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80話 爆破テロ


 聖女印の治療院と孤児院を開いたら、早速教団からのクレームだ。

 正論で追い返したが、一応仕返しを警戒して警備を増やしたりした。

 あくどいことをやっているのは教団なのだから、陛下の力でなんとかならないものかと思ったのだが、そういうわけにもいかないらしい。

 君主制なのに、国王の強権発動もできないのか。

 不便なものだ。


 反聖女派貴族と教団はつながっているので、強権の発動をすると王国から離反者が出るのを恐れているのだろう。


 それから数日なにごともなかったのだが――夜中に突然、ヤミに起こされた。


「にゃー!」

「なに?! なにかいるって?!」

 彼がなにかの気配を感じているらしい。

 耳を澄ましてみるが、私にはなにも感じられない。

 部屋の中はシンと静まり返って、窓からは月明かりが入ってきているだけ。


「……」

 私が窓を見ていると、突然ガラスが飛び散った。


「にゃ!」

「なに?!」

 なにか黒いものが2つ飛び込んできたような気がする。

 背筋になにか嫌なものを感じて、咄嗟に私は魔法を唱えた。


光よ!(ライト)

 魔法を唱えると同時にベッドから飛び降りると、そこになにか光る物が突き刺さった。

 短剣だろうか。

 私の魔法によって、襲ってきた正体が解った。

 大小2つの人型だが、真っ黒い装束を着ていて顔も隠れている。

 小さいほうは子ども?

 両方とも動きが止まっているが――おそらく私の魔法の目潰しをくらって、目の前が真っ白になっているのだろう。

 ベッドに突き刺さった短剣は、私がその場にまだいると予想して投げたに違いない。


「聖女様! なにごとですか?!」

 外で護衛をしていた近衛騎士が1人飛び込んできて、敵を確認すると剣を抜く。


「くっ! くそぉ!」

 目がくらんでもたもたしている敵に、騎士が剣を振りかぶった。


「ぬおおっ!」

 光に反射した白い刃が、大きな敵の肩口から入って、身体の半分までを両断した。

 傷口から大量の赤いものが床に飛び散る。

 残心している騎士に、小さい敵が短剣を構えて突進したのだが、あっけなく弾き飛ばされた。


「うぐっ! &*&$#!」

 切られた敵がなにかを叫んだのだが――それを聞いた小さいほうが立ち上がると、その身体が光り始める。

 それを見たヤミが毛を逆立てた。


「ふぎゃー!」

「ええっ? ウソっ! 聖なる盾(プロテクション)!」

 彼の言葉から、とっさに私は魔法を唱えた――防御魔法である。

 透明な魔法の壁の向こうで閃光が走ると、凄まじい爆音と振動が私たちを襲う。

 私が最初に出した魔法の光は、爆発でかき消されてしまったようだ。

 真っ暗な中――耳がキンとしてなにも聞こえないが、敵を切った近衛騎士は無事。

 魔法の障壁の向こうは暗くてよく解らない。

 壁や床などが崩れ、もうもうと白い土煙が上がっているように見える。

 私が出した透明な壁には、なにか黒いものが大量に飛び散り、下まで垂れているようだ。


「聖女様!」

 開いていたドアから、ヴェスタが飛び込んできた。

 爆音で飛び起きたのだろう。

 防御魔法を解いて、再び魔法の光を出した。


光よ!(ライト)

 透明な壁でせき止められていた、ホコリなどがこちらまで押し寄せてくる。

 壁に飛び散っていたのは、人体から出た赤いもの。

 それが床を濡らしている。


「聖女様! 敵は?!」

「1人は騎士様が、もう1人は――」

「にゃー」

「やっぱり、あれは自爆よね……」

「人を兵器として使うなどと、なんという卑劣!」

 ヴェスタが激怒しているが、そのとおりだと思う。

 襲撃に失敗したからといって、自爆させるなんて……。


「聖女様、ここから避難を!」

「聖女様!」「な、なにごと!」

 隠し扉から、白い寝間着のメイドたちもやってきた。

 壁まで壊れてしまったが、2人は無事だったようだ。


「私は――うっ!」

 白い煙が晴れてくると、バラバラになった肉塊が見えてきた。

 思わず目を逸しそうになったのだが――なにかが動いたように見える。

 私は、なにかの衝動に突き動かされるように、そこに駆け寄った。


「聖女様! 危険です!」

 ヴェスタの声に構わず、動いたものに近づくと――人の頭が見える。

 黒い装束が吹き飛んだ裸の子どもの上半身だ。

 爆発で千切れ飛んだのか、上半身だけで手足もない。

 そんな状態だが、彼の目からは涙を流し、口がなにかを訴えていた。

 まだ生きている!

 私は、咄嗟に祈りを唱えた。


「天にまします神よ! この小さき消えゆく命に、癒やしの御手をお伸ばしください!」


 ――私の記憶はそこで途切れた。


 目を覚ますと天幕が見えるが、私の部屋ではないようだ。

 明るいので朝か昼らしい。

 咄嗟に聖女の力を使ってしまったが、なぜ私を殺そうとしてきた敵に慈悲をかけたのか。

 自分でもよく解らない。

 多分あるとすれば、小さい敵が子どもだったから――だろう。

 子どもを兵器などに利用する行為が許せなかったのだ。


「にゃー」

 私の所にヤミがやってきて、顔を舐める。

 彼のザラザラの舌が、私の頬を引っ掻く。


「あいたた、ちょっと止めて」

 身体が動かないので、身体にかなりの負荷がかかったのだろう。

 闘技場で、皆に祝福を与えてしまったときのような感じになっている。

 咄嗟に奇跡を使ってしまったが、あの状態からなんとかなったのだろうか?

 それに今回は話せるし。


「ヤミ、どのぐらい眠ってた?」

「にゃ」

 どうやら3日らしい。

 まずは指から動かして、次は前腕。

 足の指も動かして、足首も動かしていく。

 それでも動き始めると、闘技場のときよりはなんとか身体が動く。


「ねぇ、私が力を使った、敵の子どもはどうなった?」

「にゃー」

「え? 本当に?」

 彼の話では、バラバラになった身体がにゅるにゅると集まって、元どおりになったらしい。

 マジで? ちょっと聖女の力って常軌を逸してない?

 まぁ、奇跡っていうぐらいだし、バラバラの身体がくっついてもおかしくはないか。

 普通の病気や怪我を治すより、とんでもない負荷が身体にかかったみたいだけど。


 そうすると――私が治療院で治したあのリウマチのお爺さんも、本気を出せば手足もまっすぐにすることができるってことね。

 ただし、3日ぐらい死んだ状態になるけど。


「う~ん」

 それは解ったが、やはり通常の治療ではそこまでのことはできない。

 どだい、すべての人を救うなんてできないじゃない?

 それでも、なるべく沢山の人を治すとなると、広く浅く――てな感じになると思う。

 もちろん対価を沢山貰えば考えるけどね。

 その対価を使って、治療院や孤児院を作れば、さらに多くの人を救えるわけだし。


 私ってば、本当に聖女としては駄目だと思うけど、こんな聖女でいいのだろうか?

 疑問ではあるが、神様から力を取り上げられていないってことは、問題なし――という判断なのだろう。


「それで? その子どもは?」

「にゃ」

 どうなったか彼も知らないという。

 まぁ、殺されてはいないらしい。

 そりゃそうよ。

 殺したんじゃ、私が助けた意味がないじゃない。


 だいたいの事情は解ったが、詳しいことが解らない。

 ここで悩んでいるより、誰かから詳しい話を聞いたほうがいいだろう。


「ちょっと~! 誰かいない~? もしも~し!」

 私の声が聞こえたのか、ドアが開いて誰かが飛び込んできた。


「聖女様!」

 真っ先に私の所に飛んできたのは、ヴェスタだ。


「今目が覚めたところ。悪いけど起こして」

「はい」

 彼に抱いてもらいベッドの縁に座ったのだが、彼が目をそむけた。

 私の格好が、スケスケの寝巻きだったのだ。


 赤くなっている彼の顔に触れる。


「ヴェスタには、心配かけてばっかりね」

「い、いいえ! 聖女という重責を立派に果たしていると思います」

 コッチを見たヴェスタが、再び顔を横に向けた。


「ありがとう」

 彼と話していると、再びドアが開いた。


「「聖女様!」」

 入ってきたのは、アリスとクロミだ。


「2人とも大丈夫だった?」

「はい」「身体は大丈夫だったけど、あれを見たので2日寝込んだ」

 クロミが青い顔をしている。


「あれって?」

「にゃー」

「ああ」

 バラバラだった身体が、元どおりになったことか。

 ヴェスタの話では、散らばっている肉塊から骨やら内臓を復元して、最後は皮まで新品になって人の形になったらしい。

 まるで身体が爆発した動画が逆転するように……。


「ぐぇ~」

 光景を思い出したのか、クロミが倒れそうになっている。

 彼女はグロいのが嫌いなのか。

 それじゃ、私が仕留めた鳥を持って厨房に行ってという仕事を拒否したのは、そのせいかもね。


 身体が動くようになってきたので、椅子に座らせてもらい食事を頼む。

 いつものように腹ペコだ。


「そういえば、この部屋って?」

「3階の別の部屋です」

 私の質問に、アリスが答えてくれた。

 私の部屋は階下まで半壊してしまったらしい。

 お城がこのような攻撃を受けるのは、前代未聞らしいけど。

 その犯人を捕まえるとなると……やっぱり私が助けた子どもが鍵になるわよねぇ。


 今になって冷静に考えると、そう思うのだが――あのときは本当に咄嗟で、そこまで考えていなかった。

 メイドたちが用意してくれた食事を摂る――と、いっても食べさせてもらっているのだが。

 雛鳥のように食事を食べていると、陛下とファシネート様が部屋を訪れた。


「聖女様!」

「……!」

 ファシネート様に抱きつかれた。


「殿下、大丈夫ですよ」

「……」

 彼女が泣いている。

 こんな可愛い女の子を泣かせるなんてとんでもない悪党だ。

 それは私なんですけど。


「誠に申し訳ない」

 陛下が頭を下げた。


「国王が頭を下げるなど、あってはなりません」

「いいや、これはすべて城で起きたことなのだから、当然私の責任だ」

「そんなにご自分を責めないでくださいませ」

「賊に侵入されたあげく、城を半壊させられるなぞ前代未聞! 民も笑っておるだろう!」

「そんなことはないと思いますが……」

「なにをおっしゃる! 魔法が使える今上の聖女様ゆえになんとか凌げたが、これが今までどおりであったら、確実に神からの贈り物を天にお返しする羽目になっていただろう」

 それは陛下のおっしゃるとおりね。

 私が防御魔法を使えたから、敵の自爆を防げたのだし。


「にゃー」

 ヤミの話によると――普通の魔導師では咄嗟の魔法の展開が間に合わず、命を落としていた可能性が高いという。


「そうねぇ。敵もそれを見越して、ああいう攻撃をしかけたのだと思うけど……」

「それにしても、さすがは聖女様だ」

 ん? なにを指してそう言っているのか解らないので、テキトーに返事をしておく。


「いいえ、そのようなことはございません」

「なにをおっしゃる! 普通なら暗殺者の証拠が残らないというのに、咄嗟に奇跡を使って証拠を確保なさるとは!」

 ああ、そういうことね。


「それで――私が救った暗殺者というのは? 子どもでしたが……」

「うむ、騎士団は拷問による尋問を願い出たのだが、私の一存で止めておる」

「拷問のような手段は、私も望んではおりません」

「やはり! ファシネートの意見を聞いてよかった!」

「ファシネート様、ありがとうございます」

「コクコク!」

 私に抱きついたまま殿下がうなずいた。


「その暗殺者に私を会わせてくださいますか?」

「危険ではないか?」

「私は魔法が使えますし」

「む……そ、そうか、そうだな……」

 準備をするので、しばらく待ってほしい――と、陛下に言われたので、待つ。

 まぁ、いざというときの警備とかそういう心配だろう。

 それに、私も身体がまともに動かないし。


 ――私が目覚めてから次の日。

 身体は完調になった。

 自分の身体にも自然回復(ナチュラルヒール)がかかっているから、普通の人よりは回復が早い。

 近衛騎士たちに案内されて、地下へ続く階段を歩く。

 薄暗い階段には青い魔法の光が灯り、私の進む先を薄っすらと照らしている。

 行く先には牢屋があるという。

 私たちのちょっと後ろをヴェスタがついてきている。


 ヤミは気がすすまないみたいで、お留守番だ。


 映画やらアニメでは、お城の地下には牢屋ってのがつきものだが、やっぱりあるんだ。

 こういうところに幽閉されちゃうこともあるんだろうな。

 地下まで降りると明かりはないので、騎士のランプを使って進む。

 地下牢なんて、なんだか恐ろしい光景だが、あまり使われている様子はない。


 国王が気に入らないやつを捕まえては、牢屋にぶち込むみたいなイメージがあるのだが、あの国王陛下なら大丈夫だと思う。

 そんな国王がトップなので、ここは使われていないのだろうと思われる。


 騎士が立ち止まった。

 彼の眼の前には、分厚い木でできた扉がある。


「ここです」

「開けてください」

「……しかし……相手は殺人の訓練を積んだ暗殺者ですよ?」

「大丈夫ですよ。それに武器を持っているわけでもないのでしょう?」

「そうですが……」

 渋々だが、彼がドアを開けた。

 中に入ると魔法を使う。


光よ(ライト)

 私の声に反応して光の玉が浮かぶと、牢屋の中を照らした。


「……」

 部屋の隅にあるボロボロのベッドの上に、長い黒い髪の男の子が座っていた。

 ひどく怯えていて、手と脚に枷がハメられている。

 これで攻撃なんてできるわけないと思うのだが――いや、暗殺者ってぐらいなら、こんな状態からでも攻撃をする術を持っているのだろうか?


「私のことは覚えている?」

「……コク」

 彼が黙ってうなずいたので、私は彼に近づいた。


「聖女様!」

 騎士たちの心配を無視して、男の子の頭を触った。

 髪の毛がつやつやだし、襲ってきたときには短かったような……。

 彼の歳は――多分12歳ぐらいね。


「あ、そうか」

 身体をまるごと再生してしまったので、全部新しくなってしまったってわけね。


「聖女様……?」

 彼が不思議そうな顔をしている。


「そう、私は聖女よ。もしかして暗殺の相手が、聖女だと聞かされていなかった?」

 彼が黙ってうなずいた。


「あなたが魔法で爆発して死にかけたのを、私が奇跡を使って救ったのだけど、どんな感じだった?」

「……とても怖かった……」

「なぜ、私を狙ったりしたの?」

「首領様から、仕事をこなせばお母さんに会えるからと……」

「でも、そんなのは嘘っぱちだって解ったわよね?」

「……コク」

 彼がうなずく。

 私は、騎士たちにお願いをした。


「彼の枷を外してやってください」

「聖女様、危険です!」

 私は男の子に向き直った。


「また私を殺そうとする?」

「……ふるふる」

 彼が首を横に振る。

 騙されたって完全に理解したんだから、私を狙う意味なんてないと、彼も理解できたはず。


「大丈夫です。外してください。あ、もしかして鍵を持っている方がいないとか?」

「いいえ、あります」

 騎士が部屋に入ってくると、男の子の手足にはまっている枷を外し始めた。

 もう1人の騎士が、剣に手をかけて警戒している。


「……」

 枷が外れた男の子が、床にぺたんと座った。

 私も彼と目線をあわせるように、しゃがむ。


「あなたに、こういうことをするように言った人は誰?」

「首領様」

「名前は解る?」

「たぶん、ギルドン……」

「あなたたちがいた場所って解る?」

「……うん」

「そこに案内してもらうことは?」

「……」

 彼が視線を外し、明らかに動揺している。

 任務を失敗したから、叱責を受けると思っているのだろう。

 もう、そんな必要もないのだけど、虐待を受けたりしていれば、そうなる。


「大丈夫よ。その場所を教えてくれるだけでいいのだから。その悪いやつと対峙しろなんていわないし」

 彼を抱きしめて、頭をなでてやる。


「……コクコク」

 私の言葉に納得したのか、案内してくれるようだ。

 彼は騙されたみたいだし、まだ子ども。


 彼を連れて牢から出ようとすると、騎士に止められた。


「陛下の許可がありませんと」

「大丈夫よ」

「し、しかし、逃げられたりすれば……」

 私は、隣にいる小さな男の子を見つめた。


「あなたのお名前は?」

「ロサ……」

「ロサね。ここから逃げたりする?」

 彼は首を振った。


「逃げても行く場所がない。戻ったら多分……」

「任務に失敗しちゃったしね」

「……コクコク」

 私はしゃがんで、彼に目線を合わせた。


「私から逃げてもいいけど――あなたの身体が、バラバラになったの覚えてるでしょ?」

「コクコク!」

「あなたの身体は聖女の力でくっついてるから、私から逃げたらまたバラバラになっちゃうわよ」

「……!」

 彼が顔を引きつらせて、泣きそうになっている。

 もちろん、大嘘である。

 私は汚い大人なので、ときには嘘もつくし手段も選ばない。


「でもね、いい子にしていれば大丈夫だから。いい子になる?」

 彼の頭をなでた。


「コクコク!」

 彼が涙目になってうなずいている。


「騎士様たち、これでいいでしょ?」

「し、承知いたしました」

 騎士たちも顔を引きつらせている。

 とんでもないことを言う女だと思われたかもしれないが、なんでもハイハイと言うことを聞く、便利な女だとか思われるのも嫌だからね。


 騎士たちは訝しげな顔だが、ちょっと離れた所にいるヴェスタはニコニコしている。

 彼は私のやり方を知っているのだと思うし――まぁ、それで嫌われてしまったら……仕方がないかなぁ。

 自分の生き方は変えられないからね。


 ロサという男の子を連れて階段を登っていくと、1階の所でアリスが待っていた。


「アリス、私の臨時の部屋ってどこになるのかしら? さっき目が覚めた部屋?」

「ご案内いたします」

「お願い」

「あの……その子どもは……」

「私を襲った犯人だけど、改心していい子になるっていうから、私が保護するの」

 戦闘能力はなかったみたいだけど、あんな窓から入ってこられるぐらいだから運動能力はありそう。


「か、かしこまりました」

 う~ん、皆の反応を見ていると、私のやっていることは、やっぱりおかしいのだろうか?

 これが大人だったら問答無用で拷問でもなんでも、いいと思うのだけど。

 最初はそんなの酷いとか思っていたのだけど、子どもを当たり前のように使い捨てにするなんて。

 ちょっと心に怒りの炎を燃やしながら、アリスのあとをついていく。


「クロミは?」

「調子が悪いと寝込んでおります」

 あのバラバラの肉塊から人に戻ったグロスプラッタで精神的にやられたようだ。


 代わりに用意された部屋は、3階のいつもの部屋から離れた場所にあった。

 裏庭には面していないので、遊びにやって来たモモちゃんが迷うかもしれない。

 いつもの部屋は壊れているし。


「あ、そうだ!」

 前の部屋に案内してもらい、壊れ具合を確かめたい。

 扉を開けて中に入ると、外側の壁が吹き飛んで全部なくなっており、びゅうびゅうと潮の香りの風が吹き込む。

 床も崩れて、下の階まで被害が出ている。

 いつもメイドたちがいる隠し部屋も壊れているが、2人に怪我はなかったみたいだし。

 改めて現場を見たけど、被害が大きくてびっくり。

 けが人が出なくてよかった。

 これじゃ陛下も怒るはずだ。


「聖女様! 崩れるかもしれないので、あまり奥には行かないでください」

 後ろにいる騎士たちが、心配してくれている。


「大丈夫です」

 一緒についてきたロサは、呆然とした顔をして佇む。

 まぁ、こんな爆発でよく助かったものだ。

 あんなバラバラになったら、元世界の医学だって無理でしょ?

 さすが神様からもらった奇跡の力。


 ここにこれ以上いても仕方がないので、自分の部屋に戻ることにした。

 こんなことをしでかしたやつらを、見逃すわけにはいかないのだ。

 幸い――といっていいのか解らないが、私の手の中には事件の証人がいる。

 彼は要人テロを命令したやつを知っているのだ。

 そいつを追い詰めるチャンスだし、そいつが誰から仕事を請け負ったかも解るでしょ?

 相手が反聖女派の貴族なのか、教団の関係者なのかは知らないが、きっちりとその責任は取らせる所存でありますよ。

 国王陛下だって今回のことで怒り心頭だし、協力はしてくれるはず。


 私は、臨時の住まいになっている部屋に戻ると、アリスに準備をしてくれるように頼んだ。


「私の男装のための小道具は、大丈夫だった?」

「はい、全部移動させてございます」

 新しい部屋にはメイドの隠し部屋がないので、隣の部屋を使っているらしい。

 テーブルの上にはベルの魔道具があって、それを鳴らすと来てくれる。


「よかった、すぐに準備をして」

「かしこまりました」

「にゃー」

「なにするって? そりゃ、敵をとことん追い詰めるに決まっているでしょ?」


 きっちりと報いを受けさせないとね。


 

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