73話 王家の森
青の近衛騎士団の団長、カイル様のご家族が誘拐されて、それを捜索中だ。
なにも手がかりがない私は、獣人たちが持っている素晴らしい嗅覚に頼ることにした。
彼らに金貨を渡して2日たったが、目立った収穫はなかった。
これらがまったく無駄だったかと言われればそうでもない。
王都にはいないということが解ったのだから、次に捜索の手を移せるのだ。
獣人たちが言うのには、怪しいのは王都の南に広がる王家の森と呼ばれている山だという。
無断伐採などは禁じられているが、足を踏みいれることは可能だ。
無宿者や犯罪者が暮らしていることもあるらしい。
それなら、そこに人質がいてもおかしくない。
私は次の捜索について、お城の庭にある場所でカイル様と話し合うことにした。
先にテーブルがある場所に到着したので、アルルにお茶の用意をしてもらう。
それを飲んでいると、カイル様がやって来た。
彼の分のお茶もメイドに頼む。
「お待たせいたしました」
「お忙しい中をありがとうございます」
「いいえ、私事に聖女様を巻き込んでしまいまして、大変申し訳なく思っております」
「私が好きで首を突っ込んでいることですので……」
「ありがとうございます」
「それにしても、こういうときに聖女の力はなにも役にたちませんねぇ……」
「聖女様のそのお気持ちだけで十分でございます」
それはいいのだが、次に打つ手だ。
「それでカイル様、王家の森を探索するための、なにかいい手立てはありますでしょうか?」
「通常なら、騎士団を使った人海戦術――ということになりますが」
「当然今回は、それができないということですよね」
「そのとおりです」
大騒ぎになれば、彼の家族の命が危ない。
追い詰められた者がどういう行動に出るか予想もつかないし。
悩んでいると、上から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ノバラ~!」
この声はモモちゃんだ。
上を向くと、庭の上空を円を描くように飛んでいるのが見えた。
「モモちゃん~」
彼に手を振ると、渦巻状に急降下してくるのが解る。
地面スレスレに飛んできたかと思うと、私が座っている場所の前でふわりと舞い上がってブレーキをかけた。
カイル様が立ち上がって、私の前に入るような仕草を見せたので、手を挙げて制止した。
「ノバラ!」
彼が地面からぴょんぴょんと2回ほどジャンプをしてくると、私の胸に飛び込んできた。
「モモちゃん、エルフたちの所に行ってくれてありがとう!」
ここから森までは500~600kmぐらい離れているっぽいのだが、そこまで一飛びしたのだろう。
ハーピーたちだからできる芸当だ。
「おう! ノバラをいじめるやつらはゆるさない! あのあと、エルフの村に火をつけようとみんなで話していた!」
や、やっぱり――そこまでエスカレートしなくてよかった。
「エルフたちは、私をイジメないと約束してくれたから、もうそういうことをしなくてもいいからね」
「解った! あいつら、甘い顔をするとすぐにつけあがるから注意したほうがいいぞ」
「そうねぇ」
「他の種族を見下しているしな」
なんか、そんな感じだったわねぇ。
すごく長生きだって話だし、美男美女揃いでみんな魔法も使えるから、確かに有能な種族には間違いないと思うのだが。
「聖女様、それがハーピーですか」
「カイル様は初めてでしたか」
「はい――エルフとハーピーの争いのとばっちりを受けた我々は、いい迷惑でしたが……」
「私も関わっているので謝罪いたします。申し訳ございません」
「いいえ、悪いのはエルフたちでしょう」
カイル様は、そうおっしゃってくださるのだが、そもそもはハーピーたちがエルフの食料を勝手に食べてしまったのが原因らしいし。
彼はそれを知らない。
モモちゃんを抱いてなでなでしていると、いいことを思いついた。
「モモちゃん、お城の南側に森が広がっているよね?」
「広がってるぞ!」
「そこに人がいる場所とか、建物がある場所とか解らない?」
彼らは大空から森の全体像を見渡せる。
「解るぞ!」
「本当?!」
彼らは、大雨や嵐、敵からの襲撃から逃れるために、廃墟やら無人の家を把握しているという。
「森に建物とかなん軒ぐらいあるの?」
「そうだな。10ぐらい」
「そのうち、人がいる建物は?」
「3箇所!」
なんと、これならゼロから捜索するよりは早い。
最初に調べる場所に当たりをつけられるからだ。
「カイル様!」
「うむ! 聖女様、ありがとうございます」
彼が頭を下げるのだが、まだ早い。
「いえ、ご家族がいる場所が確実になったわけではありませんから。とりあえず調べてみませんと……」
「そ、そうですね……」
建物の場所はモモちゃんが把握しているのだが、私たちがその場所を探すためには指針――つまり地図が必要だ。
「カイル様、王家の森の地図はありますか?」
「い、いえ、地図はお城でも高位の方の許可がないと……」
近衛騎士団の団長であるカイル様でも駄目なのか。
それじゃ、陛下とか宰相閣下とか、そういう人ということになるのね?
そんな人に話したら、やっぱり騒ぎになるでしょうし……。
悩んでいると、モモちゃんが叫んだ。
「誰か来る!」
彼が指し示すほうを見ると、小さい男の子と青年の姿。
「聖女様」
やって来たのは、王宮魔導師兄弟だ。
どう見ても男の子のほうがお兄さんとか、元世界の常識からすると訳の解らないコンビだ。
なんの用だろうか? 彼らの相手をしている時間はないのだが……。
「なにか御用ですか? 今は、カイル様と大切な話し合いをしている最中ですので」
「今までのことを謝罪に……」
「承知いたしました。時間がないので手短に」
2人にはあまりいい思い出がないので、ちょっと嫌味っぽくなってしまったか。
「聖女様に、ご無礼の数々――誠に申し訳ございませんでした」
2人で一緒に頭を下げた。
う~ん、事情は解るし、別に2人が憎いわけではないんだけどね。
「謝罪を受け入れます。おふたりとも、民のために尽くしてください」
「「はい」」
私の言葉に、金色のライオンさんが複雑な表情をしている。
「どうなさいましたか?」
「いいえ――やはり聖女様は、民を第一に考える方が多いのだな――と」
「それはそうでしょう? 民がいないと国は成り立ちませんし、ぶっちゃけ国王がいなくても国は成り立ちますし」
私の言葉に、カイル様と王宮魔導師兄弟もぎょっとしている。
「にゃー」
ヤミも私に同意見らしい。
「ははは! そのとおりだな」
不意の笑い声に、皆がそちらをむいたのだが、そこにいたのは国王陛下だった。
ありゃ~、さっきの話を全部聞かれてしまったかも。
少々マズいかなと思うけど、これは事実だし。
立ち上がると深く礼をする。
「国王陛下がおられるとはつゆ知らず、ご無礼をいたしました」
「まぁよい。聖女様とはそういう存在だからな」
歴代の聖女たちも貴族や教団と揉めたというし、私と似たようなことを言ったのだろう。
「それよりも、こんな場所に集まりいったいなにをしていたのだ? ハーピーまでおるではないか?」
「彼はたまたま私の所に遊びにやってきただけです。王宮魔導師のおふたりは、私に少々用事があったのですが、すでに終わりました」
「「そのとおりでございます、陛下」」
「そうか――レオス、ミルスはそうだろうが、カイルと聖女様の組み合わせはいったいどうしたというのだ。愛妻家の騎士団長が浮気とも思えぬが……」
「ありえません!」
かなりきつく否定したカイル様に驚いたのか、国王が少々慌てた。
「そう、本気で怒るな。ただの戯れだ」
「失礼いたしました」
「それはいいのだが――ここでなにをしていたのか? 本当のことを話してくれるのだろうな?」
「う……そ、それは……」
ああ、クソ真面目すぎるから、こういうときに困るかも。
騎士というのはそういう人だから務まるというのがあるのだろうけど。
「まさか、主君である私にも本当のことは話せぬと?」
「ううう……」
これはもう駄目だと思う。
ここで話してしまったほうがいいだろう。
「カイル様、陛下には話してしまいましょう。悪いようにはなさらないはず」
「いったい、私がなにをするというのだ?」
思い切って、今まであったことを全部話した。
国王は、私の話を神妙に聞いている。
「まさか、私の戯れのせいで、そんなことになっていたとは……」
「別に陛下のせいではないとは思いますけど……」
「カイル、すまぬ!」
「こ、国王陛下! 私のような下級貴族に、陛下が頭をお下げになるなどと……」
「なにを申す! そなたは、城にはなくてはならぬ存在。当然のことだ――と言いたいところだが
……」
「なにか……?」
「お前たちは、私のことをそんな風に思っていたのか?!」
「にゃー」
ヤミの言うことにツッコミを入れず、陛下の発言にフォローを入れた。
「そうではありませんが、人質の命がかかっているので慎重にことを運んだだけでございますゆえ」
「ううむ……」
話を聞いてみたものの、国王は私の言葉にも納得していない様子。
爪弾きのようにされたので、すねているのだろう。
「どうか、ご理解のほどを……」
「よし、それは解ったが――これからどうする?」
「それですが、陛下のお許しがあれば、王家の森の地図を拝見できるのでは?」
「地図を手に入れてどうする?」
「彼に見てもらいます」
沢山の人に囲まれているので、モモちゃんは私の後ろに隠れるようにしている。
「そのハーピーにか?」
「はい、彼は上空から森の中にある建物をすでに把握しているということでした」
「おお、なるほど! さすがハーピー! 戦のときなども、戦況の把握などをしてもらいたいものだ」
「畏れ多くも陛下――そんなことをさせるのは私がお断りいたしますよ?」
「可能ならの話だ! 聖女様の反対を押し切って、そのようなことをするはずがない」
「にゃー」
「彼の言う通り、無理なことを言い出しますと、エルフの里のような惨状になりますから」
「わかっている!」
本当だろうか?
話を戻す。
「森の中で人がいる建物も3箇所だと、判明しています」
そこに人質がいるとは限らないんだけど、確認をしないことには次に進めない。
「よし、そこまで解っているなら、早く確認をしたほうがいいな。ちょうど王宮魔導師もいることだし」
国王の様子からすると、王宮魔導師たちは地図にアクセスできる権限をもっているらしい。
近衛騎士団のカイル様と違い、彼ら自身が上級貴族なのだろう。
「はは~っ! それでは、早速地図をお持ちいたします」
「頼むぞ」
兄弟がその場から立ち去ると、私は陛下に席を譲った。
「いや、聖女様、ここは私が席を譲るべきでしょう」
私が立ったのを見て、カイル様が席を陛下に譲った。
「気にせずともいいのに、はは」
「そうはまいりません」
アリスに、陛下の分のお茶を淹れてもらう。
「しかしだな――そなたたち、私をのけ者にして、そんなに楽しいか?」
「そんなつもりは毛頭ございません」
マイナス点をチクチク責めてくる、私の嫌いな上司のタイプだ。
「カイルもだ。私は友人だと思っていたのにな……」
「申し訳ございません」
「陛下があまりに多忙を極めていたようでしたので、煩わせることもないだろう――という配慮からのことでして」
「う~む……」
まぁ、私の言葉にも納得していないのだろう。
なにを言っても、仲間外れにされたことが面白くないだけなのだから。
「なにとぞ、ご理解のほどを」
「黄金の獅子と呼ばれた男のそんな顔を見たら、嫌味をいう気力も失せたわ」
私の言葉に、陛下が少々投げやりにつぶやいた。
「申し訳ございません」
国王がむくれていると、魔導師兄弟が戻ってきた。
予定外の人たちを連れて。
いや1人は人じゃないけど。
「な、なんでエルフを連れてきたのですか?」
そう、魔導師兄弟と一緒にやってきたのは、サルーラというエルフの大使。
あれだけやり込められたのに、顔を出せる神経が凄い。
ニコニコしていたのだが、モモちゃんを見つけていきなり険しい顔になっている。
当然、モモちゃんのほうも反応した。
「む!」
「喧嘩しちゃ駄目よ、モモちゃん」
「解ってる。エルフは全部無視することになった」
「こちらとてそうだ。この世界に、ハーピーなどという身の毛がよだつクソ鳥は存在しないことになった」
「なんで、そうやって喧嘩売るのかしら……」
無視するとか言っているわりには、エルフとモモちゃんの間にはバチバチ火花が飛んでいるような気がする。
やってきたもう1人は――事務総官サイモン様だ。
「陛下――」
「少々親友のことで急用だ。これはすべてのことに優先する」
「しかし……」
「控えよ。あとで埋め合わせはする」
「かしこまりました」
渋々、サイモン様が下がった。
「よろしいのですか?」
「よいに決まっている! 親友のいちだいじだぞ!」
「なんともったいないお言葉……」
カイル様が、膝をついて涙ぐんでいるのだが、どうも芝居かかっているように見えるのは気のせいだろうか?
それとも、主君と騎士というのはこういう感じなのかな?
ヴェスタにもやってあげたら喜ぶのだろうか?
それよりも――だ。
「あの……大変恐縮ですが、打ち合わせの続きをお願いしたいのですが……」
「おお、そうだったな」
国王が、テーブルの上に地図を広げた。
元世界の精密地図には比べるべくもないが、一応森の輪郭は書かれている。
「モモちゃん、これで解る?」
「う~ん! こことこことここ!」
彼が3箇所を足の爪で指した。
「ほう――山の頂上に近いな」
モモちゃんが示した場所を見た陛下がつぶやいたのだが、地図に等高線などは記されておらず高さなどは解らない。
「おわかりになるのですか?」
「ああ――その昔、習いごとが嫌でな、森に逃げ出したことがあったのだ」
「護衛もつけずにですか?」
「王家の森には魔物はいないし、危険はない」
「でも、犯罪者や無宿人が暮らしていることがあると」
「そんなやつらは、私1人でもどうにでもできるからな! ははは!」
国王は自信満々なのだが、そんなに強いのだろうか?
「あの、カイル様、陛下はそんなにお強いのですか?」
「はい、並の騎士では敵わないぐらいの腕前だと」
「すごいのですね」
「ははは、もっと褒めていいぞ!」
彼が喜んでいるのだが、それどころではない。
「建物の場所は解りましたが、どうやって山に登りましょう?」
「山には尾根伝いに登ることになりますから、かなり南に行く必要があります」
尾根伝いはなだらかだが、そこから外れると、急斜面らしい。
斜面にもジグザグに道がついているので、登れないこともないらしいのだが。
「時間がかかりそうですね」
「はい」
「ははは! そこは私に任せるがよい!」
陛下には、なにか考えがあるようだ。
「どうするのでしょうか?」
「私が山を逃げ回っていたと申しただろう?」
「はい」
「黙って、私についてくるがよい!」
そう言って、国王は地図を持ってお城に向かう。
「それじゃモモちゃん、またね」
「おう!」
ハーピーが私の腕から飛び降りると、庭をダッシュして大空に舞い上がった。
「ほう! 本当に簡単に空を飛ぶのだな!」
国王も、モモちゃんの飛びっぷりに驚いている。
「チッ!」
驚いている人もいれば、舌打ちをしているエルフもいる。
どうでもいいが、エルフも私たちについてくるようだ。
「別にエルフ様は、関係ないのですけど」
「そのようなことを言わずとも、森となれば我々エルフの出番だぞ?」
「無理に参加してもらわなくてもよろしいのですが」
「構わん。暇だしな」
このエルフは、人質のことなんてどうでもいいように思えるのだが……大丈夫だろうか?
「王宮魔導師様兄弟も、ご一緒に参加ですか?」
「無論、事情を知ってしまったからには、カイルとは友人だしな」
「私も、カイル様には、お世話になっておりますし」
お兄さんのほうは、団長と親しいようだ。
「ああ、それなのに! 一番最初に相談したのが、僕じゃなくて聖女様とは!」
「申し訳ございません。頭の中が真っ白になってしまい……」
お兄さんの嫌味に、しょんぼりとカイル様が答えた。
「それは、私も声を大にして言いたい!」
先頭を歩いていた陛下が大声を上げた。
「それぐらいご家族のことを心配なさっていたのですから、皆で責めるのは可哀想ですよ」
「そうか、解った! 許す!」
「ありがとうございます」
陛下の言葉に、カイル様が小さく答えた。
「カイル様、皆から愛されていますね」
「それは当然だ。我が国にはなくてはならぬ存在だからな」
「あの公爵の息子様も、このぐらいの求心力があればよろしいのに」
「聖女様も無茶をおっしゃる」
「陛下もそう思っていらっしゃるのですか?」
「無論だ」
国王は、話しながらドンドンお城の内部に入っていく。
そして暗い地下に降り始めたのだが、自分の袋からランプを取り出した。
足元が怖いので、私もランプを出したのだが、エルフに制止された。
「お待ちを聖女様」
「なぁに?」
「****」
エルフが短くなにかを唱えると、青い光が宙に舞った。
皆が降りている階段を照らしてくれる。
普通に使われる光よ!の魔法かと思ったのだが、これは違うようだ。
普通の光の魔法は術者に追従しないが、これは皆のあとをついてくる。
「こういう魔法なの?」
「聖女様、これは精霊ですよ」
「これが精霊?」
精霊たちは意思を持っているので、頼めば追従もしてくれるというわけだ。
その精霊を使えるのは、エルフと呼ばれる種族だけ。
エルフと話していると階段は底についたようだ。
そのまま、細い通路の中に入っていく。
「陛下、どこまで行くのですか?」
「当然、目的地までだ」
「にゃー」
国王の行動に疑問を挟むのは、基本私だけのようだ。
やはり国のトップの決定には黙って従うという、君主制だからなのだろうか?
暗くて細い通路を数分歩くと、今度は目の前に鉄格子が現れた。
どうするのだろうと思ったら、陛下がなにかをかざすと、金属の音がする。
彼が格子を押すと通路が開いたのだが、なにか鍵になるようなものを持っていたようだ。
「ここは、王家の者しか通ることができん」
「ははぁ――ここはもしかしたら、王家の方専用の脱出通路ですか?」
「そのとおり、聖女様は中々鋭いな」
「お城には、抜け道があるというのが定番ですし」
「聖女様がいた世界の城もそうなっていたのですかな?」
「はい」
日本のお城でもそういうのを聞いたことがあるしね。
脱出口が、外の古井戸につながっていたとかよくある話だし。
まぁ、フィクションなのかもしれないけど。
しばらく歩くと、次は長い長い階段だ。
「ぎゃ!」
足元になにが動いてる。
「ははは、ネズミだ」
気にすることはない。
しまった、こんなに歩くんだったら、着替えてくればよかった。
スカートでやることじゃないっての。
長い長い階段を登っていくと光が見えるような気がする。
意外と武術の達人っぽい陛下は、長い階段でも平気のようだ。
騎士のカイル様はもちろん平気だし、エルフも平気らしい。
常にナチュラル回復がかかっている私もピンピンしている。
元世界でこんな階段を上がったら、筋肉痛で酷いことになっただろう。
残った魔導師兄弟は相当きつそうだ。
「大丈夫ですか? 登りきったら癒やしを――」
「いや、こんなことで聖女様の癒やしをいただいてしまったら、城中の笑いものですよ」
小さいお兄さんにも、一応面子はあるらしい。
「ははは、そうだな」
陛下が笑っていると、再び鉄格子が見えてきた。
当然、これも開けることができた。
たどり着いたのは、小屋ぐらいの大きさの祠の中。
ずっと暗闇の中にいたので、外がまぶしい。
祠を出て鬱蒼とした森の中に出た。
ここから人の手が入っていない木々の間を縫って、本当に人質のいる場所までたどり着けるのだろうか?





