87話 魔物と化す
教団の枢機卿という男が私を嫌っていたのだが、異教徒だったという。
この国で信奉されている神様を祀っている教団で、異教徒がはびこっていたという事実。
全然信じてない神様を拝むフリをして、自分の神様を拝んでいたのだろうか?
私には理解できない世界ではあるが、魔女を操って聖女を暗殺したり、その事件を使って世論を分断しようとしたりと――色々な工作を行ってきたようだ。
こんな結果になるなんて国王陛下も頭が痛いだろう。
頭が痛いのは陛下だけではない。
教団のトップだった大司教も、自分が治めている教団でこんなことが行われていたなんて、さぞがしショックだったと思われる。
私の所を訪れた大司教様とそんなことを話していると、突然お城が揺れた。
まさか地震?
この国でそんな話は聞いたことがなかったのだが、一緒に話していた魔導師のミルスはお城の地下からの振動だと言う。
「いったいなに?」
「にゃー!」
断続的に振動が伝わってきて、まるでなにかが暴れているような感じだ。
慌てて部屋の外に出ると、廊下には護衛の近衛騎士がいる。
「なにごとですか?!」
「わ、解りません!」
すぐに控室にいた、ヴェスタとアルルも姿を見せる。
突然の異常事態に、護衛に守られた陛下とファシネート様もやってきた。
「いったい、なにごとか?!」
「まったく解りません!」
殿下はいつも一緒にいるメイドに抱きついている。
「とりあえず、お城の外に避難したほうが……」
「聖女様のおっしゃるとおりだ」
「陛下!」
私の部屋から大司教様と、彼が連れてきた女性も出てきた。
お兄さんも一緒だ。
「猊下も避難を」
「はい」
護衛の騎士に守られながら階下を目指していると、騎士が数人やってきた。
その中には近衛騎士の団長であるカイル様がいる。
「カイル! いったいなにごとだ!」
「陛下! 地下に捕らえておりました、ブッチーニの仕業でございます! 騎士団の犠牲者が多数でております!」
「「なに!? ブッチーニが?!」」
陛下と大司教の声がハモった。
「え?! あの男の脚は、私の力で逆さまにくっつけたので、そんな――暴れるなんてできないはず……」
「ああ、私も見たぞ。恐ろしい姿になっておった」
陛下が私のやった惨状を思い出しているようだ。
「そ、それが――自力で回復した模様で……」
「なんだと?! そ、それでは、聖女様と同等の力を持っていると申すのか?!」
「か、確証はございませんが――おそらくは……」
「な、なんということだ……」
「それでは、もしかして――異神の聖者ということになるのかな?」
「「「……」」」
私の言葉に、皆が顔を見合わせている。
「くっ!」
「大司教様、どこに行かれる!」
陛下の言葉に、彼が振り向いた。
「私が、ブッチーニの所に参ります。ロドレッタ、そなたには新しい務めがあるここに残れ」
「……かしこまりました」
大司教様と一緒に来ていた女性は渋っていたのだが、受け入れたようだ。
「相手は異神の聖者ですぞ?」
「これは私の責任でありますし!」
その言葉を聞いちゃったらねぇ……。
「は~、これは当然、私も行かなきゃなりませんねぇ……」
「……!」
ファシネート様が、私にしがみついてイヤイヤをしている。
「ファシネート様、申し訳ございませんが、これも聖女の務めでございますので」
「聖女様!」
国王も、「それは困る」みたいな顔をしているのだが――。
「陛下、これは私の務めでございます」
「ううむ……承知した」
それに聞くことは聞いてしまったから、もうあの男がどうなってもいいはず。
いったいぜんたい、どんなことになっているのか確かめなければならないし。
「大司教様! 一緒に参りましょう!」
「かしこまりました!」
陛下は私たちを止めたいようだが、ここは敵に最大戦力を当てるべきでしょ。
そうしないと犠牲者がどんどん増えてしまう。
「ミルス! なに逃げようとしているの!」
戦力の足しにしようと一緒にいた王宮魔導師を探していたら、いつの間にやら逃げようとしていた。
「いやぁ、僕お腹が痛くなっちゃって……」
「――また私の電気ア○マを喰らいたいの? なんどでもしてあげるけど?」
「え、遠慮しておくよ」
「王宮魔導師は飾りなの?! ヴェスタ! アルル! 一緒に来て」
「「かしこまりました!」」
「にゃー」
ヤミも私の所にやって来た。
「あなたは避難して!」
お兄さんを持ち上げると、大司教と一緒に走り出す。
「やめろぉ! 命をかけるだけ給料もらってないんだぞ!」
お兄さんが、ジタバタしている。
上位の魔導師といっても、身体は子どもだ。
まったくパワーはない。
「大司教様と友達だっていうなら、なんでつき合ってあげないの? 男としてどうなの? 人として、それは?!」
「……」
「ミルス、無理にとは言わないよ」
大司教様も無理強いをするつもりはないらしい。
「もう、しょうがねぇなぁ……」
彼も諦めたようなので、下ろしてあげた。
「そうだ! エルフはいないの! エルフは!?」
「エルフなんて、こういうときには真っ先に逃げてるよ」
お兄さんが、呆れたようにため息をついた。
「役に立たないぃ!」
とにかく、自分のためにしか動かない生きもののようだ。
皆で階段を降りて、地下1階にある地下牢への入り口まで来ると、薄暗い広間の中に騎士たちの死体が散乱していた。
「くっ……」
これから先に敵との戦いがある。
ここで蘇生はできないし、やられた直後でなければおそらく間に合わないはず……。
「ごめんなさい」
私は心の中で手を合わせながら、辺りを見回した。
下に降りるための入り口は破壊され崩れており、天井に頭が届きそうな巨大ななにかがいた。
筋肉質で二足歩行、目らしきものが赤く光っている。
すでにこと切れた騎士の頭を持ち、そこにたたずんでいた。
「なにあれ?!」
私の言葉に、大司教が答えた。
「もしかして、ブッチーニか?!」
「え?! だって脚も治ってるし……」
そう、逃げられないようにとヴェスタが脚を切断して、それを私が逆向きにくっつけたのだ。
ちょっと信じられない状況だったのだが、その答えはすぐに出た。
「来たな……聖女……」
化け物が口を開けると、なにか白いものを吐き出したように見える。
私のことを知っているということは、こいつは元枢機卿で間違いないらしい。
いや、すでに人間ではないような。
もしかして魔物になってしまったのだろうか。
「これって魔物になったのでしょうか?」
「わ、解らぬ……」
化け物がこちらを向くと、股間にぶらぶらさせた巨大なものがある。
「ぎゃあ! 汚い!」
思わず目を逸してしまったのだが、仕方ないじゃない。
「お前をズタボロにして、その力を奪ってやるわ!」
ブッチーニが、手に持っていた騎士を放り投げるとこちらに向かってきた。
大司教の回りに青白い光が舞う。
「青き雷よ――我敵を切り裂く剣となりて宙を走れ――電撃!」
彼の前に顕現したまばゆい光の玉から、耳をつんざく轟音とともにジグザグの閃光が伸びた。
化け物の身体に当たると、肌や床などに閃光が走る。
部屋が薄暗いので、光の筋がよく見えた。
周りに鼻につく嫌なにおいが立ち込める。
「グォぉぉ!」
魔法が効いたのか、身体から白い煙を上げた化け物が膝をつく。
それに畳み掛けるように、次の新しい青い光が舞う。
「赤き爆炎よ――我が声に応じ敵を食らう火炎となれ! 暴食の炎槍!」
灼熱の赤い槍が現れたかと思うと、すぐさま敵に向かって撃ち出された。
こんな凄い魔法を喰らえば――と、一瞬そう思ったのだが。
「^#**&&*、対魔法」
敵が唱えたなにかの魔法で、炎の槍が蹴散らされピンクの破片になって飛び散る。
光りの粒子がまるで床に広がる水のように石の上を流れていく。
「なに?!」
「対魔法だ」
お兄さんがつぶやく。
「それって魔法が使えなくなったってこと?」
「そうだ!」
そんな魔法もあるのね。
「実は、あいつって凄いの?」
「伊達に枢機卿はやっていない」
そう言ったのは大司教だが、彼はあの男の実力を知っているのだろう。
力があっても、それを金儲けにしか使わないんじゃ……。
魔法が使えないといっても、どの辺りまで無効になっているのだろうか。
私の魔法を使ってみた。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
威力も最低限だが、本数だけを出して扇状に撃ち出してみた。
10本ほどの光の矢が、広がるように放たれて、部屋の壁や天井にぶつかる。
「ははは! いったいどこに向かって撃っておる!」
ハゲが笑っているのだが、そんなことはどうでもいい。
私が撃った魔法が消えたのは、敵のすぐ近くに向かったものだけ。
ちょっと離れれば、魔法が消えることがない。
「ヴェスタ! 行くけど?!」
「いつでも、聖女様!」
「アルルは援護して」
「はい!」
私は渾身の魔法を唱えた。
「目を瞑って! 光よ!」
薄暗い部屋の中に閃光が浮かぶ。
「うがぁぁぁ! くそぉぉ!」
やはり油断していたのか、ブッチーニはモロに閃光を食らったようだ。
これでしばらくは視界を奪えたはず。
「ヴェスタ!」
「はい!」
騎士が先行して、私の進路を切り開く。
当てずっぽうで振り回してきた敵の右腕を、彼の剣が受け流した。
その下をくぐり抜けて、敵の懐に飛び込む。
続いて、ヴェスタが敵の左膝を斜めに切断――動きを封じる。
「おりゃぁぁぁ! スーパーウルトラキ○タマグッバイ!」
私は、スカートを持ち上げると左脚を振り上げ、その反動を使い飛び上がった――以前教えてもらい練習をした2段蹴りだ。
脚もお尻も丸出しになってしまうが、そんなことはどうでもいい。
敵の股間にぶら下がる汚いものに、渾身のキックをお見舞いした。
ものが巨大なのでどうやっても外れる心配がない。
「&**%$#*!」
化け物の姿になっていても、股間が弱点なのは同じようだ。
左脚を切断されたブッチーニがその場に崩れ落ち、ゴロゴロと転げ回っている。
この状態になれば、対魔法というものも消えているだろう。
私は、再び魔法を放った。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
私が打ち出した光の矢が、男の股間を粉砕した。
色々とバラバラに吹き飛んで下半身に大穴が開いている。
「うごぉぉぉぉ!」
バシャバシャと、傷口から体液が流れ出ている。
壊れた蛇口のように噴き出しているのだが、この状態でも死なないようだ。
さすが異神から加護を受けている聖者。
一筋縄ではいかないらしい。
苦しんでいる化け物であるが、身体に開いた穴の部分が修復し始めた。
私がこんなことをしたら気を失ってしまうのに、こいつは大丈夫らしい。
それってずるくない?
破損した身体の修復を止めるために、私も魔法を使った。
別にそんな特別な魔法があるわけではない。
「う~! 温め!」
普通の温めの魔法であるが、エルフから教えてもらった強化バージョンだ。
一瞬で体液が沸騰して白い湯気が立ち、傷口は白く変色を始めた。
「ぎゃぁぁぁ!」
煮えてしまった部分もボコボコと盛り上がり始めているが、簡単には修復できないようだ。
これは使える。
私は、ひっくり返っているブッチーニの身体を踏んづけた。
狙うのは、やつの頭である。
頭を沸騰させれば、さすがに復活はできないでしょ。
男の頭に近づこうとすると、大きな手にバチンと挟まれた。
「あぐっ!」
結構な衝撃だったが、これぐらいでどうなるわけでもない。
私は再び魔法を使った。
「温め!」
私の身体を抑え込んでいた太い腕が爆発して四散したあと、血まみれの骨だけが残る。
辺りが血まみれになり、肉が散らばった。
生臭く酸いにおいが充満しており、鼻腔をつく。
「あぎゃぁぁぁ!」
私は叫び声に構わず、大きな身体の上を歩いてブッチーニの頭を踏みつけた。
「ま、まて、話せば解る!」
この期に及んで、なにを話すというのだろう。
「問答無用!」
私の足先から流れた温めの魔法で、ブッチーニの頭が吹き飛んだ。
いかに異神の加護をもらった聖者といえど、ここからは復活できないだろう。
「「「聖女様!」」」
私の下に、ヴェスタをはじめ、大司教やお兄さんが駆け寄ってくる。
――それよりもだ。
私は、力を使った。
「天にまします我らが神よ、ここで失われた勇敢な騎士たちの魂に救いの手を差し伸べたまえ!」
――なにも起こらない。
「聖女様!」
「ああ……」
ヴェスタの声にも答えずに、私はその場にしゃがみ込んだ。
亡くなった騎士たちは、蘇生可能な時間をすべて過ぎてしまったのだろう。
すぐに鎧を鳴らす音と、大量の足音が近づいてきた。
「「「聖女様!」」」
「ブッチーニは私が倒したわ……」
増援の戦力は、ヴァンクリーフとカイルの2人の団長だ。
「「なんと!」」
「これが枢機卿?!」「化け物じゃないのか?」「魔物か?!」
「おそらく、異神の力を使って、変身みたいなことをしたのでは……と」
「なんと恐ろしい」「こいつはとんでもねぇ」
2人の団長が、ブッチーニの屍を調べている。
「もう、さすがに復活はしないと思いますが、注意をしてください」
「おっと聖女様、驚かすのはなしだぜ?」
「それよりも、警備の騎士たちに生存者はいませんでした。奇跡による蘇生もできず、失われた魂は天に昇ってしまわれました」
団員がその場で直立不動になって、胸に手を当てた。
「聖女様が気に病むことはございません。騎士は常に死ぬ覚悟で任務にあたっているのですから。その証拠に逃げ出した騎士は1人もおりませんでしたでしょう?」
「……」
私は、ヴァンクリーフの言葉に黙ってうなずくしかなかった。
「戦死者たちのこともあるが……こいつの屍をどうやって処分するかだな」
カイルが頭をかいている。
「……」
私はあることを思いついて、ヴェスタが切ったブッチーニの脚を魔法の袋に入れてみた。
眼の前から肉が消える。
「魔法の袋に入る……」
騎士たちが驚愕の表情をしているのだが、その理由は1つだ。
「――ということは、ブッチーニは人間ではなくなった――ということでしょうか?」
「おお、神よ……」
近くにいた大司教が手を合わせた。
彼としては複雑だろう。
教団を運営するための右腕として活躍してきたのに、その男が異教徒であり、最後は人間までやめてしまったのだ。
とにもかくにも、肉塊が魔法の袋に入ることが確認されたので、すぐに屍の処理が行われた。
バラバラに解体された肉が次々と魔法の袋に投入されていく。
このあとはどうするのかと思いきや――汚れた存在として、そのものがこの世界から抹消されることになった。
いったいどうするのかと言えば、肉塊を入れた魔法の袋を特殊な方法で壊すのだ。
すると、中に入っていたものは、異次元空間のような場所に投棄されて消滅する。
暗殺団の首領がやった証拠隠滅と同じ方法だ。
高価な魔法の袋を使うなんてもったいない話だが、お城には魔法の袋も作り出すことができる大魔導師がいる。
彼に頼めばいいだけだ。
すぐにレオスが呼ばれて専用の魔法の袋が製作された。
だれもこんなものを袋の中には入れたくないだろう。
私は入れてしまったけど。
これで教団にまつわることは全部片付いたことになるけど、騎士に犠牲者が出てしまったのは大変残念で仕方ない。
私は、2人の騎士団の団長と一緒に、犠牲になった騎士たちの家を巡った。
陛下からも恩賞がでるし、遺族年金も出るらしい。
私からは家族に祝福を送り、病人や怪我人がいる家には真っ先に治療を行った。
聖女として私ができるのはこのぐらいしかない。
貴族の反聖女派の筆頭である、サウザンアワー公爵家はすでに人が離れていて、没落中。
私を目の敵にしていた、枢機卿は異教徒でしかも異教の加護を受けていた。
教団内部にも異教徒が多数いたが、私が選別して追放済み。
私がやっていた医院や孤児院も教団が全面的にバックアップしてくれることになった。
当然、枢機卿一派が行っていた、ボッタクリや孤児院の子どもを奴隷商に売るなんてこともなくなる。
それは大司教様が保証してくれたので、間違いない。
その大司教も引退して、新しい大司教が生まれるみたいだし。
神器とかいうアイテムを使って、若返りの儀式を行うらしい。
信じられないのだが、魔法があるこの世界だ。
なにが起きてもおかしくない。
もしかしたら、死者が転生して生き返ったりとか。
もちろん、そういう教義もこの世界の宗教にはあるらしい。
元世界のある宗教では、生き返るのはスーパースターだけなのだが、この国では違うようだ。
あと残るは――魔導師協会である。
ブッチーニが残した教団の資料では、魔導師協会との取引が多数行われていた。
あの枢機卿と取引していたということは、もしかしたら協会の内部にも異教徒がいるのでは?
――という嫌疑が持ち上がり、すぐに協会の関係者が集められて、私の祝福による検査を受けた。
神様が違えば祝福を受けられないので、異教徒ならすぐに解る。
結果、協会にも多数の異教徒がいたのが判明。
数々の不祥事の件もあり、魔導師協会は一旦解体されることになった。
いっぽう王都内では、「聖女の存在に異議を唱えるのは、異教徒なんじゃないか?」
そんな噂が流れ始めた。
そうなると困るのは反聖女派の貴族たちである。
異教徒の疑いをかけられるのを恐れて、大っぴらに聖女批判ができなくなってしまった。
このように今回の事件によって数々の噂が市中に流れているが、陛下の命令で直属の笛吹き隊も暗躍している。
彼らによって流布されているのは――過去にあった魔女による聖女暗殺も、「異教徒が魔女を操り、聖女を暗殺して国内の混乱を狙った」という噂。
ブッチーニの白状したところによれば、これは事実らしい。
噂によって世論の誘導が行われている真っ最中であるが、これで魔女に対する偏見も少しは減るのではないだろうか。
それに――市中に流れている噂は、よいものばかりではない。
どこからか、取り調べの際に異教徒に行った拷問のことも流出してしまったみたい。
魔物と化した敵を倒したことも巷では囁かれており――その結果、私は「黒い聖女」などと、陰で言われ、恐れられるようになってしまった。
まぁ、私の自業自得のようなものだから、それは仕方ないと思っているけどね……。
------◇◇◇------
――騒ぎが収まってから1週間あと。
私は、地下のできごとで多数の犠牲者が出てしまったことに落ち込み、どんよりとした生活を送っていた。
聖女としての仕事はこなしているのだが、イマイチ調子がでない。
そんな感じだ。
反聖女派の力がガタ落ちしたので、私が立ち上げた医院や孤児院にも貴族たちの寄付が盛大に集まっている。
自分は聖女派で、異教徒ではない――という貴族たちのアピールだ。
今回の大事件の引き金になった自爆テロの現場も、完全に修復されて元通りになった。
テロによって犯人が死んだ現場なので、使わなくてもいいという陛下のお言葉をいただいたのだが、私はそういうことを気にするタイプではないし。
私が助けた襲撃犯の男の子も、聖女騎士団で下働きの仕事をしている。
ルクスによって裏の仕事もしているようなので、酷いことはさせないようにと念を押してある。
聖女のお仕事である午前の治療が終わったあと、新しくなった自室でお茶を飲んでいると――ドアがノックされた。
「はい、どうぞ~」
「聖女様におかれましては、おくつろぎのところ、大変申し訳ございません」
入ってきたのは、ファシネート様お付きのメイドさんだった。
なにか問題でも起きたのだろうか。
ちょっとトラブルは、もう勘弁してもらいたいのだけど……。
10月7日発売、コンプティーク 2022年11月号から、「黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~」
のコミカライズがスタートになります。
よろしくお願いいたします。





