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71話 高性能な鼻


 青い近衛騎士の団長であるカイル様のご家族が行方不明らしい。

 近日中、大々的に行われる近衛騎士団同士の模擬戦が関係していると思われる。

 素人の私から見ても、赤いほうには万に1つの勝ち目もない。

 そんなヘボな騎士団でも廃止されると困る連中がいるらしく、模擬戦を邪魔するべく妨害工作を仕掛けてきたわけだ。


 なんとかカイル様のご家族を捜さなくてはならないが、まったく手がかりがない。

 そこで私は、獣人たちの鼻を当てにしてみることにした。

 彼らに王都を走り回ってもらえば、なにか手がかりがつかめるかもしれないと思ったからだ。


 お城から出て街に行くために、私は変装をした。

 男装の麗人を気取ったのだが、意外と好評――というか好評すぎて、なんだか複雑な気分。

 私はカイル様と一緒に、護衛としてヴェスタとアルルを連れて、お城の裏門にやって来た。

 そこには沢山の馬車が並び、毎日お城で消費される大量の物資が運び込まれているのだ。


「カイル様、ここから歩きですか?」

「いや、街まで荷馬車で送ってもらいます。知り合いがおりますので」

 よかった。

 歩くと結構距離があるのよね。


「お任せいたします。カイル様、男同士の会話のようにしてよろしいですよ」

「し、しかし」

 いつもと同じでは、私が変装した意味がない。


「それと、私がこの格好のときは、カシューとお呼びください。ヴェスタもよろしいですか?」

「「かしこまりました」」

 その場で手を挙げて、どこかにいるアルルを呼ぶとすぐに彼女がやってきた。


「お呼びでございますか? 聖女様」

「今は変装しているから、カシューと呼びな」

「は、はい……」

 それはいいのだが、彼女の顔が赤い。


「なんで顔を赤くしているんだ?」

「あ、あの――せ……の……カシュー様が、素敵過ぎて……」

 この格好は、どんな女性にも効き目があるらしい。

 こんなに効き目があると少々面白い。

 馬車で街まで行くのに彼女だけ置いてきぼりにできないので、一緒に乗せていくことにした。


 並んでいる沢山の馬車の中から、カイル様はお目当ての馬車を見つけたようだ。


「ダイセン!」

「こりゃカイル様」

 騎士が声をかけたのは、白髪で長髪のお爺さん。

 白くて長いあごひげを蓄えており、土色のズボンと麻のシャツを着ている。

 馬車はちょっとボロい荷馬車で、オープンタイプ。


「今日もいいか?」

「ええ、大丈夫でございますよ」

「今日は人数が多いんだが……」

「全部で4人だが、いけるか?」

 私は男に指を立てた。


「大丈夫でございますよ。金さえ払ってもらえれば」

「4人で小角銀貨2枚(1万円)でいいか? このぐらいあれば、飲んで食えるだろう」

 私の発案で街に行くのだから、お金は私が出すことにした。


「へへへ、こいつはありがとうございます」

 男に金を払うと4人が荷台に乗り込む。

 ガタガタと乗り心地は最悪だが、歩くよりは楽ちんだ。


「カイル様以外は、見かけないお方ばかりですが……」

「最近、城に入ったばかりの者たちだ。機会があればよろしく頼む」

 そうは言っても、男装しているのは今回だけだ。

 いや、こんなに効き目があるなら、お忍びのときには使えるか?


「ええ、もちろんよろしいですよ」

 彼の話では、市場で野菜や魚介類を仕入れてお城に卸している商人のようだ。


「ダイセンの目利きは大したものだぞ」

「へへへ、そんな大したものじゃございませんよ」

「魔法の袋は持っていないのか?」

 私の質問に彼が答えてくれた。


「私の稼ぎじゃ、あんな高価なものは買えませんよ。それに、朝に仕入れてその日にもってくるんですから、そんな大層なものは必要ありませんし、へへへ」

 ちょっと胡散臭いが、長年この商売をやっているようだし、お城の厨房の信頼も厚いのだろう。


「あ、あの――の、カシュー様。どこに行かれるのですか?」

 一緒についてきたヴェスタとアルルにはわけがわからないと思うので、2人に小声で説明をした。


「内緒でね」

「もちろんです」

 アルルに1つ頼みごとをする。


「ああ、それから――ルクスに会ったら、この事件の情報がないか聞いてみて?」

「かしこまりました」

「適当な関係者を並べて、問い詰めたら吐くのでは?」

 ヴェスタの言うとおり、手っ取り早くそうしたいのも山々なのだが。

 彼も可愛い顔をして武闘派なんだから。


「人質を取られているからね。なるべく穏便にいきたいのよ」

「承知いたしました」

 ここでひそひそ話は終了。


「それでカシュー様、どこに向かわれるのですか?」

 私はアルルの質問に答えた。


「飛脚の店だ」

「捜索に獣人たちを使われるおつもりですか?」

「駄目かい?」

「いいえ――ただ、獣人たちは扱いが難しいので」

「そんなことはないと思うがねぇ。あくまでも私の感想だが」

 アルルはあまり獣人たちにいい印象を持っていないようだ。


 話している間に、荷馬車は街の中に止まった。

 ここで降りるらしい。

 沢山の人たちが行き来していて、魔女らしい黒い服装も見える。

 相変わらず傘を差している人が多いのもこの街の特徴だ。

 上を見れば、白い鳥が沢山飛んでいる。

 お城の周辺はモモちゃんがやって来て住めなくなってしまったから、他の地域に寝床を移したのかもしれない。


「それではカイル様。我々は飛脚の店で待ちます」

「承知した。自宅に戻り荷物を取り次第、そちらに向かう」

「店の場所は?」

「大丈夫だ。私はこの街育ちだからな」

 なるほど、地方選抜といっても、この街で育った騎士もいるわけだ。


「一足先にお待ちしております」

 彼と別れると、我々も目的地に向かうのだが、私は場所を知らない。


「アルル、飛脚の店の場所は解る?」

「はい大丈夫です」

 彼女もこの街出身らしいし。


「そこまでは歩き?」

「カシュー様がよろしければ、乗り合い馬車を使いますか?」

「解った。それで行こう」

 元世界のバスのように、利用客の多い場所を中心に決まった道順を馬車が走っている。

 値段はどこから乗って降りても銅貨1枚(1000円)。

 個人的には安いと思うのだが、あまり利用する人はいないみたいだ。

 一般人の1日の稼ぎが銅貨3枚(3000円)~小角銀貨1枚(5000円)ぐらいらしいので、そう考えると高い。


 石造りで3~4階の建物が並ぶ通りで、3人で待っていると、2頭立ての大きな馬車がやってきた。

 質素な作りで屋根はないが、ボロではない。

 後ろにハシゴがついているので、そこから乗り込むようだ。

 荷台に上がると、両側と真ん中に木造のベンチシートがある。

 座り心地は悪そう。


 ハシゴの近くに代金徴収係の女性がいるので、その人に銅貨を渡した。

 中年の太った女性なのだが、私を見て色目を使ってくる。

 勘弁してほしい。

 ヴェスタがにらみつけると、その女性は背中を向けた。

 ごめんね。


 3人が並んでベンチシートに腰掛ける。

 乗っている客は10人ほど。

 こういう馬車に乗るってことは、ちょっとは金持ちなのだろうか。

 女の子を連れた少し身なりのいい妙齢の女性が、こちらをチラチラ見ている。

 隣に美少年のヴェスタもいるので余計に目立つのかもしれない。

 聖女だと目立たないように変装しているというのに、逆の意味で目立ってしまっている。

 これは困ったものだ。


 女の子が立って私のところにやって来た。

 金髪で白い襟のついた青いワンピースを着ている。


「どうしたんだい?」

「ネコ可愛い」

「ありがとう」

 褒められた彼だが、必死に私の後ろに隠れようとしている。

 子どもの相手をしたくないのだろう。


「申し訳ございません」

 女性が子どもを連れにやって来た。


「いや~、お兄ちゃんと一緒にいるぅ!」

 脚に抱きつかれて駄々をこねられてしまったのだが、オジサンと言われなかっただけましか。

 アルルに聞くと、目的地まではまだ時間がありそうなので、女の子の相手をしてやることにした。


「申し訳ございません」

「えへへ……」

 膝の上で抱っこされると、女の子は上機嫌である。

 最初からヤミより私のほうが目当てだったのかも。


「にゃー」

「なんか複雑な気分だよ」

 前々から妙に女性にモテたりしていたのだが、男装することで拍車がかかった気がする。

 これも特殊能力と言えなくもないが、相手が本気にしてしまったら厄介そうだ。


 揺られること20分ほど。

 アルルによると近くまできたようだ。

 女の子を膝から下ろしここで降りる。


「それじゃね。お嬢ちゃん」

「さようなら」

 礼儀正しい。

 やっぱり、乗り合い馬車に乗れるということはそれなりに裕福なのだろう。

 しっかりと教育を受けていることがうかがい知れる。


「こちらです」

 地理がまったく解らないので、アルルに案内されるままについていく。

 ヴェスタもお上りさんなので、王都の地理はまったく解らないだろう。

 路地をなん本か抜けると、獣人たちがたむろしている建物が見えてきた。

 お目当ての場所に到着したようだ。

 様々な毛色があるが、やはりほとんどが男。

 数人しかいない女は、女同士で固まっているようだ。


 カイル様と待ち合わせだが、まだ到着していないみたい。

 時間がかかりそうとみたヤミが、私の肩から降りた。

 周囲をパトロールするらしい。


「遠くに行くなよ」

「にゃー」

 さて、ここで待っているだけでは能がない。

 事前に当たりでもつけて置いたほうがいいかも。


「う~ん、ちょっと獣人たちと話してみるから、2人はここで待ってて」

「そうはまいりません」

「そうです」

 2人とも待っててくれないようなので、一緒に店先にいった。


「お前ら、ちょっと小遣い稼ぎするつもりはないか?」

 なるべく声を低くして話しかける。


「ああ? 旦那、飛脚の仕事なら中を通してくんな」

 大きな身体の虎柄の男が反応した。


「飛脚の仕事じゃないんだよ」

「あぶねぇ話は勘弁だぜ?」

「ちょっと人捜しを手伝って欲しいんだが。簡単だろ?」

「……そうそう美味い話があるはずがねぇ」

 この獣人は随分と疑り深いようだ。


「そうか? この前、女を背中に乗せて運ぶだけで金貨をもらったやつがいなかったか?」

「ああ、くそ! あの黒白の野郎とミャールのやつか! まったく美味いことやりやがって」

「そういう感じの仕事なんだが」

「……」

 駄目だ、男たちは胡散臭そうにしている。

 前のときと随分反応が違うようだ。

 私が運んでもらったときには黒白さんが領主様に手紙を運んでいた。

 相手の身分が判明していたし、仲間が実際に仕事をして金貨をもらったのもよかったのだろう。


 反応が悪い男たちの所に、女性陣がやってきた。

 虎柄と、黒い毛皮で胸から腹が白い彼女たちである。


「ねぇねぇ、そんな男どもは放っておいて、あたいたちと遊ばない?」

 虎柄の子が私に抱きついて、首に手を回してきた。

 ヴェスタが剣に手をかけたので止める。


「仕事を頼みたいんだが……」

「つき合ったあとに、聞いたげる」

 ちょっと色っぽい表情で抱きついてきた彼女が、私のにおいをかいでいる。

 彼女がクンカクンカしていると、表情が微妙になった。


「あんたもしかして――女?」

「やっぱり、においで解るもんなのね」

「なんだよ~お貴族様のお遊びにつき合っている暇はないんだけど?」

 なんだか、すごいがっかりされているのだが、女性たちのほうも反応が悪い。

 なにも情報がない状態でも、貴族だと解るのだろうか?

 そこに店から、もう1人三毛の女性が出てきた。


「あ~クソ! ろくな仕事がねぇ!」

 一目見て解った。

 彼女は、私を王都まで運んでくれたミャールだ。

 彼女になら仕事を頼めるかもしれない。

 私は、彼女に話しかけた。


「いい仕事があるんだが、やってみないか」

「あん?」

 訝しげに私のほうを見たミャールだったが、目をキラキラと光らせ始めた。


「どうだ?」

「やるよ! なんの仕事だい!?」

「人捜しなんだけど、他の子たちの反応が悪くてね」

「なんだよ~、そんなのあたいに任せておくれよ~」

 文字通りの猫なで声だが、彼女はまだ私の正体に気づいていないらしい。


「ミャール、そいつは……」

「うるせぇ! お前らが受けないなら、あたいが受けてやるぜ!」

 仕事を取られまいと、ミャールがほかの子を牽制している。


「やってくれるのか?」

「任せてくれよ~、なんだって聞いてあげるよ」

「ありがたい」

「でさぁ旦那~、聞きたいことがあるんだけどぉ」

 彼女が寄ってくるとしなを作っている。


「なんだ?」

「旦那の目から見て、獣人の女ってどうだい?」

「かわいいよな」

「ほ、本当かい!」

 あごの辺りをなでてやると、ゴロゴロと大きな音を立ててうっとりした顔をし始めた。

 ミャールが私に抱きついてくると、顔をスリスリしてくる。

 本当に大きなネコっぽい。


「な~ん……クンカクンカ――クンカクンカ?!」

 甘い声を出していた彼女だが、動きが止まった。


「あ、もしかして解った?」

「ノバラ?! え、あ、でもノバラってせい――」

 私は指を立てて口に当てた。


「し~っ! やっぱりにおいで解るんだ」

 彼女が愕然とした表情で、その場にへたり込んだ。

 やはり彼らの鼻はすごい。


「なんだよ~! やっとあたいの思ったとおりの男に巡り会えたと思ったのによぉ~!」

 そういえば彼女は、只人の男をゲットするために、お金を貯めていると言っていた。

 悪いことをしてしまったかも。


「なんかごめんね。別に騙そうとしていたわけじゃないのよ」

 ミャールがうなだれている。


「ミャール、もしかして一目惚れってやつぅ?」

「一目惚れでソッコーフラれるとか初めて見たぁ。超ウケる」「ダサ!」

 ダサいは元世界語だと思うのだが、こちらでも通じるのだろうか。

 女子たちがケタケタと笑っているのだが、からかわれたミャールが怒り出した。


「フラれてねぇよ!」

「ごめんね」

「……はぁぁぁぁぁ……」

 彼女が私の顔を見て、また深いため息をついた。

 私の男装が、よほど好みだったのだろうか。


「それで――仕事の話なんだけど……いい?」

「やるよ。人捜しだって? ノバラなら信用できるからな」

 ちょっとふてくされているようだが、やってくれるようだ。


「ありがとう でも、この格好のときは、カシューって呼んでな」

 私は声を低くした。


「なぁに? もしかして、ミャールの知り合いなの?」

「前に、あたいが金貨もらったって話しただろ?」

「ああ!」「この人がそうなの?!」「それじゃ、あたいもやる!」

「そうねぇ、人数は10人ほどいればいいかな。期間は2日ほど」

 お金の話もしてあげる。


「本当に人捜しをすれば、金貨がもらえるのかい?!」

 現金な女たちだ。

 私が金額を提示すると、すぐさま群がってきた。


「マジで、金貨をもらえるのか?!」

 群がってきたのは女だけではない、あれだけ渋っていた男たちもやってきた。


「金貨は前金で1枚。捜している人を見つけたら、さらに金貨5枚出す」

「「「金貨5枚?!」」」

 男たちが大声を出したので、道行く人たちがこちらを見ている。


「ちょっとまて。人捜しは内緒だ。目立つな! 美味しい話を人に取られるぞ」

 男たちが慌てて口を押さえた。


「それで旦那、どこら辺りってのは掴めているんですかい?」

「それがなぁ――突然連れ去られてしまったから、どこにいるのか解らないんだ。王都周辺じゃないかってのは見当がつくんだが……」

「そりゃ、まるで雲をつかむような話ですぜ」

 この世界でも、雲をつかむというらしい。


「それでも他に手がないのでやるしかない。獣人たちが入れないような場所は、他のつてがある」

「まぁ、そういう連中が集まる場所ってのは、だいたい想像はつきやすが……」「そうだな」「悪所の周辺とか」

 悪所ってのは名前のとおり、治安の悪い場所で犯罪者の溜まり場らしい。

 私たちは、そういう土地勘がないので、街に詳しい獣人たちの手を借りるのは、やはり正解かも。


 男たちが、店の中に入ると仲のいい連中を連れてきた。

 店の前で騒ぐと、店主の茶々が入りそうだ。

 ちょっと場所を移すが、あまり離れるとカイル様が見つけられなくなってしまう。


「さすが、せい――カシュー様。獣人たちを簡単に手懐けてしまわれるとは」

 なんだかアルルが感心しているのだが、別に特別なことはしていない。

 普通に接しているだけだ。


 獣人たちと話しているとカイル様がやって来た。


「せい――いやカシュー様、そのご様子だと話はついたようですな」

「ああ」

 彼が自分の魔法の袋からエプロンらしきものと、子どもの服を取り出した。

 それを受け取ると、獣人たちに見せる。


「クンカクンカ――女のにおいだな」「そうだな」「なるほど」

「こっちは子どもね」「女の子のにおいだな」

「いつも妻が使っていたものだ」

「どう、それでにおいは追えそう?」

「大丈夫ですぜ」「これだけハッキリしていれば十分に解る」「任せておきなよ」

 獣人の男女ともに、やる気は十分である。


「カイル様、よろしいですか?」

 一応、確認する。


「ああ、他に手が思いつかぬ。よろしく頼む」

 彼が獣人たちに頭を下げた。

 本当に切羽詰まっているのだと思う。

 普通はこんなことを提案しても、乗らないと思うし。


 それじゃ軍資金を渡す。


「それじゃ、金貨1枚ずつな。対象を見つけたら、金貨5枚」

「よっしゃあ! 俺はやるぜ! 俺はやるぜ!」「うぉぉ!」

 獣人たちが気合を入れると、街の中に散り始めた。

 やる気満々だ。


 あとは任せるしかないだろう。

 これぐらいしか手の打ちようがないのだ。

 もしかしたら、ルクスがなにか情報を持ってくるかもしれない。

 それに期待しよう。


「にゃー」

 獣人たちが騒いでいると、ヤミが戻ってきた。


「ねぇ、君には腹案があるっていってたけど?」

 獣人たちが入れないような場所の情報も、彼なら集められるというのだ。


「にゃ」

「カイル様、なにか小さくてにおいが解るようなものはないかと、彼が聞いてます」

「……それでは、妻が使っていたハンカチはどうでしょうか?」

 元世界のハンカチより少々大きいみたいだが……。

 それをヤミが、クンカクンカしている。


「にゃー」

「わかった」

 そのハンカチを彼の首に巻いてあげた。


「にゃ」

「大丈夫?」

「にゃにゃ」

 彼が路地に消えていった。

 この街の各地域にいるボスネコにつてがあるらしい。


 ネコなら、警備の隙間を縫ってどこでも出入り可能なのだろう。

 伝染病を防ぐためにも、ネズミを捕るネコは重宝されているようだし。

 それは元世界でもこの世界でも、変わらないらしい。


「あとは人事を尽くして天命を待つ――か」

 他に手が打ちようがないのが、もどかしい。

 私の所にカイル様がやって来た。


「カシュー様、これで見つからない場合はどうしますか?」

「最終的には、陛下にお話しするしかないよな」

 そして闘技場に集めた民衆の前で、茶番を演じるわけだ。


「酷い誹謗中傷が浴びせられそうですけど……」

 アルルの言うとおりだ。

 赤い近衛がお飾りというのは、この街の住民だって知っていることなのだ。


「私が、どんなそしりを受けようが、妻と娘が戻ってくれば、なんの問題もございません」

「とりあえず獣人たちの情報を待つことにしましょうか」

「かしこまりました――カシュー様、私はこれで城に戻りますが……」

「そうだな。戻りましょう」


 私たちは乗り合い馬車に乗り込むと、お城へと続く道の近くで降りた。

 カイル様によれば、歩きながらお城に行く馬車をつかまえればいいという。

 騎士たちも、馬を使わないで移動する場合はそうしているらしい。

 もちろん小遣いは渡す。

 金を使って上手く回るのであれば、少々の出費には目をつぶるべきである。


 さて、どうなることやら想像もつかない。

 やっぱり手がかりもなく、陛下に相談することになるのだろうか。

 これまでの対応を見ていると、とてもいい王様のように思えるし、なんとかしてくれそうなのだが。



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