81話 暗殺者たちのアジト
王族がいるお城で襲われるという非常事態だ。
相手は暗殺を専門にしている連中らしいが、物騒すぎるし、子どもを使い捨ての兵器にするなんて絶対に許せない。
自爆してバラバラになった少年を、聖女の奇跡を使ってつなぎ合わせた。
自分でもびっくりの能力だが、助かった少年も相当なトラウマになったことだろう。
私の命ももう狙わないし、私たちに協力してくれるという。
敵の親玉がいる場所が解ったので、そこを確かめに行こうと思う。
自分の部屋に戻ってくると、メイドたちに男装の用意をしてもらい、連れてきた男の子にも適当な服を用意してもらう。
私が行く必要もないと思うのだが、少年が厳つい騎士たちに連行されて案内させられるとか、ちょっと可哀想じゃない。
男の子の前で裸になる。
彼が慌てて真っ赤になると下を向いた。
完全なセクハラのような気がするが――なんだか、いつも人前で裸になっているせいで、すっかり慣れてしまった。
女が恥じらいをなくしたら終了のような気がするのだが――まぁ気のせいだ。
ファシネート様だって、あんなに可愛いのに、トイレやお風呂でお世話されているっていうじゃない。
「別に見てもいいわよ」
私の言葉に彼が後ろを向いた。
男の子をからかっている場合ではない。
男ものの服を着ているとドアが開いた。
「聖女様!」
入ってきたのは国王陛下だ。
「なんでしょう?」
「む!? だれだ、そなたは!? 騎士団! いったいなにをしていた!」
「恐れながら陛下……」
騎士が説明をしようとしているのだが、いきなり私のことで怒られて、騎士団の人たちが可哀想だ。
「陛下、私ですよ」
彼が訝しげに私の顔を覗き込む。
「……ノバラ? いや、聖女様?!」
「はい、ノバラです」
国王の顔が、驚きの表情に変わる。
「ファシネートが、聖女様の変装が素敵! ――などと申しておったが、こういうことか……」
「恐れ入ります」
「そんな格好をしていかがいたす?」
「彼が自分の首領がいる場所と、その男を教えてくれるというので、出向こうと思っておりました」
私は少年を抱き寄せた。
「別に聖女様がわざわざ出向くことはなかろう」
「この子は、私を信じて協力してくれることになりましたので……」
本当はそうではない。
半分脅してしまったのだが、そういうことにしてしまおう。
「お! そうだ! 聖女様が、敵の暗殺者を牢から出したと報告を受けたゆえ、飛んできたのに……すっかりと出鼻を挫かれてしまった」
陛下が男の子のほうをチラ見した。
危険性はないと判断してくれたようだ。
「わがままを申しまして、申し訳ございません」
「う~む、いったいどうしたものか……」
陛下は、私の突飛な行動に悩んでいるようだ。
「陛下、私はべつに殴り込みをかけるつもりではないのです。彼に案内をしてもらい、暗殺者のアジトの場所を特定するだけです」
「……承知した。それでは騎士団の団長を一緒につけてやろう」
「カイル様ですか?」
「それは近衛だろう。こんなことで近衛を出すわけにはいかぬ」
近衛騎士団の他に、普通の騎士団もいるらしい。
捕物やら街での戦闘やらは、普通の騎士団が行うようだ。
そりゃそうか。
ティアーズの騎士団などと同じだ。
「ヴァンクリーフを呼べ!」
「はっ!」
しばらくかかりそうなので、陛下に座っていただいてお茶を出す。
「ふう……どうして、こういうことになった……」
「申し訳ございません。すべて私のせいですよね」
「いや、別に聖女様を責めているわけではない」
「いいえ――おそらくは、私が街に孤児院や医院を作ったせいでしょうし」
「もしも、そのようなことが原因でも、城を爆破して聖女様や王族を狙うなどと――今回の騒ぎで私と騎士団の面子が丸潰れだ」
そりゃ騎士団と近衛の警備をすり抜けた挙げ句、自爆されてお城が半壊したのだし。
「ねぇ」
私は男の子の方を向いた。
「はい……」
「自爆ってのは、どういう仕組なの? 魔法?」
「詳しくは解らない。魔道具だと言っていた……」
「自爆する魔道具だって知らされていた?」
「……」
彼が黙って首を振る。
そんなの知っていたら、躊躇なく使うはずないわよね。
死んだら神様の下にいけるとか信じている、そういう人たちならともかく。
「そんな魔道具があるなら、普通の兵器としても使えるのでは……」
手投げ弾とか、大砲を作って重い弾を飛ばすとか。
「おそらくは魔法を暴走させる魔道具だ。威力を増すためには大きな魔石が必要となる」
「それは簡単には使えそうにありませんよね」
大きな魔石は結構なお値段がするらしいから、それを使い捨てにしてしまっては破産してしまう。
ここぞというときに使う、必殺の道具かも。
「うむ。聖女様の暗殺に失敗したので、証拠の隠滅と神からの授かりものを確実に天に帰すために、やむを得ず使用したのでは?」
授かりものというのは私のことだ。
「私の、聖なる盾を甘く見てましたね」
「現場にいた近衛の話では、今上の聖女様でなければ確実に命を失っていたという報告だったな」
「まぁ、普通じゃ考えられないぐらいの速度で魔法が展開しますからねぇ」
ちょっと自慢してみた。
「にゃー」
「はいはい、君のおかげよ」
本当に、ヤミの一言がなかったら魔法も間に合わなかった。
陛下と話していると、鎧を着た騎士がやって来た。
ガッチリした体型のナイスミドルガイです。
オールバックヘアに鼻の下には左右に伸びるヒゲ。
すごく渋い――いつも近衛の派手な鎧しか見ていないので、地味に見える。
「ヴァンクリーフ来たな」
「陛下、お呼びでございますか?」
「うむ、聖女様がお呼びだ」
「はっ! そ、それで聖女様はどこに……?」
「私でございます。聖女のノバラです」
「はい?!」
彼が私の姿をまじまじと見ている。
「ヴァンクリーフ、戯れではないぞ?」
「は、はぁ……」
国王の言葉に、騎士が困惑している。
そりゃそうだ。
でも、そんなに女だと解らないのだろうか?
嬉しいやら悲しいやら……複雑である。
「にゃー」
「うるさい……本当に、私が聖女のノバラですよ」
「騎士団団長、ヴァンクリーフ・フォン・アズラエルでございます。な、なぜ聖女様は、そのようなお姿に……?」
「この度の失態を、聖女様が取り返す機会を与えてくれようと言うのだ」
「そ、それはどのような! 私どもに、なにとぞその機会をお与えください!」
「私が数日前に、暗殺者に狙われたのはご存知ですよね?」
「もちろんです! このようにやすやすと城に入り込まれて、聖女様や王族の方々を危険に晒すとは――まったくもって面目次第もございません」
騎士が膝をついて、おいおいと泣き始めた。
なんだか仰々しくて、いかにも騎士っぽい。
「待て待て」
「責任を取れとおっしゃるのであれば、なにとぞ私1人の命でお許しくださいますよう……」
「待てというのに! 騎士団の責任は私の責任でもある。そのようなことができるはずがなかろう」
「ははっ」
「お前の代わりなどおらぬ。やっと金食い虫の近衛を潰せたのだ。これからは騎士団にも予算を回せる。ヴァンクリーフにはその舵取りをしてもらわねばならん」
「はは~っ!」
私は茶番っぽい寸劇に水を差した。
「よろしいですか?」
「おお、聖女様。続きを――」
国王が手を伸ばした。
「私を襲った暗殺者の1人が彼です」
「え?! 真ですか?」
「うむ、聖女様がお目覚めになるまで、箝口令を敷いておったからな。知らぬのも無理もない」
「それでは、この者を問い詰め――」
「いえ、ヴァンクリーフ様。彼はすでに私の下で改心いたしまして、協力することを約束してくれました」
「なんと! いったいどのような尋問を……」
「そのようなことは、いたしておりませんよ」
陛下と騎士が訝しげな顔をしているが、これは本当だ。
少々嘘をついて脅かしはしたけど。
「それでは、首謀者が判明したのですか?」
「はい――暗殺を生業としているギルドンという男のようです」
「それが解っていらっしゃるなら、早速そこに騎士団を向かわせ……」
「いいえ、まずは私とヴァンクリーフ様で偵察に参りませんか?」
「偵察ですか?」
彼が腕を組んで話を聞いている。
あまり納得していないのかもしれない。
早々に汚名挽回――じゃなかった、名誉挽回したいのだろう。
「はい、いきなり騎士団で押しかけても逃げられる可能性もあるでしょう? 暗殺団の地元となれば密告をするものたちも大勢いるはずです」
「た、確かに」
「まずは偵察をして、街の地理やらを把握してから、密かに囲むように騎士団を配置するのです」
「聖女様のおっしゃることは至極ごもっともですが――聖女様自ら御出でになることはないのでは……?」
「彼が、私に協力してくれることになっておりますので、聖女自身が赴かなければ」
「承知いたしました」
「それに――」
「ほかになにか?」
「こんな子どもを使い捨ての兵器とするなど、神の名の下において許すことができません」
「はは~っ! 聖女様の御心のままに」
こんな胡散臭いセリフがペラペラと出るようになって、私もだいぶ聖女っぽくなってきたんじゃない?
「私もこの格好で行きますので、ヴァンクリーフ様も鎧をお脱ぎになって普通の格好でいらしてください」
「普通の格好ですか?」
「はい、敵のアジトの近くを騎士がウロウロしていたら、警戒されますでしょ?」
「かしこまりました!」
騎士はすぐに準備を始めるようだ。
また少々時間がかかるだろう。
「それはいいのだが……聖女様、大丈夫なのだろうか?」
「大丈夫ですよ。騎士団の団長さんがいらっしゃり、私の護衛もいますし。そもそも私は魔法が使えますから」
「そうだったな――本当であれば私が行けばいいのだが……」
「それこそ大問題になりますよ」
陛下と笑っていると、ツインテールのメイドが飛び込んできた。
私のお付きではない他のメイドだ。
「あ、あの、申し訳ございません!」
「なにごとだ?!」
「聖女様に――」
「え? 私?」
変な男がいて返事をしているので、すごく警戒している。
「は、はい。崩れた部屋にハーピーがやって来て、騒いでいるのです」
「モモちゃん!」
私は外に出ると、前に使っていた部屋に向かって走り出した。
部屋の前に立ちドアを開けると、目に飛び込んでくる白い翼だが、いつもと違う。
そこには翼を開いて高く掲げ、髪の毛を逆立てた鬼の形相のハーピーがいた。
「お前、誰だ!!」
「私よ、モモちゃん! ノバラよ!」
「嘘つけ! お前がノバラのわけがない!」
ええい、こういうときにできすぎた変装ってのは困る。
「よく見て! モモちゃん!」
彼は翼を閉じると、ぴょこぴょこと私の所にやってきて顔を見上げている。
「じ~」
私はしゃがんで彼に視線を合わせた。
「ほら!」
「……ノバラ!」
彼の顔が突然明るくなった。
「わかってくれた?」
「ノバラだ!」
解ってくれたようなので、私は彼を抱きかかえた。
「ゴメンね、心配かけたんでしょ?」
「ノバラ、なんでそんな格好をしている?!」
「悪いやつに襲われて、こういうことになっちゃったので、男に変装をしているのよ」
私は、壊れた部屋を指して言ったのだが、本当はちょっと違う。
「ノバラを狙うやつ、誰だ!」
「今は、それを調べているところだからね」
「ノバラに酷いことをするやつは、許せん!」
ハーピーたちは、本当に仲間思いなのね。
これじゃ、仲間が1人やられたら、酷い復讐をされるというのも納得。
「ありがとうね」
彼の頭をナデナデすると、こちらをじ~っと見ている。
「ノバラが男のときは、そういう格好なんだな! 覚えた!」
彼に別の部屋にいることを説明すると、白い翼を広げた。
「わかった!」
そう言うと、彼は崩れている部屋から飛び立った。
ハーピー的には、大穴が開いているコッチの部屋のほうが便利そうねぇ。
森に家を建てたら、ハーピー用に滑走路を作ってあげたらいいかも。
ティアーズ領に帰ったときの妄想が膨らむ。
「いや、こんなことをしている場合ではなかった」
廊下に出て元の部屋に戻ると、騎士のヴァンクリーフが私服でやってきていた。
緑色の上着に、土色のズボン――剣を差しているので、これだけで貴族だって解りそうだけど、鎧姿よりはマシだろう。
「ヴァンクリーフ様、準備はできましたか?」
「はい」
「私がこの姿のときは、カシューと呼んでください」
私は声を低くした。
「……そうすると、本当に男のようですな……いや、失礼」
「変装が上手くいっている、褒め言葉だと受け取りますよ」
「にゃー」
ヤミが足元に来たので、肩に乗せてあげる。
「せい――カシュー様、こちらも準備ができました」「……」
私の所にやって来たのは、私服に着替えたヴェスタとアルル。
命令をしなくても、彼らはすでに準備万端整っていた。
「ヴァンクリーフ様、私の従者2人を連れて行きますので」
「承知した」
皆と一緒に男の子を連れて、5人と1匹で街を目指す。
いつものように、お城の裏門に行く。
前に乗せてもらったお爺さんを捜したのだが、今日は違う荷馬車と交渉して乗せてもらった。
街に到着すると、男の子の話をアルルに聞かせる。
ヴァンクリーフ様もこの街の出身だが、彼は貴族なので悪所と呼ばれる下町のことまで知らない。
「アルル、彼の言っている場所は解るか?」
私は男装しているので、男言葉だ。
「はい、場所は解りますが――立ち入ったことはありませんので、そこまで行ってみないことには」
おおよその場所は解るので、乗り合い馬車で近くまで行く。
馬車から降りると、少年の案内でその場所を目指した。
悪所と言われる場所に脚を踏み入れると、途端に雰囲気が変わったのが解る。
建物も突然バラックが増えて、背の高い建物がなくなった。
路上には倒れた人や、汚れたものが目立ち悪臭が立ち込める。
完全に場違いな私たちは、そこから完全に浮いてしまっているようだ。
「このような場所に聖女様をお連れするとは……」
「ヴァンクリーフ様」
「し、失礼、カシュー殿」
「しかし、1度来てみないことにはこういう場所とは解らなかったでしょう?」
「確かに――ごちゃごちゃと入り組んでいるし、路地も多い――ううむ」
つまり迷っている間に、敵に察知されて逃げられる可能性があるということだ。
路上でニタニタと笑っている男たちの前を通り過ぎて、路地をくぐり、ロサという少年が目指す地点までやってきた。
「あそこ――」
彼が指さしたのは、石造りの高い塀に囲まれた地点。
なにやら監視台のようなものも見える――難攻不落の要塞か。
「これはマズい……近づくと発見されますな……」
ヴァンクリーフ様が建物の陰から、先を眺めている。
「意外と大きい施設みたいね」
「せい――カシュー様、あれだけの施設を作るために相当な金が流れているのでは……」
ヴェスタの言うとおりだろう。
教団やら商人やら、貴族のはてまで、暗殺の依頼を受けて金を儲けているのに違いない。
自爆する魔道具なんて高価なものを使えるのも、その証拠だ。
「ヴァンクリーフ様、これでは近づけません。戻って作戦を練り直しましょう」
「確かに、これ以上嗅ぎ回ったら警戒されてしまいますな」
「ロサ、あの監視台は夜中も動いているの?」
「うん」
やっぱり。
これじゃ調べるどころではない。
これは一旦お城に戻ってなにか別の作戦を考えなくては。
「カシュー殿の言うとおりに、実際に目で見てみなくては解りませんでしたな」
「あんなに大規模な施設だとは思わなかった」
「確かに……」
私たちがお城に戻ろうと来た道を引き返し始めると、粗末な服を着た男たちに囲まれた。
彼らはニヤニヤとこちらを眺めている。
小さい男、細くてカマキリのような男、私より背が高い大男――チンピラの見本市か。
いや、こんな場所に住んでいるからといって、チンピラと決めつけるのはよろしくないか。
あくまで紳士的に振る舞おう。
「通してもらおう」
「お?! 女もいるぜ?!」
私じゃなくてアルルのことだ。
やっぱり私たちの話を聞くつもりはないらしい。
絵に描いたようなチンピラだった。
「こんな場所は、お貴族様の来る場所じゃないぜぇ?」
まぁ、こんな格好をしていても貴族だってバレてしまうか。
だって皆、私服といっても上等な服を着ているし。
ヴァンクリーフ様が腰の剣に手をかけているのを抑える。
「悪いが、ことを荒立てるつもりはないのだが」
「ヒヒヒ、それじゃ有り金を全部置いていってもらうか?」
カマキリのような男が、アルルのほうに向かったので、これ以上は無駄だと思う。
ヴェスタのほうをチラ見すると、彼がうなずく。
「光よ!」
私の前に閃光の玉が浮かぶ。
悪人なら容赦する必要はない。
「く、くそぉ!」「なんだ?!」「魔法か?!」
「おりゃぁ! キ○タマグッバイ!」
私の正面にいた大男の股間を蹴り上げた。
「うぐ%$#***!」
男が股間を押さえてうずくまったのを蹴り倒す。
「あぐ!」「んぎゃ!」
ヴェスタとアルルも男たちを蹴倒していた。
2人とも股間蹴りではなく、普通の蹴りだが。
「め、目が……」
私の戦法を知らない団長さんが、まともに食らってしまったようだ。
彼の手を引いて走り出す。
「ヴェスタは男の子をお願い」
「はい」
私たちは急いでその場を離れると、悪所との境界線まで戻ってきた。
「ふぅ――ヴァンクリーフ様、目は大丈夫ですか?」
「ああ、見えるようになってまいりました。まさか、あんな魔法を使われるとは……」
「私のお披露目で見ませんでしたか?」
「我々騎士団の警備は外でしたので……」
なるほど。
通常外の警備をしていれば、私たちとは会わないわけだ。
「しかし、こんな要塞じゃ――相当大掛かりな包囲網を敷かないと駄目かも……」
「そうですな……」
「やっぱり、陛下に報告してお力を拝借いたしましょう」
「くくく……このヴァンクリーフの不甲斐なさ――まったく御役に立つことができないとは……」
「そんなことはありませんよ。これからですよ、これから」
「……」
団長さんは、しょんぼりと落ち込んでしまっているようだが、そんな場合ではない。
――私たちはお城に戻ると、暗殺団の施設のことを陛下に報告した。
私たちを案内してくれたロサは、そのまま聖女騎士団に入って仕事をすることになる。
この世界ならもう仕事をしてもいい歳らしいので、頑張ってもらおう。
アルルに読み書きそろばんの先生になってもらうことにした。
勉強したあとに、街で普通の仕事をしたいというのであれば、そうさせてあげるつもりだ。
悪党どものアジトを襲撃する極秘計画のために、私の部屋で会議が行われている。
会議に参加しているのは、私と陛下とヴァンクリーフ。
王族だけが見ることができるという、王都の地図が机の上にあるのだが、私たちが訪れた悪所などは空白のまま。
それに少々古い地図なので、細かい所は正確ではない。
「なんと、そのような大規模な施設が作られておるとは……」
「おそらく、家宅捜索をすれば、暗殺団を使っていた貴族やら商人の証拠も出てきますよ」
「これは由々しき事態だぞ」
「私が思いますに――まずは、一帯の詳細な地図が必要かと」
私の言葉に、ヴァンクリーフ様が口を開いた。
「しかし、あのような場所でどうやって地図などの情報収集をいたします?」
「王国には、それ専門の組織があるではないですか」
「なるほど、笛吹き隊か……」
「はい。彼らに街の住民に変装をさせて――いや、すでに潜り込んでいる草もいるのでは?」
「よし、私からの命令で、早速情報収集をさせよう」
「ありがとうございます」
「いやいや、聖女様。今回の件は、王族としての面子がかかっているゆえ、金を惜しむつもりもないし、手段を選ばぬ」
「それでは、失敗するわけにはまいりませんね」
「無論だ。下手人をあげぬことには、私の顔が立たぬ」
陛下も本気だ。
皆で作戦を話し合ってると、私を呼ぶ声がした。
「ノバラ!」
振り向くと窓の所にハーピーが止まっていた。
私の新しい部屋を教えたので、遊びにきたのだろう。
「うおっ!」
この声は、ヴァンクリーフ様だ。
ハーピーを初めて見て、驚いているのだろう。
「モモちゃん!」
遊びに来てくれたので、彼を抱っこしたのだが――白い翼に顔を埋めて閃いた。
彼を抱いて、テーブルに広げた地図を見せてやる。
「なんだこれ? この街を空から見た絵だな」
「モモちゃん解るの?」
「おう!」
「ここの形がどうなっているか解らなくて困っていたの。モモちゃん、解らない?」
私は地図の空白になっている部分を指した。
「う~ん、多分解るぞ?」
「本当?」
「おう! 今から見てきてやる」
「お願い。あとで美味しいものを食べさせてあげるから」
「わかった!」
彼が私の腕から飛び降りると、窓の縁にジャンプしてから外に飛び出した。
ハーピーなら上空から見れるわけだけど、どのぐらい正確に把握できるものなのだろうか?
とりあえず、彼からの話を聞いたあと、笛吹き隊も出動ね。





