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92話 お城の庭は大騒ぎ


 ある作戦を実行するために、魔法の袋を100個集めてもらっている。

 これらをハーピーたちに渡して、ちょっとした仕事をしてもらう。

 いきなり100個の袋をかき集めるので、市場は袋不足になるかもしれないが、そんなことをいっている場合ではない。

 モモちゃんの話によれば、帝国軍が近くまで迫っている可能性があるのだ。

 敵は森を切り開き道を作り、港まで作って、そこで船を建造しているらしい。


 お城の庭に100人のハーピーたちが集まり、魔法の袋が来るのを待っている。

 その間、街に行って彼らがいたずらをしたりしないように、お城で食事を用意した。

 彼らの世話は、私を中心にしてメイドが数人、その他のメイドたちはバックアップにすべて回っている。

 沢山集まった翼を持った子たちは可愛いのだが、髪が伸び放題だ。

 せっかく可愛い子ばかりなのにもったいない。


 ハーピーたちの髪をカットしていると、陛下とファシネート殿下がやって来た。


「聖女様、袋はもう少しで揃う。しばし待っていただきたい」

「かしこまりました」

 ここで少々気になっていることを陛下に聞いてみた。

 森の中で船を建造しているという帝国軍だが、モモちゃんの話では、2~3隻ほどだという。

 まぁ、そんな場所で大量の船なんて作れるはずないだろうし。


「陛下、船1隻でどのぐらいの兵隊を運べるものなのでしょう?」

「大きさにもよるが、通常の軍艦であれば100人ほどだろうか」

「彼らが建造している船が2~3隻であれば、やって来る敵はせいぜい200~300人ということになりませんか?」

「そうだ。軍事の会議でもその話が出ていた」

「それだけの兵力でどうするつもりなのでしょう?」

 私の疑問に、ちょっと離れたところから、騎士団の団長であるヴァンクリーフの声がした。


「多分、我々にバレていないと考え、夜襲などをかけて、お城から聖女様だけを奪うつもりなのでは?」

「まぁ、おそらくはそのような作戦なのではないか? ――というわけだ」

「別に私がいても、国が変わるわけではないと思いますが……」

「帝国は、まつりごとが上手くいっていないようだ。人気取りでもさせたいのだろう」

 議院内閣制にしたからといって、政治が上手くいくわけじゃないしね。

 元世界でも破綻した国とか普通にあるし。


 私と陛下が話していると、その隣にいるファシネート様がモジモジしている。


「殿下、女性ならハーピーたちに近づいても大丈夫だと思いますよ」

「わ、私はだめなのか?」

 陛下が一歩踏み出すと、ハーピーたちがさささっと離れた。

 まぁ、こうなるわね。


「申し訳ございませんが、男性は警戒されてますから……」

 私の言葉に陛下ががっかりしている。

 それを横目にファシネート様が私の近くにやって来ても、ハーピーたちは見ているだけ。

 一応、気にはしているようだが、脅威だと思っていない。


 彼女が私の隣にやってくると、怖いもの知らずなのか、茶色の子どもがパタパタとこちらに飛んできた。

 殿下が手を伸ばすとそこに飛び込んできて、彼女の顔をじ~っと見つめている。

 翼は茶色で模様が入っているが、首の周りには白いぽわぽわが巻かれているのが可愛い。


「可愛い!」

 珍しく殿下が声を出しその子を抱いても、逃げたりせずになすがままにされている。

 ファシネート様が、ハーピーたちのお友達認定2号になるのだろうか。


「あ! そうだ」

 今思い出したのだが、モモちゃんたちに聞くことがあったのだ。

 すっかりと忘れていた。


「モモちゃん」

「なんだ!」

 彼が私の前に飛んできた。


「そんなことはしないと思うのだけど――お城にいる女の子たちにいたずらとかしちゃだめよ?」

「大丈夫だ! そんなことはしない!」

「よかった」

「そんなことをすると大変なことになる!」

 なにが大変なのだろう……。


「ハーピーの仲間内でもそういうことがあったらどうなるの?」

「女に嫌われると、女全部から嫌われて子どもが作れなくなる」

「あ~そうなのね~。ハーピーの女子たちは、横の結束がすごい強いわけか」

「そう!」

 好きな人を独占しないみたいな話を聞いていたけど、誰構わずゴニョゴニョするわけじゃ~ないのね。

 とりあえず相手の同意は必要と。

 殿下などにいたずらされたら大変なことになるんじゃないかと思っていたが、それは杞憂だったようだ。


「モモは、ノバラとしたのか?!」

 ハーピーの1人がそんなこと言い出したので、私はその場で噴き出した。

 なんちゅうことを聞くのだろう?


「してない!」

「あ~ごめんねぇ。私は神様からもらった力を守るために、男の子とそういうことができない身体なのよねぇ」

「そうなのか?!」

 彼らはモモちゃんから私の話を聞いていないのだろうか?

 そういえば、彼はずっと私の周りにいたから、しばらく仲間たちと疎遠になっていたのかもしれない。


「そうなの」

「神様の力ってどんなのだ!」

「そうねぇ、病気や怪我が治ったりぃ」

「ワイバーンに襲われたとき、俺の翼が折れた。それもノバラが治してくれた!」

「嘘だ!」「翼が折れたら、もう飛べないんだぞ!」

「嘘じゃないぞ!」

「う~ん……」

 まさか、ここで怪我をしてみろとは言えないしねぇ。

 まぁ、私といれば奇跡を見るチャンスはあると思うのだけど。


「そうだ、祝福というのもあるわよ」

「それはどういうのだ?」

「どういう効果が出るのか説明が難しいのだけど……その前に、ハーピーって神様のこと信じてる?」

「「「信じてる!」」」

 彼らの信仰している神様は、私たちがいつも話に出す神様と同じらしい。

 文化的に違うから、違う神様を信仰しているのかと思った。

 それじゃ大丈夫ね。

 試しに、モモちゃんに祝福を与えてみることにした。


「わくわく!」

 ハーピーたちも興味津々だが、その様子を見ているファシネート様も同様だ。


「天にまします我らが神よ、私の目の前にいる翼を持った種族に祝福の御手を伸ばしたまえ」

「ノバラ!」

 祝福が成功したのだろう。

 私は、数秒気を失っていたようだ。

 ハーピーたちが、覗き込んでいる。


「どこか変わった?!」

「キラキラしてた!」

 彼らも、祝福の光を見たようだ。


「光が出たってことは、モモちゃんに祝福が与えられたはずよ」

「……そうか! それじゃ飛んでみる」

 彼が仲間の上をジャンプして超えると、お城の庭を猛スピードで走り始めた。


「え?!」

 いつもよりすごく速くない?

 そのまま上昇したのだが、そのスピードも異常だ。

 祝福によって、走るスピードが上昇するのは――まぁ解る気がする。

 彼らは風に乗って飛ぶらしいのだが、そのスピードまで上がることがあるのだろうか?

 奇跡によって空気抵抗が軽減されるとか?


「あはははは!」

 彼が笑いながら、お城の庭を猛スピードで旋回している。

 普通ならあり得ない速度だ。


 そのまま地面スレスレに飛行してから着地の姿勢に入ったのだが、そのスピードも速すぎる。

 止まりきれないで、つまづいて地面の上をゴロゴロと転がった。


「きゃー! モモちゃん!」

 慌てて彼に駆け寄る。


「あいたた……失敗した」

「大丈夫?! モモちゃん!」

「大丈夫!」

 彼の身体が擦り傷だらけになっている。


「傷だらけじゃない!」

「あはは! 着地に失敗するなんて、子どもでもしない」「あはは!」

 モモちゃんが仲間から嘲笑の的になっている。


「あんな速度で飛べるようになって、上手くできないのは当たり前!」

「そんなことない!」「俺ならもっと上手く飛べる!」

「それじゃやってみろ!」

 ハーピーたちが喧嘩しそうになったので、間に入る。


「はいはい! ちょっとまって! 喧嘩している場合じゃないから」

 彼の身体に癒やしの奇跡を使う。

 私の与えた祝福のせいで、怪我をしちゃったし。


 ――数秒の昏倒と引き換えに、モモちゃんの身体は綺麗になった。


「すごい!」「怪我がすぐに治った!」

 ハーピーたちが集まってきてワイワイ言っている。

 翼をバサバサ広げて騒ぐので、凄くやかましい。

 普通の子どもでも沢山いると台風だが、この翼がある見かけ子どもたちは台風を超えている。


「ノバラ! 俺にも祝福ってやつをくれ!」

 他の子たちが騒ぎ始めた。


「ちょっと、モモちゃんを見たでしょ? 危ないから」

「いや、俺ならあんなヘマはしない」

「なんだ?! それならやってみろ!」

「やってやる!」

 また喧嘩を始めたので止める。

 えらい騒ぎになってしまった。

 最後までモモちゃんに突っかかっていたのは、黒白の男の子だ。

 髪と翼の途中まで黒くて、あとは白い。

 騒ぎが収まらないので、やむを得ず黒白の子にだけ祝福を与えてみることにした。

 ちょっと心配なのだけど……。


「天にまします――」

 数秒の昏倒のあと、目の前にいたハーピーに祝福が与えられたようだ。

 力を使うと私が倒れると解ってくれたのか、ハーピーたちが集まってきて背中で支えてくれるようになった。

 彼らには手がないからね。


「いくぞ!」

 気合を入れた彼が、モモちゃんのときと同じように、ものすごいスピードで大空に駆け上がった。

 やっぱり速度が上がるってことは空気抵抗が関係しているのかな?

 それだと揚力も落ちてしまいそうだけど、ある程度のスピードが出たらそれも関係ないのかも。

 自分で飛ぶなんてことはあり得ないから、そこら辺はよく解らない。


 天高く上昇して、急降下に移ったハーピー。

 地面近くまで猛スピードでやってきて、そのまま旋回に移った。

 お城の庭を円を描くように飛んでいたのだが、オーバースピードだったので円弧が大きく膨らんだ。

 そのままお城の壁に激突して、くるくると回転しながら地面に叩きつけられた。

 皆が見ている中、地面をひっぱたいたような大きな音が響く。


「ぎゃー!」

 それを見た私は、悲鳴を上げた。

 本当に毛が逆立ち、全身の毛穴が開くような感じが襲い――次には頭から氷水をぶっかけられたように血が引く。

 慌てて墜落した彼に駆け寄ると、ヴェスタを呼んだ。


「ヴェスタ! 来て!」

「はい!」

 ハーピーは反応がなく、身体を痙攣させている。

 見ただけでやばいと解る。

 私はすぐに癒やしの奇跡を使った。


「天にまします我らが神よ。目の前に倒れる暴虎馮河(ぼうこひょうが)な翼ある者に癒やしの御手を伸ばしたまえ!」


 ――途切れる私の記憶。


「ノバラ!」

 私はモモちゃんの声で目を覚ました。

 気を失っていた時間は5分ほどらしい。

 危険な状態だったが、身体に大きな破損などがなければこのぐらいか。


「あなたは大丈夫?!」

 私は奇跡を使った、黒白の男の子の身体を確認した。


「しっぱいした……」

 墜落した記憶はあるのだろう。

 ものすごく気まずそうにしている。

 男の子ばかり見ていたのだが、気がつくとハーピーたちが皆周りに集まっていた。

 騒ぐこともなく、ジッとして大人しくしている。


「こういうことがあるから、もう祝福は禁止ね」

「「「わかった」」」

 なんか凄く物わかりがよくなった気がするのだけど、自分たちが扱えない速度を得ることができる。

 ――ということは理解できたのかも。


「まぁ、絶対に禁止ってわけじゃないけど――たとえば、すごく急ぎのときとかには役に立つかもしれないし……」

「すべてノバラに任せる」

 モモちゃんが言った言葉に、他のハーピーたちも従っているようだ。


「どうしたの? ずいぶんと静かだけど……」

「そいつ、さっきの落ちかただと普通なら死んでいたはず。それがノバラの力で助かった」

「そういう力があるから、このお城の人たちや只人の偉い人も、私を大事にしてくださっているのよ」

「ノバラは神の使い」

「まぁ、そう言われているわねぇ」

「俺たちは、ノバラに従う」

 さっきまでのワイワイ台風のようなハーピーたちが静かだ。


「そ、そんなにかしこまらなくてもいいから! いままでどおりでいいのよ」

「そうはいかない!」

「う~ん、君たちに任せるけど……」

 あれだけ騒々しく竜巻みたいだったハーピーたちが静かに私の話を聞いている。

 言うことを聞いてくれるのはいいのだけどねぇ。


 ――数日あと、魔法の袋がすべて揃った。

 彼らからのリクエストで首にかけるようにしたのだが、紐だと首の所が擦れるらしい。

 それを防ぐために紐を太く帯状にしてみた。

 ハーピーたちはすっかりと大人しくなり、私が話す作戦をジッと聞いている。


「この魔法の袋をあげるから、森の中にいる連中のものを取ってきてほしいの」

「なにを取ってくる?」

 皆が並んで、いい子にしている。


「なんでもいいわよ。袋に入るものならなんでも」

「そんなことでいいのか?」

「ええ。このお城にいる人たちは、森にいる連中がどんなものを持っているか知りたいの」

「それなら簡単にできる!」

「森からものを持ってきて、ここに出したら――お礼にその袋はあなたたちにあげるから」

「本当か!? このなんでも入る袋をもらってもいいのか?」

 ハーピーたちが騒然となる。


「ええ、本当よ」

「よし! 行くぞ!」「俺も行く!」

「ああ、でも! 危ないことをしちゃだめよ? 森までは私の力は届かないんだから」

「解ってる!」「そんなヘマはしない」

「――とか言って、壁に激突した子がいたじゃない」

「あいつは間抜けだからしかたない」「そうだ」「子どもみたいに、はしゃいだ結果」「ノバラがいなかったら死んでた」

 ツッコミを受けている黒白の子は、かなりバツが悪そうだ。

 辛辣ねぇ。

 私の力を使ってスピードアップしちゃったから、こちらにも責任はあるんだけど……。


 袋を首にかけたハーピーたちが一斉に飛び立った。

 さすがに、毎日これだけのハーピーが飛び回っていれば、隠すこともできない。

 街ではハーピーたちの話題でもちきりだ。

 怖がって外に出ない人もいるらしい。

 上空から投石を受けたり、火を点けられるなんて噂が広まっているせいだろう。

 敵対行為をしなければ、少々のいたずらぐらいで済む。

 一応、街に行ってものを取ったり、いたずらをしないでほしいと、お願いはしている。

 彼らは私の言うことを聞いてくれるという約束をしてくれた。

 多分、大丈夫だろう。

 食事もお城で出したしね。


「聖女様……」

 陛下が私の所にやってきた。


「はぁ~、やっと世話が終わりそうって感じです」

「聖女様にすべて押し付けてしまい、大変心苦しく思っております」

「それは構いません。彼らは私の言うことは聞いてくれるようですし」

「真に、聖女様がいなければ、ハーピーたちを操るなど到底不可能なこと」

「操るなんて、人聞きの悪い――私は、彼らにお願いをしているだけですが」

「これは失礼をいたしました」

 可愛い顔をして珍しい人種なのは解っているが、陛下の中でも彼らが亜人という意識が根っこにあるのかもしれない。

 まぁ、普段エルフとかとつき合っていると、姿かたちは似ていてもまったく別の生き物という感覚は拭い切れない。


「ああ、やっぱり理解できない」という感情を持ったとしても、責めることはできないだろう。


 いろいろと騒ぎはあったが、ハーピーたちのお城から出撃は完了した。

 あとは彼らの帰りを待つだけだ。

 あまり無茶をしなければいいのだけど……。

 なんか、遊びでとても危ないことをしちゃったりとか、そんな感じじゃない?

 いたずらっ子が遊びに行ったのを心配している母親の気分は、こんな感じだろうか。


 ------◇◇◇------


 ――魔法の袋をゲットしたハーピーたちが、森に出撃して数日あと。

 私が部屋にいると、外から声がする。


「ノバラー!」

 窓から空を見るとたくさんのハーピーたちが旋回していた。


「前と同じ場所に降りて~!」

「わかった!」

 慌てて庭に走る。

 もうさすがに、お城の構造は把握しているので、メイドに案内されなくても大丈夫。


 私は庭に到着すると、色とりどりのハーピーたちが着陸してきた。

 以前は、ワイワイと騒ぎ放題だったのだが、今日は静かだ。

 1人1人が前に出て、帝国軍から奪ってきた戦利品を出してくれた。

 それが100人分だ。

 あっという間に、荷物の山ができた。

 スコップ、斧、食料、食器、武器、鎧――本当になんでもある。

 それにこれらは、ハーピーたちには必要ないものだろう。

 魔法の袋らしきものもあるので、もしかして機密書類のようなものもあるかもしれない。


 ワイワイとやっていると、連絡を受けた陛下と騎士団長がやって来た。


「これらのものを帝国軍から奪ってきたのか?」

 陛下も、うず高く積まれたアイテムの山に目を丸くしている。


「これは凄いですな……確かに帝国のものばかりだ……」

「急いで、これらを手分けして分析させろ!」

「ははっ! かしこまりました!」

「陛下、これだけの物資を奪えば、帝国の計画も大幅に遅れるのではないでしょうか?」

「う~む、聖女様のおっしゃるとおりだ……物資が足りなくなれば、また帝国から輸送しなければならぬしな」

「陛下、食べものなどは必要ないのでは?」

「そうだな」

 ハーピーたちに食料などはあげることにした。


「食べ物はもらっていいのか?」

「ええ、お城の人たちは食べないと思うし。腐ったらもったいないでしょ?」

「それじゃパンをもらった!」「果物をもらう!」「干し肉!」

 ハーピーたちは、物資の山を崩して食料を袋に入れ始めた。

 さっそく袋が役に立っている。


 私の所にモモちゃんがやって来た。


「ノバラ! もしかして、やつらの邪魔をするために取らせたのか?」

「そうなの、ごめんね」

「別に謝ることない! それならもっといい方法がある! 奴らの船に火を点ければいい!」

「ええ!?」

「おおっ! そのようなことができるのか?!」

 陛下は乗り気だ。

 もしかしたら、簡単に帝国の作戦を頓挫させることができるかもしれないし。


「そんなことできるの?」

「簡単!」

「陛下、よろしいのですか?」

「我らの国に土足で入り込もうとしている輩に遠慮することはあるまい」

「それじゃ、森に帰る途中にでもやってくれる?」

「おう! 任せろ! こいつらは森に帰るだろうけど、俺は戻ってくるからな!」

 モモちゃんはここらへんに住み着くのだろうか?

 他の子たちは森に帰るようだが……。


「お願いね」

「おう!」

 メイドたちが数人やってきて、自分の袋からお土産を出し始めた。

 ハーピーたちに渡すために用意してあった、クッキー袋だ。


「はい、皆に1つずつお土産があるから、持って帰ってね」

「なんだ?」「クンカクンカ! 俺は知ってる! クッキーというお菓子!」「俺ももらう!」

 1人1人にクッキーを渡すと、ハーピーは次々と飛び立っていった。

 その様子を、いつの間にか集まってきていたお城の人たちが見上げている。


「それじゃノバラ! 行ってくる!」

「気をつけてね」

 モモちゃんが猛スピードでダッシュすると、あっという間に大空まで舞い上がった。


「ははは、聖女様のおかげで、軍を動かさずに帝国軍を撃退できるな。このようなことは前代未聞であろう」

「王国の民にまったく犠牲者が出なくてよろしゅうございました。帝国の人たちは少々不憫ですが……」

「侵略者どもに、情けをかける必要などないのでは?」

「我々が信じる神から見ましたら、同じ信徒でしょうし」

「まぁ、それはそうであるがな……」

 神様から見たら国の違いなんて解らないだろうしねぇ。


 ------◇◇◇------


 ――ハーピーたちが、お城を飛び立って数日あと。


「ノバラー!」

 外からまたモモちゃんの声がする。

 窓を明けて空を見ると、彼1人なので窓から離れた。

 そこにめがけてモモちゃんが飛び込んできた。


「モモちゃん、どうだったの?」

「2隻の船に火を点けたが、1隻が逃げ出した!」

 ――ということは、船は3隻で確定らしい。


「逃げる? 逃げるってどこに? 帝国に帰ったの?」

「違う! こちらに向かってる!」

「ええ?! 本当に?!」

 こっちに向かってる?

 たった1隻で?

 ハーピーの速度で1日の距離だけど、船ならなん日ぐらいかかるのだろう。


 それよりも、陛下に報告しなくては。


 

長らくご愛読いただきました

黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~ は、

今回を入れて、あと5回で完結となります

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