86話 教団の異教徒たち
聖女の暗殺に、教団の助祭が関わっているという証言を得て、私は騎士団と国軍を率いて敵地に向かった。
助祭という男をとっ捕まえて吐かせると、やっぱりというかなんというか――。
ブッチーニという枢機卿が絡んでいるらしい。
私と騎士団で黒幕を追い詰めたのだが、なにやら床が光り始めた。
これは魔法が展開する兆候だ。
「騎士団、後退!」
ヴァンクリーフが叫んだ。
男たちが後ろに下がると、床に浮かんだ青白い光輪から、なにかが現れた。
カタカタと動く骨の化け物だ。
――といってもきれいな骨ではなくて、腐肉などがくっついている状態。
肉の腐ったニオイが離れていても、こちらまで漂ってくる。
「スケルトン!」
騎士たちが剣を構えた。
「うう……くさっ!」
「ふぎゃー!」
「ヤミは後ろに下がっていてもいいわよ」
「聖女様は後ろへ」
ヴェスタが私の前に立ってくれた。
「これは、死体などがアンデッド化したものではないぞ!」
「にゃー!」
化け物の正体をヤミが教えてくれた。
「え?! 召喚魔法!?」
「そのとおりだ!」
ブッチーニがこちらの答えを肯定してくれた。
「こんなことができるのに、金儲けしかしてないなんて、こっちには都合がいいけど……」
「や、やかましい!」
私の言葉が聞こえたのか、魔物の向こうで枢機卿が地団駄を踏んでいる。
「「「憤怒の炎!!」」」
アルルと、騎士団についてきた魔導師から、火の玉が発射されて敵に向かって飛んでいく。
骨の化け物に命中すると燃え上がり、火の柱と化した。
腐っているのだが、よく燃えるようだ。
脂肪などが蝋になっているのだろうか。
相手が魔物なら、聖女の力を使えば沈黙させることができるかもしれないが――。
召喚されたといっていたから、もっと出されるかもしれない。
そうなると、奇跡を使って私が気を失っている間に、騎士団が苦戦をするかも。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦に出てみたが、光の矢が命中しても、ひっくり返るだけですぐに起き上がってくる。
もう死んでいるから痛みとかないわけだし。
強い光の矢を撃ち込んだら、衝撃でみんなを巻き込むかもしれない。
「そうか、私も火の玉を撃てばいいかも――憤怒の炎!」
発射された火の玉がスケルトンに命中すると、辺りを薙ぎ払い小爆発を起こした。
飛び散った炎が次々と他の魔物にも燃え移り、並ぶ松明と化す。
「「「おおおおっ!」」」
騎士団から歓声が上がった。
「くっ! こ、この腐れ聖女が! むうぅぅぅ!」
枢機卿が再び、なにか魔法を唱え始めた。
床に大きな光輪が浮かぶ。
「憤怒の炎!」
魔法を使う男に向けて火の玉を発射してみたが、命中しても四散してしまい、ダメージを与えられない。
そうしているうちに、光の輪から巨大な骨が現れた。
「「「おおおっ!」」」
いったい、なんの骨だろうか?
よくは解らないが、二足歩行の魔物で、鎧らしきものと斧のような武器を装備している。
高さは3mほどか。
「グォォォォ!」
魔物が武器を振り上げた。
咄嗟に魔法を唱える。
「聖なる盾!」
私の前に顕現した透明な壁が、魔物の攻撃を受け止めた。
巨大な刃物が衝突すると、ピンク色の破片が散らばって、床にパラパラと舞う。
「「「憤怒の炎!」」」
アルルたちから撃ち出された火の玉が魔物に命中したのだが、相手の身体が大きすぎるために、さほどダメージを与えていない。
もう、巨大な光弾の魔法でふっとばすしかない。
「騎士団の方々、申し訳ありませんが、時間を稼いでいただけませんか?」
「「「おう!」」」
騎士団が剣を構えて突撃しようとしたそのとき、青い光が集まり始めた。
「神より与えられし聖なる光よ、亡者の魂を御国に帰らせたまえ――退魔!」
床の上を青い光が走った。
その光に触れた魔物の脚が粉々になって、払われる。
脚がなくなった小山のような敵は、床を揺らしてその場に倒れ込んだ。
「「「おおお~っ!」」」
そこに騎士団が一斉に飛びかかった。
まるで獲物に群がる蟻のようだ。
刃を振りかざし、突き刺し、敵をバラバラにしていく。
魔法を放った主を探すと、大司教と呼ばれていた男の子の周りが青白く光っていた。
地面を走る魔法を使ったのは、彼らしい。
さすが大司教様。
やはりかなりの実力の持ち主のようだ。
「ブッチーニ枢機卿。私腹を肥やすのはまだしも、転ぶのは許されることではない」
転ぶとは転向のことらしい。
「え? そっち?!」
私腹はええんかい! ――と、思わずツッコミを入れそうになった。
「にゃー」
最初から異教徒だったら仕方ないのだが、他の神様への鞍替えは裏切りだから駄目らしい。
「く、くそぉ!」
ブッチーニが建物の奥のほうへ逃げ始めた。
まったく往生際が悪い。
「聖女様!」
「騎士団は、魔物に止めを刺して!」
「「「はい!」」」
どのみち、教団の周りは国軍に囲まれていて、ネズミが通り抜けることもできない。
枢機卿は建物の裏口から外に出ると、敷地の中を逃げていく。
後ろからガチャガチャと鎧を鳴らして、ヴェスタが走ってくる音が聞こえる。
彼は鎧を着ているので、あまりスピードは出せない。
あんな重い鎧を着て動き回れるだけで凄いのだけど。
チラ見すると、アルルも後ろから走ってくるが、彼女も脚は速くない模様だ。
まぁ魔導師だし、体力勝負ではないよね。
「ちょっと! もう周りは囲まれているのよ! 大人しく捕まれっての、このハゲ!」
「やかましい、このピー聖女がぁ!」
「止まらないと大魔法で吹き飛ばすぞ!」
「やれるものならやってみろぉ!」
大の大人とは思えない、罵り合戦である。
年寄りだから、すぐにバテるのかと思ったら意外と走る。
こっちは神様の加護があるので疲れ知らずだが、あいつも他の神様からなにかもらっているのだろうか?
魔法は効かないし、そうなると延々と走り回る羽目に――。
私も脚が速いほうではないので、徐々に引き離される。
往生際が悪すぎるし、なんて不毛な追いかけっこ。
いや、そのうち魔物を倒した騎士団も駆けつけるだろうし、すぐに決着はつく。
前を走っているハゲの頭を見ていると、上空から舞い降りてくる白い影。
「ノバラ!」
「あ、モモちゃん」
彼は、相対速度を合わせると私の背中に着地した。
「なにしている?」
「あいつを追いかけているの?!」
「あいつ悪いやつか?!」
「そう! 私を殺そうとしたのよ!」
「なに?! 許さない!」
モモちゃんが私の背中から飛び降りると、地面を走っていってハゲの頭に掴みかかった。
「うわっ! なんだこいつは?!」
「ギャアギャア!」
「く、くそっ!」
モモちゃんの叫び声が聞こえていたのだが、突然弾き飛ばされた。
「ギャ!」
「モモちゃん!」
枢機卿は、聖なる盾!のような魔法を使ったようだ。
神様が違うので、どういう魔法なのかは正確には解らない。
飛ばされたハーピーはそのまま地面を蹴って、再び大空に舞い上がった。
「思い知ったか、畜生め!」
そう吐き捨てた枢機卿がまた走り出す。
モモちゃんの鋭い爪で真っ赤だった彼の頭は、すぐに血が止まったらしい。
やはり、私と同じような神の加護みたいなものを受けているっぽい。
魔法も通じないしなんて面倒な――と、思ったら、目の前に衝撃の光景が飛び込んできた。
突然、男の頭になにかが衝突して、赤い花が咲く。
そのまま走りながら倒れて地面をゴロゴロと転がり、辺りに赤いものがばら撒かれた。
その近くには、大きな石が転がっている。
どうやら上から落ちてきたらしい。
上を見るとモモちゃんがいるので、彼の投石攻撃だろう。
自分に向かって飛んでくるのが解かれば、魔法で防ぐことができるだろうが、真上は死角で完全に不意打ちだったようだ。
「いけない!」
私が枢機卿に近づくと、頭が割れて中身が飛び出ていた。
もうグロい光景に耐性ができてしまっている自分が怖い。
即死だとは思うが、これでも奇跡は通じるだろうか?
「聖女様!」
ヴェスタが追いついてきたので、あとを頼む。
「天にまします我らが神よ、この異教徒にも救いの慈悲の御手を伸ばしください」
――目を覚ますと、空とヴェスタの顔が見えた。
彼の膝枕の上である。
あいにく鎧を着ているのでゴツゴツなのだが、それは致し方ない。
「くそぉぉぉ! 離せぇ!」
目覚めに金髪イケメンの顔をじっくりと堪能していたのに、爺の声で現実に引き戻された。
見れば、枢機卿が復活して騎士団に押さえ込まれている。
国軍も突入して、教団を掌握しているようだ。
枢機卿のあの状態からでも、なんとかなるようである。
まぁ、ギルドンという男も脳みそぶちまけてたけど蘇生したしね。
こいつには、陛下や大司教も聞きたいことが沢山あるだろう。
そのまま死なせるわけにはいかなかった。
「にゃー」
ヤミもやってきた。
教団関係者はすべて一箇所に集められているらしい。
異教徒がいるかもしれないということで警戒しているのだろう。
「それはそうと――」
私は枢機卿の所に向かう。
「くそぉ! このピー聖女がぁ!」
「あなた、聖女と似たような力を持っているみたいじゃない。なぜ、それを人のために使わないの?」
「そんなことをして、なんの得になる!」
「得って――あなた聖職者でしょ?」
「聖職者だからといって、金儲けをしては駄目な理由にはならん!」
そりゃ昔からそうだけどさ。
坊主丸儲けっていうし、信者と書いて儲けるって読むしね。
「ヴェスタ」
「はい」
「とりあえず、逃げられないように脚を落としましょう」
「かしこまりました」
「な、なにをするぅ!」
「なにをって――助祭って男がされたことを、あなたは見てたでしょ?」
枢機卿がひっくり返されて、手足を持たれた。
「止めろぉぉぉ!」
ヴェスタが振り上げた剣が男の太ももを両断した。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
辺りに男の叫び声が響く。
私は助祭にやったように、脚を持って前後逆にくっつけた。
「はい、終わり」
「ひぃひぃ……」
「この男は、念のためにもう一本もいったほうがいいかな?」
「はい、私もそう思います」
ヴェスタの意見も同じようなので、念を入れてもう片方の脚も切り落として、逆さまにくっつけた。
これで走ることはもちろん、歩くこともできないだろう。
「ヒィヒィ……お、おのれ――覚えておれよ……」
脚を逆さまにされても、枢機卿の目からは輝きがなくなっていない。
一応、騎士団をまとめているヴァンクリーフ様に注意をした。
「ヴァンクリーフ様、隙があれば、なにかやらかすかもしれません」
「大丈夫です。お任せください」
強力な魔法が唱えられる犯罪者でも、近くに人がいれば阻止することができる。
通常は魔法が展開するまでにかなり時間があるからだ。
乱暴な方法なら、その場で殴り飛ばしてしまえばいい。
展開が止まれば魔法の発動は失敗する。
彼は地下牢に閉じ込められ、24時間監視の元に取り調べを受けるだろう。
まぁ、そうなることは間違いないと思うのだが、ヴァンクリーフ様が難しい顔をしている。
集めた教団関係者のことだ。
結構な人数がいるのだが、あの中に異教徒がいるかもしれない。
普通に暮らしているなら異教徒でもいいと思うのだが、やっぱり神様を祀っている所だしねぇ。
それにしても、異教徒も毎日違う神様を祈っているふりをして過ごしているのだろうか?
皆は邪神と呼んでいるが、なにか悪さをしたり?
枢機卿の悪さは、ただ私腹を肥やしたいだけだったみたいだし。
「そうですねぇ……あ、いい方法を思いつきましたよ」
「本当でございますか? 聖女様」
「はい」
その方法を試すために、集められている教団関係者の所に行く。
多分、100人ぐらいだろうか。
白い祭服を着た沢山の信者がいる。
赤いのを着ていたのはあの枢機卿だけね。
説法などに使う、飾りのついた台を用意してもらうと、私はそこに乗った。
「皆様、初めてお会いいたします。こんな格好をしておりますが、聖女のノバラと申します」
「え?!」「聖女さま?」「男じゃないか?!」
まぁ、男の格好をしているので、男と言われても仕方ない。
「聖女様?」「素敵……」「聖女様……」
逆に女性陣には評判がよろしいらしい。
なんだかやっぱり複雑だ。
前に、大司教様に来てもらう。
「大司教様を見下ろすなんて非礼は重々承知しておりますが、ご協力ください」
「構いません。聖女様のなさることは、神の代行なのですから」
そうまで言われると、「う~ん」となってしまう。
それはおいておいて、ここから異教徒を分けなければならない。
「大司教様、ここから異教徒を見つけたとして、どうなるのでしょう?」
「少なくとも国外追放ですね……」
やっぱりそうなのね。
普通に暮らしているなら排除する必要ないと思うのだけど、ここは宗教施設だし……。
とりあえず言葉での説得はどうだろうか?
「皆様の中に異教徒の方がいらっしゃるなら、ここで申し出てください。そうすれば、なるべく穏便にことが進むように配慮したいと思います。大司教様も、それでよろしいですか?」
「うむ、約束しよう」
可愛い男の子みたいに見えるが、やっぱり中身はかなりの歳なんだろうなぁ……。
――なんていう私の問いかけにも無反応。
異教徒には異教徒の教義があるのだろうか?
たとえば、異教徒に紛れ込んで信徒を増やせ――とか?
「う~ん、それでは致し方ありません。強制的に仕分けます」
「聖女様はそうはおっしゃるが、いったいどうやって?」
「今から、光の祝福を与えます」
「あ、なるほど――」
私の力の源になっている神様からの祝福を与えれば、信者には光が与えられるが――異教徒には、それがない。
「ヴェスタ」
「はい」
「多分、盛大に寝ると思うので、あとをお願い」
「かしこまりました」
今までのことから察するに、2~3日は目が覚めないと思うし。
「それでは――天にまします我らが神よ、ここにいる者たちに祝福を与えたまえ――」
――いつものように、私の記憶はそこで途切れた。
目が覚めると、辺りは真っ暗。
どうやらベッドの上に寝ているらしい。
「にゃー」
目を開けただけなのに、ネコが気づくのは凄いよね。
これはヤミだけではなくて、実家にいたネコもそうだった。
目を開けた途端に上に乗ってきて、飯を催促するのだ。
ネコのことはさておき――相変わらず、力を盛大に使ったあとは身体が渋いので、なんとか手を動かした。
男装は解かれて、寝巻きに着替えさせられているようだ。
「なん日たった?」
「にゃ」
「2日ね」
まぁ、人数がちょっと多かったせいだと思うけど、闘技場全体に祝福を与えて1週間だったじゃない?
神様がどういう計算をしているのか、イマイチ解らない。
起き上がってからはいつものように、メイドを呼んで食事をした。
騎士団の人を呼んで事後の報告を受ける。
夜中だというのにつき合ってくれている、私のメイドや騎士に感謝だ。
騎士の話によれば――捕まった枢機卿は拷問などをせずとも、ペラペラと全部話しているらしい。
反省している様子はまったくないみたい。
どうせ全部話したら死罪だというし、ヤケクソなのかも……。
「それから、聖女様が祝福を与えた教団関係者の件ですが――」
「紛れていた異教徒の数は解りましたか?」
「はい――10人ほどでした」
「え?! 100人ぐらいの教団関係者のうち、10人って多くないですか? 枢機卿や助祭って偉い人も異教徒だったわけですし」
「そのことで、陛下や大司教様も頭を抱えられておりまして……」
そりゃそうだ。
教団でもそれだけの異教徒がいるということは、国内にも相当数の異教徒がいるかもしれないってことになるわけだし。
教団内の異教徒率が、そのまま国民の異教徒率になるわけじゃないけど、知らないうちに国内が侵略を受けている可能性があるのだ。
「もしかして、貴族の中にもそういう人がいるかも……」
「はい、陛下はそれを危惧されております」
「強制的に聖女の加護を使って調べるわけには?」
「貴族たちに強制はできません。反発でもされて国内を分断されれば、異教徒や諸外国の思う壺ですから」
今でも反聖女派が多いわけだし。
反聖女派イコール異教徒って可能性もあるけど、全部がそれってわけじゃないだろうなぁ。
単に既得権益を潰されるのが嫌って人もいるしね。
枢機卿ってやつは、異教徒プラス既得権益を潰されるので聖女を嫌っていたけど。
「う~ん、難しいわねぇ……」
「それから、判明した重大事実がもう1つ」
「なんでしょうか?」
彼の話では――過去に起きた魔女による聖女暗殺事件も、異教徒が手を引いていたというのだ。
異教徒に邪魔な聖女という存在を抹殺し、魔女を悪者に仕立てて国内を分断する作戦だったという。
このような組織だった作戦が、神を奉る教団という組織の中で行われていた事実。
このことを重く見た大司教は、自らの責任を取り辞任をするという。
「え? あの大司教様が? 後任は決まっているのですか?」
「司祭の1人に女性がいるので、その方に内定しているらしいですが……」
「私の祝福を受けられた人なら、異教徒の可能性はないですからねぇ」
「そのとおりです」
とりあえずは、異教徒たちの一番の活動拠点になっていた教団内部の組織を潰せたので、一般市民への異教徒狩りなどは行われない模様。
国王としては、国内を荒らしたくないという判断もあるのだろう。
現国王になって、国内政治や経済を色々と立て直したと言っていたような気がするし……。
上手くいっているところに水は差したくはないわよね。
――私が目覚めてから数日あと。
大司教様、いや元大司教様だろうか、彼が私の下にやってきた。
派手な祭服は着ておらず、地味な白い服だけ。
頭には帽子も被っていない。
そのために黒髪が外に出ているのだが、長い黒糸は編み込まれて日差しに艷やかに光っている。
中身は多分オッサンなのだろうが、見た目は麗しい美少年である。
「この度の不始末、辞任などで済むものではないのですが、子どもたちの説得に押し切られる格好になり、このように恥を晒しております」
彼が深々と礼をした。
子どもたちというのは、多分彼の部下のことだろう。
やっぱり、そのぐらいの歳ということになるのだろうか。
「大司教様が突然いなくなったとあれば、組織も混乱するでしょうし、まずは立て直すことが先決かと」
「聖女様のおっしゃるとおりで、子どもたちにも同じことを言われました」
「責任の取り方にも色々あるということですよ」
「聖女様にも多大なご迷惑をおかけいたしましたことを、心より謝罪いたします」
「あの、私がムカついていたのはあのブッチーニだけで、教団にはなにも思うところはなかったですから、あはは」
「……」
彼がしょんぼりしている。
その姿は、叱られた子どものようで思わず抱きしめたくなるのだが、中身は違うだろうし。
「大司教様のことはいいとして――なんで、お兄さんがここにいるのかな?」
今日来たのは、大司教様だけではない。
あのインチキ男子のお兄さんも来ているのだ。
それと、大司教の後ろには、白い祭服を着た初老の女性。
短い赤髪で、メガネをかけた上品そうな方だ。
「なぜって――僕は、サルダーナの友達だしぃ」
そう言うと、彼は椅子の上で脚をぶらぶらさせている。
サルダーナというのは、大司教のことらしい。
「大司教様、そうなのですか?」
「はい」
大司教とインチキ男子、両方子どもみたいな姿形なのだが、これは意味があるのだろうか?
「あの――2人とも、子どものような姿形をしてますけど……」
「ああ、それね! 僕が教団の神器をいじっちゃってさぁ、あはは。こういう姿になっちゃったんだよねぇ」
やっぱり!
「それじゃ、大司教様がそういう姿になっているというのも……」
「はい、教団に伝わる神器を使った結果です」
非現実的なことを見せて、神への信仰を深めるという儀式なのだろうか。
「……もしかしたら、後ろにいらっしゃる女性が、大司教様の後継だという女性の方でしょうか?」
「そのとおりです」
大司教の言うとおりなら、彼女も神器とやらで若返って大司教に就任するのだろうか。
大司教様と話していると、突然お城が揺れた。
下から突き上げるような振動がやってくる。
「まさか地震?!」
私は元日本人で地震慣れしているが、メイドや大司教もこの世の終わり――みたいな顔をしている。
「いや、地下からみたいだ」
お兄さんの言うとおりなら、地下でいったいなにが起こったというのだろうか。





