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75話 盛大な祝福


 近衛騎士団の団長であるカイル様のご家族が誘拐されていたのだが、やっと解決した。

 国王陛下に王宮魔導師、近衛騎士、エルフ、そして聖女という豪華布陣である。

 攻撃には参加しなかったが、モモちゃんもやって来た。

 これじゃ、どんな悪党も敵わないだろう。


 事件の解決に参加できなかったヴェスタは少々不機嫌なのだが、これは仕方ない。

 陛下が先頭に立ってグイグイと前に進んでしまったから、ヴェスタを呼びに行く時間がなかったのだ。


 結果的に、今回の事件には公爵のドラ息子は関わっていなかったが、彼の部下が関わっていたようだ。

 激怒したドラ息子が、犯人を斬り殺してしまったため、公爵家は大きく求心力を落とした。

 スゴい初代が立ち上げ、二代目が傾けて、三代目が潰すってのが元世界ではあったのだが、そんな感じだろうか。


 残るイベントは近衛騎士同士の模擬戦である。

 こんなグダグダな状態になってしまって、本当にやるのだろうか?

 赤い近衛騎士団は数を減らしてしまったし、実力者のルナホークという騎士は、退団して聖女――つまり私の直属になっている。


 一応陛下にも確認をしたのだが、中止するのにも金がかかるので、そのまま強行するらしい。

 聖女である私の、一般市民へのお披露目を兼ねているみたいだし。


 ――そしていよいよ、模擬戦の当日。

 私もお披露目をするということで、朝から入浴して身体に磨きをかける。

 トイレは1人でするようになったが、入浴はたくさんのメイドに囲まれて磨かれた。

 まぁ、慣れればこれはかなり快適だ。

 座ったりとか寝ていれば、身体の隅々まで磨いてくれるのだから。


 身体を磨いたあとは、白い極上のドレスを着込む。

 これは服飾デザイナーであるカプティフの最新作である。

 たくさんのフリルが美しく重なり、スリットの入ったスカートが重なる意匠も前から引き継がれている。

 スリットが重なれば、私の自慢の脚がチラ見できるわけだ。


 ドレスを着込んだら化粧を施して、戦闘準備完了。

 お城の通路に敷かれた赤い絨毯の上を歩いて正面玄関に向かう。

 今日はお城の正門からの出陣だ。

 悪いが今日は、ヤミはお留守番。

 さすがに黒いネコを肩に乗せてお披露目はできない。


 正面玄関には、王族しか乗ることが許されないという真っ白な馬車が止まっている。

 4頭立てだが、馬も白い。

 金色の飾りも眩しく、これならひと目見て王族が乗っていると解るのではないだろうか。

 逆に、テロの標的になりそうな感じもするのだが、王族を襲うような輩は存在していないのかもしれない。


 馬車は2台止まっているので、先頭の馬車に陛下が乗っていらっしゃるのだろう。

 その前後を近衛騎士団の馬が固めている。

 全部青い騎士だが、こんな状態になっていて赤い騎士団に仕事が回ってくるはずがない。

 そもそも、私が嫌だって言うし。

 聖女に対して反感を持っている公爵のドラ息子とかにエスコートされたくない。

 でも、近衛は闘技場で試合があるのだが、その選手を除いた人たちがここにいるのだろうか?

 そういえば、カイル様がいないような気がする。


 青い近衛騎士に馬車の扉を開けてもらうと、中に乗り込む。

 中にはすでに、ファシネート様が乗り込んでいた。

 私は対面に座ったのだが、彼女が隣に移ってきた。


 私の手を取ってニコニコしている。

 今日はいつもの通訳メイドがいない。

 彼女は黙ってニコニコしているだけなので、話すことがないのだが……。


「ファシネート様も、一緒にお披露目の席におすわりになるのですか?」

「コクコク!」

 彼女が黙ってうなずいている。

 話していると、馬車が動き始めた。

 メインの警備は近衛騎士団が行っているが、ヴェスタやアルルもあとから付いてきているだろう。


 話すことがなくて、非常に気まずい。

 ファシネート様はニコニコしているので、それでいいのかもしれない。

 隣に座っている彼女を見る。

 病気で痩せこけていたときのことは、もう微塵も感じさせない。

 フワフワな金髪と、宝石のような青い瞳を持つ、完璧な美少女である。

 こんな美少女が、政略結婚のために太った豚のような貴族に嫁いでしまうのだろうか。


「はぁ~」

 あまりの無常さに、ため息が出てしまった。


「?」

 私のため息に彼女が首をかしげている。


「あ、あのなんでもありません」

 こんな美しい花を儚く散らせるぐらいなら、私が嫁にもらいたいのだが……。

 いや、ゲフンゲフン――私にはヴェスタもいるし、そもそも女だ。

 いったい、なにを言っているのだろうか?


 馬車は超高級なのだろうが、乗り心地はよろしくない。

 基本的なメカは一緒なので、コレはしかたないのだろうか。

 そんなことを考えていると、馬車列は闘技場に到着したようだ。

 ずっと馬車の中だったので、どこに到着したのか解らない。


 近衛騎士に案内されるまま、石造りの通路の中をファシネート様と手を繋いで歩いて行く。

 護衛の騎士たちが、チラチラとこちらを見ているのだが、なにかおかしいのだろうか?

 手をつなぐのが変だとか?

 いや、殿下は普通に握っているしなぁ……。

 こんな所での作法なんてまったく解らない私は、王族の人たちに従うしかない。

 なにかあったら、「なにも解らないので、王族の方々のとおりしました」とすべて押し付けてしまえばいいわけだし。


 そして着いたのは、石造りの殺風景な場所。

 なにもない。

 いや、床に穴が開いているのかな?


「殿下、ここは?」

「!」

 私の問に、彼女は上を指差した。

 上から何かがガラガラと降りてくると、一番下で停止した。

 四角い箱には金属製の飾りがついた柵がついている。


「これって……」

 私の記憶から元世界の似たようなものを探す。

 もしかしてエレベーターじゃないだろうか。

 殿下に手を引っ張られて、その箱の中に乗り込んだ。

 すると、すぐにガラガラという音を立てて、上に昇り始めた。

 これは間違いなくエレベーターだ。

 どうやって動いているのだろうか?

 魔法?


「これってどうやって動いているのですか?」

「獣人たち」

 小さい声だったのだが、そう聞こえた気がする。

 そういえば、街で大きなハムスター車のようなものに獣人たちが入って回していたのを思い出した。

 あれで大きなクレーンを動かしていたはず。

 あんな大きな建築機械が動くならエレベーターが動いてもおかしくない。


 私が回し車のことを考えていると、大きなショックとともに、エレベーターが止まって柵が開いた。

 どうやらここで終点らしい。

 結構な高さを昇ったので、これが階段だったら大変だったろう。

 私は自分で回復をしているので、このぐらいの高さの階段なら問題ないと思う。

 実際、王家の森に行った際に長大な階段を上ったが、疲れはしなかったし。

 階段でも聖女の私は平気だが、一緒にいるファシネート様が大変だ。

 見た目からして可憐な美少女の彼女は、運動が得意なようには見えない。

 それに病み上がりだし。


 そういえば、私たちの先に陛下がいたはずだが、彼もエレベーターで昇ったのだろうか?

 国王の姿を捜していると、ファシネート様に手を引っ張られた。

 通路の向こうに明かりが見えて、なにか歓声か怒号のようなものが聞こえる。

 そういえば、この建物が揺れているように感じるのだが気のせいだろうか?


 光の中に出ると、建物が揺れているように感じるのは闘技場の満杯に入った人々の歓声だと気づいた。

 こんなに盛り上がる要素がどこにあるのだろうか? ――などと思っていると、陛下がベランダみたいな場所から手を振っている。

 ああ、それで盛り上がっていたのね。


 その場所にいたのは、陛下と近衛騎士たち、そして王宮魔導師兄弟。

 やはりカイル様はいない。

 これから試合に出るなら、ここにいるはずがないか。


 ここに来た王族は陛下とファシネート様の2人だけ。

 もしかして、今の王族って、おふた方だけなの?

 お城で見かけたのも、おふた方だけだったし……。

 ――そう思ったが、さすがにこんなことは聞けない……。

 見回してみても王族らしき姿がないということは、やはりそういうことなのだろう。


 手を振っていた陛下の両側に王宮魔導師兄弟が立った。

 なにが始まるんだろう――と考えていると、魔導師2人がなにか魔法を使い始める。


「私は国王、ストレイト・フォン・サイードである!」

 え?! 突然の大きな声で私は驚いた。

 国王の声が、闘技上の上に響いている。

 まるで、巨大なスピーカーシステムで音量を増しているようだ。

 これも魔法の力なのだろうか――もしそうなら魔法で作った拡声器ね。


 陛下の声に反応して、観客が盛り上がる。


「只今より国王の名において、近衛騎士同士の模擬戦の開催を宣言する!」

 まるで建物が揺れるような歓声が響く。

 国王が後ろを向いて、私と殿下が呼ばれた。

 おそらく、2人の魔導師の間に入れば、私の声も増幅されるのだろう。


 私はファシネート様と一緒にベランダに立った。

 下を見下ろせば結構な高さがあり、闘技場全体が見渡せる構造になっているのが解る。

 このとき初めて、この闘技場が円形をしているのに気づいた。

 階段状になっている客席はほぼ埋まっており、たくさんの人々が歓声を上げている。

 このような催しに人が満杯に集まるのは、娯楽が少ないせいであろうか。


 私と殿下が定位置に立ったのを確認すると、陛下がまた大声を上げた。


「ここに集まるすべての民よ! ここにおわすのが、我が私財を投じて異世界より召喚せし、今上の聖女様である!」

 あ~言っちゃったよ、この方はぁ。

 本当に、聖女をネコババするつもりである。

 これで他国にも、この王国に聖女がいるとバレてしまった。

 他の国がどういう行動に出るのか少々心配である。

 もちろん、近衛や隠密部隊の総力を挙げて、私を警護するのだろうけど。

 それに、私の直属でできた騎士団――いわば聖女騎士団もできたしね。

 それはいいが、新しい騎士団ができて、もめごとが起きないかちょっと心配。

 青の騎士団は既得権益とかとは無縁の存在みたいだし、大丈夫だろうと思うが。


 聖女の存在を宣言する、国王の声が闘技場に響き渡ったのだが、突然のできごとに観衆は沈黙してしまった。

 陛下はなにを言い出したんだろう? みたいな感じじゃない?

 そう思っていたら、陛下から言われた。


「聖女様からお言葉を」

「ええ?!」

 いきなり振られても困る。

 そりゃ、一応セリフとか考えてきたけど……。


「え~」

 話しだそうとしたら、右後ろから声がした。


「ノバラ!」

「え?」

 右を向くと白い翼が見える――モモちゃんである。


「ノバラ!」

「ちょっと!」

 彼が近衛の間を縫って、私の所にジャンプしてきた。

 とりあえず抱っこしてしまったのだが、彼が離れてくれない。

 声を大きくする魔法がずっと稼働しているので、モモちゃんとの会話も流れてしまってる。

 ここで揉めるわけにはいかないので、このまま挨拶の言葉を述べるしかないだろう。


「私が、この国に召喚された聖女のノバラと申します。私の力の続く限り国民の皆様のお力になれればと思います」

「「「どよどよ……」」」

 観衆がどよめきはじめた。

 なんのことはない、私が抱いていたモモちゃんが翼を広げたのだ。


「天にまします我らが神よ――ここにいる民に等しく神の祝福を与えたまえ――」

 前日から考えていたセリフなのだが、自分で言って、あれ? と、思った。

 これってば、もしかしてヤバい?

 ちょっと! せっかく模擬戦で、あのドラ息子がボコボコにされるのを楽しみにしてたのに!


 ここで私の記憶は途切れた。


 ――目を覚ますと身体が重いし、まぶたも重い。

 やっとまぶたを開けると、ベッドの天蓋が見えるのだが――おそらく私の部屋だと思われる。

 光が入ってくる角度から、多分朝だろう。

 動けないのでジタバタしていると、それに気がついたのか黒いものが下から近づいてきた。

 それが私の顔を覗き込んで、ゾリゾリと音を立てて舐め始める。

 やって来たのはヤミなのだが、痛いので舐めるのを止めてもらいたい。


「にゃー」

 身体は動かせないが、彼の話は解る。

 私があの場でヤバいと思った瞬間、聖女の力が使われてぶっ倒れたみたい。

 そりゃ、あそこにいるだけの人たち全員に祝福なんて与えたら、力を使いすぎたに決まっている。

 質問したいのだが、口が上手く動かない。


「ど……の……ぐ……らい?」

 やっと言葉を絞りだしたのだが、彼は意味を理解してくれたようだ。


「にゃ」

 え? 1週間?

 つまり、1週間ベッドの上でぶっ倒れたままだったのだ。

 ノォォォ! やっぱり、騎士団同士の模擬戦は見られなかったじゃん!


 それはいいのだが、その間の食事とかトイレとかどうしたんだろう?

 もしかして下の世話までされてた?

 オーマイガー、酷いよ神様、私になにか恨みでもあるんですか?

 いや、迂闊に力を使ってしまった私が悪いのだが。


「もも……ちゃん……は?」

「にゃ」

 私のことを心配していたが、大丈夫だったらしい。

 まぁ、陛下も私とモモちゃんの間柄を知っているから、トラブルになることはないか。

 ヴェスタやアルルも心配しているだろう。


 ヤミと話していると、口も動くようになってきた。

 手足も徐々に固さが取れてくる。

 ずっと同じポーズで座ったりしていると身体がバキバキに痛くなるが、あれの酷いやつっぽい。


 身体をよじると痛いのだが、痛くても動かさないと、このままずっと動けない。

 起きようとしたのだが、身体を斜めにしたらベッドから転げ落ちた。


「聖女様!」

 私がベッドから落ちた音に気がついたのか、奥の部屋からメイドの2人が飛んできた。


「ご……めん、おこ……して」

「はい」

 2人で私の身体を抱えて起こそうとしているのだが、女性では力不足だろう。


「ヴェスタを……よんできて」

「は、はい」

 メイドが慌てて出ていったら、すぐにヴェスタがすっ飛んできた。


「聖女様!」

「ちょっと……だき……おこして」

「は、はい!」

 彼にお姫様抱っこしてもらい、椅子に座らせてもらう。

 これじゃ移動もつらいわ。


「はぁ……」

 ――と思ったら、突然めまいがして天井がグルグルと回り椅子から転げ落ちそうになった。

 なにかの身体の異常? ――とか、思ったのだが、これは単に腹が減っているのだと解った。

 なにか食べるにしても、1週間もなにも食べてない状態でいきなり食事はマズいだろう。


「あの……お腹空いた……なにか消化のいい……果物を……」

「お腹にいいものですか?!」「そういうときは、リンカーに限る」

 リンカー、つまりりんごだが、この世界でもそうなのね。

 クロミの言葉に、アリスが反応した。


「そういえば、病気のときにはリンカーをすりおろしたものを食べたりしますわ! わかりました! リンカーですね!」

 アリスが部屋から飛び出していった。

 ヴェスタが珍しくウロウロしているのだが、別に病気なわけではない。

 ただ、ずっと寝ていたので口と身体が動かないのと、腹が減っているだけだ。


 すぐにアリスが戻ってきて、りんごの皮を剥くとすりおろし始めた。

 私はスプーンも持てない状態なので食べさせてもらう。

 咀嚼もできないし、飲み込みも上手くできずに難儀する。

 元世界なら、こういう場合は点滴なんだろうけど、この世界にそんなものは存在しない。

 自分で自分に奇跡を使えば――と一瞬思ったのだが、過大な奇跡を使った結果がこれなので、今の状態で聖女の力を使うのはマズいかもしれない。

 慌てなくても、ずっと自然回復はしていると思うので、すぐに元どおりになるだろう。


 それよりも、ずっとウロウロしているヴェスタが気になる。

 心配してくれているのはありがたいが、少々ウザい。


「ヴェスタ……じっとしてて……」

 私にそう言われて、彼はしょんぼりと部屋の隅に行ってしまった。

 メイドたちに、私が寝ていた1週間のことを聞く。

 ずっと横になったまま、食事もしないし、トイレにもいかなかったみたい。

 下の世話までしてもらっていたのかと少々心配していたのだが、聖女パワーでなんとかなった模様。

 まぁ、その結果がこの有様なので、あまり喜べないのだが。


 しばらくすると、私が起きたのと報告を受けたのか、国王とファシネート殿下が部屋を訪れた。


「陛下――このような格好で、ご無礼を――お許しください」

 大分口が回る様になってきた。

 まだ、動けないが。


「ああ、気にすることはない」

「……!」

 私にファシネート様が抱きついてきた。

 慌てている小動物みたいで可愛い。

 なでなでしたいのだが、手が動かない。


「そなたが奇跡を使ったあと、大騒ぎになったのだぞ」

 そりゃ、あそこにいる全員に祝福を与えてしまったのだから、騒ぎにもなるだろう。

 そのあとのことを、アリスが説明をしてくれた。


「病気や怪我が治った民が、聖女様にお礼がしたいと城門の前に多数おしかけまして……」

「どう――なったの?」

「聖女様へのお礼を入れるため、巨大な箱が設置されました……」

 巨大なお賽銭箱のような物がお城の前に設置されて、そこにお礼が入れられているという。

 ただし、なまものなどは禁止。

 一般市民からのお礼なので、ほとんどが小銭らしいのだが。

 これは、数えるのが大変そうね。


 これでまた、ティアーズ領へと戻ったときの資金が増えた――と言いたいところだが。

 捧げられたお賽銭のうち、半分はなんらかの形で一般市民に還元しなくてはならないだろう。

 貧しい人たちに炊き出しをするとか、身寄りのない子どもたちを集めて孤児院を作るとか。


 それよりも模擬戦はどうなったのだろうか?


「それがな……」

 陛下が呆れたように結果を話し始めた。

 5対5からの一騎打ち方式だったらしいのだが、最初の先鋒戦ですべての決着がついてしまったらしい。

 つまり、青の近衛の先鋒1人で、赤いほう全部をボコボコに……当然、あのドラ息子も。

 そりゃ素人の私の目から見ても、実力の違いは一目瞭然。

 赤の騎士団で唯一の実力者かと思われたルナホーク様は、私の直属に。

 これじゃどうやっても勝てっこない。


 模擬戦なので、もちろん身分などは関係なし。

 評判の悪い公爵の息子をボコボコにする姿に、会場は大いに湧いたらしい。

 試合が終わったときに、観客席から投げ込まれたもので、地面が埋め尽くされたという。


 青の近衛には、地方騎士団の代表としてティアーズ騎士団のジュン様も出場していたらしいのだが、当然出番なし。

 あのドラ息子も、多少恥をかいたとしても私のお披露目の場で引っ込み、模擬戦などやらなければ大恥をかかずに済んだのに……。

 求心力がかなり落ちたと言われるサウザンアワー公爵家だが、どうしても離れられない寄子以外は誰も残らないであろう――とは陛下のお言葉。

 国王としても予想通りの結果――いや、予想以上に紅玉騎士団が弱かったということか。

 これで国王陛下としても大手を振って赤いほうを取り潰せるだろう。

 だってもう存在意義がないし。


 願わくば、赤いほうに使ってた予算のちょっとでもいいから、聖女騎士団に回してほしいものだ。


 事前に色々とあった近衛騎士団同士の模擬戦であったが、私がひっくり返っている間にあっけなく決着がついてしまった。

 もう、楽しみにしてたのに。


 さらに残念なのは、試合が終わったあとにティアーズの領主様とジュン様が帰領してしまったこと。

 別れの挨拶もできなかった。

 王都にある学園に入学したククナ様は残っているので、いずれ会いにいってみようかと思う。



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