94話 敵船見ゆ
帝国軍の船が1隻でこちらに向かっているらしい。
それを迎え撃つために、王国側の4隻の軍艦が帆を張った。
いよいよ出撃だ。
モモちゃんの協力により、敵船の進路や位置などは正確に把握できている。
飛行機のないこの世界に、偵察機を持っているようなものなのだから、こちら側の優位は揺るぎない。
しかも敵は1隻で、こちらは4隻――数でも勝っている。
私はモモちゃんを抱きながら、桟橋で帆を張った軍艦を左右に眺めていた。
艦隊司令官であるロッホ様に質問をしてみる。
「艦隊の隊列とかどうなるんでしょう?」
「戦闘に入るまでは、我が船が先頭に進みます」
「上空からの偵察の様子が掴めるのも、この船だけですしね」
「そういうことになります」
それは理解したのだが、出港をしたというのに桟橋から離れるのに時間がかかっている。
帆船なので、風がないと進まないのはいかんともしがたい。
「あの~、魔法で風を起こすことはできないのですか?」
王宮魔導師のレオスに尋ねてみた。
魔法で風が起こせるなら、どんどん進むことができそうなものだが……。
「風を起こすことはできますが――さすがに、このような大きな船を動かすような風となると……」
「少しならできるぞ」
そう言ったのは、エルフのサルーラ。
「エルフならできるの?」
「魔法ではなくて、精霊だがな」
「艦隊を組むのに、この船が先頭に立たないと駄目らしいから、ちょっとやってみて?」
「……ノバラがそう言うのであれば、仕方ない」
「本当?」
「*****」
エルフがなにか聞き取れないような言葉をつぶやくと、周りから光の粒子が集まってきた。
王家の森で見たものと同じものだ。
彼の話では、森にはたくさんの精霊がいるということだったが、海にもいるのだろうか。
なぞの生きもののことを考えていると、船の大きな帆が膨らんだ。
「「「うわ!」」」
突然に船が動きだしたので、皆がバランスを崩す。
通勤電車で急停車すると倒れそうになるが、あれの反対ね。
「こんな大きな船が動くなんて、精霊の力は凄いのね」
「にゃー」
「どうだ? 見直したか?」
「ええまぁ――それなりに」
エルフが私に近寄ろうとしているのだが、私が抱いているモモちゃんに威嚇されている。
「ギャー!」
「くっ! このクソ鳥が……」
それよりも、旗艦が先頭に立つと、両手に旗を持った水兵がパタパタとやっている。
「あれはなにをしているの?」
「みゃー」
ヤミによれば、各艦への連絡があれによって行われているらしい。
「なんて言っているのかな?」
「聖女様、単縦陣で我に続けですよ」
手旗信号の意味をロッホ様が教えてくれた。
距離が離れると、魔法のランプを使った発光信号によって通信が行われるみたい。
ここらへんは、元世界の船と変わらないのかも。
「聖女様の世界の船は、交信にどのような手段を?」
ロッホ様は、異世界の船に興味があるようだ。
「無線ですかね。お城の地下に通信施設があったのですが、それの音声だけのものですね」
「え?! お城の地下にそんなものが?」
「あ?! これって機密だったり?」
陛下が口に指を当てている。
「あ、あの、手旗信号や、光による交信も行われていましたよ」
「やはり、どこでも似たようなものがあるんですねぇ」
さすがに彼も解っているので、機密については突っ込んでこなかった。
ふう――あぶない。
そのまま艦隊は島の右側を回り込み、湾の中に入った。
偉い方には船室が与えられており、陛下とロッホ様は船内で作戦会議をしている。
私は落ち着かないので、船外に出たまま。
途中でモモちゃんに、再度偵察をしてもらう。
「ノバラー!」
「どうだった?!」
「こっちにまっすぐに来てるぞ!」
「ありがとう! モモちゃんは危ないから避難してて」
「解った! 上にいるから、ノバラが危ないときには助けにくるぞ!」
「無理はしなくていいからね!」
「あはは!」
やっぱり敵の動きが解るというのは、圧倒的に有利だ。
上空を飛んでいるモモちゃんを見ていると、マストの上にいる水兵に目が留まる。
あそこから周りを警戒しているのだろうが、空を飛ぶハーピーには敵わない。
意気揚々と出発した艦隊だったが――出港してしばらくすると、騎士たちがあちこちでへばり始めた。
「ぐえぇぇ!」「おぇぇぇ!」「……」
多数の騎士たちが船酔いになってしまい、グロッキー状態だ。
後続の船の様子は見えないが、多分同じような状態だと思われる。
もちろん船員たちは平気。
私は陛下が心配で、船室を訪ねた。
すべてが木で作られた狭い部屋だが、大きな机などが設置されていて、その上には海図らしきものが広げられていた。
「……聖女様」
陛下も青い顔をしているのだが、大丈夫だろうか?
「陛下、船酔いが酷いのであれば、私の奇跡を――」
「……回復薬を少し飲んで楽になった。聖女様の奇跡を船酔いで使うわけにはいかん
」
海軍の偉い人であるロッホ様は、当然大丈夫。
陛下が大丈夫だというので、外に出た。
「うぐぅっぅ」
聖女騎士団では、ヴェスタが船酔いだ。
船の外に向かって吐いている彼の背中をさすってやる。
「い、いけません、聖女さま……」
ヴェスタはグロッキー状態だが、アルルとルナホーク様は平気らしい。
「私は船になん回か乗りましたので――島には、ソアリング家の別荘もありますし」
「私も平気です」
私たちと一緒にサルーラもいる。
彼は私についてきたので、当然私の近くにいつもいるわけだ。
「エルフも平気そうねぇ」
「我々はあらゆる点で、只人より優れているからな」
実際にそうなのだろうが、そのセリフを口にしてしまうところが、いかにもエルフっぽい。
こんな調子で戦闘とか大丈夫なのだろうか。
騎士や兵士たちも、地面での戦闘を専門にしている人たちだ。
帝国の船も、こんな感じならイーブンだろうけど。
船酔いの兵士や騎士たちを乗せて船が進むが、船の進みは遅い。
風が吹いている間は進むことができるが、なくなればほとんど進まない。
湾内は昼間は海から陸に向けて風が吹き、夜には風向きが反対に変わる。
その間が、凪ということになる。
帆船というから、真後ろから風を受けると一番速度が出そうな感じがするのだが、そうではないらしい。
ロッホ様の話からすると、横から風を受けて進んでいるときが一番効率がいいみたい。
現在、風は湾内から陸地に向けて吹いており、船の横から風を受けている。
つまり一番スピードが出ている状態。
これは、こちらに向かってくる敵船も同じ状況だ。
船の上で食事を摂り、戦闘に備える。
一部の兵士や騎士たちは、船酔いでそれどころではないようだが、支給されている回復薬を飲みつつ食事を摂っているようだ。
食事にやって来たモモちゃんから、敵の様子を聞く。
会敵するのが難しいなら、この場で帆を畳み待ち伏せする手もある。
そこら辺は海戦のプロである船乗りたちに任せるしかないだろう。
モモちゃんからもたらされた情報と、潮と風の向きから、司令官であるロッホ様が最適な航路を弾き出す。
私はヴェスタが心配なので、彼の所に行った。
ヤミは暇なのか、船の中を探検中だ。
今頃ネズミを獲っているかもしれない。
「大丈夫?」
ぐったりとしている私の騎士に声をかけた。
「大丈夫です……聖女様からいただいた回復薬を少し飲んで楽になりました……」
聖女騎士団が持っている回復薬は、もちろん私が作ったものだ。
陛下や偉い方が持っているのも、当然同じもの。
「すぐには敵に会わないようだから、体調を整えてね」
「む、無論です」
彼も王都にやってきて、本当に色々なことを経験しまくっている感じねぇ。
普通はここまで実戦とかないと思うのだけど。
ヴェスタと話していると、私の所にロッホ様がやってきた。
「聖女様のお体の調子はいかがですかな?」
「私は常に奇跡の力で守られているようなものなので、身体の異常には強いようです」
「それは羨ましい」
あ、でも――一番最初に、畑になっていた赤い実を食べて腹を壊したわよね……。
あのときには、奇跡は働いていなかったということなのかしら?
そのあとなにかしたっけ? 奇跡が使えるようになったかもしれない境目は……。
そういえば――ヤミが私をかばって大怪我をしたのよね。
それで手当する手段がなくて、祈った――。
「ああ、もしかしてあれかぁ……」
「なにか?」
ロッホ様が、私の顔を覗き込んでいる。
「いいえ、なんでもありません。ロッホ様の見立てでは、敵と遭うのはいつ頃になりそうですか?」
「そうですなぁ――この分だと、おそらく明朝」
「それも風次第で変わりますよね?」
「無論ですが――朝までには大きくは変わらないと思われます」
いつも海にいる彼がそう言うのだから、間違いないのだろう。
私も隅っこに座って食事をすることにした。
魔法の袋からサンドイッチを取り出すと、モモちゃんが私の所にひょこひょことやってくる。
サンドイッチは、メイドにお願いして作ってもらったものだ。
こういう場所なら、これが食べやすい。
「はい、モモちゃん」
「おう!」
彼が足で掴んでサンドイッチを食べ始めたので、一口食べて辺りを見ていたら、手に変な感触が――。
「うわ!」
見れば、私の食いかけをエルフが齧っていた。
サンドイッチが半分以上なくなっている。
「初めて食べるパンだが、中々美味いな」
「ギャー!」
ハーピーが警戒音を出しているのだが、当のエルフは涼しい顔。
「あ~やかましい」
「人のものを食べないで! はい!」
残りを彼に突き出した。
彼は気にしないのかもしれないが、私は気にする。
サンドイッチはまだあるし、どういう事態になるか解らないから、たくさん持ってきてある。
騎士たちを見れば、各々が好きな食事をしている。
身分が高い彼らは魔法の袋を持っているので、新鮮な食べ物でも持ち込めるが、一般の兵士たちは普通にパンとか干し肉などだろう。
「食べ物を持ってきてないの?」
「そんなことはないが、ノバラの食べているものに興味があっただけだ」
「ギャー!」
「はいはい、モモちゃん大丈夫よ」
羽根を逆立てている彼を抱っこして、エルフを脚で追いやる。
「もう! 向こうに行って!」
「私に対する愛を忘れたのか」
「そんなのないから」
食事が終わると辺りは暗くなり風が止まった。
夜になると風が反対方向に吹き始める。
そうなると帆の向きを変えなければならない。
視界は真っ暗になってしまったが、船には羅針がついているらしいので、方角を間違うことはないだろう。
それに船乗りなら星も読めるはず。
暗くなったら、もう私たちにできることはない。
モモちゃんも夜には飛べないし。
私と陛下は船室に入った。
私の所にはモモちゃんも一緒だ。
船室は狭く、小さなチェストとベッドがあるだけ。
一般兵士は甲板の上で寝ているのだから、これでも贅沢すぎる。
「光よ!」
魔法を使って船内を照らす。
突発的な戦闘になるかもしれないので、寝巻きに着替えてはいられない。
服を着たまま寝る。
ベッドは硬くて、お城にあるものとは大違いだが、寝るには十分だ。
私の足下でハーピーが丸くなっている。
「モモちゃんは、船酔いはしないの?」
「そんなのしないぞ?」
「まぁ、空を飛んだり、くるくる飛び回ってたりしたら、船どころの騒ぎじゃないか……」
延々とジェットコースターに乗っているようなものだし。
そう考えると、ハーピーたちは最強の三半規管を持っていそうだ。
寝転がっていると、ドアがノックされた。
「は~い」
ドアを開けると、立っていたのはヴェスタ。
「聖女様」
「具合は大丈夫?」
「はい――明日は、この生命にかけてもお守りいたします」
「私は神様の奇跡があるから大丈夫だと思うのだけど、あなたのほうが心配よ」
「そんな心配は無用です。騎士たるもの、主人を守るために命を捨てる存在なのですから」
そう言う彼を、私は抱きしめた。
「聖女様、いけません」
「どうして?」
「あの……吐いた、においが……その」
「そんなの気にしないから」
「し、しかし」
彼が気にするようなので、私は魔法を使った。
「洗浄!」
青い光が彼の装備に染み込むと、彼の目を覗き込む。
私が出した魔法の光が、青い瞳に映り込みキラキラした星になる。
私はその光に飲まれるように、彼と唇を重ねた。
こんなに私を慕ってくれている金髪の美少年なんて、金輪際出会うことはないと思うのだけど。
ああ、それなのに――ゴニョゴニョできないなんて、神様というのはなんと意地悪なのだろう。
そんな私だが、頭によぎる予感がある。
この戦いが終われば、ティアーズに帰れるのではないだろうか?
そうすれば、みんなで仲良くキャッキャウフフができるのだ。
獣人たちの毛皮も、なで放題だろうし。
モモちゃんを始め、ハーピーたちもいるしね。
すごく楽しそう。
「うふふ……」
「聖女様?」
彼が私の顔を不思議そうに見ている。
「早く聖女の仕事を終わらせて、ティアーズに一緒に帰りましょう」
「は、はい!」
ヴェスタが笑顔を見せると、一礼をして甲板に戻っていった。
私が唇の感触の余韻に浸っていると、モモちゃんが翼を広げて飛んできたので抱きしめる。
「ノバラ~! 俺もチューするぞ!」
「はいはい」
彼のほっぺにキスをしてあげる。
モモちゃんは私の鼻にチューをした。
私は、そのまま硬いベッドに横たわると、眠りについた。
------◇◇◇------
――突然響き渡る鐘の音で目を覚ます。
「総員起こし!」「総員起こ~し!」
外から慌ただしい声が聞こえてくる。
慌ててベッドから飛び起きると、モモちゃんが私の足元で伸びをしていた。
周りが騒がしかったので、起きてしまったのだろう。
彼を抱いて甲板に出ると、兵士や騎士たちは鎧や装備の点検をしつつ、すでに臨戦態勢に入っていた。
敵が近いという判断だろう。
空は雲が多いが、朝日が見える。
船酔いでヘタっている者も多いとはいえ、昨日よりマシになっているようだ。
船の縁から後ろを見れば、しっかりと僚船も3隻ついてきている。
旗を振っているのが見えるので、連絡を取り合っているのだろう。
私の所に、ロッホ様がやってきた。
「聖女様! 申し訳ございませんが、今一度ハーピーによる偵察をお願いいたします」
「モモちゃん、悪いのだけど、お願いしてもいい?」
「おう! でも、ちょっと腹が減った」
「クッキーでいい?」
魔法の袋からクッキーと牛乳を取り出して、彼に与えた。
クッキーはかなりの高カロリー食品だ。
モモちゃんはクッキーを3枚ほど牛乳で流し込んだあと、翼を広げた。
「ごめんね、モモちゃん」
「ノバラは2回も俺を助けてくれた! 俺もノバラのことを助けるから、心配いらない!」
彼が船から飛び降りると、海面スレスレを飛行したあと天高く上昇した。
「「「おおお~っ!」」」
空を切り裂く白い翼に甲板から歓声が上がる。
空に舞い上がったモモちゃんだが、上空を3周ほどするとすぐに降りてきた。
「申し訳ございません、ちょっと甲板に場所を作ってください」
兵士たちが甲板を開けると、そこにモモちゃんが白い翼を羽ばたかせて降りてきた。
「どう? モモちゃん」
「左、あっちの方角! すぐ近くにいる」
彼が、船を見た方向を翼で示す。
「「「おおお~っ!」」」
モモちゃんの報告を聞いたロッホ様が、号令を出した。
「全船左転舵! 我に続け!」
「左転舵! よーそろー!」
船の後部で舵輪を握っていた男が復唱した。
すぐに手旗信号が振られて後続の船にも進路が伝えられると、後ろにいる僚船が蛇のように繋がってついてくる。
兵士と騎士たちが、一斉に食事を取り始めた。
これが最後の食事になるかもしれない。
私も袋から出したサンドイッチを頬張る。
朝に一仕事してくれたモモちゃんにも同じものをあげた。
「ありがとう、モモちゃん」
「気にするな! あはは!」
食事が終わると戦闘準備に入った。
兵士と騎士たちが、ガチャガチャと金属音を鳴らして装備を整えている。
僚船にも手旗信号が送られているので、同様に戦闘準備が行われているだろう。
そろそろ敵と遭遇しそうだと思っていると、マストの上に上っていた水兵が声を上げた。
「左舷10時の方向に敵船見ゆ! 距離およそ半リーグ!(800m)」
「総員戦闘配置!」
「来たか!?」
陛下が船室から出てきた。
「どうか、陛下は船室に――と申し上げても、聞いてはくれませんのでしょうなぁ」
「ははは! そういうことだ。帝国から遠路はるばる、ここまできたのだ。手厚いもてなしをしてやらぬとな」
司令官の檄に、バタバタと船上が慌ただしくなる。
マストの向きが変えられて、船の進路が左側に変わった。
「にゃー」
どこかに行っていたヤミが戻ってきたので、肩に乗せた。
「ヤミ、始まるわよ」
「にゃ」
陛下と司令官、私を含めて偉い人たちは、船の後部の高い場所に構えた。
王宮魔導師兄弟や、近衛の団長であるカイル様もいる。
彼は国王を守る最後の盾になるのだろう。
ここからは船上も海上もよく見える。
司令塔みたいな所だろう。
しばらく波をかき分けて進んでいたのだが、肉眼でも敵船が見える距離まで近づいた。
「向こうも気づいているのかしら?」
「にゃー」
近づいたとはいえ、まだ魔法や矢が届く距離ではない。
船の上ではパタパタと手旗信号が振られている。
ここからどうするのかと思っていると、私たちが乗っている船がスピードを落とした。
自然と、後ろにいた僚船が前に行く格好になる。
その更に後ろの船が左右に広がって前に出た。
艦隊の三隻が前に出て横並び、その後ろに私の船がいる格好だ。
この船は、国王が乗っている艦隊の旗艦なので、戦闘で前に出ることはないのだろう。
双方の船のスピードが出ているのでみるみる距離が詰まる。
特に真ん中の船はまっすぐに敵船に向かうようだ。
でも、そのまままっすぐに進むと……。
「あ、あの、ぶつかるのでは?」
「ニヤリ」
ロッホ様が笑ったので理解した。
そのままぶつけるつもりなのだ。
相打ちになっても動きを止めることができれば、他の3隻でタコ殴りにできる。
さらに艦隊は接近――もう100mもない。
「魔導師様たち、魔法による先制攻撃を!」
司令官の要請により、王宮魔導師の2人が魔法を使う。
相手が船では、普通の魔導師の魔法では役に立たない。
「「赤き爆炎よ――我が声に応じ敵を食らう火炎となれ! 暴食の炎槍!」」
以前に見た、炎の槍の魔法である。
炎に包まれた槍が2本顕現すると、すぐさま敵に向かって撃ち出された。
「「「おおお~っ!」」」
船に乗っている兵士や騎士から歓声が上がる。
一発は敵の船体に命中――もう一発は後ろに逸れて白い水蒸気となり、もうもうと白い煙が後ろに置いてけぼりにされた。
船はお互いに進んでいるので、少し前に撃たないと命中しないわけだ。
「それじゃ私も! むぅぅぅぅ~! 光弾よ!」
一本に魔力を込めて、敵船に狙いを定める。
巨木も薙ぎ払うこの魔法なら、敵の船体に大穴が開くはずである。
「我が敵を撃て!」
光輝く巨大な光の矢が撃ち出され、敵艦に進んでいく。
やった! 命中! ――と思ったのだが、敵の直前で赤い光となってかき消されてしまった。
炎の槍が命中したところも、さほどダメージを受けているようには見えない。
「これって……」
「にゃー!」
枢機卿を倒したときに彼が見せた、対魔法という魔法だ。
船の外板にもなんらかの魔法対策が施されているのかもしれない。
これでは、敵の魔法の効果が切れるまで遠距離攻撃は無理だ。
「「「陛下!」」」
「うろたえるな! それなら、奴らの船に直接乗り込めばいいこと!」
彼がいとも簡単に次の指示を出した。
そう、簡単に見積もっても、こちらの兵力は敵の4倍なのだ。
「ヤミ、魔法が使えなくなったということは、向こうも使えないのよね?」
「にゃ」
それなら、こちらが圧倒的に優位だ。





