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84話 私はもう私ではないのかも


 私を爆殺しようとした犯人を捕まえるために、悪所という場所にある暗殺団の本拠地を急襲した。

 沢山の犠牲を出しながら、敵の首領を屋根の上に追い詰めたのだが、飛び降りられてしまう。

 本来ならそこで終了といったところなのだが、そこには私がいた。

 聖女の力を使い、自害した悪党を死の淵から引っ張り上げた。

 こんなやつを助けなければ、死んでしまった騎士や兵士たちを助けられたのに。


 今回も子どもを使い捨ての兵器として使ったみたいだし、絶対に許さない。

 捕物が終了したあと、私は傷ついた沢山の騎士や兵士たちに聖女の奇跡を使った。

 私の記憶は、そこで途切れている。


 ――目を覚ます。

 見慣れた天蓋が見えるので、ここはお城にある私の部屋だろう。

 周りは明るいが、窓から入ってくる光の角度から昼ごろだろうと察した。 

 身体を動かすと、いつものように油が切れた機械みたいな感じ。

 ギシギシと音が出そうだ。

 私の男装は解かれて、白い寝間着姿になっていた。


「にゃー」

 私が目を覚ましたので、すぐにヤミがやって来た。

 彼の頭をなでるとゴロゴロいっている。


「なん日たったの?」

「にゃ」

 どうやら3日らしい。

 なんとか身体は動くので、私はベッドの上に腰掛けた。


 部屋の中には誰もいないが、テーブルの上にベルが置いてある。

 私はゆっくりと立ち上がると、テーブルの所まで行ってベルを鳴らす。

 椅子に座ると、すぐにメイドがやって来た。


「聖女様! お目覚めでございますか?」

「ええ、悪いのだけど、食べ物を持ってきてちょうだい」

「かしこまりました」

 私が力を使うとどうなるか、皆がすでに理解してくれているのでスムーズにことが進む。

 待っているとバタバタと走ってくる音がして、ドアがノックされた。


「どうぞ~」

「聖女様!」

 入ってきたのはヴェスタだ。

 彼となにか話そうとしたら、外から話し声が聞こえてドアが開いた。

 入ってきたのは、陛下とファシネート様。


「陛下――」

 礼をしようと立とうとしたら、転けそうになる。


「聖女様!」

 慌ててヴェスタが支えてくれた。


「ありがとう」

「……!」

 ファシネート様が、私に抱きついてきた。


「ご心配おかけいたしまして、申し訳ございません」

「身体は大丈夫なのか?」

 陛下も心配しているようだが、それよりも聞きたいことがある。

 あの男がどうなったかだ。


「陛下、捕縛された暗殺団の首領はどうなりましたか?」

「取り調べの最中だ」

「なにか解ったことは?」

「まったく口を割らぬらしい」

「捕まるぐらいなら死を選ぶと、屋根から投身自殺を図ったほどの男ですから」

「うむ」

 陛下の顔を見ていると、責めあぐねているようだ。


「その他で、判明したことなどは……?」

「暗殺団を利用してた者たちの帳簿などは見つからなかったらしい」

 潜り込んだ笛吹き隊も、証拠の確保に失敗したという。


「金庫とかはなかったのですか?」

「うむ……」

「どこかに隠してあるとか」

「考えられるのは、そういったものはすべて魔法の袋に入っていたのかもしれぬ」

 確かに――この世界じゃそういうものは金庫よりは、魔法の袋に入れて肌身離さず持っている方が安全かも。


「にゃー」

 魔法の袋にものを入れた状態で、特殊な壊しかたをすれば、中のものをすべて消滅させることができるらしい。

 元世界風にいえば、異次元空間にものを置いているのだから、それを謎の空間に放り出してしまったわけか。


「それでは、証拠隠滅されてしまったのですね……」

「残念ながらそういうことになるだろう」

「他には……」

「うむ、男に魔法が効かなかった――という話だったが」

「はい」

「それは男が持っていた魔導具のせいらしい」

 陛下が難しい顔をしている。

 どうやら、大変困った状態になっているようだ。


「魔導具ですか?」

「うむ、今はレオスが調べておるが、我々が使う魔法とはまったく違う魔法によるものだという」

「え?! そんなものがあるのですか? それじゃ、門が魔法で破壊できなかったのも……」

「聖女様の察しのとおりだ」

「その魔法を使う魔導師は、今回で捕縛いたしましたか?」

「捕まえた直後に自害されたらしい」

「ああ……」

 それにしても、魔法にも色々と種類があるのね。

 そういえばエルフが使う魔法も、私たちのものとは違ったみたいだし。


「にゃー」

「え!? そうなの?」

 ヤミの話では、この世界の魔法も聖女の奇跡と同じように、神様に由来したものらしい。

 魔法が違うということは、神様も違うということだ。


「どうした?」

「陛下、彼の話では――」

 王様に神様の話を改めて聞く。


「そのネコの言うとおりだ。魔法が違うということは、根源となる神も違う」

「あの――この国って一神教なのですか?」

「そのとおりだ」

 エルフの神様も違うが、あれで1つの国なので問題ないらしい。


「――ということは、異教徒ということに……」

「これは由々しき事態だ」

 まさか宗教戦争とかに巻き込まれるんじゃ……。

 神様的には、どうなのだろうか?

 他教徒は滅ぼすべし――なのだろうか?


「にゃ?」

「う~ん?」

 なにか確かめる方法は……。

 私はあることを思いつき――魔法を使ってみた。

 一番簡単な光の魔法だ。

 テーブルの上に光の玉が浮かんでいる。


「にゃー」

「天にまします我が神よ、他教徒はやっぱり処すべきなのでしょうか? 神様的にYESだったら、玉を点滅させてください」

 ――変化なし。

 そもそも、こんな方法じゃ駄目なのかもしれないが。


「それじゃ、別に他の神様でもOKってことでしょうか? YESだったら――」

 光の玉が点滅している。


「にゃ?!」

 ヤミが驚いている。


「あ、通じているみたい」

「な……か、神と対話するなどと……」

 陛下とファシネート様が床に膝をついた。


「え?! ちょっと……」

 ヴェスタとメイドたちも一緒にかしずいている。


「聖女様、神はなんと?」

「これから察するに、神様的にはどうでもいいみたいですね。あとは、国――つまり国王陛下の判断ということになるかと」

 そうはいっても、ずっと一神教でやってきたのだから、今更他の神様に入り込まれるのは良しとしないはずだ。


「はは~っ」

 陛下が頭を下げた。


「とりあえず、捕まえてきた男の尋問ですよね。今回の騒ぎの背後を捕まえないと」

「し、しかし、あの者にどうやって口を割らせればいいのか……」

「それについては、私に一任してくださいませ」

「それは承知いたしますが……」

「まぁ、大丈夫ですよ。聖女の私がいれば、なにをやっても死ぬことはないのですから。ヴェスタ、あとで手伝ってね」

「かしこまりました。聖女様の仰せのままに」

 陛下は私に任せてくれるようなので、自分の仕事に戻った。

 ファシネート様は、私の向かいに座りニコニコしている。


 彼女には悪いのだけど、とりあえず食事をしないと力が出ない。

 あるものを食いまくる。

 これだけ食べて太らないのは最高だと思うけど。

 その分のエネルギーを消費しているはずだし。


 私の前にいる殿下とメイドがひそひそ話をしている。

 そのメイドが私に質問してきた。


「聖女様、騎士団が手こずっているという男を、いったいどうなさるおつもりなのですか?」

「う~ん、ファシネート様には申し訳ございませんが――私の口からなにをするかは申し上げられません」

「極秘ということでしょうか?」

「あ~違います。口で言えないような酷いことをするので……そういう意味です」

 殿下の顔が引きつっている。

 私ってば、そんな怖い顔をしてたかな?


「ふう!」

 食事は終わった。


「さて、やりますか」

「はい」

 悪いが、ヴェスタには手伝って貰わないと。

 メイドたちに手伝ってもらい、寝巻きから着替える。

 彼には後ろを向いてもらっている。

 別に見られてもいいのだけど。


「ごめんね。今のうちに謝っておくけど、あなたに酷いことをさせるかもしれない」

「すべては聖女様の御心のままに」

 彼が背中を向けたままそう言った。


「ギルドンという男のいる場所は解る?」

 私の質問にアリスが答える。


「私が、場所の解る者を連れて参ります」

「お願い。陛下には許可を取ったと伝えてください」

「かしこまりました」

 メイドが出ていったが、ファシネート様が心配そうな顔をしている。


「私になにかあるわけではないので、心配ご無用ですよ」

「……」

「まぁ、捕まっている男は、死んだほうがマシって感じになるかもしれませんが」

 殿下が少し引いている。

 今回のことに関しては本当にムカついているし、あの男を許すつもりもない。

 人権? なにそれって美味しいの? みたいな世界でも、限度というものがあるはずだ。

 人としてやってはいけないことがあると思う。


 私の身体から黒い炎が噴き出しそうになったとき、1人の騎士がやって来た。


「聖女様――私が、収監しているギルドンの所にご案内いたします」

「よろしくお願いいたします。ヴェスタ、ついてきて」

「かしこまりました」

「にゃー」

「君は留守番のほうがいいと思う」

「にゃ」

 3人で廊下に出ると、階段をずっと降りて、お城の地下にやって来た。

 やっぱりと思ったが、以前お城へのテロで捕まったロサがいた所と同じ場所だ。


 捕まえた男の危険性を考えてだろうが、どんどん暗闇の奥に入っていく。

 薄暗い廊下に続く青白い魔法の光。

 そしてなん重にもなっている警備の数。

 いくら手練といっても、ここから逃げ出すのは至難の業だろう。


 騎士の間を縫ってたどりついたのは、行き止まりの部屋。

 団長のヴァンクール様がいると思ったが、彼も忙しい身だろうし、ずっとつき合ってはいられないのかも。

 騎士同士が見つめ合って、うなずいた。

 鉄で補強された木の扉を開けてもらうと、重そうにきしむ音を立てて扉が開いた。


 中にいたのは、両手を広げるようにして鎖で拘束された、真っ黒の服装のあの男。

 逆立った黒い頭とヒゲモジャが、魔法の光にうっすらと浮かび上がる。

 舌を噛むのを警戒しているのか、口には猿ぐつわ。

 私の姿を見て、鎖をガシャガシャと鳴らしている。


「うぐっ!」

 かなり暴行を受けたようでボコボコにされているが、心は折れておらず眼光鋭くこちらを睨んでいる。


「聖女様!」

 私は騎士の制止を無視して、男に近づいた。


「ふ~ん、ちゃんと頭は治ってるわね。スイカみたいに割れて中身が出てたのに」

 即死といえる状態でも、生命活動はゼロではなく、僅かに残っているはず。

 その僅かがあれば、奇跡の力で復活できるようだ。


「もごぉ! もごぉ!」

 男がなにか言っているのだが、この状態では言葉は解らない。


「あの~、すみませんが、この男の猿ぐつわを外していただけませんか?」

「聖女様、危険です」

「男の自害の心配なら無用ですよ。聖女の前で死ぬことなんてできませんから。余計に苦しむだけです」

 騎士の1人によって、男の猿ぐつわが外された。


「けっ! なにが聖女だぁ! この魔女がぁ!」

「言いたいことはそれだけ?」

「このアバズレがぁ!」

 アバズレ……久しぶりに聞いた、その言葉――昭和か!

 私は魔法を唱えた。


「光弾よ 我が敵を撃て(マジックミサイル)

 顕現した光の矢が、薄暗い部屋を照らす。

 撃ち出された光弾が、男の股間を直撃した。


「^&%$##**!」

 男が悶絶して動きが止まる。


「いくら強靭な男でも、そこは鍛えられないでしょ?」

 蹴りを入れなかったのは、こんな男に触りたくなかったからだ。

 もうG並におぞましい。


「*&**!」

「騎士様たち」

「なにか?」

「この鎖は外せます?」

「鍵がございますが……」

 それを確認してから、ヴェスタに仕事を頼む。


「ありがとうございます――ヴェスタ、この男の腕を落として。肘から上のほうが面白いかもしれない」

「かしこまりました」

「*&*な、なにを――」

 剣を抜いたヴェスタが、鎖に繋がれた男の上腕に白い刃を振り下ろした。


「がうあぁっ!」

 手がなくなった男がバタバタすると、丸い切り口から赤い血が吹き出す。

 鎖で繋がれたままになっている腕からも滴り、石の上に赤いものが広がっていく。

 ちょっと前までは普通の女だったのに、今はもうこんなスプラッタシーンを見てもなにも思わない。

 この男に対する怒りで感覚が麻痺し、まな板の上で肉を切るのと同じような感覚になってしまっている、自分に驚く。

 私はこのファンタジー世界にやってきて、壊れてしまったのだろうか。


「騎士様たち、ちょっと男を押さえつけてくださいます?」

「「……」」

 男たちが鎧を鳴らしてやってくると男を押さえつけた。


「く、くそぉ!」

 私は鎖に繋がれたまま、ぶらんとなっている腕を持ち上げた。

 本当は触りたくないのだが、そうしないと始まらないので、仕方ない。


「この鎖を外していただけますか?」

 鎖を外されたそれを、断面を合わせてくっつけると聖女の力を使う。


「天にまします我らが神よ、この愚か者の腕を適当にくっつけてください」

 私の言葉に反応したのか、青い光が舞うと男の傷口がもこもこと盛り上がる。

 そのあと、そのまま固まった。


「う……」

 私をめまいが襲う。


「「「聖女様!」」」

 少しふらついたが、気を失うことはないようだ。

 ヴェスタと騎士たちがざわついている。


「これは大発見! 適当な力の使いかたをすると、気を失わないみたい!」

 ――ということは、ドンドン力が使えるということだ。


「な、なんじゃこりゃぁぁ!」

 ギルドンの叫び声が地下牢の中に響く。


「「ううう……」」

 その場にいた騎士たちも、その光景にドン引きしている。

 それもそのはず、ギルドンの腕が後ろ向きにくっついて、あらぬ方向に向いているからだ。

 なぜって――私がそうくっつけたから。


「それじゃもう武器も握れないし、掴まったりよじ登ったりできないわね」

「く、くそぉ、このピー聖女が!」

「気を失わないなら連続して聖女の力を使えるじゃない。ヴェスタ、反対の腕も落として」

「かしこまりました」

 彼が剣を一振りすると、再び反対側の腕が両断された。


「ひぃひぃ!」

 その結果、ギルドンは両腕が明後日方向に向くことになった。


「ずいぶんと男前が上がったじゃない? それじゃ次は脚ね。太ももからいきましょう。太いけど平気?」

「問題ありません」

「止めろ! 止めろぉ!」

 騎士たちはドン引きしたまま、見ているだけ。

 だって陛下からの許しを得ているのだから、なんの問題もない。

 別に男の生命を脅かしているわけじゃないしね。


「やだぁ、止めるはずないじゃない」

「止めぁぁぁぎゃぁぁ!」

 ヴェスタが剣を振り下ろすと、丸太のような脚も一刀両断。

 やっぱり、彼の剣の腕前は凄いと思う。

 きっと名を残す騎士になることだろう。


 ヴェスタが立派になったときのことを考えつつ、男の太ももを持って断面を合わせた。

 こんなことをしても、私の心にはさざ波も立たない。

 まったく、私は狂ってしまったようだ。


 力を使う。

 今度は、ギルドンの脚が後ろ前が逆に接合されたのだが、改めて神の奇跡は凄い。

 こんな適当なつなぎ方をしても、くっついてしまうのだから。

 傷口を見ても、筋肉も血管もすべて適当に繋がっている。

 どんなにグチャグチャにしても、つなぎ直して生かすことも可能なのではあるまいか。


「あぐ……うぐぐ……」

 後ろ向きについた脚では、もう立てないだろう。

 男はその場に倒れ込んで、床の上でよだれを垂れ流している。

 もしかしたら、激痛が彼の全身を襲っているのかもしれない。


「騎士様たち、男をそのまま押さえてください」

「「う、うむ……」」

「な、なにをしやがる!」

「ヴェスタ、今度は頭をいってみましょう」

「はい」

 彼が躊躇なく答えた。


「それよりも、首を前後逆につけてみようかしら? かなり面白い格好になるわね」

「止めろぉぉぁぁぁ!」

 騎士たちに押さえつけられた男が、ジタバタしている。

 まぁ、手があさってについているので、鎖がついていなくてもまともな抵抗はできない。

 首は止めて、やっぱり頭にすることにした。


「ちょっと、どこを斬ればいいか見えないわね」

 男の髪がボーボーで斬る場所が見えないのだ。

 私は、自分の袋から出したナイフで男の髪の毛を切ると、出てきた地肌を切って印をつけた。


「ここからね」

「はい」

「止めろぉぉ!」

「あらぁ、自分の頭の中がどうなっているか、見てみたくない?」

「ひぃひぃぃ!」

「大丈夫よ。どんなことをやっても、聖女の私がいる限り死なないんだから。いつまで人間でいられるかは保証できないけど」

 ヴェスタが剣を高く掲げた。


「止めろ! 止めろ! 言う! なんでも言う!」

「別になにも言わなくてもいいんだけど……私も、どのぐらい頭を切ったら影響があるのか知りたいし」

「止めろぉぉ! 許してくれ! 俺が悪かった!」

「ええ? それじゃ、私の暗殺を誰に頼まれたのかも、言うの?」

「言う!」

 しゃがんで彼の目をジッと見つめる。

 嘘はついていないだろう。

 その場しのぎでそんなことを言っても、さらなる苦痛が待ち構えているだけだ。


「騎士様たち、陛下にご連絡をしていただけますか? 聖女が火急の用ということで」

「は、はい」

 男を押さえつけていた騎士が退いた。


「うう……」

 男が泣いている。

 泣いたって許されることじゃないし。

 私のやったことを非道だと言う人もいるかもしれないが、この男はそのぐらいの罰を受ける行為をやってきた。

 それに、犯人は殺していないしね。

 人道的でしょ?


 騎士たちはドン引きしているが、まぁ仕方ない。

 真っ当な方法では、この男は口を割らなかったろうし。


 しばらくすると――ガヤガヤと声がして、牢のドアが勢いよく開いた。

 入ってきたのは陛下だ。

 後ろには、騎士団の団長であるヴァンクール様がいる。


「う!」

 陛下が床に転がっている男の姿を見てたじろいた。

 魔物かなにかに見えたのかもしれない。


「畏れ多くも陛下――お忙しい中、このような場所におみ足を運んでいただき、大変恐縮でございます」

「そ、その男はいったい……」

「私がやりました」

「せ、聖女様が……?」

「奇跡を使えば、このぐらいのことは簡単にできるのでございます」

「お、恐ろしい……」

 陛下の顔が恐怖で引きつっている。

 ちょっとやりすぎただろうか?

 陛下はともかく、ファシネート殿下に嫌われるのは、ちょっと堪えるかもしれない。

 いや、ここまでしないと、こいつは白状しなかったし……。

 たとえ沢山の人々に眉をひそめ嫌われたとしても、この事件に関わる連中を許すわけにはいかない。


「恐れながら、私のことよりも、この男がすべてを話すと申しております――ねぇ?」

「は、話す! だから止めてくれぇ!」

「……そ、それでは、話を聞こう……」

「私を狙ったのは、誰の差し金?」

 そう言ってはみたものの、差し金って通じるだろうか?


「きょ、教団のヴァンデッタっていう助祭だ……」

 通じた。


「な、なんだと!」

 男の話を聞いた、陛下の髪が逆立ったような気がした。


「それは間違いないの?!」

「ま、間違いねぇ! 俺の所に直接来て頼まれたんだ!」

「異教の魔導具を持っていたようだけど? あれはなに!?」

「そ、それも助祭からもらった……」

「それが本当なら、教団の中に異教徒がいるのか、組織そのものが他神と繋がっている可能性が……」

 ヴァンクールの言葉に陛下の顔がみるみる紅潮し、額に青筋が浮かぶ。

 頭から湯気が出そうだ。


「ぐぐぐ……この私をどこまでコケにすれば気が済むのか……」

 教団には国の予算も入って運営されている。

 この国が信奉している神様の教団だと思っていたら、異教団だったとか洒落にならない。

 陛下にしてみれば、いい面の皮だ。


「陛下、いかがいたしましょう?」

 私の言葉に、彼が全員に言い放った。


「ここにいる者、全員他言無用!」

 その場にいた騎士が全員気をつけをした。


「「「はっ!」」」

「ヴァンクール! 先の作戦での殉職者と怪我をした騎士と兵士を外して、部隊を立て直せ!」

「せ、聖女様のお力で、怪我人のほとんどの者が完治しておりますので、9割がたが出陣できるかと」

「承知した」

「陛下、教団を取り調べるなら、私も同行いたしますので」

「聖女様にばかり苦労をおかけしてしまい大変心苦しいが、私からもお願い申し上げる」

 陛下に頼まれなくても、あの枢機卿ってやつも絡んでいるかもしれないでしょ。

 もしそうなら、一発かましてやらないと!


「陛下の御心のままに」

 私は深く礼をした。


「聖女様、騎士団と軍の編成に少々時間がかかる」

「それでは、私は部屋でお待ちしておりますゆえ」

 私は魔法を使った。

 白いドレスが血まみれなのだ。

 青い光が布に染み込むと、血糊がバラバラと落ちていく。


「それじゃ、ヴェスタにもね」

「ありがとうございます」

 彼にも洗浄クリーンの魔法をかけてあげた。


 私は自分の部屋に戻ると、また食事をとった。

 もうスプラッタシーンのあとでも、平気で食事をしちゃう。

 私はもう、まともではないのだろう。

 これから魔法を沢山使うかもしれないし、とにかくエネルギー補給だ。


 それはいいのだが、ブッチーニという枢機卿が聖女を毛嫌いしていたのは、自分たちの神様と違う使徒だから?

 それもありうる話になっている。

 そう考えると今までの彼の行動もうなずけるのだが、随分とややこしいことになったものだ。



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