男の首は、簡単に食いちぎられるだろう。


「ひぃぃぃぃ!」

 男が情けない声を出し、目に涙を浮かべている。

 鼻水も垂らしているようだが、ズボンも濡れているようだ。

 少し漏らしたのだろう。

 こんなのが帝国の将軍とは。


「その男には、色々と聞きたいことがあるんだから」

「……」

 ヤミが男の首から口を離した。

 それにしても――ヤミが生まれ変わったということをすんなりと受け入れるのね。

 いままでも、そういう事例があったのかな?


「でも、それじゃ君の怒りも収まらないでしょう? ここで会ったが百年目っていうぐらいだし。腕ぐらいならいいわよ」

「な、なにを!?」

「ガォ!」

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

 男の悲鳴が甲板に響く。

 ヤミが男の肩口に食いつくと、簡単に腕を根元から引きちぎったのだ。

 傷口からは鮮血が噴き出し、彼が咥えている腕からも赤いものが滴っている。

 腕は縛られていたようだが、縄も千切ってしまったらしい。


「あぎゃぁぁぁ!!」

「た、助けてくれぇ!」「俺たちは違うんだぁ!」「お願いしますぅ!」

 将軍と一緒にマストに括りつけられていた男たちと女も悲鳴を上げた。

 同じ深緑色の軍服を来ているが、金色の飾りをつけているので、士官だろう。

 女性はおそらく、帝国の魔導師だと思われる。


「うぐぅぅぅ!」

 私は、うめき声をあげる男に近づくと、ヤミが咥えていた腕をもらった。

 傷口同士をくっつけて、奇跡を使う。

 もちろん正式なものじゃなくて、テキトーバージョンのほうだ。


「天にまします我らが神よ。テキトーにこいつの腕をつけちゃってください」

 青い光が舞うと傷口がボコボコと膨れて、肩と腕がくっついた。

 軽い目眩が私を襲う。

 もちろん、こんなやつにまともな治療をする必要はない。


「な、なんだ、これはぁぁぁ!」

「私って優しいから、ちゃんと死なないようにくっつけてあげたでしょ?」

 腕はしっかりとくっついているのだが、通常では曲がらない位置で固定されている。

 筋肉も適当に繋がったので、動かすことはできないだろう。


「ヒィヒィ……」

「グルル……」

 とりあえず将軍の叫び声を聞いて、ヤミは落ち着いたようだ。

 今の彼なら、男の1人や2人いつでも殺せるだろう。

 すっかりと獣のようになってしまっているが、元の理性は残っているらしい。

 私は、震え上がっている他の男たちも脅した。


「聖女の力を見たわね。あなた方の首を引っこ抜いて逆さにくっつけることも可能なのよ?」

「お、お許しを……聖女様!」「私どもは、その男にたぶらかされて、ここまでやって来たのでございます」

「そ、そのとおりでございます」

「うぐぐ……貴様ら……」

 肩を押さえた男が、苦悶の表情を浮かべている。


「あ~あ」

 簡単に仲間を売るなんて。

 まぁ、この将軍がその程度の男ってことなんだろうけど。


「さて――なにから聞こうかしら? 陛下、なにから尋問致します?」

「う~む、そうだな……」

 途中で船が加速したのは、やはり魔道具の力らしい。

 船の後部に、2本の柱のような大きな魔道具が取りつけてある。

 あの柱の間を通る風を起こすのだろうか?


「すごいですね、陛下」

「うむ、解析できれば、王国の船にも利用できるかもしれぬ」

「あの、魔道具の解析は私にお任せくださいませ」

 歩み出たのは、風の魔道具を調べていた、王宮魔導師のお兄さんのほうだ。


「お兄さん、レオス様は?」

「やつは下に降りている」

「あの魔道具より面白そうなものがあるんですかね?」

「さてね」


 お兄さんと魔道具の話をしていると、レオスが血相を変えて戻ってきた。


「おい! 船倉にある巨大な魔道具はいったいなんだ?! 尋常なものではないぞ?!」

「レオス、いったいどうしたというのだ?!」

「陛下! 帝国の者どもは、この船でなにかたくらんでいた模様でございます」

「なんだと?!」

 陛下の驚きの声に、ロッホ様がつぶやいた。


「た、確かに陛下――こんな船が1隻で王国に挑んでくるなど、普通では考えられません」

「む、ロッホの言うことも、もっともか……」


 私たちは、敵の士官の1人を引っ立てた。


「ヤミ、私たちは下にあるものを見てくるけど、君はどうする?」

「グルル……」

 彼はいまにも将軍に食いつきそうに見える。


「そう。私のいない所で、引き千切られると治せないから。頑張ってねぇ」

「ま、待て! このケダモノと一緒にさせておくつもりか!」

「ケダモノじゃなくて皇太子様よ。知り合いなのでしょう? 仲良くしてみたら」

「グルル……」

「ひぃぃぃ!」

 ヤミが楽しそうに白い牙を見せているが、脅して楽しんでいるだけでしょ。


 私たちは、ヤミを置いてレオスが見たという魔道具らしきものの所に向かった。

 磯臭くカビ臭い船倉の中に皆で降りていく。

 真っ暗で足下が危うい。


「精霊の光よ」

 一緒についてきたエルフが、精霊の明かりを出してくれた。


「サルーラ、海にも精霊っているの?」

「ああ、水の精霊だな」

 精霊は人のいるところにはいないらしい。

 それじゃ、もし人が利用しようとしてもお願いできないわね。


「私って聖女なんだから、精霊ってのは使えないの?」

 後ろを見て、ついてきているエルフに質問してみた。


「ふっ……精霊を使えるのはエルフのみ……」

 彼が嫌味な笑みを浮かべている。


「本当? 精霊さん精霊さん、私のお願いを聞いて。私を助ける明かりを出してほしいのだけど」

 私の前に青い光の玉が現れて、くるくると不規則に動いている。

 まるで踊っているよう。


「なぜ、精霊を使える?!」

 私が呼び出した光を見たサルーラが慌てている。

 彼が慌てるってことは、これは精霊ってことらしい。

 本当に使えた。


「さぁ? 神様のおかげなんじゃない?」

「そ、そんなばかな?! ノバラはもしかして、エルフなんじゃないのか?」

 まぁ、確かにエルフなんじゃないのか? とか言われたことがあったけどさ。


「私は耳が長くないし」

 サルーラと話している間に、件の場所に到着したようだ。

 船倉がピンク色の光で満たされている中に、大きな魔道具らしきものがある。

 人の背丈ほどある透明な球体を、なんらかの機械が上下を支えていた。


「こ、これはいったいなんだ?!」


 陛下の言うとおり、これはいったいなんなのだろう。


 

次回更新で完結です~

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