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72話 私の騎士は年下


 近々迫った近衛騎士団同士の模擬戦。

 青い騎士団が余裕で勝てるはずだったのだが、トラブルが発生した。

 団長のカイル様の家族が誘拐されてしまったのだ。

 家族の命が大事なら、模擬戦で手を抜けということらしい。

 貴族のボンボンで構成されている騎士団が廃止されると、困る連中がいるみたい。

 私が聞いてもガバガバな話なのだが、家族を人質に取られた団長は憔悴している。

 黄金の獅子のようにいつもハツラツとしていた彼なのだが、そうとう堪えているようだ。


 団長さんが可哀想だし、卑怯な手は許せない。

 まして、あの公爵のドラ息子がやっている騎士団なんて、とっとと潰して欲しい。

 そこで私も人質の捜索に手を貸すことにした。


 私が考えたのは、獣人たちの鼻を使って人質を捜すという手段。

 彼らはにおいで各個人を識別できるぐらいの素晴らしい鼻を持っている。

 それに頼ることにしたが、カイル様も仕事のあとなどに聞き込みなどを行っているらしい。

 私もなにかできれば――と思うのだが、王都に来てからわずかしかたっていないし、異世界人である私にはつてもない。

 治療にやってきた貴族などは、どこでどう繋がっているか解らないし。


 私の情報源があるとすれば、従者として雇っているルクスがいる。

 彼は笛吹き隊という公儀隠密の仕事をしていたので、あちこちに顔が聞く。

 彼にも情報を探ってもらった。


 ――獣人たちに捜索を頼んだ、次の日。

 自室でお茶を飲んでいると、ドアがノックされた。

 本当は貴族たちの治療の仕事があるのだが、そんな気分になれない。

 怪我や病気は奇跡で治療ができても、精神的なものはどうしようもないし。


「どうぞ~」

「失礼いたします」

 入ってきたのはルクスだった。

 彼をはじめ、ヴェスタやアルルは、聖女の私が直接雇っている従者として、お城への自由な出入りが許されている。

 元々、ルクスとアルルは笛吹き隊のメンバーでもあったわけだし。

 お城の中にも知り合いがいる。


「聖女様にはご機嫌麗しく」

「あんまりよくないけど……」

「聖女様から申し付けられた件を調べましたが、大きな収穫はありませんでした」

「お疲れ様」

 商人の一部がそういう動きをしているというのは解ったらしいが、具体的なことはなにも出てこなかったらしい。


「誰か個人的に切羽詰まって、発作的にやったことなのかしら」

「そうなのかもしれません」

「ふう、困ったわね……」

 ベッドの上をチラ見する。

 いつもそこで丸くなっているヤミもいない。

 彼は、王都のネコ情報網につてがあるということで、獣人たちが入れない場所などでの捜索に協力してもらっているのだ。


 ネコの手も借りたいっていうけど、本当にそうなったわけ。


「ありがとう。引き続き情報を集めてちょうだい」

「かしこまりました」

 ルクスが部屋から退出した。


「あ、あの――」

「なぁに?」

「あの方って、笛吹き隊って本当なんですか?」

「元だけどね」

「ちょっと格好いいけど、怖い」

 アリスとクロミが怖がっている。


「そんなに怖がることないわよ。悪人じゃないし」

「「……」」

 笛吹き隊というのは、一般人からは恐れられている存在なのだろうか。

 メイドたちと話していると、ドアがノックされた。


「はぁい、どうぞ~」

「失礼いたします」

 頭を下げて入ってきたのは、初めてみる赤髪ショートのメイドさんだ。


「どうしたの?」

「ルナホーク・フォン・ソアリング様が、聖女様にお目通りを願い出ておりますが」

「え~? そんな予定はないと思っていたけど……」

「ルナホーク様が是非とも、ということでしたので聖女様にご連絡申し上げましたが、それではお断りいたしますか?」

 なんだろう? なにか急用だろうか?


「いいえ、ちょうど時間があるので、通してちょうだい」

「かしこまりました」

 礼をするとメイドが出ていった。

 急病か、けが人が出たとか?

 色々と立て込んでいるんだけどなぁ。


「ルナホーク様をお迎えいたしますので、お茶とお菓子の用意をしてちょうだい」

「「かしこまりました」」

 メイドに準備をしてもらう。

 メイドが帰って、ルナホーク様がやってくるのに少々時間があるだろう。


 準備をしていると、ドアがノックされた。

 今日はお客様が多い日だ。


「どうぞ~」

「失礼いたします」

 入ってきた赤髪の騎士が頭を下げた。

 私も椅子から立って応える。


「聖女様にはご機嫌麗しく――」

「ルナホーク様、なにか急用ですか? 急病人とか?」

「いいえ、違います!」

 彼が力強く一歩を踏み出したので、驚いて身構えてしまった。

 この方は聖女様派だったので、問題ないはずなのだが……。

 表情は真剣なので、なにか重大なことがあったのは間違いないらしい。


「え?! どうなされたのですか?」

「聖女様、直属の騎士ができたということではありませんか!」

「ええ、は、はい。彼は騒ぎを起こして近衛をクビになりそうでしたので、知り合いでしたし……」

「そこに私も加えていただきたい!」

「え~っ?! 近衛騎士団のほうは、どうなさるのですか?」

「無論、退団いたします。元々乗り気ではなかったですし、聖女様の騎士団ができるのであれば、あそこに未練などありません。そもそも、至高の存在とともにあるのがソアリング家の家訓」

 まぁ、この人の家には、聖女が嫁いだって話だし……。

 それにしても、赤い騎士団で唯一強そうなこの人が抜けてしまったら、文字通りの烏合の衆に……。

 傍から見ても苦労していたように見えたけど、やっぱり我慢してたのね。


「抜けたら、近々行われる模擬戦には……」

「出場いたしません。あんな茶番、やるだけ無駄というもの」

 中々辛辣だ。


「ああ、ルナホーク様が抜けたら、万に1つの勝ち目もなくなりますね」

 私の話を聞いたメイドたちが、クスクスと笑っている。

 そんなの素人から見ても解るし。


「メイ様も、なぜ陛下の申し出を受けたのか解りません」

「勝てると思ってるんじゃないですか?」

「ふふ……」

 彼が肩をすくめて呆れている。


「ルナホーク様の申し出は大変ありがたいのですが――とりあえず、うちの騎士の話も聞いてみましょう」

 メイドにヴェスタを呼んできてもらう。

 ドアをノックしてから、金髪の騎士が入ってきた。


「聖女様、お呼びでしょうか?」

「ええ」

 彼は、ルナホークの姿を見て、少しムッとしたようだ。

 若いせいか、すぐに顔に出るなぁ。

 もっとポーカーフェイスを覚えないと――と思う。

 まだ若いからいいけど、オッサンになって同じじゃちょっと困る。


「ルナホーク様も、私の直属の騎士になりたいとおっしゃるのだけど」

「その方は、聖女様を侮辱した連中の仲間ですよ?」

「ルナホーク様は、ワイバーン戦でも一緒に戦ってくれたし、近衛騎士団との橋渡しに心を砕いてくださったでしょ?」

「……」

「ヴェスタは不満があるようだけど、有力貴族の後ろ盾というのは欲しいのよねぇ」

「そのとおりでございますな。聖女様」

「ほらルクスにも、借りている寄宿舎の裏に屋根付きの厩舎が欲しいと言われていたでしょ?」

「確かに、そのように申しておられましたが……」

 ルナホーク様が一歩前に出た。


「君は若いから知らぬだろうが、騎士団の運営には金がかかる。貴殿は、その運営資金をどうするつもりだったのか?」

 近衛騎士団は国からの予算で運営されているが、聖女騎士団は私軍だ。

 運営資金をどこぞで調達しなければならない。


「うう……」

「私の治療に訪れている貴族様たちに、援助を頼もうかと思っていたのよ」

「聖女様を働かせて、騎士団ごっこか?」

「……若輩者で至らず、申し訳ございません」

 ルナホーク様から突っ込まれて、ヴェスタは怒られた子犬のようにしょんぼりとしてしまった。


「そういうことも勉強してこいと、領主様やジュン様が送り出してくれたのに、早々にクビになってしまうし」

「申し訳ございません……」

 しょんぼりしている姿が可愛いので、彼の所まで行って金髪の髪をなでなでする。


「聖女様、甘やかしすぎなのでは?」

「うふふ、若い子の特権よね」

 私の言葉を聞いて彼が一歩後ろに下がった。

 そう言われて面白くなかったのかもしれない。

 あら、残念。


「それでは、ルナホーク様がよろしければ私の騎士になってほしいのですが」

「もちろんです。それは、ソアリング家に生まれた者の務め」

 彼がひざまずくと、私に剣を渡してくる。

 ヴェスタのときと一緒だ。

 剣を抜いて、切っ先を彼の肩に当てればよい。


「私の騎士として、皆を導いてくださいませ」

「聖女様の御心のままに……」

 これで、ルナホークは私の騎士となった。


「しかし、正式な近衛からの退団がまだなのに、事後承諾になってしまうのでは?」

「かまいませぬ」

「いいのかなぁ。公子様が怒りそうだけど」

「遅かれ早かれ、どのみちなくなる運命の騎士団ですし」

 どうやら彼は、聖女の護衛任務のことで、完全に見切りをつけていたようだ。


「それでは最初の頼み事で――寄宿舎の裏に、厩舎を作るための大工さんを紹介してほしいのだけど……」

「かしこまりました。伯爵家が懇意にしている職人がおりますので、すぐに寄越しましょう」

「お願いいたします」

 そうだ。

 彼が私の騎士になったということは、カイル様のことを話しておいたほうがいいかもしれない。


「ルナホーク様が私の騎士になったということは、全幅の信頼を寄せてもよろしいのですよね」

「無論です」

 彼に、カイル様の家族のことを話すと、険しい顔になった。


「まさか、そのようなことになっていたとは……」

「赤い騎士団のほうで、そのような話題が上がったことは?」

「いいえ、ございません」

「それじゃ、やっぱりあの方が黒幕というわけではないのですね」

「メイ様はあのようなお方ですが、卑劣なことはいたしませぬし」

 ワイバーンに襲われて聖女を見捨てたのは、卑劣じゃなくて我が身が可愛くて――だと思うから、やっぱりちょっと違うか。

 カイル様も、そうおっしゃっていたから間違いないのだろう。


「現在、人質の捜索を、街の獣人たちに手伝ってもらっています」

「獣人たちを? よく言うことを聞かせましたね?」

 貴族たちからすれば、使いにくい人材なのだろうか?

 確かに、獣人たちも貴族のことをあまりよくは思っていないと思うし。


「ええ、快く引き受けてくださいましたよ」

「獣人たちでは、貴族街などには入れませんが――」

「そういう場所は別のつてを使っておりますし、笛吹き隊の情報網も利用しておりますが、いまのところは……」

「う~む……」

「一応、捜索は明日までということになっておりますので、それでも見つからない場合は、なにか他の手を考えなくてはなりません」

「承知いたしました」

「でも、ルナホーク様が仲間になっていただけたということで、カイル様も心強いと思いますよ」

「恐悦至極に存じます」

 彼が退出した。


 まさか、聖女騎士が増えて聖女騎士団になりそうとか。

 しっかりとした活動をしたら、予算を国費でまかなってくれないかな?

 まだしょんぼりしているヴェスタの所にいく。


「あなたはまだ若いのだから、あまり落ち込まずに色々と学べばいいのよ」

 ちょっとお姉さんっぽいことを言ってみる。

 そんなに上等な人生を送っているわけじゃないけどね。


「はい、肝に銘じます」

 ヴェスタも一礼をすると退出した。


「聖女様、聖女騎士団ができるんですか?」

「今のところは2人――いや、魔導師を入れたら4人か。まぁ、騎士団と言えなくもないかな」

「もし騎士団になるなら、私たちも専属にしてもらってもよろしいですか?」

「それは構わないけど――赤い近衛にもとりまきみたいなメイドたちがいたんだけど、もしかしてああいう感じになるの?」

「あそこは完全に玉の輿狙いなので……」「そう」

「そういう感じではないのね? あくまでも仕事として?」

「はい」「そういうこと」

「いいけど」

「よかった!」「これで孫の代まで自慢ができる! ムフー!」

 なんだかクロミが気合を入れている。

 そういえば、私ってば後世に名前を残しちゃうのか。

 悪名で残らなければいいのだけど――まぁ、一応努力はしますけどね。

 相手の出方次第だけど。


 そういえば、反聖女派の面々に白癬菌の祝福を与えたけど、なにも言ってこないな~。

 上手くいかなかったのだろうか。

 私の力がどういうことに使えるか、まだ解っていないことも多いので、人体実験しちゃったけど。


 ------◇◇◇------


 ――聖女騎士団にメンバーが増えた次の日。

 再び男装して街に行くことにした。

 獣人たちが、よい情報を集めているのに期待して。

 陛下は忙しいのか、私のところにはなにも言ってきていない。

 集まってなにかやっているというのは知っているのだろうけど。


 確認するだけなので、私とヴェスタ、アルルの3人で街に行く。

 カイル様は、模擬戦の準備で忙しいらしい。

 忙しいのに家族が行方不明とか、心労が重なっていることだろう。

 中々にブラックな職場を察してしまう。


 前と同じように、お城の裏口から荷馬車に揺られて、次は乗り合い馬車に乗る。

 そして獣人たちが待つ飛脚の店に到着した。

 捜索を頼んだ獣人たちは、全て揃っていたのだが、あまりニコニコはしていなかった。

 そこにヤミもいたので、抱き上げて私の肩に乗せる。

 彼のクビに巻いてあげたハンカチはなくなっていたが。


「どうだった?」

「にゃー」

「これは旦那!」

 虎柄の男が挨拶してくれた。

 獣人たちは私が女だとわかっているのだが、こちらの事情を汲んでくれている。


「ノバラ、これという場所は見つからなかったよ」

 ミャールが事情を説明してくれる。


「そう……」

 所々ににおいの断片は残っているらしいが、それはすべて貴族街に向かっていたという。


「にゃ」

「つまりそれって、カイル様の奥様が買い物したりして自宅に帰っているという……」

「多分、そんな感じだと思うぜ?」

 ミャールが腰に手を置いて、ため息をついた。

 彼女の話では、悪所でもそんな話は出回っていないらしい。

 当然、においもない。


「にゃー」

 貴族街の中に張り巡らせたネコ情報網でも、においは1箇所に集中していたという。


「それって、カイル様の自宅ってことよね?」

「にゃ」

 他ににおいが出ている場所はないので、貴族街の中ではないらしい。

 逆にいえば結構すごいことだ。

 ハンカチ一枚あれば、自宅が突き止められてしまうわけだし。

 ただし今回は、空振りに終わったようだ。


「ごめんよ~ノバラ。役に立たなくて」

「そんなことはない。少なくとも、王都の中にはいないということになるからな」

 ちょっと悩んでいると、ミャールがもじもじしている。

 可愛いので顎の所をナデナデしてやると、ゴロゴロと大きな音を立てている。


「なーん」

「ちょっとミャール」「マジで?」

 なんだか、獣人の女たちが引いている。

 毛皮の手触りがいいので、ついついなで回してしまう。

 ミャールがなにか言いたそうだ。


「なんだ?」

「……只人の男と付き合ってもどうせガキはできねぇし、それならノバラでもいいかな~って」

「ええ?! いやまぁ――私も、お友だちならいいんだけど……」

「いいのかい?!」

「ええ、お友だちよ?」

 彼女が私に抱きついてきて、ゴロゴロいっている。

 可愛いくていいのだが、本当にいいのだろうか?

 私としても断る理由がないが、私に抱きついているミャールを見て、またヴェスタが厳しい顔をしている。

 嫉妬なのか、それとも身分の差のことを咎めているのか。


「ずっとお城にいるから、たまにしか街に来れないし。仕事がなくなったら、ティアーズ領に帰ってしまうんだけど?」

「そのときは、あたいもティアーズに行くよ!」

「本当に?」

 彼女のはしゃぐ様子を見ても本当らしい。

 要は只人の友だちが欲しかったのではないだろうか?


「にゃー」

「そうそう、それどころじゃなかった。王都じゃないとすると、他にどこかあるだろうか?」

「旦那、それならあそこじゃないっすか?」

 獣人の1人が、王都の南に広がる山を指した。

 木が沢山生えているが、王家の土地なので無断伐採は厳禁。

 立ち入り禁止ではないとはいえ、足を踏み入れる人も少ないと思うのだが……。


「人が入っても大丈夫な場所なのかい?」

「犯罪者や無宿者が暮らしているなんて話は聞きやすぜ?」

 なるほど、それなら人質がいるという可能性もなきにしもあらずか。


「う~ん、これはなにか作戦を考えないと駄目かもな~」

 獣人たちに別れを告げて、お城に戻ることにした。

 このことをカイル様に報告しないと。


 乗合馬車に乗ると、ヴェスタが話しかけてきた。


「カシュー様、どうなされるおつもりですか?」

「今のところは、なにも思い浮かばない。とりあえず、カイル様に報告するのが先決だ」

「はっ」

「それとヴェスタ。もうちょっと感情を抑えるようにしないと。なにを考えているか、顔に書いてあるのはマズい」

「……あの、ジュン様にも昔同じことを言われました……」

 話を横で聞いていたアルルもうなずいている。

 彼女も同じことを感じていたに違いない。

 それは私にも非はあると思っている。

 彼の気持ちを知りながら、ハーピーなどを可愛がっているのだから。

 それは解っているのだが、ハーピーとの付き合いは、私に多大な利益をもたらすだろうし……。

 ああ、利益とか言っちゃって嫌になるが……。


「皆は、あなたに成長してもらいたいゆえに、厳しいことを申すのだぞ?」

「承知しております……」

「にゃー」

「そういうことを言わないの」

 またしょんぼりしているヴェスタをなぐさめつつ、お城へと向かう荷馬車を乗り継ぐ。

 お城に戻ると、近衛騎士団の宿舎を尋ねた。


 途中で出会うメイドたちも、私を見てひそひそ話をしている。

 そんなに気になるのだろうか?

 いや、もしかしてヴェスタのことを言っているかもしれないし。


「カシュー様、目立ちますね」

 アルルがニコニコしている。


 団長のカイル様は、自室でデスクワークをしているようだ。

 近衛騎士の人に取り次いでもらうが、相手は男装している私の正体が解らないので、訝しげな顔をしている。


「カシューだと言えば、カイル様は解ってくださる」

「ああ、申しつかっております。ご無礼をいたしました」

 カシューという男が来たら取り次ぐようにと通達してあったみたい。

 すぐに、カイル様がやってきた。


「せい――カシュー様。どうでしたか?」

「それが、手がかりが掴めませんでした。貴族街という所にあるのは、カイル様のご自宅ですよね?」

「そのとおりです」

 やはりそうだ。


「獣人たちが言うには、残るは王家の山しかないのでは? ――ということでしたが」

「なるほど……王都にいないのは解ったということで、次に怪しいのは王家の山――確かに」

「そういうわけで、次は王家の山の捜索となるのですが、その打ち合わせをいたしましょう。よろしいですか?」

「……あと、1時間ほど待っていただけますか?」

「それでは、私も部屋に戻って着替えて参ります」

「以前に訪れた、庭のあの場所でお話をいたしましょう」

「承知いたしました」

 礼をすると、彼は慌てて自室に戻った。

 仕事を片付けるのだろう。


 私も部屋に戻って着替えることにした。

 ヴェスタとアルルには詰め所で待機を命じる。


「「かしこまりました」」

 部屋に戻ると男装を解いて、聖女の白いドレスに着替える。

 個人的にはパンツ姿のほうが、楽ちんでいいのだが。

 この世界だとちょっと理解を得られそうにない。


「にゃー」

「君にいい考えはないの?」

「にゃ」

 王都にいるネコちゃんを全部集めて、山を捜してもらうとか……。

 報酬はどうなるんだろう――ちょっと無理か。


 1時間ほどたったので、ヤミを肩に乗せて約束の場所に向かう。

 彼も主要なメンバーだ。

 いまだにお城の構造はよく解らないので、メイドに案内してもらう。


 お城の庭の一角、白いテーブルと一緒に置かれた白い椅子がある。

 そこに腰掛けると、お仕事で忙しい金色の獅子を待つことにした。

 テーブルの上にはメイドが出してくれたお茶とお茶菓子がある。

 アルルの魔法の袋に入れて運んできてくれたので、お茶はまだ熱い。


 便利なものだと思っていると、カイル様らしき人影がこちらにやってきた。



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