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74話 助け出す


 青い近衛騎士の団長である、カイル様のご家族が誘拐された。

 獣人たちの鼻を使って捜索する作戦を考えたのだが、空振り。

 残っている場所で可能性が高いのは、お城の南側に広がっている、王家の森という山。

 そこにやってきたモモちゃんに、協力してもらうことにした。

 彼が、森の中にある建物を把握しているという。


 お城の庭でカイル様と次の作戦を練っていると、陛下に見つかってしまった。

 バレてしまっては仕方ない。

 全部話すことにしたのだが、話を聞いた陛下は、理解した上で捜索に協力してくれるらしい。

 偉い人しか持ち出せない地図を見せてもらい、山に登るための秘密の通路まで使わせてくれた。

 暗くて長い階段を上ると、鬱蒼とした森の中に出た。


 眼の前に、足を踏み入れるのをためらわれるような森が広がっている。


「ここから建物がある方角とか解ります?」

「はぁ~、これは……まったく手入れとかされていなかったから、こんなことになっていたとは」

「にゃ」

 陛下の話では――かつては人の手が入り、公園のように手入れがされていたらしい。

 金がかかるので、緊縮財政の下で予算が切られてしまったようだ。

 そりゃ来る人もいないのに、お金を使うのは無駄だしね。

 どうでもいいが、陛下の頭が蜘蛛の巣だらけだ。

 先頭を切って歩いていたから……。


「陛下、汚れと蜘蛛の巣を払います」

「平気だが?」

「だめですよ――洗浄クリーン

 魔法で汚れがスルスルと落ちていく。


「おお、見事な魔法だな。ありがたい」

「にゃー」

 国王がそう言うということは、普通の魔導師の魔法よりは効きがいいのだろうか?

 やっぱり魔力を潤沢に使っているせい?

 いままでそういう反応はなかったけど……。

 それとも、国王なら洗濯をしている職場とか見ていないと思うし。


 そんなことより目的の建物の場所だ。

 方位磁石とかあればいいのだけど……。


「方角が解る機械とかは……?」

「羅針か? 船には載っているがなぁ」

「レオス様、魔法では?」

「さすがに、そのような魔法は……」

 魔法でなんとかなりそうなものだけどね。


「それでは、一旦戻って獣人たちに手伝ってもらうとか……」

 彼らの鼻なら、この森の中でも対象を捜すことができるかもしれない。

 どうしようかと悩んでいると笑い声が聞こえてきた。


「ははは、ここは私の出番だな」

 偉そうにしているのはエルフだ、なぜかついてきている。


「それでは偉いエルフ様は、なんとかおできになるのですか?」

「むろんだ。我々はエルフだからな」

「それでは、場所の特定をお願いしたいのですが……」

「私からも、大使様に依頼をしたい」

 国王陛下からの依頼なのだが、エルフが鼻で笑うような仕草を見せた。


「それには対価をいただきたいものですなぁ」

「人の命がかかっているのに?」

「その件は、我々エルフには関係ないことですし」

「ヤミ、エルフって皆こうなの?」

「にゃ」

 そうらしい。


「それで?! いったいエルフ様はなにをお望み?! 只人のお金なんて興味がないんでしょ?」

「そのとおり」

「それじゃ?」

「私の相手を聖女様がしてくれればよい」

「はい?!」

 突然、エルフがわけの解らないことを言い出した。


「サルーラ殿、聖女様になにかあれば冗談ではすみませんぞ?」

 さすがにこんなことを言われては、陛下も黙っていられないだろう。


「はは、べつになにかするわけじゃない。聖女の重要性は我々も承知している」

「わかりました! 私になにをさせたいのか解りませんけど、ふしだらなことではなければ、お相手しましょう」

「聖女様」「聖女様」

「陛下もレオス様も、エルフの話をまともに聞いてはいけません。どうせ、無理難題をふっかけて楽しんでいるだけですから」

「そんなことはないぞ? 私はノバラに興味があるだけだし」

 彼が私の手を取ろうとしたので、振り払った。


「人質の居場所を確かめるのが先決です」

「はは、そうだったね――****」

 エルフがなにかを唱え始めると、青い光がチラチラと集まってきた。

 普通の魔法の光と違うのは、なにかの意思を持っているように、不規則に動くことだろう。

 これが、エルフの言う精霊というものらしい。


「陛下、地図を」

「うむ」

 エルフが、精霊に地図を見せている。

 私には光の粒にしか見えないのだが、彼らはそれを理解しているのだろうか?


「頼むよ」

 彼が精霊たちになにかを頼んだようだ。


「もしかして、その精霊たちが、森の中を捜してくれるということなのですか?」

「そのとおり。街の中じゃここまで使えないが、ここは森の中。沢山の精霊がいる」

 どのぐらいの時間がかかるものだろうと思っていると、10分ぐらいで沢山の光の玉が集まってきた。

 他の場所にいた精霊たちもやって来たようだ。

 なるほど、これだけ沢山いるのなら、森全体の把握も難しいことではないのかもしれない。

 自分たちで自画自賛するだけのことはあるのね。


「向こうだ」

 エルフの指す方向に、皆が進み始めた。

 先頭にはカイル様が立って、剣を振って草などを薙ぎ払っている。

 剣は自分の袋から出したものだろう。

 草刈りなどに使っていいものではないと思うが、ここでは仕方ない。


 それにもうすぐ自分のご家族に会えるかもしれないと思えば、先頭に立って進みたい気持ちを理解できる。

 15分ほど歩くと、雑木を集めたバラックのような建物が見えてきた。

 イメージ的には竪穴住居。

 そんな感じだ。

 どうやら人は住んでいるようだが、どう見ても人質が捕らわれているようには見えない。


「あれは、違うんじゃないでしょうか?」

「う~む、おそらくな」

 見張りもいないようだし、家の前で焚き火をしているのは世捨て人のような髪を伸ばした男性。

 若いのかお年寄りなのか、それすらも解らない。


「私が確認して参ります」

 カイル様が陛下に話すと、バラックの前にいる男の所に行った。

 突然現れた客に、かなり驚いていたようだが、やはり森の中に住んでいる無宿人のようだ。

 すぐにカイル様が戻ってきた。


「違いましたね」

「はい……」

 金色の獅子が、私の言葉に残念そう。

 彼の心労も限界にきているのではないだろうか。


「大丈夫だカイル。あと2箇所ある」

 陛下の応援に、騎士がうなずいた。


「そうですよ。エルフ様、次の場所をお願いいたします」

「承知した」

 彼の言葉にまた青い光が集まってくると、私たちの進む方向を指し示す。

 それに従って、私たちは再び歩き始めた。

 今度は少々時間が長くて30分ほど。


「これは精霊の案内がないと、迷子になってしまいますね」

「私を連れてきてよかっただろう?」

 エルフが勝ち誇った顔をしている。

 高くて細い鼻が、一段と高くなったようだ。


「陛下、お止まりください」

 王宮魔導師がなにか察知したようだ。


「どうしたレオス」

「魔導師による警戒結界が張られております」

 侵入センサーみたいなものだろうか?

 魔法というのは本当に色々なことができるのね。

 映像無線みたいなものもあるし、魔法の袋もあるし、ある意味元世界より進歩しているのかも。


「――ということは、当たりを引いたということか?」

「可能性は高いです」

「にゃー」

 そ~っと、その建物に近づいて茂みの中から覗くと、石造りの2階建ての建物。

 なん人かの男たちが見張りに立っているように見える。

 それプラスすることの魔法の警戒網とくれば、ここで間違いないのかもしれない。


「どうしましょう? 戦ったりすれば、人質が危険に晒されるかもしれません」

「そうだな……」

 国王が判断に悩んでいると、剣を持ったカイル様が出ていこうとしている。


「待て待て! 早まるな」

「しかし陛下」

 カイル様は、居ても立っても居られない状態なのだろうが、焦りは禁物。


「ここは我々にお任せください。陛下」

 陛下と近衛騎士を見ていた魔導師がニヤリと笑った。


「カイルも心配はいらないぞ。我々も伊達に魔導師の頂点を張ってない」

 小さな兄も笑っている。


 そうだった――ここにいる兄弟は、王国にいる沢山の魔導師たちの頂点に立つ存在。

 街にいる普通の魔導師たちが束になっても敵うはずがないのだ。


 2人が打ち合わせをしたのち、タイミングを合わせて時間差で魔法を使い始めた。

 森の中に青い光が舞う。

 建物の周りに赤い光が弾けると、外にいた連中が慌て始めた。

 扉が開くと、中からなん人か飛び出してきたのだが、そのままバタバタと倒れる。

 その中には、ローブを着た魔導師らしき姿も見えた。


「え? なにをやったんですか?」

「大丈夫ですよ聖女様。眠らせただけです」

「はぁ~」

 鮮やかすぎてため息が出る

 さすが魔導師のトップというわけか。

 敵が眠ってしまったので、これで安全に建物の捜索ができるというわけだ。

 皆で建物の所まで行く。


「にゃー」

「え?! においがする? 本当?」

 ヤミは、カイル様の奥さんが使っていたハンカチをもらってにおいを捜していたから、それを覚えていたのだろう。

 騎士がドアを開けた。

 建物の中にもなん人か男たちが倒れている。

 身なりは粗末なので、商人というよりは野盗のような感じ。

 こいつらは雇われたゴロツキなのだろうか?


「にゃー」

 奥の部屋にヤミが駆け込むと、床を脚で指している。


「そこに扉があるの?」

「にゃ」

 彼の言うとおり、床の一部が開きそうだ。

 それを聞いたカイル様が、そこを持ち上げた。

 かなり乱暴だが、悪人どもに爆発寸前なのかもしれない。

 扉は開いたのだが、中は真っ暗。

 私の魔法を使った。


光よ(ライト)

 魔法の光が奥を照らすと、現れたのは下に降りる階段と、石の床。

 そんなに深くはないらしい。


「メル! ローレライ!」

 中の確認もせずに、カイル様が飛び込んだ。


「カイル様!」

 どうなったかまったく解らないのだが――見える所に白いワンピースの女の子を抱えた彼がやってきた。

 獅子と同じ柔らかそうな金色の髪が綺麗だ。


「任せろ!」

 彼が女の子を差し出したので、陛下が受け取った。

 やはり、ここで間違いなかったようだが、女の子がぐったりしているのが気になる。


「だ、大丈夫よね?」

 ヤミがクンカクンカしている。


「にゃ」

 寝ているだけらしいので安心した。

 さっき放った魔導師の魔法で寝てしまったのだろう。

 上で待っていると、騎士が白い地味なドレスを着た女性を抱えて下から上ってきた。

 やはり地下に閉じ込められていたということで、かなり汚れている。

 奥さんは長い髪を解かれているが、金髪でしかも美人。

 女の子も可愛いが、奥さん似ということだろう。


「ローレライ……」

 カイル様が、奥さんの頭をなでているのだが、ここまで殺気が伝わってきて近寄れない。

 もう怒りが爆発寸前なのだろう。


「陛下、これからどうしましょう?」

 今後の作戦を尋ねる。

 倒れている敵は5人ほどだが、全部下っ端で主犯格がいるように見えない。

 魔導師も雇われだろう。


「ふむ――魔導師以外は始末しても構わんだろう」

 さらりとそんなことを言う。

 裁判とかそういうのがない世界だからなぁ。

 騎士団長の奥さんの誘拐監禁に関わっているだけで、調べるべくもなく極刑ということなのだろう。


「魔導師は残すのですか?」

「うむ、魔導師協会へ圧力をかけるのに使う」

「そういえば! 私の家を燃やしたのも正規の魔導師なんですけど! 皆に嫌われている魔女はいい人ばかりなのに、魔導師ってロクなやつがいないのはなぜなんですか?!」

「それは申し訳ない……」

 小さいお兄さんが、頭を下げた。


「王宮魔導師のおふたりはそんなことないんでしょうけど」

 ――といいつつ、私の治療を邪魔しようとしたけど。

 まぁ、それは反省して謝罪を受けたが、2人は気まずそうである。


「あい解った。聖女様の家を燃やした件も魔導師協会に問い詰める」

「ティアーズの協会から連絡とかしないで、揉み潰しているんだろうなぁ……」

 陛下と魔導師について話していると、ヤミが反応した。

 耳をクルクルと回している。


「にゃー」

「馬車が近づいてくる?」

「なに?!」

 カイル様も反応した。


「もしかして、主犯格のやつらかもしれませんよ」

「うむ」

 慌てて外に出ると、森の中の細い道を確かに馬車が向かってきていた。

 向こうもこちらに気がついたのか、馬車を止めてこちらをうかがっている。


 私は、袋の中から魔石を取り出した。


「私の魔法を使います――虚ろな……」

 魔石を使う大きな魔法を使う機会がなかったのだが、相手は悪党だ。

 ここで使ってもいいだろう。

 そう思ったのだが、殺すのはちょっと……私は敵の少し手前に魔法を出すことにした。


「にゃ」

爆裂魔法(エクスプロージョン)!」

 集まってきた青い光が灼熱の爆炎に変わる。

 やった! 魔法が成功した――と思ったのだが、威力は予想外に強く、辺りを吹き飛ばして森の木々をなぎ倒した。

 爆風が襲ってきて、私たちが出てきた家の屋根を吹き飛ばす。


「にゃー!」

「そんなことを言っても。こんなに威力があるなんて!」

 あまりの爆発音に、カイル様が抱いていた奥さんが目を覚ました。


「ううん……」

「ローレライ!」

「……あなた……?」

「ローレライ!」

 騎士がお姫様を抱きしめた。

 まさにそういうシーンである。

 陛下が抱いていた娘さんも目を覚ましたようだ。


「メル!」

「……お父さん……?」

 彼が、奥さんと娘さんを一緒に抱きしめた。


「あの、陛下。魔法は直撃していないと思いますので、まだ敵が生きていると思うのですが……」

「そうだな」

「始末はお任せください」

 カイル様が、剣を持って立ち上がった。


「顛末を知ってそうな者は、残せよ」

「承知いたしております」

 多分、めちゃくちゃ激怒していると思うのだが、仕事は冷徹にこなすのだろうか。

 娘さんを奥さんに託すと、剣を持った騎士が敵に向かった。

 ゆっくりに見えるのだが、なんだか速い。

 矛盾しているように思えるのだが、確かにそう見える。

 近衛騎士の頂点にいる男に勝てる無頼がいると思えない。

 彼に任せれば問題ないだろう。


「あとはカイル様に任せて、建物の影に隠れていましょう?」

「はい」

 それに、子どもに殺戮シーンを見せるのはよろしくない。

 奥さんと娘さんを連れて、建物の影に向かった。

 建物にいた敵は全部ひっくり返っているし、私の近くにはエルフがいる。

 ヤミもいるし、さらには王宮魔導師兄弟もいる。

 この最強軍団に勝てるのはいないのでは?


「どこか怪我をされているところはないですか?」

「は、はい……」

 見れば、ふたりともあちこちに擦り傷がある。

 無理やり引きずられたりしたのだろう。

 こんな所で傷を負えば、化膿したり破傷風などの危険もある。

 破傷風ってあるのか解らないけど。


「エルフ様」

「なんだい、ノバラ? 私のことはサルーラと呼んでほしいな」

「……お母さん! エルフ様! エルフ様がいる!」

「ええ、そうね」

 お嬢さんは、エルフを初めて見たのか、すごく興奮している。

 まぁ、見た目はいいからね。見た目だけは。


「サルーラ様」

「なんだい?」

「私の力を使うと倒れるので、支えてくれますか?」

「もちろん」

 彼が私を後ろから抱きしめたので、草の香りが強く漂ってくる。


「ちょっと、支えるってそういうことじゃないんだけど」

 彼は細身に見えるのだが、力はとても強いらしく、動こうにもびくともしない。


「早く、力を使いたまえ」

「もう! ――天にまします我が神よ、この親子に癒やしの奇跡を与えたまえ……」


 ――すぐに目が覚めたのだが、ずっとサルーラに抱きしめられていたようだ。

 こんなのヴェスタに見られたら、彼がどういう行動を取るか。

 それとも前に話したとおり、自重してくれるだろうか?

 私とて、好きでこのような格好をしているわけではないのだけど。


 目の前には母娘が、膝をついている。

 女の子も小さいのに、こういう作法を身に付けているようだ。

 さすがに近衛騎士の家族。


「聖女様でいらっしゃいますね?」

「まだ、公表されていないのですけど、そういうことになっております」

「癒やしの奇跡を私たちなどに使っていただき、ありがとうございます」

「カイル様には、いつもお世話になっておりますし」

 奥さんの口調では、聖女がお城にいるってことは、旦那――つまり、カイル様から聞いて知っていたようだ。

 コンプライアンス的に問題がありそうだが、お城でお披露目をしたので、貴族の間では聖女がお城にいるというのは公然の秘密だろうしね。


 それはいいのだけど、エルフが私に抱きついたままだ。


「ちょっと、いつまで抱きついているつもりですか?」

「ノバラはいいにおいがする」

 ――とかいって、私の髪の毛をクンカクンカしている。


「いい加減にしないと、また玉を蹴るわよ!」

「おっと、そうなん回も同じ手を食らうわけにはいかない」

 ――とか言っていたのだが、突然私の後ろに白い影が舞い降りる。

 身体をひねって後ろを見ると、エルフの頭の上にモモちゃんがいた。


「お母さん、あれなに?!」

「ハーピー?!」

 女の子はハーピーを知らなかったようだ。

 それよりも、ハーピーとエルフが一触即発だ。


「長耳! ノバラに何をしている!」

「このクソ鳥! 魔法で焼かれたくなかったら、今すぐに降りろ」

「やってみろ! それより早くお前の頭がクソだらけになる!」

「モモちゃん、ダメよ! エルフから降りてあげて」

「こいつがノバラから離れるのが先!」

 エルフがパッと手を放して、後ろに下がった。

 それと同時に、モモちゃんが飛び上がって建物の屋根に止まる。


「**&**!」

 エルフが魔法を使おうとしているので止める。


「止めてって言ってるでしょ!」

 私が蹴ろうとしたので、エルフが飛び退く。


「ち!」

 エルフは舌打ちをして魔法を止めた。


「お母さん、玉ってなぁに?」

 女の子がお母さんに質問しているのだが、聞かれても困るだろう。


「お、大人になると解るから……」

「ふ~ん」

「あはは、変な話をしてゴメンね。まぁとにかく――このエルフっていきものは、見た目だけで中身は酷いので、興味を持たないように」

「そうなんだ……」

 女の子がしょんぼりしている。


「私とて、子どもなどに興味はない」

 彼がそんなことを言うのだが、お世辞でも子どもが好きとか言えないのだろうか。

 エルフと揉めていると、カイル様が戻ってきたようだ。

 母娘はヤミとエルフにまかせた。

 屋根から降りてきたモモちゃんを抱いて、カイル様の所に行く。


 戻ってきた騎士は血まみれで、小太りの男の首根っこを掴んで引きずっている。

 引きずられている男は、緑色のズボンと赤いベストを着た派手な格好。

 こいつが主犯格だろうか?


「カイル様、お怪我は?」

「ありません」

 そう言う彼だが、この姿はマズいだろう。

 家族に見せられるものではない。


「魔法を使います。洗浄クリーン!」

 青い光が舞うと、血糊がパラパラと剥がれて地面に落ちていった。


「ありがとうございます、聖女様」

 彼が静かにそう言うと、陛下の前に男を放り投げた。


「うぎゃ!」

 気を失っていたようだが、放り投げられたショックで目をさましたようだ。

 なにがどうなったか解らずに、ウロウロしている。


「男よ、私が誰か解るか?」

 陛下がしゃがみ込んで男の顔を覗き込んでいる。


「……」

 男が陛下の顔をジッと見ていたのだが、いきなり飛び上がって地面に頭をこすりつけた。

 目の前にいるのが、この国のトップだと理解したのだろう。


「私の目の前でこのようなことをしては、どんな弁明も利かぬなぁ……」

 地面に伏せていた男が、ガタガタと震えていたのだが、そのまま横にひっくり返った。

 見れば、白目を剥いて口から泡を吹いている。

 あまりのできごとにパニクって、こうなってしまったのだろうか。


 その男を放置して、カイル様が建物の近くで倒れていた賊たちを片付け始めた。

 奥さんが必死に、娘さんに見せないようにしている。

 黙々とやっているように見えるのだが、中身はマグマのように煮えたぎっているんだろうなぁ――と思う。


 なにはともあれ、事件は解決した。

 陛下の前で伸びていた男と魔導師は、電撃の魔法で叩き起こされて、お城まで連行された。

 帰りに王族しか知らない秘密の通路を通ったことになるが、どうせ処刑が確定なので問題ないということだろう。

 当然、通路を通った全員に秘密通路の守秘義務が確認された。


 すぐに国軍の部隊が、通常の道経由で現場に派遣されて、死体を回収。

 お城の近くでアンデッドになられるとマズいことになるので、念入りに周囲の確認がされた。

 もしかして、私の魔法で吹っ飛んでしまった敵がいたかもしれないし。


 すぐに王都の魔導師協会の長が呼ばれて、魔導師が貴族の家族を誘拐監禁するという事件を起こしたことについて、綱紀粛正を王の名の下に厳命された。

 ついでに、ティアーズ領にあった聖女の家を燃やしたのも、現地の魔導師ということも追及してもらい、私は家分の損害賠償金を得ることができた。

 その金額、金貨100枚なり。


 やっと、あのムカつく事件の損害を回収できたよ。


 ――そのあとすぐに、紅玉騎士団が呼び出された。

 団長であるあのドラ息子に、ことの顛末が陛下の口から告げられたのだが――。

 激怒した公爵の息子が、主犯格の商人をその場で斬り殺してしまった。


「うぬらは下賤の分際で! 私がことごとく負けると、裏では嘲り笑っていたのか?!」

 最初から負けると思われて、無断で工作されたのが癪に障ったのだろう。

 それだけではない――この事件に加担したと思われる、貴族の息子たちも手にかけて、宮中は大混乱になった。

 宮中を揺るがす大事件だが、この国には王族と同等の地位を持つ公爵家を裁く法律はなく、あのドラ息子はすぐに放免となった。

 一見甘い処分と映るかもしれないが、子息を無惨に殺されてしまった貴族たちの怒りは大きい。

 実際に寄子から抜け出した貴族が出始めたようだ。

 当然それだけで終わるはずもなく、今回の事件の噂が街に流れはじめた。

 貴族の大スキャンダルは、街の住民たちの格好の酒の肴だ。

 これでは、サウザンアワー公爵家の求心力の大幅低下は避けられないだろう――とは、陛下のお言葉である。


 あとは、近衛騎士同士の模擬戦が残るだけなのだが、こんなことで試合ができるのだろうか?

 もうやる前から空中分解してない?

 まぁ、聖女の一般へのお披露目もあるし、催しの計画を進めてしまっているので、いまさら中止するわけにもいかないのだろうけど……。



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