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76話 耳そうじ


 近衛騎士団の団長さんのご家族が誘拐されたりと、色々と事件があったのだが、なにごともなく解決。

 王都にある闘技場で、近衛騎士同士の模擬戦が執り行われることになった。

 催し物が始まる前に、国王陛下による聖女のお披露目が行われ、一般市民もこの国に聖女が召喚されたことを知る。

 その際、集まった観客に聖女からの祝福の言葉を投げたのだが――。


 会場にいる全員に祝福の大出血サービスをしてしまい、私はその場で昏倒してしまった。

 それから1週間、仮死のような状態でベッドの上。

 目覚めたときには身体はガチガチ、上手く会話もできないような状態になってしまい、皆に迷惑をかけてしまった。

 迂闊に言葉に出すと、奇跡が発動してしまうのは気をつけねばならない。


 私が寝ていた間に闘技場での模擬戦は終わり、赤の騎士団はボコボコにされて廃止が決定した。

 いやぁ、国王が廃止にしなくても、恥ずかしくて近衛だと名乗れないでしょ?

 どう見ても国の笑いものになってしまったし。

 要らぬ意地を張ったせいで、要らぬ恥をかいたわけだ。


 まぁ、悪いことばかりではない。

 赤い近衛が廃止されてしまったので、余った予算を私の騎士団に少し回してもらえることになったのだ。

 あくまでほんの少しなのだが、私の財布からの持ち出しがなくなるだけかなり嬉しい。

 陛下にしてみればほんの少しの予算でも、騎士団を運営するには十分な金額。

 ティアーズの騎士団を苦労して運営しているジュン様が聞いたら羨ましがるだろう。

 そのぐらいの金額だ。

 ボンボン騎士団は、どんだけ無駄遣いしていたんだ。


 廃止された騎士団が使っていた寄宿舎を使ってもいいとのことだったが、豪華絢爛すぎて経費がかかりすぎる。

 あんなの金がいくらあっても足りない。

 国からの予算にプラスすることの、各貴族家からの資金の持ち込みもあったから贅沢ができたのだ。

 空いた場所を私たちが使わないということで、王都に参勤交代モドキで訪れる貴族たちに開放されることになった。

 今までは、知り合いの貴族の家などに泊まっていたのだが、事前に予約を入れれば格安で使えるようになる。

 年に1回、王都に訪れることが遠方の貴族たちにはかなり重荷になっていたので、陛下の配慮だ。

 特にティアーズ領なんて、広いし帝国と接してるわ、農業で王国の台所を支えてるわで、かなり重要な領地なのだが、やっと報われるようになったといえる。

 領主様もよろこんでおられるだろう。


 身体が回復した私がなにをしているのかというと――ベッドの縁に腰をかけて、エルフを膝枕している。

 彼の長い耳を持って、耳掃除をしている真っ最中である。


「ああ、ノバラ、素晴らしい……」

 私に耳をいじられてうっとりしているエルフがキモいのだが、これが対価なのだから仕方ない。

 なんの対価かといえば、近衛の団長――カイル様のご家族を捜索するときに、精霊を使ったことに対するものだ。


 私がなんでもすると言ったので、これを選択したらしいのだが……。

 その上、巻き込まれているのが私だけではない。

 部屋の隅でこの光景を見せられているヴェスタがいる。

 これも彼の指定なのだ。

 どうやら、ヴェスタへの意趣返しみたい。


 彼が一番最初に会って私にキスをしたとき、それを見たヴェスタに斬りかかられたのだが、それが気に入らなかったようだ。

 もちろん、私とエルフの行為を目の前で見せられているヴェスタが、かなりぐぬぬ状態になっている。

 私としても、長い耳の彼の協力があって事件が解決したので、約束を果たさないわけにはいかない。

 いやらしいことじゃなければ、なんでもすると言っちゃった手前、断れない。


「本当にエルフって、性格悪いわね」

 私の嫌味にも動じずに、彼が顔に手を伸ばしてくる。


「ああ、ノバラ――お前は美しい……」

 うっとりとした表情でそう言うのだが……。


「え? 止めて、冗談でしょう? エルフ様にそういうこと言われても嫌味にしか聞こえないんですけど……」

「私は嘘は言わん」

 なんか、嘘ばかり言っているイメージがあるんだけど……。


「貴族のドラ息子様にも、十人並だって言われたわよ」

「真の美しさの価値が解らぬものに、なにを言っても無駄だ」

 そういえば、エルフの族長? って人も、私のことをなんか言ってたわね。

 私の顔が、エルフで美しいってことなのかしら?


「それじゃ、エルフ様の価値観で、私のどこがどう美しいというのか説明してくれないかしら?」

「***$*」

 なにか私たちには発音できない言葉を発したのだが、それに説明を求めた。

 彼がなにやら長い話をしていたのだが、よく解らない。

 色々と聞いて要約すると、「左右対称」ということらしい。


 そういえば、人間の顔で左右対称ってのは中々ないらしい。

 顔の中心に鏡を置いてみれば、右と左の顔はまったくの別人。

 その差が少ない=エルフ式の美しいってことなのかな?

 確かに、エルフの顔は左右対称っぽい。

 それが人間離れした美しさを強調しているようにも思える。


「へぇ~」

「にゃー」

「そうよねぇ」

 物知りのヤミも、この文化については知らなかったようだ。

 私はまったくの異文化に感心してしまった。

 片側が終わったので、反対側の耳もする。

 人間の耳は冷たいのだが、エルフの耳は温かい。

 火傷をしても、耳をつまんだりしないかもね。


「はぁ、ここが天の国か」

「エルフにも天国とかいう概念があるの?」

「当然ある。我々の祖先は、そこに住んでいたからな」

「ええ? 空の上ってこと?」

「そうだ、我々はかつて、星の海を旅していた種族の末裔なのだから」

 彼の言う星の海ってのは、宇宙のことよねぇ――多分。


「そんなすごい種族が、なんでこの世界に?」

「まぁ、色々とあったのだ。どんな優れた種族でも落ちぶれることはある」

「また、そういう世界に戻ろうとは思わないの?」

「同じ過ちをしないように、我々はあえてこういう生活を選んだのだ」

 本当にそうなら、素晴らしいことのようにも思えるし、単に落ちこぼれた種族の負け惜しみのようにも聞こえる。


 エルフの長い耳を掃除していると、窓のほうから名前を呼ばれた。


「ノバラ!」

 声をするほうを向くと、窓枠にモモちゃんが止まっていた。


「モモちゃん」

「な?! なんで長耳がいる!? また、ノバラをイジメてるのか?!」

「違うのよ、モモちゃん。耳を掃除しているの」

「みみ?」

 彼が首を傾げている。

 よく鳥さんが、首を傾げる動作をすることがあるけど、それにそっくりで可愛い。

 ハーピーの行動から察するに、彼らには耳掃除の文化がないのかもしれない。

 彼らの翼じゃ耳かき棒は持てそうにないし。


「こうやって、専用の器具を使って耳の中を掃除するのよ」

「やれやれ、至福の時間を過ごしていたというのに、クソ鳥のおかげで一気に台なしだ」

 私は、エルフの長い耳を握った。


「にゃ!」

 エルフが変な声を上げる。


「ハーピーたちをそんな風に言うのは止めて」

「クソ鳥はクソ鳥だろう。他に言いようがない」

「エルフって左右対象が好きなのよね? そういう種族で、片耳を切り落とされたりしたら、どういう扱いを受けるのかしら?」

 私の言葉に、エルフが飛び上がって耳を押さえている。


「なんと恐ろしいことを言うのだ、私に対する愛を忘れたのか?!」

「そんなのありませんけど」

「耳を切られるのは、種族の掟を破った犯罪者だけだ」

 私の言葉に、むくれるように彼は答えた。


「ああ、なるほど~、そういう扱いになるのね」

 エルフが私の膝の上からいなくなったので、モモちゃんが飛んできて私に抱きついた。

 彼の頭をなでなでしてあげる。


 あ、こういうことをするから、ヴェスタが嫌がるのよねぇ。

 でも、拒否するとモモちゃんが悲しむだろうし……。

 自分でも嫌な女だとは思うのだけど……あとでヴェスタもなでなでしてあげようか。


「ノバラ! 俺にも長耳と同じことをしてくれ!」

「え? 耳掃除?」

「おう!」

 彼らには初体験かも。

 私もちょっと興味があるのだが、耳掃除しても大丈夫だろうか?

 まぁ、頭や耳の構造は私たちとまったく同じように見えるし……。

 モモちゃんを膝枕に寝かせる。


「ちょっと楽しいぞ?!」

「ハーピーには初体験よね?」

「俺たちは、そういうのしたことがないからな!」

「耳を大切にしないとは、さすが下等生物」

「ジロリ!」

 私が睨むと、エルフが目を逸した。


「それじゃ……」

 私はモモちゃんの耳の中を覗き込んだ。


「うわ……」

「どうした?」

「ええ……」

 なんということでしょう~、彼の耳の中は耳垢で完全にふさがっているではありませんか~。

 生まれてから一回も掃除をしてないからってこと?

 いや、耳垢は自然に排出されるから、しなくてもいいって聞いたことがあるのだが……。

 こうがっちりと固まってしまう人もいるらしい。

 ウチの母親がそうだった。

 当然、耳の聞こえが悪くなるので、定期的に耳鼻科に行って取ってもらっていたのだが、基本的に病院が大嫌いな人だから連れて行くのに苦労したのよね。

 そりゃ、耳栓をしているようなものだから、耳が聞こえなくなるのは当然だし。


 なるべくごそっと取れるように、ゆっくりと掻き出していく。

 こういうのってすごく楽しいのだが、変だろうか?

 耳掃除がすごく好きな人にとっては、ハーピーの耳は天国かも。

 でも、私たちでも固まる人とそうでない人がいるから、ハーピーたちもそうかもしれないし。


「なんか、バリバリ言ってる! バリバリ!」

 モモちゃんが騒いでいるのだが、動かれると危ない。


「ちょっとジッとしててねぇ」

 ああ、ピンセットで挟んで全部ひっぱり出したい。

 悪戦苦闘して、モモちゃんの耳から大きな塊が出てきた。


「こんなのが詰まってたのか?」

「ええ、それじゃ反対側ね」

 当然、反対側の耳も詰まっていたので、それを取り除いた。


「はい終わり~どう? モモちゃん」

「ノバラの声がハッキリ聞こえる!」

 そりゃあんだけびっしり詰まってたら、耳が聞こえなくなるっての。


「ノバラ、すごい!」

「いやぁ、これは私がすごいわけじゃないから」

「すごいぞぉぉ!」

「あ、モモちゃん!」

 彼が、突然窓から飛び出していってしまった。

 よほどうれしかったのだろうか。


「にゃー」

「う~ん、解らないけど」

「まったく下等生物はいったいなにを考えているのやら」

「止めて」

 口の悪いエルフを止めると、彼が肩をすくめている。

 仲が悪いのは相変わらずだけど、目の前で喧嘩をしなくなっただけでもちょっと進歩したかも。

 私はベッドから降りて、ヴェスタの所に行った。


「はい、次はヴェスタね」

「え?! わ、私ですか?」

「羨ましいから、不機嫌になっていたのでしょう? 同じことをあなたにもしてあげるから」

「い、いえ、私は……」

「聖女のお願いを断るの? 私は聖女だから身体は捧げられないけど、他のことならしてあげる」

「……!」

 顔を真っ赤にした彼が、ドアから出ていってしまった。


「あら……」

「逃げましたね」「小鳥~」

 アリスとクロミが、ヴェスタの行動にツッコミを入れているのだが、「小鳥」とはなんだろうか?


「鳥がいる、近づくと逃げるから」

「ああ、チキンみたいな意味ね」

「にゃ?」

 ヤミがチキンに反応した。


「鶏のことよ」

 まぁ、命令だと逃げられないから、お願いと言ったわけだけど。


「それじゃ私が代わりに……」

「あなたはもうやったでしょ?」

「さっき、クソ鳥――ハーピーが乱入してきたから途中だったじゃないか」

 私がエルフを睨んだので、言い換えたようだ。


「それもそうだけど……仕方ない」

 再び、エルフの耳掃除の続きをしてやる。

 恍惚の表情のエルフの長い耳をホジホジしていると、ドアが開いた。

 ノックもしないで開けるのは、このお城では王族しかいない。

 くるくるふわふわの金髪と白いドレスを着たファシネート殿下が入ってきた。


「これはファシネート様。ちょっと、こんな格好はマズいでしょう?」

「構わん」

 エルフは本当に我が物顔だ。

 この人だけ1人治外法権なので、それを盾にしているのだろうけど。

 元々の性格が悪いだけって話もありそうなのだが、他のエルフたちを見ても、よさそうな感じはしない。


 私がサルーラの耳掃除をしているのを見て、殿下は驚いたようだ。


「……!」

 私の所にやってきて、ポカポカと叩いてくる。


「ええ? もしかして、ファシネート様も耳掃除をしてもらいたいとか」

「コクコク!」

 うなずいている。

 やっぱり、そうなの?

 それじゃ――。


「邪魔!」

 私はエルフを膝の上から放り投げた。


「んぎゃ!」

「はい、ファシネート様――どうぞ~」

「私に対する愛を忘れたのか?!」

 エルフがなにか言っているのだが、無視する。


「……」

 私の膝上に乗ったふわふわの金髪をよけながら、可愛い耳を出す。

 そしてホジホジ――この至福のとき。

 これは、どんな役得であろうか。

 この世界で、どんなにお金を積んでも、こんなことをできる人間はいないと断言できる。


 ------◇◇◇------


 ――エルフの耳掃除をした次の日から、私の通常業務が始まった。

 つまりは、貴族たちの病気や怪我の治療である。

 これらは最初は多いだろうが、私の奇跡による治療が進んでいけば皆が健康になるはずで、徐々にその数を減らしていくに違いない。

 部屋の隅には、私が力を使ったときに受け止める役としてヴェスタがいる。


 私が治療室に使っている部屋に、今日も貴族のオッサン――ゲフンゲフン、紳士がやってきた。

 派手な飾りのついた緑色の帽子を被った中年の男性である。

 顔は覚えていないが、多分お城でのお披露目のときにいた方だと思う。


「それで、どんな症状ですか?」

「は、はぁ――それが……」

 彼の説明では軍人病だという。


「軍人病?」

 近くにヤミがいるので聞いてみる。


「にゃー」

 どうやら、軍人が穿くブーツで起こる脚の病らしい――って水虫じゃん。

 話を聞いて、私は彼に質問をしてみた。


「もしかして、お披露目のときにいた、聖女反対派の貴族様ですか?」

「も、申し訳ございません!」

 男が椅子から降りて、両手をついた。

 貴族にこんな格好をさせるなんて、私の白癬菌への祝福がよほどきいたのかしら。

 男の話では、水虫を彼の家族にうつしてしまったようだ。


「それはマズ――大変ですねぇ」

「家族に嫌われてしまい、会ってもくれません。私はどうしたらいいのか」

 とりあえず、

 ザマァなわけだが、家族は関係ないかもしれないし。


「あの、ご家族も病気になってしまったのなら、ご一緒に治療をしないと根絶できませんよ」

「わ、解りました説得してみます」

「それでは治療を――」

 まずは靴を脱がして、靴を加熱消毒する。


「加熱は必要なのですか?」

「脚に病気がついていますから、靴や床にも病気が取りついています。それを他の方が素足で踏んだりすると――」

「病がうつるのですね」

「そのとおりです。とりあえず、履物や床を魔法で加熱したほうがいいでしょう」

浄化ピュリフィケーションではだめでしょうか?」

「え? ヤミ?」

「にゃ」

「それでも大丈夫ですよ。でも病気は浄化では治りませんので、ご家族もなるべく早く、お連れください」

「承知いたしました」

 ヴェスタを呼ぶと、奇跡を使って治療をする。

 このぐらいなら十数秒で復活する。


「おおお! あの狂ったような痒みがなくなった! なんということだ!」

「ご家族も治療をしないと、また病気がうつりますから、お早めに」

「ありがとうございました! 聖女様!」

 男が涙している。

 聖女に反対している連中にザマァをして、病気にして治療をするという、異世界マッチポンプが完成した。

 これで、たんまり金も取れる。

 くくく――計画どおり、悪の華がここに咲く。

 なんて、こんなことやってて、神様から聖女失格とか言われないかな?

 まぁ、そのときはそのときで。

 すでに森に家を建てるぐらいのお金は稼いでいるので、いつティアーズに帰ってもいいし。


 ――その日から、水虫の患者が毎日来るようになった。

 治療の噂を聞いて、また患者が訪れるというかたちだ。

 家族連れで訪れる方もいるのだが、それでもやってくるのは改心した聖女反対派。

 ガチの反対派は、それでもやって来ない。

 教団の、あの枢機卿とかそういうやつらだ。


 聖女の世話になるぐらいなら水虫と心中するつもりだろうか?

 まぁ、水虫で死ぬことはないと思うんだけど。

 好きにすれば――としか言えない。


 治療は午前で終わり、全て予約制である。

 午後は午後で、私の個人的な仕事をするのだ。

 今日も昼から、ルナホーク様がやって来た。

 後ろにヴェスタが控えているのだが、ルナホーク様は上級貴族なので当然だ。


「聖女様、寄宿舎裏の厩舎の工事は順調に進んでおります」

「ありがとうございます」

 最初は、ソアリング伯爵家から援助してもらおうかと思ったのだが、金食い虫の赤い近衛がなくなったことで、一部の予算をこちらに回してもらったのだ。

 普通に使うなら一部でも十分な金額。

 これで、金策に悩まずに済む。


「つぎに、街の住民から集められた聖女様への貢ものはいかがいたしましょう?」

 そういう経理も彼――いや、彼が雇った経理の人材にやってもらっている。

 私たちが借りている、あの寄宿舎に事務所もできているのだ。

 もちろん、場所が足りなければ増築もするが、縁故で人を入れて既得権益にならないようにしないと。

 まぁ、私の聖女の力が切れるまでのことだから、そこまでいかないと思うけど。


「金額の半分を、貧しい人々への炊き出しと、孤児院の設立に回してください」

「……あの畏れ多くも……」

「はい、なんでしょう?」

「孤児院は教団の管轄ですので、聖女様が経営に乗り出せば確実に衝突いたします」

「今も衝突しているから、これ以上は悪化しませんよ」

「はは……」

 彼が苦笑いをしている。


「それに、あの連中がやっている孤児院なんてまともに機能していないのでは?」

「はい。街の噂では、孤児を集めて奴隷商に売っているなどという話も……」

「まったく絵に描いたような悪徳教団ね。それじゃ商売の邪魔になるから、教団以外の孤児院を認めないってことなのでは?」

「おそらくは……」

「まぁ、そこら辺はルクスに調べてもらいましょう」

 本当だったら、邪魔しまくってやる。

 子どもを食い物にするやつらが一番ゆるせん。


 孤児院には病院も併設しよう。

 教団も似たようなことをやって、貧しい人々から金を巻き上げているらしい。

 まるごとぶっ潰してやるから。


「かしこまりました」

「ルナホーク様にお礼ができればいいのだけど……」

「お礼など必要ありません。私は聖女騎士団の一員として当然の仕事をしているわけで」

「う~ん……」

 そういえば、ファシネート殿下が男装した私に手を差し伸べたことがあった。

 あれはお礼にならないのだろうか?


「聖女様、どうかなさいましたか?」

 メイドが私が悩んでいると解ったらしい。


「アリス、作法がよくわからないのだけど……」

「どのようなことでしょうか?」

「女性が男性の前に手を差し出すのは、お礼としてはダメなの?」

「多くの場合、相手への愛情を示す行為として使われますが、最大級のお礼として行われることもありますよ」

「そうなんだ、それじゃ――」

「聖女様?」

 私は立ち上がって、ルナホーク様の前に手を差し出した。


「許します」

 突然のできごとに固まっていた彼であったが、すぐに私の手を取り、甲に口づけをした。


「このような名誉をいただき、ありがたき幸せ」

「これからも尽くしてくださいませ」

「はは~っ!」

 彼が礼をすると、部屋から退出した。

 一緒にヴェスタも出ようとしたのだが、彼に声をかける。


「ヴェスタは残って」

「かしこまりました」

 残った彼だが、悔しそうに泣きそうな顔をしている。

 そういう顔をしないの。


「アリスとクロミ、ちょっと席を外してくれないかな?」

「「かしこまりました」」

 2人が隠し扉を開けて、奥に消えていった。


「ヴェスタ、こちらに来て」

「はい」

 私は、椅子に座ると、スカートのスリットから自慢の足を取り出した。

 白くて長い脚が彼の前に現れる。


「許します」

「せ、聖女様……あの!」

「ヴェスタは、私の礼が要らないのですか?」

「そ、そんなことはございません!」

「許します」

 私は同じセリフを繰り返した。

 彼がひざまずくと、私の脚を取った。


「ん……」

 ヴェスタの唇が私の脚に振れると、電流のようなものが身体を駆け巡る。

 私ってば、確実に悪女になってない?

 美少年をもてあそぶ悪女に!


 それを見ていたヤミからツッコミが入った。


「にゃー」

「うるさい……」

 別にもてあそびたいわけじゃないのよ。

 私だって、やりたいの!

 できるものなら、今すぐに彼と!

 押し倒したいし、押し倒されたい! くんずほぐれつ、口では言えないような、色々なことがしたいの!

 それができないから悩んでいるんじゃない。


 ――といいつつ、彼をもて遊ぶような状況になっているのがつらい。

 でも楽しい。



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