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79話 神の意思を代行する者


 男装をして、王立学園を見学にいった。

 領主様とジュン様にはお城でお会いしたのだが、ククナとは別れたっきり。

 どうしているか少々心配だったので、会いにいってしまったのだ。

 学園がどういう場所か気になったし。


 学園の制服を着ていた彼女は、いつものように明るくて安心した。

 ホームシックや、いじめられていたらどうしようかと思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。

 彼女と一緒にいると、公爵令嬢という方にちょっと絡まれてしまったので、テキトーな嘘でごまかしてしまう。

 あとでファシネート様に協力を仰がないと。


 学園を見学したあとは、ククナに別れを告げ、ヴェスタたちと一緒にお城に帰ってきた。

 彼女は寂しそうにしていたけど、公爵令嬢とも仲がよさそうだったし、お友達なのかも。

 楽しい学園生活になりますように。


 いつものようにお城の裏門から入り、通用口を通って巨大な石の建築物のお腹の中に入る。

 自分の部屋に戻ろうと、天井が高い廊下を歩いていると、前からエルフがやって来た。

 彼は身分が高いので、やり過ごそうと廊下の端で立ち止まり礼をする。


 ――もういいだろうと顔を上げると、目の前にエルフの顔。


「うわ!」

 驚いていると、いきなり壁ドンされる。

 そのうえ、キスをされて尻を揉まれた。


「ぎゃぁぁ!」

 エルフの顔面に頭突きを入れると、魔法を唱えた。


光よ!(ライト)

「うわ!」

「おらぁぁ! キ○タマグッバイ!」

 私の蹴りが、エルフの股間に炸裂した。


「*&#$**!」

「いったい、なんなのエルフって!」

 私は腕で口を拭った。

 ヴェスタが剣を抜こうとしているので、止める。


「*&**! あぐぅ……お前は、ノバラ?!」

「え?! 私だと知っててやったんじゃないの?!」

「知らん! 見たことがない男がいるなと……」

「うわ……」

「にゃー」

 エルフが両刀だなんて、知らなかったし!

 つまり、相手が男でも女でもOKってこと。


「私に対する愛を忘れたのかぁ!?」

「うるさい!」

 気分最悪の私は、床に転がっているエルフを放置して、自分の部屋に戻った。


 メイドに手伝ってもらって、男装を解く。


「エルフって男にもいい寄るの?」

「はい……メイドの中には、それを影から楽しんでいる者も多くて」

 話を聞いたクロミが、ふんすふんすと喜んでいる。

 彼女はそういうのが好きみたい。


「まぁ、解らないでもないけど……」

「にゃー」

 ヤミの話では、エルフってのは全員そうらしい……。


 やっぱり文化もなにかも違う、別の生物だと思った。


 ------◇◇◇------


 ――後日、ファシネート様が私の部屋を訪れたので、学園であったことをお話しした。


「男装して学園の見学に行ったのですが、そこでナッツナナーヤ公爵令嬢という方にお会いいたしまして」

「……!」

 先が気になるのか、ファシネート様が身を乗り出してくる。


「多分、私の男装姿がお気に召したのか、『私のものにならない?』とか申されまして」

「……!」

 彼女が私の話にブンブンと首を振っている。


「かなり強引に迫られてしまいまして――それで困ってしまい『ファシネート様のご寵愛を受けている』と申し上げてしまいました。申し訳ございません」

「!」

 殿下が首を縦に振ってうなずいている。


「かしこまりました。ケイティ様が、ここにいらしてそのお話を出されたら口裏を合わせればよろしいのですね」

 ファシネート様の後ろにいるメイドが、通訳をしてくれた。


「誠に申し訳ございません」

「……」

 殿下がメイドと小声で話している。


「聖女様の男装が、それだけ魅力的だということでしょう。他の貴族のご令嬢からも言い寄られることが予想されますので、殿下の名前を出して撃退することをオススメいたします」

「コクコク!」

 ファシネート様が大きくうなずいている。

 私の男装が女子に人気というのは、すごく複雑だ。

 男に見間違われることが多くて、男は寄ってこないのに……。

 まぁ、この世界に来てからは、慕われることが増えたと思うけどねぇ。


「ナッツナナーヤ公爵令嬢という方は、陛下の妃候補のお方なのですか? 婚約者だとか?」

「そういう話もあがることもありますが、正式な婚約者ではありません」

「ああ、そうなんですね……」

 けど、あのご令嬢が本当に陛下のことを好きならば、応援してあげたい。

 ただ地位のためだけに妃になりたいと言うのなら、当然放置だけど。


 ちょっと事後承諾で大変申し訳なかったけど、ファシネート様の名前を使ってもいいと言質も取った。

 これで、カシューの行動も色々とやりやすくなるだろう。


 そうこうしているうちに、街のなん箇所かに孤児院と治療院がオープン。

 私も正式に聖女として、オープン行事に参加した。

 それはいいのだけど、正式に聖女として行動すると、護衛を沢山動かしたりして沢山のお金がかかるよね。

 本当に無駄だと思う。

 まぁ、聖女の私を煙たがっている人が結構いるので、護衛なしというわけにはいかないのだろうけど。

 聖女騎士団だけでは人数がとても足りないので、近衛騎士団が出張ってきている。

 まったくもって申し訳ない。


「「「わぁぁぁ」」」「聖女さまぁ」「聖女さま!」

 肩にヤミを乗せて、カイル様からエスコートされると馬車から降りる。

 地面に足がつくと、沢山の人たちからの祝福を受けた。

 さすがにこの場で、私の悪口を言う輩はいないらしい。

 まぁ、ここに集まっているということは、闘技場で聖女の祝福を受けた人が多いのかもしれないし。

 街の住民からの歓声に手を振って答えるのだが、声を聞くと女性のほうが多い――気がする。


「あ! これ!」

 女性の声がしたので、そちらを向くと麻のワンピースを着たおさげの女の子が走ってきた。

 近衛騎士が慌てて女の子を遮ろうとした。


「いいの、通してあげて」

「し、しかし!」

 戸惑う騎士の間をすり抜けて、私の前に女の子がやってきた。


「どうしたの?」

「肩に乗っている黒いネコの名前は?!」

「彼はヤミよ」

「ヤミ?!」

「ええ」

「お母さん! ネコの名前はヤミだって!」

 母親のところに戻った女の子を、女性が抱きしめた。


「ご無礼を申し訳ございません!」

「ああ、いいからいいから」

 ペコペコと頭を下げながら、母親と女の子は人混みの中に消えた。

 手を振る女の子に、手を振り返してあげる。


「聖女様、無垢な子どもを暗殺者に仕立てる輩もいるので、ご注意ください」

 騎士の言葉に肌が粟立つ。


「本当にそんなやつらがいるなら、こちらも鬼にならないとね……」

 そんな子どもの命をもてあそぶやつらに、なんの遠慮がいるものか。


 私が馬車から降りて向かったのは、屋根が鋭角の三角形をした石造りの建物。

 入り口にも看板が掲げられて、魔女と聖女の治療院と書かれている。

 黒い人と白い人が描いてあるので、字が読めない人にもなんとなく解るでしょ。


 中に入ると広くて天井が高いのだが、内部に木枠が組まれ一部が2階となっている構造のようだ。

 床にはベッドが並び、すでになん人かが横になっている。

 ここは看板のとおり治療院だ。

 当初の予定通りに、薬問屋のカデナが街の魔女から買い上げた回復薬ポーションによって治療が始まっている。

 薬の原料はカデナが卸しているわけだが、別に彼女の店を指定してるわけではない。

 だが、私が見た限りでは、地方からの質のいい薬草を入手できるのは、彼女の店しかないものと思われる。


 それと同時に、陛下の名前と連名で、ティアーズ領メランジュで薬問屋をやっているバディーラに手紙を出した。

 王都で薬草の需要が伸びるので、もっと輸出する量を増やして欲しいという要望だ。

 需要が伸びれば、薬草採取を生業とする者も増えるだろう。

 まぁ、森の中に詳しくて優れた鼻を持つ獣人たちに、敵うものはいないと思うが。


 ここの管理は、黒いローブと白い頭巾を被った、短い赤い髪の中年の女性。

 シャマルという名前の彼女も、看板どおりに魔女である。

 ここでは薬を扱うので、当然薬に詳しい者が雇われた。

 無論、最初に魔女が治療に関わることが告げられて、それに納得できない者は、ここの治療を受けられない。


 魔女の女性が挨拶をしてくれる。


「聖女様、お越しくださいましてありがとうございます」

「はぁいシャマル、元気~?」

「はい、元気です」

 彼女が苦笑いしている。

 かた苦しいのは嫌いだし、相手が偉い人なら敬語も使うが。


「いまのところ問題は? 嫌がらせとか」

「ありません。ここは、聖女様のお声がかりですから……」

「いざというときに、助けて貰わないと困るしねぇ」

「その通りでございます」

 普通の病気や怪我の治療は回復薬ポーションでなんとかなるだろうが、それだけではむずかしいものもある。


「現在、手に負えない人はいる?」

「はい、奥に……」

 彼女の話を聞いて奥に行くと、お爺さんがベッドに座っていた。

 手があらぬ方向に曲がって、固定されてしまっている。

 足も不自由なようだ。


「多分、関節リウマチね」

「我々はロイーマと呼んでいます。悪い血が固まってこうなるものと」

 彼らに膠原病のことを説明しても難しいだろうし、私も医者ではないし詳しくは知らない。


「お爺さん、痛いよね」

「あうあう……」

 曲がった手を握ると、彼が涙を流した。


「痛み止めは?」

「柳の皮を――」

「そう……ヴェスタ!」

 私の騎士を呼んだ。


「はい、聖女様」

「力を使いますので」

「お任せください」

「お爺さん、曲がった手足は元には戻らないかもしれませんが、痛みは和らげることができるかも――よろしいですか?」

「……」

 彼が黙ってうなずいた。


「天にまします神よ、病に苦しむ者に救いの御手を差し伸べください」


 ――目が覚めると、高い天井が見える。

 身体を起こすと、治療院のベッドの上のようだ。

 すぐ横にヴェスタがいる。


「どのぐらい気を失っていました?」

「数分ほどです」

「ありがとう」

 私が治療したお爺さんの所に行く。


「聖女様! ありがとうございます!」

 彼が涙を流している。

 曲がった手は若干の改善はみられたようだが、元には戻っていない。

 ルナホーク様の目も治ったぐらいだし、なん回か治療をすれば徐々に元には戻りそうであるが……。


「痛みは?」

「ありません」

 病気の進行は完全に止まったようね。

 痛みがなくなっただけでも、生活はかなり楽になるだろうと思われる。

 ここでの治療は終わったので、次の場所に向かうために外に出ようとすると、出口には沢山の人たちが押しかけている。


「聖女様が、次の場所に向かう! 道を開けろ!」

 騎士団が人たちを分けて道を作る。


「聖女様! 子どもが熱を!」

 泣く赤ちゃんを抱えた母親らしき女性が、人混みをかき分けて前に出てきた。

 彼女が差し出す赤ん坊は真っ赤な顔をしているので、額に手を当てる。


「すごい熱ね。大丈夫、熱ならここにある回復薬ポーションで治るわ」

 私が手を額に当てたことで、若干の聖女の御手が発動したのだろうか。

 赤ん坊の鳴き声が止んだ。


「ありがとうございます!」

「奥で治療を受けてね。無理なく払える金額の喜捨もお願い」

「はい!」

 完全なボランティアではない。

 取れる人からは取る。

 これが基本である。


「さぁ、次の場所に参りましょう」

「「ははっ!」」

 また、カイル様の手を取って馬車に乗った。

 もう、こういう生活にすっかり染まってしまっている。

 個人的にいえば、こういう予算も治療院や孤児院に回したいところなのだが、この世界にはこの世界の常識というものがある。

 元世界がこうだったから! ――とそれを押し付けるわけにもいかない。

 たとえば、君主制で上手くいっているのに、民主主義がいいからとそれを押し付けるわけにはいかないのだ。


 隣の帝国は王政が終わり立憲議院内閣制になっているらしいが、政治は安定しないみたいだし。

 それで他国を侵略しているなら、王政より悪いでしょ。

 馬車に揺られてそんなことを考えていると、次の目的地である孤児院が見えてきた。


 赤い三角屋根の普通の家を買い取って孤児院に転用したものであり、屋根裏の部分が2階になっている。

 到着すると馬車から降りて、孤児院の中に入った。

 部屋の中にはベッドが並んでおり、その脇には小さな机がある。

 ここで10人ほどが共同生活をしているのだ。


「「「わあぁぁぁ~っ!」」」

 私が入ってくると、粗末な服を着た子どもたちに囲まれた。

 性別や歳もバラバラ。


「しゃぁぁ!」

 子どもたちがヤミに手を伸ばしているので、彼が必死に威嚇しているのだが、お構いなしだ。


「ダメよ。彼は触られるのが嫌いなの」

「ちぇ!」

「こらぁ! なんです! 聖女様の前で!」

 子どもたちを怒ったのは、黒いローブを着た若い女性。

 この人も魔女だ。

 子どもたちは、ちょっとしたことで体調を崩すことが多く、この世界での死亡率も高い。

 そのために、薬に詳しい魔女を配置しているわけだ。

 もちろん最初に面接をして、子ども好きな人を選んでいる。


「いいのよ、子どもは元気なぐらいが」

 小型台風が子どもたちのデフォルトなのだが、静かな子どももいる。

 ベッドとベッドの隙間に入り込み、ジッとしたまま出てこない子だ。


「この子は、ずっとこんな感じ?」

「はい」

「耳が聞こえていないとか?」

「解りません。食事を近くに持っていくと食べるのですが」

 どこか身体に悪い所があるなら、聖女の力を使って改善できるかもしれない。

 彼の額に手を当てる。

 この状態になっても、反応がない。

 これじゃ、さらわれても危ない目に遭っても、なにもしないんじゃないだろうか?


「ヴェスタ」

「はい聖女様、お任せください」

「天にまします我らの神よ。心を閉ざす幼い命に、救いの御手を差し伸べたまえ」


 ――目が覚める。


「うわ!」

 子どもたち皆で、私を覗き込んでいた。

 私のお腹の上にヤミがいたのだが、不機嫌そうな顔をしている。

 子どもたちになでられたのだろう。


「お城で留守番しておけばよかったのに――」

 彼の頭をなでると、しっぽで私の腹をペシペシと叩いた。

 私が気を失っていたのは数分らしい。

 手を当てた男の子は、まだそこにいた。

 どうだろう。

 どこか悪いところがあるなら、今ので治ったと思われるが……。

 徐々に変わっていくだろうか?


「カーラ、嫌がらせなどを受けたら、すぐに私に連絡を」

「かしこまりました」

 治療院や孤児院からの情報は、全部お城にある聖女騎士団に集められる。

 業務内容や、収入や出費の情報も全部だ。

 そこから私の所にくるわけだが、ルナホーク様やヴェスタが、上がってきた情報を握りつぶすなんてことは考えられないし。


 今日のお仕事を終えた私は、馬車でお城に戻った。

 馬車だと正面玄関に横付けできるのはいいわね。


 これで治療院と孤児院が正式に稼働しはじめたわけだけど、教団の連中はどういう行動にでるだろうか。


 ――まぁ、そんなことを考えていたのだが、アクションはすぐにやって来た。

 教団の偉い人であるブッチーニ枢機卿が直接乗り込んできたのだ。


 人数が多いので、場所は謁見の間。

 向こうが枢機卿と数人の司祭を連れてやって来たので、こちらも聖女騎士団を出した。

 実際、治療院や孤児院も騎士団が運営しているわけだし。


 赤い祭服を着た枢機卿と、白い祭服だが青いタスキをしている司祭が2人。

 陛下の玉座の前で対峙したのだが――私と枢機卿が言い合っているのを、陛下が黙って見ている。


「いますぐ、聖女様が行っている、治療院と孤児院の運営を止めていただきたい」

「あら、それはなぜでしょうか?」

「決まったこと! それらの運営は我々の領分だ。新参が割り込むのは止めていただきたいと申し上げている」

「あらあら、枢機卿様及び教団の皆様は、なんのために治療院や孤児院を運営なさっているのでしょうか?」

「決まっている、民のためだ!」

 彼が、苛立ったように吐き捨てた。

 そんなわけないのに、白々しくもそんなセリフが吐けるなんて、すごいよね。


「あらあらあら、私はてっきり既得権益を侵されて取り分が少なくなるからという理由で、頭から湯気を出しているものと勘違いしておりましたわ」

「なにを馬鹿な……」

「もう一度お聞きいたしますが、お金のためではないのですね?」

「くどい!」

「よかった! それならなんの問題もないじゃありませんか。街の住民たちも、治療ができる場所が増えれば助かりますよね? 新しい孤児院ができれば、孤児だって飢えなくてもすみますし」

「う……」

 彼が言葉に詰まる。

 俺たちのシマだから商売の邪魔をするなと言えばいいのに。

 まぁ、言えないのでしょうけど。


「多分、枢機卿様は、私が過分な喜捨などを集めていると思われたのでしょう? もちろん、そんなことはいたしませんよ。貧しい方々からは、お金を取ったりすることはありませんし」

「そ、それならばいいが……」

「なにやら街では、孤児院から奴隷商に直接孤児が売られているなんて噂が流れているみたいですが、聖女の名にかけてそのようなことはありませんので、ご心配には及びませんよ、ほほほ」

「聖女様」

 私の後ろから声がした。


「なんでしょう? ルナホーク様」

「街では、そのような噂が流れているのですか?」

「ええ、本当に恐ろしいことですわ。子どもたちを商売の商品にするなんて。多分、私がそんなことをすれば、神の逆鱗に触れて力を剥奪されてしまうことでしょう」

「聖女様に限ってそのようなことはないと思われますが」

「ええ、もちろんです。私は神の御業を行使する者。私の行動――これは、すなわち神の意思ということになります」

「聖女様の御心のままに……」

 私は枢機卿に向き直った。


「それで枢機卿様は、神の意思に逆らい私にいったいなにをお望みですか?」

 彼が苦虫を噛み潰したような顔をして、私を睨んでいる。

 後ろにいる司祭たちはウロウロ。


「ぐ……」

「枢機卿様は……もしかして――神を信じていらっしゃらないのでは?」


「戯言を! ……ぐぬぬ……失礼する!」

 くるりと踵を返すと――彼らは、謁見の間に敷かれた赤い絨毯を踏みつけて、その場から立ち去った。


「正直に金儲けの邪魔をするなって言えば、こっちもなにか考えたのに……」

「ははは、あのブッチーニを追い返すとは、さすが聖女様」

「いやですわ陛下、人聞きの悪い。私は止めろと言われた理由を聞いただけですし」

 私の所にヴェスタがやってきた。


「聖女様、やつらは次にどんな行動に出るでしょうか」

「街の無頼を使って、治療院や孤児院を襲わせるか――それとも直接、私を狙うとか」

「そんなことは絶対にさせません!」

「聖女様は――国王である私がいる城に、そんな連中を直接乗り込ませると?」

「それは解りませんが、彼らが目の敵にしている聖女がいなくなれば、一番手っ取り早いでしょうし」

「それはそうだが……」

 陛下が難しい顔をしている。


「本当は、陛下が御威光を示してくださればよろしいのですが」

「聖女様、私を責めてくださるな。国王とて、教団をいきなり潰すような真似はできん」

「治療と称して大金をせしめたり、孤児を奴隷として売り飛ばしたりしてもですか?」

「我が国では、奴隷の取引は違法ではない」

 治療の代金も、教団の裁量で決められているので、口を出せないらしい。

 さして理由もないのに教団を潰したりすれば、教団に連なる貴族たちの離反を招く。


「それなら、もっと煽って私を直接狙わせるように仕向けたほうがよかったかな?」

「聖女様……」

「なぁに? ヴェスタ?」

「危険なことはお止めください」

「それは、あの人たちに言ってね」

「申し訳ございません」

 別に彼が悪いわけではない。


「陛下、1つ確認いたしたいことがございます」

「なんだ?」

「聖女の命を狙ったとなれば、これは間違いなく重罪人ですよね?」

「無論だが――やつらがそんなしっぽを出すとは到底思えんがな」


 なにもできないと言った陛下であったが、聖女が作った治療院と孤児院の警備を増やす予算をつけてくれた。

 聖女が作った施設がいきなり襲われたとなれば、王都の名折れでもあるからだ。

 街の住民からの反発も大きくなるだろう。


 ------◇◇◇------


 ――それから数日、なにも起きなかった。

 聖女の治療院や、孤児院も襲われたりすることもない。

 治療院では順調に治療が行われて、患者も増えているらしい。

 各種諜報を行っているルクスに――街の評判がいいようなら、治療院の増設もあると噂を流してもらった。


 これは本当だ。

 一箇所では処置しきれないぐらいの患者が押し寄せているらしいし。


 ――そして夜。

 夜中、ヤミに起こされた。

 真っ暗な中、窓から入ってくる月の明かりに彼の目が光っている。


「にゃー」

「え? なにか来た?!」

 彼の話では、なにかの気配がするというのだ。

 万が一に備えて、警備も強化されている。


 やはり私を狙ってきた敵だろうか?



8月26日に、私が原作をしているコミカライズ


アラフォー男の異世界通販生活 5巻が発売になります

よろしくお願いいたします


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アラフォー男の異世界通販生活 5巻

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