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8話 獣人たちとコミュニケーション


 私の所に金髪の美少年がやってきた。

 眼福だと喜んでいる場合ではない。

 彼はお客様だ。

 先輩のお客様だったらしいが、私がそのまま引き継ぐことになる恰好だ。

 初めて薬を作ったのだが、上手くいけばいいのだが。


 他の注文もあるかもしれないので、色々と薬を作り始めた。

 ――といっても秤などもなく、葉っぱを1枚2枚と数えて、乳鉢に入れて粉にするだけ。

 薬作りに精を出していると、ドアがノックされた。

 黒い毛皮を着た獣人のニャルラトが、仕事を持ってきてくれたのだ。

 森で迷っていたときと違うのは、鞄を肩にかけている。

 村で頼まれた薬を運ぶらしい。


 彼が新しい魔女がやってきたと、村で宣伝をしてくれたのだろう。

 彼を家に招き入れて椅子に座らせた。


「はいこれ、お土産」

 ニャルラトが、毛を毟った鳥をテーブルの上に置いた。

 そんな光景にも慣れてしまった。


「ありがとう! 私も罠を作って鳥を獲ったよ」

「やるじゃん!」

「へへ」

 子どもに褒められて照れてしまうとか。

 彼がお土産まで持ってきてくれたので、おもてなしをしたいのだが、なにもない。

 彼に、お茶を飲ませても喜ばないだろうし。


「あ、そうだ!」

 私は寝室に入ると、魔法の袋に鳥を突っ込む。

 りんごが腐らないなら、鳥だって大丈夫なはずだ。

 代わりにりんごを取り出し、台所に戻ってくるとニャルラトに差し出した。


「なんだい?」

「これは好き?」

「リンカーじゃん。ノバラが好きなら、森から採ってきてやるよ」

 どうやら、りんごはリンカーと呼ばれているようだ。


「え?! 森の中になっているの?」

「ああ、沢山採って街に売りにいったりする」

 彼は、私からりんごを受けると、まるかじりした。

 大きく口を開けると鋭い犬歯が目を引く。

 やっぱり草食じゃなくて、見るからに肉食よねぇ……。

 普通に食べているが、酸っぱそうである。


「それじゃ、持てるだけでいいから採ってきて」

「解った」

「あ、そうだ!」

 ニャルラトから食べかけのりんごをもらい、包丁で半分に切った。

 皮を剥いて種を取ると、小皿に載せる。

 皮も種も捨てないでとっておく。

 酵母の種として使えるからだ。


「むー温め(ウォーム)!」

 続いて、少し魔法で乾燥させてから味見をしてみる。

 ん、甘い。

 りんごを加熱すると甘くなるんだよね。


「それって魔法かい?」

「ちょっと食べてみて」

「うん――甘い! これ、甘くて美味いよ!」

 彼の目がキラキラと輝いている。


「よかった」

「魔法で甘くしたのかい?!」

「温めたのは魔法だけど、焼いたりしても甘くなるよ」

「へぇ~そうなんだ! 村のみんなにも教えてやろう!」

 私も、お婆ちゃんがやっていたのを見ただけだから。

 お婆ちゃんは、ミカンも焼いてた。

 そうすると、やっぱり甘くなるのだ。

 昔の果物はあまり甘くなかったので、そういう食べかたをしていたのかもしれない。


「ノバラって本当に魔女だったんだ」

「なぁに? 信じてなかったの?」

「余りに頼りないからさ……」

 そりゃ、右も左も分からない世界にやってきたんだから仕方ないでしょ。

 それにしても、魔法が使えるようになって本当によかった。

 これがないと、かなり厳しい生活になっていたに違いないし……。


 りんごの話はいいとして――彼から薬の注文を聞く。

 彼らは読み書きができないらしいので、口伝てだ。


「どんな薬が必要なの?」

「え~と、頭が痛いときに飲むやつと、下痢をしたときのやつと、かいしゅん? だっけ? ノバラ解る?」

「ああ、解った」

 あ~もう! 子どもに、なんてものをおつかいに頼んでいるのよ。

 まったく。


 少々呆れるが、回春薬が定番商品だとこれで解った。

 多めに作っておいてもいいかもしれない。


「数は解る?」

「ん」

 彼が、グローブのような手を出して、指を3本立てた。

 3つずつらしい。

 ちょうど作ったばかりの薬がある。

 それを彼に渡した。


「あ、村に文字が読める人はいないの?」

「只人の女の人がいるから、その人は読めるよ」

「只人……」

 どうやら、普通の人間は只人というらしい。

 薬の袋を3つずつ紐でまとめて、荷札をつけた。


「ニャルラト、紙がないときに名札なんかはどうしてる?」

「ん? 街じゃ、木の板に書いているけど……」

「ああ、木の板ね!」

 なるほど、それは思いつかなかった。

 紙が普通にある生活をしていたものだから、完全に思考が停止しているなぁ。

 外に出て小屋に行くと、見つけたなたで薪を割り、薄くしていく。

 これで荷札を作ればいいってわけか。

 キリで紐を通す穴を開けた。


 家に戻ると、ペンで薬名を書いて――ついでに絵文字も入れる。

 解熱鎮痛薬は頭の絵、下痢止めはお尻の絵、回春薬は――え~と、ハートマークにした。

 この世界にハートマークがはあるか解らないけど。


「おもしれー! この頭が描いてあるのは、頭が痛くなったときに飲む薬だよな?!」

「そうよ。間違った薬を飲んでも効かないし、身体に悪いこともあるから注意してね」

「大丈夫だよ」

 彼が薬を自分のバッグに入れると、お金を出した。

 1袋、銅貨3枚で、日本円で3000円らしい。

 ジャラジャラと銅貨が増えた。


「最初だから、ご奉仕品で銅貨1枚でいいよ」

「本当か? 村の大人たちも喜ぶよ」

 彼が椅子から降りた。


「もう帰るの?」

「ああ、お使いだし、道草食ったら怒られるからな。この前も、帰ってからめちゃ怒られた」

「それは、ご両親が心配していたからだよ」

「うん、解ってる。2人とも泣いてたし」

 この世界でも、親の愛は同じだと実感する。

 そんな話を聞くと、こちらもちょっとうるっときてしまうのだが――はて、なにか聞くことがあったような……。


「あ、そうだ!」

 私は寝室に戻ると、魔法の袋から出てきた小さな像を持ってきた。


「どうしたんだ?」

「ニャルラト、これってなんだか解る?」

 彼は像をひと目見て、それがなにか解ったようだ。


「ああそれは――只人が、帰り道を見るための魔道具だよ」

「帰り道?」

「俺たちは鼻が利くから必要ないけど、只人たちが使っているのを見たことがある」

 彼の話では、対になるもう1つの像があるらしい。

 早速、袋の中を探すと少し小さい像が出てきた。


「こうやって――あれ? 動かないな。もしかして魔力切れかもしれない」

 像の底を開けると、小さな黒い石が入っていた。

 どうやら、これも魔石らしいので、私が力を込める。

 青く光が灯った石を像の中に戻すと、それがくるくると動き始めた。


「え? すごい!」

「こうやって、子どもが親のいる方向を常に指すんだよ」

「えええ?!」

 こんなの元世界でもなかったよ?

 たとえば、親機をこの家に置けば、森の中に入っても常に家の方向を指し示すから、迷うことはないってことだ。

 これは魔道具っていうらしい。

 魔法って凄い!


 これがあれば、森の中に薬草を探しに入っても、家に帰ってこられるってことだ。

 まぁ、ほとんどの薬草は庭に生えているっぽいが。

 ニャルラトの説明を聞いて、ひらめいた。


「ねぇ、私もニャルラトの村に行ってみたら駄目?」

「いいよ! みんな歓迎してくれると思う」

「この道具があれば、家に帰ってこられると思うし」

「解った」

 話は決まった。

 私としても、魔女として営業をしなくてはならない。

 顔見せは大切だ。

 相手がどんな人か解らないと、商品を頼みづらいって人もいるかもしれないし。

 それは建前で、もう1つ考えていることがあるのだ。

 獣人たちが沢山いるなら見てみたい。

 ニャルラトみたいなふわふわが、沢山いるんでしょ?

 こりゃ、見に行くしかないでしょ。


 突然に出発が決まってしまったが、準備をする。

 さっきの魔導具の親機を寝室の机の上に置いた。

 これで子機は、ずっとこの家を指し示すことになる。

 遭難する心配はなくなったわけだが、なにが起きるか解らないから、毛布ぐらいは持っていくか……。

 魔法の袋の中に、毛布は入るのだろうか?

 試しに突っ込んでみると、毛布が吸い込まれた。

 不思議だが、目の前で起こったことは現実だ。


 袋の中を漁り、ベルトとローブを見つけた。

 ベルトを腰に巻いて魔法の袋を取り付けてから、ローブを被る。


「あと、武器はないかな?」

 ツノのあるウサギのように突然襲ってくる動物がいるのだ。

 用心に越したことはない。


 そう思っていると、袋の中から短剣を見つけた。

 それを抜くと、かなり使い込まれており、これも先輩が使っていたものだろう。

 薬草の採取の際にも使える。

 装備を整えると、ファンタジーの主人公みたいな恰好になった。


「おし!」

 気合を入れると、ニャルラトが待つ台所に行った。

 家の鍵はないけど、普通の人からは見えないようになっているらしいので、心配ないだろう。


「いいのかい?」

「ええ。ニャルラト、魔法が効いているのに、ここが解ったの?」

「ああ、見えなくてもにおいで覚えているし」

「鼻の調子は?」

「大丈夫!」

 私の作った薬が効いてよかった。

 彼が初めての患者さんだ。


「さて、行こうか!」

「うん!」

「にゃー」

 家を出ようとすると、ヤミがやって来た。


「ヤミ、ちょっと留守番しててねぇ」

「にゃ」

 ドアを閉めようとすると彼も出かけるようだ。

 ヤミは、屋根の上から出入りできるから、まったく心配ない。

 私より大先輩なのだ。


「さて、出発~!」

「ノバラ、張り切っているなぁ」

「獣人たちの村を見てみたいし」

「面白いものなんてないぜ?」

 私は、獣人たちそのものが見たいのよ。


 ニャルラトと一緒に草むらを歩き始めた。

 歩いていると結構草の種がひっつく。

 ローブを羽織って正解だ。

 黒いワンピースについたら大変なことになる。


「にゃー」

 私とニャルラトのあとを、ヤミもついてきている。

 一緒に村まで行くつもりだろうか?

 草むらを抜けると森の中に入った。

 薄暗く、下草もあまり生えていないが、落ち葉の層にはキノコが沢山生えている。

 そのうち、キノコにも挑戦してみたいところだが、この世界の種類はまったく解らないので、どうしたものか。

 家にあった図鑑に載っているだろうか?


「ねぇ、ニャルラト。村でキノコって食べないの?」

「見分けるのが難しくてさ。同じ種類でも突然毒になったりするやつもあるし、危なくて手が出せないんだよ」

 村には、その筋の達人がいたらしいのだが、鬼籍に入ってしまったようだ――残念。


 黒い毛皮と揺れる尻尾のあとをついていきながら、魔法の袋から魔道具を出してみた。

 それは常に一定方向を指し示しており、しっかりと機能を果たしている。

 私がその場でくるくると回っても、それは変わることがない。

 魔道具が指す方向に家があるのだ。


「すご~い」

「ノバラって変なことに感心するのな?」

「えへへ」

 だって、こんなもの見たことがなかったし。

 ニャルラトの話では、かなり遠くにいても反応するらしい。

 GPSとかナビとかないのに、そんなの凄いよ?


 方位磁針なら北を指し示すが、これは違う。

 どんな仕組みなのか、まったく理解不能だ。

 魔法を極めれば、こういうものも作れるようになるのだろうか?

 私は、魔道具を袋にいれた。

 この魔法の袋もそうだ。

 こんなの、あの猫型ロボットのポケットじゃん。

 もしかしてこの世界は、元世界より進んでいるかもしれない。


「魔道具も、魔導師って人が作るの?」

「ああ、そうみたいだな。かなり難しいから作れる人は限られているって話だよ」

「それじゃ、魔道具ってのは高価なんだ」

「当たり前だよ」

 その当たり前のことを知らないのが、私なんだよなぁ。

 まだまだ未知のことだらけだ。


「でも、ノバラは自分で魔石を充填できるからいいよな。使いたい放題だ」

「そのときの値段って解る?」

「小さいので、小四角銀貨とか、大きいのだと銀貨とか」

 小四角銀貨は5000円、銀貨は5万円ぐらい。

 ランプに入っていたぐらいのものだと、5000円ってことになる。

 ろうそくや灯油ランプよりは明るくて便利だけど、普通の明かりもそれなりに高価らしく、獣人たちの村では使えないもののようだ。

 それじゃ、ウチは贅沢なのね。


「結構高いのね」

「ああ」

 なるほど、それが自分でできるとなれば確かに使いたい放題だ。

 家にあった日記には、大金で魔道具を買ったと書いてあったから、魔法の先輩であるお婆さんにも魔道具は作れなかった――ということか。


「ノバラ、近くにリンカーの木があるけど寄っていく?」

「本当? 寄る寄る!」

 彼のあとをついていくと、赤い実がなった大きな木が見えてきた。

 りんごの木ってのは背が低い印象があったのだが、種類が違うのだろうか?

 それに実がなっている数が少なく、白い花が咲いているのも見えるのだ。

 元世界のりんごは、一斉に花が咲いて、実が沢山なる。

 あまり実がつくと大きくならないので、農家が摘果しているのだ。


「ここに来れば、いつでも採れるよ」

 ニャルラトの話では、一年中花が咲いて実がなるらしい。

 バラにも四季咲きという種類があるのだが、そういう種類なのかもしれない。

 足元にも熟した実が落ちており、沢山の虫などが集まっている。

 青や緑の蜂のような昆虫も飛んでおり、それをヤミが追い回す。

 少々理性があるようだが、本能には逆らえないというところか。


 私が辺りを見回しているうちに、ニャルラトが木に登るとりんごを放ってくれた。

 10個ほど受ける。


「下に落ちているのは虫が入っているから、拾わないほうがいいぜ」

「ありがとう。このぐらいでいいから」

「解った」

 簡単に木に登って、簡単に降りてくる。

 これぐらいできないと、この世界では暮らしていけないのだろうか?

 いや、街に住んでいる人たちは、森まで来てりんごを採ったりしないだろうし……。

 私はローブの中にりんごを入れると、魔法の袋の中に入れた。

 袋は高価なものらしいので、人にはあまり見せないほうがいいのかもしれない。

 普通の鞄の中に、魔法の袋を入れたらどうだろうか?

 家の中に鞄はなかったから、街に行ったら購入してみるか。


「ヤミ~! 行くよ~」

 近くには見当たらないのだが、彼なら迷うこともないだろう。

 りんごを手に入れた私は、再びニャルラトの村に向かって歩き始めた。


「いつもは走って帰ってるんだぜ?」

「平気なの?」

「へーきへーき」

 本当に野生児だ。

 私に合わせて歩いてもらっているのだが、少々申し訳ない。

 それにしても、私も結構歩いているのだが、あまり疲れない。

 私はこんなに健脚だっただろうか?

 まぁ、駅まで20分ぐらい歩いて、駅の階段を登って降りて――都会って結構歩くんだよね。

 逆に田舎は隣近所に行くのも車を出すから。

 街の人のほうが健脚かもしれない。


 森の中を1時間ほど歩くと、村が見えてきた。

 板と草で覆われた粗末な家が20軒ほど並んでいる。

 あとは畑が広がっているが、あまり実りはよくないようだ。

 黒い毛皮のようなものを干している家もある。

 森で獲ったのだろうか?


「はわ~」

 あまりにファンタジーな光景に、私の心はときめいた。

 大きな猫が二足歩行している。

 なるほど、ニャルラトが大きくなると、ああなるのね。

 いや、大人は猫というよりは豹かトラといった佇まいで、Tシャツと半ズボンといった簡単な服装をしている。

 筋肉ムキムキで毛並みよさそう――ああ、体中をなで回したい。


 落ち着け、落ち着くんだ私――ひっひっふー。


 男性は豹とかトラなのだが、女性は人間っぽい。

 ただ、頭には三角形の耳と、お尻には長い尻尾が生えている。

 服はシャツとミニスカート。

 この世界は脚を出すのは駄目だという話だったが、彼らはいいのだろうか?

 確かに、毛皮を着ているので生脚ではないが……。


「ノバラ! こっち!」

 ニャルラトが私の手を引っ張る。

 彼についていくと、バラックのような小さな家の前で止まった。

 これじゃ、私が住んでいる家が立派だというはずだ。


 すぐに家の中から、髪の黒い女性が出てきた。

 前髪のところが白くて、ミニスカートから出ているお腹や右手も白い。

 髪と毛皮の境目が解らないが、肩ぐらいだと思う。

 只人の女性は、結婚すると髪をアップにするらしいが、ここでは違うようだ。

 ちょっとタレている目が可愛い、中々の美人である。


「こんにちは~」

 私はローブから頭だけ出して、彼女に挨拶をした。にっこりと営業スマイルだ。


「あなたがノバラさんね。息子がお世話になりました」

 彼女が頭を下げた。

 なんか、すごい普通のお母さんだ。


「ニャルラトを見つけてくれたのは、彼――」

 私はヤミを紹介しようとしたのだが、いない。


「猫猫~!」「にゃーにゃー!」「猫ちゃん~!」

 ヤミは、小さな子どもたちに追い回されていた。


「なにあれ、超可愛いんだけど……」

 もふもふで様々な柄の子どもたちが、電車のように列をなして走り回っている。


「鼻薬もくださったとかで」

 お母さんからそう言われて、私も彼女と向き直った。

 いかんいかん、営業営業~っと。


「子どもが泣いていたら、助けないわけにはいきませんから」

「な、泣いてねぇし!」

 ニャルラトがむくれているが、かなり心細かったに違いない。


「ありがとうございます」

「いいえ、いいんですよ」

「母ちゃん! 今回の薬は、銅貨1枚でいいって!」

「はい、今回は初めてのお近づきということで、特別ご奉仕で銅貨1枚です」

「本当にいいのですか?」

 ニャルラトのお母さんと話していると、他の人たちも集まってきた。

 突然の来客が物珍しいのかもしれない。

 みんな獣人だが、数人だけ普通の女性が混じっている。

 ニャルラトが言っていた、ここに嫁入りした女性たちだろう。

 その人たちは、ロングのワンピースを着ているので、ミニスカートを穿いていいのは、獣人の女性たちだけのようだ。


「あんたが、新しい魔女かい?」

「はい、以前森に住んでいたお婆さんの跡を継がせていただきました」

「あの婆さんはどうした?」

「知り合いを頼って、他の街に行くと言ってましたが……」

 もちろん嘘だ。

 先輩がどうなったかは解らないが、おそらくは……。


「あの婆さんも歳だったからなぁ。森で1人ってのはキツくなったんだろう」

「今回の薬は銅貨1枚だって? 俺も頼めばよかったぁ」

「いやぁ、今度の魔女の人はデッカイなぁ」「前の婆さん、ちっこかったからなぁ、ははは」「最初会ったとき、子どもかと思ったからな」

 大きな耳をつけた豹やトラが話している。

 なんというファンタジー。

 魔女という職業がどんな風に見られているか心配だったのだが、この村では問題ないようだ。


 大人たちと話していると、突然ローブを掴まれた。

 下を見ると、三角形の耳をピコピコさせた、小さな女の子が見上げている。

 虎柄だ。

 しゃがんで頭をなでなでしてあげる。


「可愛い~」

 ――とか喜んでいると後ろから抱きつかれ、それが頭まで這い上がってきた。


「やったぁ!」

 頭の上からする声の主を確認すると、ふわふわの毛皮。

 私の頭に乗ったのは小さな男の子だった。

 突然の訪問者に害がないと解ったのか、集まってきた子どもたちにもみくちゃに。

 まるで洗濯機の中に放り込まれたようだが、抱いてなでて――ふわふわの毛皮を十分に堪能できた。

 元世界で、こんなことをしたら事案発生――通報されましたで、人生が終了する。


 ファンタジー万歳。


 そのあとは、大人たちにもしっかりと営業活動をして、村をあとにした。

 子どもたちに追っかけられていたヤミも私のあとをついてくる。

 村人たちから話を聞くと、村から街まで道がつながっているという。

 その途中で脇道に入ると、私の家にたどり着くようだ。

 ニャルラトは森の中を通ってきたようだが、そちらのほうが解りやすい。

 私の家にやって来た美少年騎士も、その道をたどってきたに違いない。


 村を出てから歩き続けて、魔道具を出してみる。

 道とは直角に右手の方角を差しているってことは、ここから森に入れば、家まで最短距離なのではあるまいか。


「私って頭いい!」

 なぁに、どういう道を通っても、この魔道具さえあれば絶対に家までたどり着けるのだ。

 ――そう思っていたときが、私にもありました。


 森の中をしばらく進んだ私とヤミは、突然黒い獣の群れに囲まれたのだ。



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