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85話 教団内部


 私を殺そうとした暗殺団のアジトを騎士団や国軍と一緒に急襲した。

 そこで捕まえたのが、敵の首領であるギルドンという男。

 地下牢に閉じ込められている男を、聖女の力を使って痛めつけた。

 かなり酷いことをしてしまったが、この男はそのぐらいの罰を受けることをやってきたのだから、私も後悔はしてない。


 私に許しを請い、男はすべてを話した。

 聖女を爆殺しようとしたのが、教団の助祭によって依頼されたことも。

 異教の魔導具もその助祭によって持ち込まれたので、教団の中に異教徒がいる可能性も出てきた。

 話を聞いた陛下は大激怒である。


 そのほか、男からの事情聴取が続けられて、暗殺団を使っていた商人や貴族の名前が白日の下に晒された。

 おそらく下級貴族はそのまま処分されて、上級貴族は暗殺団との関わり合いを公表される。

 そのようなものを利用していた貴族からは、寄子も離れて貴族社会への影響力を失うだろう。

 貴族の力が弱まれば、下級貴族同様に領地を減らすなどの処分ができるようになる。


 実に回りくどいが、上級貴族は影響力も大きいので、王族といえども簡単に処分ができないのだ。

 上級貴族同士が結託すれば、国軍より多くの戦力を持つことになるので、反乱の心配までしなくてはならなくなる。

 たとえば、その反乱の筆頭が公爵家なら、血統的にも十分に国王になる資格があるらしいし。

 現政権に不満を訴えて、公爵家を担ぎ出す上級貴族がいてもおかしくない。

 国王陛下としても頭の痛いところだろう。


 このように貴族の処分は一筋縄ではいかないのだが、教団は違う。

 国の予算も投入されていて、公共的なもの――のはずなのだ。

 それが聖女を狙ってお城を爆破するわ、教団の中に異教徒がいるかもしれないとなれば、陛下が激怒しても致し方ない。


 貴族たちの処分はさておき、騎士団と国軍は教団に乗り込むために軍を編成し直している。

 暗殺団に乗り込んだときに犠牲者と怪我人が出たせいだ。

 それでも9割は復帰できるらしい。


 私も出撃に備えて再び男装をした。

 やっぱりこっちのほうが動きやすいのよねぇ。

 馬に乗るためにもこちらのほうがいいし。


「にゃー」

「どうかしらね~」

 着替えている私を見て、ヤミがつぶやく。

 彼は教団の動きを気にしているようだ。

 お城の中にも教団と繋がっている人がいそうだけど――悪党どもと違い、教団の連中は逃げられないと思う。

 本当に暗殺団のバックが教団なら、許すことはできない。

 彼らが集めた孤児などが暗殺団に送られて、使い捨ての兵器として利用されていたのだから。


 ――数時間あと、騎士団と軍の編成が完了したと連絡を受けた。

 ヤミを肩に乗せた私は、ヴェスタとアルルを従えて騎士団の所に向かう。

 聖女騎士団の宿舎で、ヴェスタが馬の準備をしていると、ルナホーク様がやってきた。


「聖女様、また危険な場所に行かれるのですか?」

「私がいないと、証人が消されて真相が迷宮入りになってしまいますから」

「ああ、私の無力が恨めしい……」

「そんなことはありませんよ。ルナホーク様がいなければ聖女騎士団の運営ができないじゃありませんか」

「過分なお褒めの言葉をいただき、このルナホーク恐悦至極に存じます」

「それに、今回の騒動の後ろ盾が本当に教団なら、それをぶっ潰せば孤児院や治療院の数を増やすこともできますし」

「聖女様の御心のままに」

「けど、教団が聖女を嫌っている理由が、神様が違うから――そんな理由だったら、陛下どころかこの国の全国民が騙されていたってことになるわね」

「そのような者どもには、天罰が下ることでしょう」

 ルナホーク様はそう言うのだが、当の神様は異教徒でもお咎めなしらしいし……。

 そうなると、天罰とやらは私がやるしかないわけね。


 私としては、この世界の宗教にあまり興味はないし、神様が違ってもどうでもいいのだけど――まぁ、聖女の言葉じゃないよねぇ。

 民から金を巻き上げて私腹を肥やしたりは許せない。

 特に孤児を食いものにするなんて言語道断だ。


 厩舎から馬を引いてきたヴェスタと一緒に、騎士団に合流した。

 私の後ろにはアルルも一緒だ。

 徒歩の国軍はすでに出発しており、教団の周りを包囲する予定。

 お城の前に再び並ぶ騎馬を前にして、団長のヴァンクールが吠えた。


「傾注! 暗殺団を使って城を爆破した件に、教団の助祭が関わっていることが判明した! これから、教団に赴き、関係者を捕縛する!」

「「「はっ!」」」

 騎馬に乗った騎士たちが緊張する。

 騎士たちにはすでに詳細が知らされているらしい。


「なお抵抗する者は、枢機卿、司祭、助祭を除き排除して構わん!」

「「「はっ!」」」

「全軍、出撃!」

 騎士団が一斉に動きだした。

 暗殺団のときと違い、教団の本拠地の場所は皆が知っているから地図などを作る必要もない。


 連日の国軍と騎士団の出動に、道を譲る街の住民たちも顔を見合わせて、あれこれ話しているように見える。

 皆が不安げな表情だが、こんな大捕物が連続するなんて、あまりないのかもしれない。

 暗殺団への突入は、あれだけ大々的にやったので、街の住民たちのほとんどが知っているだろう。

 今度は、どこへ行くのかと各々に噂をしているのに違いない。


 騎士団は今日はスピードを上げることもなく堂々と道を進み、20分ほどで王都の中心付近にある教団の建物に到着した。

 石造りで背の高い塔型の屋根が4つ配置された建物である。

 街の建物と違うところは、塀がないところか。

 建物同士をつなぐ道は石畳で舗装されているようだ。

 赤い屋根は、ここら辺に生息している白い鳥の糞で白く汚れている。

 ここは上から見たら、おそらく正方形の建物なのではないか。

 建物の背は高いが、2階建てには見えない。


「アルル」

 私が乗っている馬の隣にアルルが並んだ。


「はい」

「建物の背が高いけど、なん階建てなの?」

「正殿は1階建てです」

 それじゃ、中の天井が高いのか……。

 元世界の西洋の教会もそんな建物が多かったような。

 その脇にある建物は2階で、普通の石造りの建物だ。

 アルルの話では、教団関係の事務所や宿舎として使われてるみたい。


 すでに国軍が教団を囲んでいるので、野次馬が沢山押し寄せている。

 悪所と違ってここは王都の中心街。

 集まるなと言われても集まってしまうだろう。


 沢山の人に囲まれてしまっているので、教団の人たちも表に出てきてなにごとかとキョロキョロしている。

 教団の皆が皆、悪い人だとは思わないので、抵抗しないでほしいところだ。


 馬のまま正殿に入るわけにもいかない。

 騎士団は周りを確認してから、全員が馬から降りて抜剣して白い刃をきらめかせる。

 その騎士団の下に、白い祭服を着た男がやって来た。

 服装から見て、少々位の高い人のようである。


「なんですか、あなた方は!? いったい誰の許可を取って――」

 男にヴァンクールが吠えた。


「上意である!」

 その言葉に、男が石畳に膝をついた。


「教団にいるヴァンデッタという助祭が、聖女様及び王族の方々の爆殺未遂に関与している証拠を掴んだ。直ちに差し出せ! 教団にも異教徒がいる可能性があるゆえ、詮議いたす!」

「ヴァンデッタ助祭が?! な、なにかの間違いでございます! まして、異教徒などと……」

「すでに証拠は上がっている――問答無用! 邪魔立ていたすなら、国賊として切り捨てる!」

「そ、そんな……」

 騎士団は男を突き飛ばして、前に進み始めた。

 白いローブを着た教団の関係者が集まってくるのだが、次々と騎士団が突き飛ばして行く。

 武器なども持っていないし、魔法を使ってくる気配もないので攻撃はしていない。

 そのまま騎士団は、高い柱の間を抜けて正殿の中に入った。


 その中は天井が見上げるぐらいに高く、光に満ちている細長い広間。

 磨かれている石の床には、赤い絨毯――いかにも特別な空間って感じがする。

 宗教施設ってのは、こういう非日常感が必要なのよね。


 中に入っても関係者が集まってくるので、それを押しのけながら奥に進んでいく。

 奥に進むと、そこは祭壇になっており、金色のなにかのシンボルが飾ってある。

 円形の伸びる放射状の形状――あれが神様なのだろうか?

 元世界でも、後光やらなにかでそういう放射状の模様がシンボルとして使われることがあるような……。

 それはいいのだが、その前に金色の帯を首から下げた小さな子がいる。

 縦に長い帽子を被っており、髪の毛は多分黒。


 祭壇の前には、私に悪態をついたブッチーニという枢機卿と、メガネをかけた背の高い男がいた。

 枢機卿は赤い祭服に白い帯を首から下げ、隣の男は白い祭服に青い帯をたすきがけにしている。

 教団の偉い人と一緒にいるということは、メガネの男もそれなりの地位にいる者なのだろう。


「なにごとか! 神の御前を汚す不届き者が!」

「上意である! ヴァンデッタという助祭をすぐにこちらに引き渡してもらおう!」

「わ、私がなにかしたと?!」

 枢機卿の隣にいた背の高い男が、助祭だったようだ。


「お前か! 聖女様及び、王族方々の爆殺未遂の件で証拠が上がっている! 大人しく捕縛されるがよい!」

「わ、私がそのようなだいそれたことを――大司教様! なにかの間違いでございます」

 男が、小さな子のほうを向いてそう言ったので、彼が大司教ということらしい。

 大司教ってことは、この教団の一番偉い人なのだろうか?

 小さな子どもが?

 でも、レオスのお兄さんみたいに魔法で小さくなるってこともあるらしいし、見た目どおりの年齢ではないのかもしれない。


「証拠というのはなんなのだ!? どこにそんなものがある!」

 枢機卿が、自分の祭服と同じぐらいに真っ赤になっている。


「暗殺団の首領であるギルドンという男が、そのヴァンデッタという助祭から聖女様殺害の依頼を受けたと白状したのだ!」

「うう……!」

 ヴァンクリーフから指摘を受けた助祭が、青い顔をしてブルブルと震えている。

 その顔からして、もう自分がやりましたと白状をしているようなものだ。


「抵抗するな?! 抵抗すれば地獄を見るだけだぞ」

「う!」

 男が自分の袋からなにかを取り出して、口に入れると一気にあおった。


「いけない!」

「あぐぐぐぐ~っ」

 助祭が喉を押さえて、突然苦しみだした。

 おそらく毒をあおって自害を試みたものと思われる。

 私は、騎士をかき分けて男の下に駆け寄った。


「お前は!?」

 私はブッチーニの言葉に構わず、奇跡を使った。


「天にまします我らが神よ。この愚か者を、毒の脅威から救う御手を差し伸べたまえ」


 ――私の記憶が途切れたあと、目を覚ます。


「聖女様!」

 ヴェスタが私を支えてくれていた。


「にゃー」

 気を失っていたのは、2分ほどらしい。

 自殺を図った助祭という男は、すでに捕縛されていた。

 ロープでグルグル巻きになっているので、なにもできないだろう。

 魔法を使えるかもしれないが、普通は発動するまでに時間がかかるので、すぐに止められてしまう。


「お前が聖女だと!」

 叫んでいるのはブッチーニなのだが、こいつも絶対に絡んでいるだろう。

 私は男の恰好をしているので、彼も解らないようだ。


「ええ、聖女ですがなにか? いかにも聖女って格好でくると、真っ先に狙われるでしょ?」

「ぐぬぬ、この*&**が……」

 なにか言ったと思うのだが、私の判別できない単語だった。

 私と枢機卿がにらみあっていたのだが、大司教だという男の子が歩み出た。


「聖女様、助祭が聖女様の暗殺を依頼したというのは、本当なのでございますか?」

 声も可愛いくて、本当に子どもみたいなのだが……。

 どうみても年相応の落ち着き方ではないし、油断はできない。


「はい、暗殺団の首領をとっ捕まえて、痛めつけたら吐きました」

「あれが痛めつけるだって?」「拷問よりひでぇ」「あんな目にあいたくねぇよな……」

 なにか騎士団のほうからゴニョゴニョが聞こえてくるのだが、私がにらんだら気をつけをした。


「それに、あの男は異教徒の魔導具も持っていたというのですけど……」

「異教徒?!」

 男の子の顔が厳しくなる。


「ちょっと、その前によろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「大司教様は、聖女のことをどう思っていらっしゃるのですか?」

「神の使徒――でありましょう?」

「ああ、それは信じていらっしゃるのですね」

「それはもちろんです。神の奇跡がなければ、さきほどのようなことはできないでしょうし」

「大司教様のお言葉をお聞きして、少し安心いたしました。そこにいらっしゃる枢機卿様のように、聖女が嫌いで嫌いでどうしようもない方だったらどうしようかと……」

「その者については、申し訳ない。聖女が異世界から持ち込む知識が、我々の世界を蝕む心配をしているのです」

 やっぱり、それは嫌なわけね。


「まぁ、私はそのような知識を広めるつもりはないので、ご安心を」

「ブッチーニ、聞いていた話と違うではないか?」

「うう……そ、その魔女の言葉に騙されてはいけませぬ!」

 枢機卿が必死になって言い訳をしている。


「それと大司教様」

「なんでしょうか?」

「教団が集めた孤児を奴隷商に売り渡し、暗殺団が使い捨ての兵器として利用していることをご存知ですか?」

「存じませぬ」

「それでは、怪我人や病人の治療に法外な金品を要求しているというのは?」

「治療費は常識の範囲内で請求しているということだったが……」

「そのとおりです! こやつの話に耳を傾けてはなりませぬ!」

 まぁ、それはいいや。

 あとあとで解ることだし。

 助祭という男を締め上げれば、答えは出てくるのだ。

 私は捕縛され、騎士たちに押さえつけられているヴァンデッタという助祭の所に行った。

 床でカエルのようになっている男と話すために、私はしゃがみ込んだ。


「話すなら、早めに話したほうがいいわよ」

「いったいなにを話すというのです!」

 こいつは、この期に及んでまだしらを切るのか。


「聖女の暗殺を頼んだのは誰?」

「わ、私はそのようなことはしておりません!」

「ああ、そう。それならそれでいいんだけどさぁ――あの屈強なギルドンがペラペラと話したのに、あなたが耐えられそうに思えないんだけど」

「い、いったいなにを……」

 立ち上がると、私の騎士にまた酷いことを頼む。

 申し訳ないと思うのだが、こんなことを頼めるのは彼しかいない。


「ヴェスタ――その男の脚を落として」

「かしこまりました」

 助祭がひっくり返されると、仰向けになって脚を持ち上げられた。

 騎士たちも、私がなにをするのか知っているから、男の脚を切りやすいようにしてくれたようだ。


「な、なにをするのです。や、止めてください!」

「それなら話したら?」

「……」

 男が黙ったので、私は指で空を切った。


「や、やめろ! 大司教様! 止めさせてください」

「……」

 眼の前で行われるであろう惨劇に、枢機卿が大声を上げたのだが、大司教という男の子は黙ってその様子を見ている。

 彼が本当に神を崇めているのであれば、使徒である私の行動に口を挟むはずがないのだ。


 白く光った刃が、男の太ももに振り下ろされた。


「ぎゃぁぁぁ!」

 切り口から鮮血が噴き出し、白い祭服を真っ赤に染めていく。

 私は、落ちた脚を持ち上げると切り口にくっつけた。


「天にまします我らが神よ。この異教徒にも、嫌でしょうけどテキトーな癒やしの奇跡をお与えください」

 青い光が舞うと、男の脚がボコボコに盛り上がり、脚が前後逆にくっついた。


「ふう……」

 やっぱり少しめまいはするが、適当だと気を失うことはないらしい。


「ひぃぃぃぃ! あ、脚がぁぁぁ」

「凄いでしょ? これが神の奇跡よ。あなた方の神はなにもしてくれないの?」

「ひぃひぃ!」

 やっぱり顔がひきつっているので、痛みなどがあるようだ。

 そりゃ、本来くっつかない場所にくっついているわけだし。

 脚が逆さまになった男を見て、枢機卿がなにやら喚いている。


「騎士団は、そのイカレ聖女を止めさせろ! お前はなんの権利があってそのようなことをするのか!」

「ええ? これは犯罪者と異教徒に対する取り調べなので、ちゃんと国王陛下に許可をいただいてますよ?」

「ぐぬぬ……」

「控えよ、枢機卿」

「だ、大司教様まで、あのピー聖女の肩を持たれるのですか?!」

「だいたい、なんで毒を飲もうとしたの? その時点でおかしいでしょ? さぁ、次よ次」

「聖女様、次はいかがいたしましょう」

 ヴェスタが斬る場所を指定してほしいようだ。


「そうね、次は首を落としてみて。首を前後逆につけてどうなるか見てみたいし。ギルドンにやろうとしたら、吐いてしまったし」

「かしこまりました」

 男が再び押さえ込まれて、ヴェスタが剣を高く掲げた。


「ひぃひぃ!」

 すると男の股間が濡れ始め、床に液体が広がっていく。

 どうやら漏らしたらしい。


「そんなに恐ろしいなら、本当のことを話したら? そうじゃないと――これから死ぬよりつらい目にあうよ」

「……」

 彼が震える手で枢機卿を指した。


「彼がなに?」

「……枢機卿様から……頼まれました……」

「やっぱり……」

 私はヴェスタに剣を降ろさせた。


「こ、これはなにかの陰謀だ! あのピー聖女が私を陥れようと……」

 まったく往生際が悪い。


「枢機卿――そなた……」

 皆の疑いの視線が一斉に枢機卿に向かう。


「ぐぬぬ……」

 私は男に向かって魔法を唱えた。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 私の周りに現れた光の矢が、赤い祭服に向かって放たれた。

 もちろん致死性の魔法ではなく、かなり出力を押さえているものなのだが、枢機卿に届く前にピンク色の光になって弾け飛んだ。


「こ、これは、暗殺団のアジトで見たものと、同じもの!」「間違いない!」

 騎士団が一斉に剣を構えた。


「その男は、異教の魔導具を持っています!」

「枢機卿! まさかそなたが!」

 皆にジリジリと追い詰められて、ついに男が白状した。


「ううう、もはやこれまで!」

 なんだか、時代劇の最後に出てくる悪代官みたいなセリフね。


「あ! そうか! あなたには、ちょっとした病気になるように祝福を使ったのだけど、異教徒だから通じなかったのね」

 祝福も悪用することもできると解ったのだが、信じている神様が違うから祝福にならなかったのか。

 神様が太っ腹だから治癒の奇跡は通じるけど、さすがに異教徒に祝福は無理ってことか。


「あの大司教様、そいつは最初から異教徒だったのですか?」

「いや、そんなはずはない……」

 大司教も、少し混乱しているようだ。


「ある日、私に救いの手が差し伸べられたのだ! そして私は力を手に入れた!」

 ブッチーニが、天に向けて両手を広げた。


「普通はそういう力を手にいれたら、世界征服とか考えない?」

 そう、こいつがやってきたことは、私腹を肥やすことだけ。


「そんな面倒なことをするはずがないだろう!」

 それもそうだ――とか、私も思ってしまった。

 そういうのって、面白いのは最初だけなのよね。


「……」

 私を殺そうとしたのも、金儲けの邪魔になるから――みたいだし。

 どういう力をもらったのかわからないけど、結局は金儲けのためだけにしか使っていなかったみたい。


 実は、そんなに悪人でもない? 

 ――いや、子ども売ってるし、暗殺団なんて使うし、やっぱり悪人に間違いない。


 ブッチーニは、ジリジリと騎士団に包囲されていった。

 魔法が効かないから剣で戦うしかないが、枢機卿の彼は元々高位の魔導師でもあるはず。

 まして異神から力をもらったと言っているのだから、なにか特別な力を持っている可能性がある。


 そのとき、床が青く光り始めた。

 これは魔法が展開する兆候だ。


  

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