93話 王国軍艦隊
帝国軍が森の中に道を作り、港まで作っているらしい。
当然、放置はできない。
悩んだすえ、ハーピーたちを国家間の紛争に巻き込んでしまった。
彼らに魔法の袋を与えて、帝国軍の物資を奪取してもらう。
物資がなくなれば、当然帝国軍の作戦に遅れが出る。
それで十分かと思ったのだが――彼らから放火を申し出てくれた。
ハーピーたちの攻撃手段として、普通に使われる物騒な手である。
王国側に一切の損害を出さずに、敵の進軍を止められるかもしれない。
――ハーピーたちを見送って数日あと、モモちゃんが1人戻ってきた。
彼の話では、放火に成功して船を2隻燃やしたそうなのだが、残った1隻がこちらに向かっているらしい。
これは一大事だ。
私は、可及的速やかに陛下に連絡をした。
すぐに廊下をバタバタと走ってくる音がする。
いつもお忙しい陛下であるが、帝国軍が近くにいるとなるとそんなことも言っていられない。
「聖女様! ハーピーが戻ってきたと?」
「はい! それで、彼の話によれば――」
陛下にハーピーたちがやってくれたことを説明した。
「それでは――2隻は燃やしたが、完成していた1隻がこちらに向かっていると?」
「はい、彼の話では帝国に逃げるわけではなく――」
「むうう……いったいどういうつもりか……」
「にゃー」
「もしかして、最後の切り札を失ったので、ヤケクソで突っ込んで来るのでは……と、彼が言ってますが」
「う~む、考えられなくもないが……」
普通では考えられない行動なので、陛下も戸惑っているようだ。
前に聞いた話では、船1隻に乗ることができる兵力は100人ほどって話だし。
そんな戦力で、王都を攻撃できるはずがない。
「陛下、いかがいたしましょう?」
帝国軍が作っていた港から、船を使って最速で2日の距離だ。
風向きなどで多少は変わってくるだろうが、あまり猶予はない。
モモちゃんが飛んでくるのに半日使っているので、最速で1日半といったところだろう。
「こうなれば、当然迎え撃つ!」
陛下によれば、こちらの軍艦は4隻ほどらしい。
単純計算で1対4――こちらが圧倒的に有利。
普通なら負けない。
陛下は、すぐに関係者を集めて号令をかけるようだ。
あまり時間がない。
陛下の命令の下、すぐに軍が編成されて港に向かう。
王国が所持している軍艦は4隻。
兵士たちが乗る軍艦は3隻で、1隻につき兵士が100人。
合計で300人だ。
最後の1隻が旗艦となり、陛下が陣頭指揮で乗るらしい。
その他の兵士と騎士は、万が一敵に上陸されたときのことを考えて、海岸沿いを固める。
「陛下! 御身を危険に晒すなど、おやめください!」
陛下が前線に向かうことを反対しているのは宰相閣下だ。
まぁ、当然といえば当然といえる。
「なにを申す! 帝国軍のせっかくの訪問だ。私が出迎えてやらねば無作法というもの、ははは!」
宰相の反対も陛下によって押し切られて、そのまま作戦が続行されることになった。
陛下が乗り込む旗艦には近衛騎士が30人ほどが乗り込み、護衛の任務につく。
旗艦まで戦うことにはならないと思うけど。
陛下も最前線に出るということで、部下たちからもかなり反対をされたらしいが、彼は強行したようだ。
国のトップがそういう判断を下したのだろうから、下々の者は従わなくてはならない。
食料などは集めている時間がないので、備蓄している分をかき集めて兵士たちに配ったようだ。
足りない分は、兵士たちに街で買わせて、あとで国が支払うという。
今回はおそらくは短期決戦で、1日~2日で戦闘は終わる。
下手をすれば数時間。
この世界に大砲はないし、魔法の打ち合いにしても大魔法をポンポン打てる大魔導師は限られている。
船と船をぶつけたあと、乗り込んでチャンバラをすれば、数が多いほうが勝つ。
そう見ているのだろう。
なんなら、私の魔法を使えば、遠距離から魔砲矢を使って船体に穴を開けられる。
うん、それで勝てるんじゃない?
私なら連発できるわけだし。
あ、でも――対魔法なんて魔法もあったし、あれが使われたらそうもいかないか……。
そうなったら、やっぱり乗り込んでチャンバラよね。
ヒラヒラした格好で船に乗っていられないので、ズボンに穿き替えて馬車に乗り込む。
私の護衛には、ヴェスタとアルル、そしてルナホーク様が同行してくれている。
ルクスや、私が奇跡で助けた少年などは、他の仕事についているので、この緊急事態には間に合わない。
「こんなことになっては、事務仕事などしておられません。聖女様をお守りしなくては!」
ルナホーク様が気合を入れている。
彼の実力なら心配いらないが、船の上というのは大丈夫なのだろうか?
それはすべての騎士たちにも言えるが。
「私より、陛下の護衛なのでは?」
「我々は聖女騎士団なのですから、聖女様をお守りするのが務めです」
大変ありがたいのだが、誰一人として失いたくはない
命大事にと言いたい。
私がそう望んでも、敵が目の前に迫れば、彼らは聖女に害をなす驚異の前に立ち塞がるだろう。
「にゃ」
ヤミの言葉に横を向くと、キラキラとした金髪が目に入った。
「ちょっと!」
馬車に乗り込んできたのは、エルフのサルーラ。
「なにか問題でも?」
「あるに決まっているでしょ! 他国の大使が首を突っ込んでいい問題じゃないと思うけど」
「これは個人的な問題だ。ノバラになにかあると私が困る」
そう言って私に顔を近づけてくる。
「ちょっと! お城の地下でブッチーニが暴れたときには逃げてたくせに」
「まさか、あんなことになっているとは夢にも思わなかったし、ノバラが戦闘に参加しているとも思わなかった。普通は聖女ならまっさきに逃げるだろう?」
普通の聖女はそうかもしれないが、私は武闘派だし。
なにより、あの枢機卿が相手じゃ私が出るしかないじゃない。
「それじゃ、私が助っ人を頼んだから参加してくれたの?」
「時と場合による」
エルフが端正な顔の顎をあげて、そんなことをのたまう。
ああ言えばこう言う――どうにも信用できないのよね。
見かねたヴェスタが腰の剣に手をかけたので、エルフとにらみ合いになった。
両者の間に火花が飛んでいる。
「「ぐぬぬ……」」
「はい! 止めて! 急ぐんだから!」
揉めている時間はない。
2人を制すると、港町を目指す。
このエルフは本気なのだろうか?
とんでもない呉越同舟になってしまいそうだ。
私たちの前には陛下が乗っている白い馬車。
その上には、王宮魔導師の兄弟が乗っている。
さすがに戦力として駆り出されるか。
「にゃー」
「陛下も船に乗るというのに、私だけ残るわけにはいかないでしょ?」
「にゃ」
「あなたはどうなの? ネコなのに戦争につき合う必要はないと思うけど」
「にゃー」
「ああ、あの人」
彼の話によれば、魔法の通信で見かけた帝国の将軍とやらが来ているかもしれないと言うのだ。
「もし、あの人が来ていたらどうするの?」
「にゃ」
「私の力……?」
そのときには、私の力を貸して欲しいと言う。
なにをどう貸せばいいのか、この時点では言ってくれない。
まぁ、あの将軍様が来るかどうかも解らないし。
彼は私の心配をしてくれているようだが、陛下になにかあれば私の力が即必要になるだろうし。
戦闘が終わったあとで、すぐに奇跡を使えば救える命が増えると思う。
残念ながら、戦闘中の最中、1人1人に私の力を使うわけにはいかない。
戦っている最中に重傷の者を1人救っても、そこで昏倒してしまえば、次の者が助けられなくなってしまう。
それは悪所で行われた先の戦闘と同じだ。
大変心苦しいのだが、より多くの命が助かる選択をしなければならないのが、聖女の務めだ。
「ノバラ!」
私が乗っている馬車の上をモモちゃんが飛んでいる。
速度差がありすぎるので、ぐるぐると周りながらついてきているようだ。
「モモちゃん! さっき言ってた船が、どちらの方角から来るのか見てきてくれない?」
「そんなの簡単! まかせろ!」
「「……」」
そう言ったモモちゃんであったが、エルフがいたので睨み合っている。
すぐにプイと顔を背けると、風に乗って上昇した。
空から見れば、やってくる方角、速度――敵の行動は一目瞭然。
元世界でいうところの、飛行機による偵察だ。
敵は空からの目を持っておらず、こちらはそれを持っている。
これだけでも、こちらの優位は揺るぎない。
以前陛下と話したときに、戦場の偵察などをハーピーにはさせないと私自身が言っていたのに、この有様。
結局は巻き込んでしまっている自分に自己嫌悪してしまうが、戦闘で優位に立てれば、こちらの犠牲者を減らすことができるわけだし……。
港に着いた私たちはここで待機。
軍艦は沖にある海軍基地にあるから、こちらに呼び寄せなければならない。
どうやって連絡するのだろうと見ていると、近くの建物から狼煙が上がった。
数は5本で、1本は赤い。
狼煙の数が、呼び寄せる船の数を表しているのだろうか。
赤は、緊急事態ってこと?
連絡はしたが、大きな船を動かすためには、時間がかかるのではないのだろうか。
近くにいた陛下に質問してみた。
「おそれながら陛下、船というのはどのぐらいで出港準備できるものなのですか?」
「ふむ、普段からの訓練を疎かにしていなければ、1時間以内にはこちらに向かってくるはずだが……」
こちらもまだ、食料の買い出しに行った兵士たちが戻っていないところがある。
1時間ほどあれば、こちらの準備も整うのではないだろうか。
「サルーラ殿、大使である貴殿になにかあれば、我々が困るのだが?」
まぁ、これは陛下の言うとおりよねぇ。
「その旨は、精霊通信で里に伝えてあるゆえ、なんの問題もない。これは個人的な問題だ」
陛下としても、エルフが戦力になってくれるのはありがたいのだろう。
「でも、エルフが帝国との戦に参戦しているというのは問題がありそうな……」
「別に問題ではないな。奴らは我々に断りもなく、森を切り開くという禁忌を犯しているのだから」
エルフ的には、それは許されない行為だったのか。
せめて、エルフとの共同作業の公共事業みたいな感じだったらよかったのに。
そもそも、争いをせずに普通に交易をしたほうが儲かりそうなのにねぇ……。
――そわそわと落ち着かない時間を過ごし、陛下との会話のあと1時間ほどがたった。
「お姉さま!」
「え?!」
聞き覚えのある声に、私は驚いて振り向いた。
鎧を着た一般の兵士が、学園の制服を着た女の子を連れていた。
「あの……子爵様のご令嬢という方が、聖女様をお探しになられていましたので……」
「ククナ様」
「お姉さま!」
彼女が走ってきて、私に抱きついた。
「ククナ様、なぜここに」
「あ、あの! 帝国が攻めてくるという噂が街中に広がって……」
「ええ? たった2時間ぐらいなのに、学園まで話が届いたの?」
「……」
彼女が黙ってうなずいた。
「ククナ様、大丈夫ですよ。こちらに向かってくるのは、1隻だけですし。王国には4隻も船があるんですから」
「でも……」
そこにヴェスタとアルルがやって来た。
「ククナ様、私も大丈夫だと思いますよ。聖女様もおられることですし」
「ほら、ヴェスタもあのように言ってますし」
「……いつから彼を呼び捨てにするようになったの?」
突然ククナのツッコミに私は慌てた。
そういえば、お城の中で彼とのお話は完結してしまっていたので、それらのことは彼女は知らない。
「あの~ヴェスタは私の騎士になりましたので。いわば聖女騎士です」
そこにルナホーク様も加わった。
「私も聖女騎士の1人ですよ。ティアーズ子爵令嬢様」
「……ずるい! 私も、そこに入る!」
「駄目ですよククナ様。ククナ様には、立派な婿様を見つけてティアーズ領を継ぐというお仕事がありますでしょ?」
「う~」
「騎士団に入れば危険なこともありますし。戦闘にも駆り出されます。御身になにかあれば子爵様に顔向けできません」
ククナがごねているのだが、こればっかりは認められない。
彼女をなだめていると、兵士たちから歓声が上がった。
「「「おお~っ!」」」
海の向こうから、高いマストと張られた白い帆が見えてきたのだ。
それを見た兵士たちが湧く。
「にゃー」
「そうなの?」
王国の軍艦は、帝国のそれより小さいらしい。
「にゃ」
「でも、森の中でそんな大きな軍艦とか作れる?」
そもそもハーピーたちの放火によって慌てて出港したはずで、十分な兵力を搭載していない可能性だってある。
船がやってきたことで、港が慌ただしくなってきた。
「ククナ様、ここは危険なので、学園にお戻りください」
「……お姉さま、無事に帰ってきてね」
「大丈夫ですよ。ほら、近衛騎士団も乗り込んでますし、王宮魔導師兄弟もいますから」
私が指した方向に、レオスと小さいお兄さんがいる。
「もしかして、王宮魔導師のレオス様?!」
「そうです。ククナ様も会いたがっていましたよね」
「ふわぁ……」
憧れの人を見て、ククナも喜んでいるようであるが、船の接岸が始まるので作業の邪魔をするわけにはいかない。
「それではククナ様。戻ってきたら街へ買い物に行きましょう」
「お姉さま! きっとよ! 約束よ!」
「はい」
ククナが、軍隊が集まっている場所から離れると、学園に戻っていった。
船が近づいてくると、たくさんの人たちと馬が出てきて、なにやら準備をしている。
軍艦が帆を畳み――なにかを飛ばしてきた。
飛んできたものを受けとると、男たちがそれを手繰り寄せていく。
最初は細い紐だったのだが、最後は太い縄になる。
それを馬につなげると、一斉に岸に向けてひっぱり始めた。
船を桟橋まで誘導するらしい。
この世界の船は風任せで自分で動くための動力もないし、船を引っ張る船などもない。
自力で接岸などができないので、このような形になっているのだろう。
それにしても手慣れている。
私たちが見ていると、あっという間に4隻の軍艦が桟橋に接岸した。
まぁ、この様子を陛下に見られているわけで、無様なところは見せられないだろう。
すぐさま、大きな車輪と階段がついたタラップがやってきて、船に接続された。
船の上から立派な制服を着た、ヒゲの生えた男が降りてきた。
かなりのごつい大男である。
近衛の団長であるカイル様と同じぐらいの感じだろうか。
金糸の刺繍に黒い上下、肩にも金の飾りがついている。
黒い帽子の下は、髪の毛はシルバーというかグレー?
「陛下! 緊急事態とは、いったいなにごとですか?!」
男がやってくると、帽子を取った。
「ロッホ! 帝国軍だ!」
「なんですと! 帝国軍?! 真でございますか?」
「このようなことを冗談で言えるはずがなかろう」
「失礼をいたしました。それで敵の軍勢は――」
「1隻だ」
「1隻ですか?」
訝しむ男に、陛下が今までのことを話した。
彼は海軍の指揮官――つまり海で一番偉い人らしい。
陛下からハーピーたちのことを聞いて驚いている。
「なんと、ハーピーを偵察に使い情報を集めるとは……いつから王国はそのような作戦を?」
「すべて、そこにおわす聖女様のおかげである」
「聖女のノバラです。よしなに」
「おおっ! 陛下が珍しく女性を連れていると思ったら、あなた様が噂の聖女様でございましたか」
彼が私の前にひざまずいた。
珍しく一目で男装の私を女性だと見抜いてくれたようだ。
――ということは、私は手を出すしかないでしょう。
自分の右手を差し出した。
「許します」
彼が私の手を取ると、甲に口をつけた。
それが終わると、帽子を被り右手に力を込めて握りしめる。
「陛下、やっと海軍の日頃の訓練の成果を見ていただけるときがきたということですな!」
「そういうことになる。存分にその手腕を振るうがよいぞ」
「かしこまりました――と、申したいところなのですが……」
「なんだ? なにかあるのか?」
「もしかして、陛下御自ら出撃いたしますので?」
「ははは! そのとおりだ! 帝国軍が遠路はるばるやってくるのだ。どういうやつらか顔を拝みたくてな」
多分帝国は、極秘の計画を進めて王国に一泡吹かせて――みたいなことを考えていたのだろう。
ほくそ笑んでいたのに、突然ハーピーに襲われてボコボコにされてしまった。
陛下はそれを笑いに行きたいのだと思う。
この人の性格からして。
「あの、ロッホ様で――よろしいんですよね?」
「なんでしょうか、聖女様」
「今、ハーピーに空を飛んでもらい、どのぐらいの距離でどの方角から敵がやって来るのか偵察をしてもらっています」
それを聞いた彼は、自分の額に手を当てた。
「なんと! 空からの偵察で、海の上の戦場が手に取るように把握できるとは」
「ふふん、今上の聖女様は凄かろう」
「いや、まったく。どうやって、あのハーピーどもを手懐けているのやら……」
「手懐けるとか、そういうことではありませんよ。ただ、友人にお願いをしているだけですから」
「なるほど……」
「作戦や戦闘に組み込むとか、そういうことは考えないようにしていただきたいです」
「承知した。ハーピーの機嫌を損ねると、とんでもないことになるという話ですからな、ははは」
やっぱり、その話は有名なのね。
まぁ、上空から音もなく忍び寄られて、放火とかされちゃねぇ。
準備は整ったので、兵士たちが乗船を始めた。
見れば船の上は、乗り込む兵士たちの他にも、船の乗組員たちが50人ほどいる。
大混雑だがやむを得ない。
1日もしないウチに、海の上で戦闘が始まるのだ。
陛下が乗り込んでいる旗艦は、近衛が30人だけなので、余裕がある。
果たして、馬から降りて船の上で戦う騎士たちは、いつもと同じように戦えるのだろうか?
少々心配ではあるが、彼らは普通に剣で戦ってもかなり強い。
多少足場が悪くても、相手に遅れを取ることはないかもしれない。
陛下の周りにはお世話係のメイドたちも10人ほどいる。
仕事とはいえ、戦場にまでつき合わなきゃだめというのは、中々大変な仕事だ。
ブラックな職場には間違いないが、彼女たちは強制ではなく志願している。
それだけ陛下のお付きのメイドという職業に、誇りを持っているのだ。
――船で待機すること1時間。
青い空に飛ぶ、たくさんの白い鳥たちが一斉にいなくなった。
その間に白い翼がやってきて、船の上をぐるぐると旋回している。
「ハーピーだ!」「ハーピーか?!」「あれが、聖女様の?!」
船の上から手を振ると、モモちゃんが海上スレスレを飛んできて船の手前で上昇――私の所に飛び込んできた。
「ノバラ!」
「モモちゃん! 帝国の船はいた?」
「いたぞ! こっちに向かっている!」
「「「おおお~っ!」」」
私に抱っこされているモモちゃんを見て、船員たちが驚きの声を上げている。
狭い船上には、たくさんの男たちがいるので、彼は少々戸惑っているようだ。
「どっちの方角から来るの?」
「あの島の右側!」
「「「おおお~っ」」」
「やはり、より安全な航路を通ってきますか……」
司令官であるロッホ様がニヤリと笑っている。
彼もおおよその見当はついていたものと思われる。
「まぁ、当然だな」
向かって島の右側のほうが陸に近いから、より大型の魔物に出会う確率が少ないというわけだ。
比較的安全で、漁業などが行われているサンダルース湾だが、魔物の数はゼロではない。
外洋に近い島の左側の航路は、より多くの魔物に遭遇する確率が上がる。
「ロッホ、出港の準備は万端整っておるか?」
「はい陛下――いつでも出港のご命令を」
「よし! 全艦出撃! 島の右側を進み、帝国軍を迎え撃つ!」
「「「おおお~っ!」」」
一斉に船員たちが持ち場につくと、見事な連携プレーで畳まれていた帆が開いていく。
目が回るくらいの慌ただしさだ。
それを見ていた騎士団も感嘆の声を上げている。
「一糸乱れぬ動きがないと、船は操れませんので、このぐらいは当然ですよ」
ロッホ様の言うとおりなのだろう。
いよいよ出港のときがきた。





